日本アコースティックレコーズ


ひとすじに
松本美和子&椎野伸一
響きの精からの贈り物 梅津時比古(ライナー・ノーツより)このCDをなんと表現したらいいであろうか? これはCDではあるが、CDではないような気がする。それはおそらく、このCDの中で歌っている松本美和子が一人の人間であることを強く意識させながらも、まるで人間ではないように感じられることと結びついているのであろう。ここに聞こえてくるのは、この世に美しいものがあるならばそれのみを求めようという、ひとつの精神が声に化したものである。それを聴くやいなや、私たちは美しいものが信じられるようになる。それは肉体でありながら肉体の形をしていない。まさに空気であり光であり匂いなのだ。もちろん、絶えざる発声法の研究、年齢に合わせた改革、究極を求め続ける尋常ならざる努力の上に成り立っているには違いないのだが、それをみじんも感じさせない。ここに松本のたどりついた声の響きがある。響きはすべてを捨象する。従ってここには何の自己顕示もない。だからこそ、その美にすべては引き寄せられるのだ。歌詞もピアノも作曲者さえも!


おのふじの憧れ ~エネスク、ヴュータン、ベンジャミン ヴィオラ作品集
小野富士 野田清隆
おのふじへの憧れ 池辺晋一郎(作曲家)ナイーヴな柔らかさ、他方で強面の豪快さ──まさにヴィオラでしか表現できない世界。その多彩さに惹きつけられる。オーケストラやクァルテットでアンサンブルのあらゆるシーンを体験してきた小野富士が、野田清隆のピアノと徹底的に呼応しあう。 収められた3曲は、ヴュータンの没年がすなわちエネスコの生年、そのエネスコの日本式に言えば一回り下がベンジャミンという流れ。いずれも有名曲ではないものの、豊穣な魅力にあふれた曲が並ぶ。 このCDにより「おのふじの憧れ」の前に「ヴィオラへの憧れ」を抱く人が、確実に増えるだろう。さらに、このCDのタイトルが、正しくは「おのふじへの憧れ」だということが判明するであろう。


シューベルト&ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲
トリオ・ヴェントゥス
この二人の作曲家の組み合わせは少し珍しいものなのですが、融合された世界観が気に入っていて、自分たちのオリジナルの世界を生んでいくことが新鮮で楽しく感じました。CDは生の演奏とは違い、”アート作品を作り出す”感覚があり、ジャケットからブックレット、レーベルのデザインなど、すべてが一つになった「芸術作品」としてお手にとっていただければと思います。(廣瀬)シューベルトが晩年に書き上げた彼の集大成と言っても良いピアノ三重奏曲第2番、ショスタコーヴィチが親友の死に際して作曲した哀しくも美しく昇華されるようなピアノ三重奏曲第2番。どちらも時代やスタイルが大きく異なるものですが、根底に流れる繊細で光り輝く音楽性に、共鳴性とシンパシーを感じます。静と動、色彩に空気感。異なる要素が巧みに絡み合った世界を表現しました。今の僕らが紡ぎ出す風(ヴェントゥス)を感じていただけると嬉しいです。(鈴木)収録曲は2曲とも、”孤独と向き合い、その中において完成した答え”のような曲だと感じています。一人取り残され、時が止まったかの様に感じる寂寥感が、この2曲を、そして現代のコロナ禍の最中の我々を繋いでくれたのかなと思います。そんな音を感じ取っていただければ幸いです。(北端)


ジェイ・ファースト
岩崎洵奈
岩崎洵奈が満を持してアルバムデビューする。そしてここから彼女のピアニストとしての記録が始まるのである。その繊細にして力強いタッチは新たな命の息吹きにも聴こえ、エネルギーに満ちている。そして何よりも彼女の音楽にはストーリーがある。多くの可能性を秘めた選曲には余裕も感じられ、これから彼女が創り上げる芸術が楽しみだ。岩崎洵奈は今大きな期待を背負い、音楽のバトンを持って走り出したのだ。 千住明(作曲家)ウィーン留学を経て、2010年ショパン・コンクールでディプロマ賞受賞。日本、欧州で活躍の新進気鋭ピアニスト、デビュー!


ゼツメツキグシュノオト
内藤晃、音の台所, 内藤晃
ゼツメツキグシュノオトとは、絶滅が心配な生き物たちに思いをよせる、絵と音楽のコラボレーション。音の台所(茂木淳子)さんが生き物の絵を描き、つぶやきを添え、そのイメージを作曲家の春畑セロリさんが曲にしました。音楽之友社のWeb連載として、月1曲のペースで生まれた愛らしい曲たち。18の生き物たちに寄せた、18曲の小さなピアノ作品です。リュウキュウコノハズク、リュウキュウアカショウビン、エゾナキウサギ、ラッコ、アオウミガメ、アマミノクロウサギ、イリオモテヤマネコ、ヤンバルクイナ、ナゴラン、リュウキュウウラボシシジミ、サンゴ礁、ライチョウ、ニホンリス、ホッキョクグマ、クマゲラ、ニホンモモンガ、チーター、カカポ彼らはみな、生存個体が稀少となり絶滅が危ぶまれている生き物です。でも、彼らは彼らなりに、いつも通りの日々を生き、一生懸命に、チャーミングに、たくましく毎日を過ごしています。この作品を聴いて、見て、演奏することで、「ゼツメツキグシュ」たちに少しでも心をよせ、地球環境や生命について思いをはせるきっかけになればと、願っています。


トランペット・テールズ
イエルーン・ベルワルツ, イエルーン・ベルワルツ、中川賢一
ある種の楽器は、その楽器がどんなタイプ、どんなスタイルの音楽につかわれているかで、演奏者や聴き手まで決まってしまったり、あるいは逆に広がりを持ったりする。どんな楽器だってそうだと言われればたしかにそうなのだが、演奏家自身のキャラクターも相侯ってというのもあろうか。イエルーン・ベルワルツのバイオグラフィをはじめてみたとき、つい微笑んでしまったのは、トランペット奏者としての活動をしながら、ジャズ・ヴォーカルを音楽院で学んでいるというところ。これってチェット・ベイカーに憧れてなんだろうか、と楽しくなってしまった。アルバムは、トランペット・ソロによるテオ・シャルリエの「エチュード」を最初と真ん中、そして最後において、あいだに20-21世紀の作品を織りこんでゆく。そしてベルワルツはいくつもの表情をみせてくれる。シャルリエのエチュード、エネスクの「伝説」がストレートで澄んだ音色の様式美を。武満・細川の作品ーーともに「歩く」ことが喚起されるーー が様式美を拡張したかたちでの新しい美しさを。ジャズとつながるガーシュウィンとハートで「王道」でありつつもところどころであそびのあるプレイを。そして、リゲティでは楽器と声、ともにパフォーマティヴなさまを。おそらくステージによって、また演目によつてさらに自在な様子に、ふれることができるのだろうけれども、ここはまず録音として堪能できるものをということか。ベルワルツと中川賢一、2人について記しておくなら、年齢的にも近く、方向性も重なるところがあると言つていい。中川賢―はベルギーでの留学・活動も長かったことも、この演奏の質と楽しさのバックグラウンドになっているにちがいない。 小沼純―


リラの花
冨永愛子
冨永愛子はこのデビューCDで彼女の計り知れない技術と独創性を見せつける。そして凄艶で抒情的な演奏で聴き手を惹きつけ、音楽のユートピアヘと導く。彼女の魅力は、熟達したスキルのみに裏付けされたものではなく、それを手段とする音楽性である。そのサウンドはまるで想い出の彼方から放たれる癒しの香気のようだ。ピアニスト・フォルクヴァンク芸術大学(ドイツ)教授 ヘンリ・シーグフリードソン


三文オペラ
ブラスアンサンブル・ゼロ&イエルーン・ベルワルツ
映画音楽を集めた迫力あるブラスの響き。ブラスアンサンブル・ゼロは、「ゼロから新しいモノを生み出せる」をモットーに2010年に結成され、オーケストラやソリストとして活躍のプロ金管奏者たち10人で構成。大西敏幸、川田修一、野田亮、濱口勝治(Trp)、岸上穣(Hr)、藤原功次郎、東川暁洋、越智大輔(Trb)、黒金寛行(B.Trb)、柳生和大(Tuba)からなる。イエルーン・ベルワルツは、世界で注目のトランペット奏者。元北ドイツ放送響首席奏者、現ハノーファー音大教授。


ジェイ・セカンド -バラード-
岩崎洵奈
今回2枚日となるCD「J second - Ballades-」では、私の中で小さいころからの憧れだったショパンのバラード全曲を中心に、現在住んでいるウィーンの雰囲気を味わって頂けるようなプログラミングをしました。ショパンのバラードは私にとって、大切な作品の一つであり、10代のころから繰り返し取り組んできた曲です。毎回、彼の人生のドラマを見ているような気分になります。どこの国、どこのホールで、何度弾いても新しい魅力を発見し、時間を重ねる毎に私の中での感じ方が変化していきます。これはきっと将来、何十年経っても、弾き続け、研究し続けていくものだろうと思います。ベートーヴェンは、今ウィーンに住みながら最も身近に感じる作曲家です。ゥィーンの街には、彼が生きてぃた当時の住居や通っていたレストランなどが、そのまま残っており、普段から気軽に行くことができます。何気なく道を歩いていても、「ベートーヴェンはどんな気持ちだったのだろう」と想像し、肌で感じながら生活できるこの環境に身を置ける事に最高の幸せを感じています。そのベートーヴェンの弟子であり、リストとベートーヴェンを繋いだ重要な人物がツェルニーです。日本では膨大な練習曲のイメージが強いですが、このバリエーションを初めて聴いた時には、なんて華やかでエレガントな作品なのだろうと強く感激したのを覚えています。そしてウイーンといえば、ワルツ王と言われたヨハン・シュトラウス2世の「こうもり」が有名ですが、友人であったグリュンフェルトが華やかなパラフレーズにした作品を加え、ウィーンの舞踏会に行った時の事を思い出しながら、楽しいレコーディングとなりました。今の私をダイレクトに表現したアルバムを是非お楽しみください。そして、最後になりましたが、このアルバム制作に関わってくださった全ての皆様、このアルバムを手にとって聴いてくださった皆様に、心より感謝申し上げます。岩崎洵奈


歌曲集「美しい水車屋の娘」D 795, Op.25
ディートリヒ・ヘンシェル、岡原慎也
ヘンシェルの初回の「水車屋」録音以来20年を経た今回の録音は、職人らしい律義さ、誠実さが全面に。水車屋の娘への失恋の苦しみにひたりこんだり、狩人に怒りをあらわにしたりすることはない。人生の修業にかならずつきまとう試練と受けとめ、それを自分の人間としての成長に役立てようとする、いわば教養小説風の展開を見せる。最後に自ら死を従容として受け入れるのも、人生のあり方のひとつの選択という色合いが強い。そして人間にとって生きるとはなにかという問いを青春で終わらせることなく、人生の長いスパンで聴き手に深く考えさせる。これまでにない画期的な解釈だ。喜多尾道冬(ライナーノーツより)


モザイク 近現代ピアノ曲集
八坂公洋
CD「モザイク」はカナダ・モントリオール在住のピアニスト、八坂公洋の2枚目のアルバムである。八坂は国内外の作曲家の信頼も厚く、数多くのコラボレーションなどにより近年の活躍は目を見張るものがある。このCDは特に日本とカナダの現代音楽にフォーカスを当てて作られた。特筆すべき点は、現代音楽シーンの第一線で活躍しているルルーの2019年改訂版「ダンス…アングルティ」や、八坂のために書き下ろされたハーマンの曲が収録されていることが挙げられる。またドビュッシーを取り上げることで今日の現代音楽シーンにおける彼の影響力の大きさを感じることができる。モザイクアートのように様々な音楽がこの1枚に寄せ集められており、独自の世界観を作り上げている。


和のかたち -邦人作曲家ピアノ曲集-
八坂公洋
八坂公洋氏はカナダ、モントリオールを拠点に活動している新進気鋭のピアニストで、クラシック音楽から現代音楽まで幅広いレパートリーを持っている。若い世代とのコラボレーションを定期的に行っており、数多くの新作を初演している。私と八坂氏との出会いは3年前の夏、私の作品が演奏されたアメリカ、ニューハンプシャーのトランペット国際音楽祭であった。彼のピアノ演奏を聴いて、体中に衡撃が走ったことを今でも鮮明に覚えている。八坂氏のピアノ演奏は表情豊かであり、生き生きと鮮やかな打鍵によつてさまざまなニュアンスを使い分ける。清潔で豊かな響きを持ち、その音質は若々しい。溌剌とした感性と細部まで洗練された知性が、テクニックのみに頼らない重厚な輝きと深みを音楽に与えている。小櫻秀樹(作曲家)


キアロスクーロ -陰影-
赤坂智子&大田智美
キアロスクーロ—明るい、澄んだといったニュアンスのchiaro、暗い、濃いのscuroとを組みあわせたこの語は、ルネッサンス期に生まれた美術の明暗法を意味する。中世に描かれたあまたの宗教画、あるいは、ボスやブリューゲルの作品と、ダ・ヴィンチからラファエロ、さらにカラヴァッジョ、ラトゥールといった高名な画家たちの作品とを、それぞれ想いうかべてみればいい。これらのあいだには表現の違いがあるのがわかるだろう。後者の画家たちの作品には、光と影の、見えるものと見えないもの。見えにくいものとのコントラストとがはっきりとある。わたしたちにはもうすでに親しくなっているが、そこには表現のうえで、いや、「みる」ことのうえで、大きな変化があったのだった。弦のヴィオラと、管であり鍵盤であるアコーディオン。バッハとピアソラ。宗教的な背景を持つ作品と世俗的な作品。赤坂智子・大田智美、2人の「智」を介する名が交差しつつ、「坂」と「田」の地形的な差も含み。そうしたところを明暗、キアロスクーロという語でみなおしてみればいい。もちろん、こんな、ことばでいえることなど表面的にすぎない。演奏を聴いてみればわかるとおり、ここには、紡ぎだされる複数の音・音たちによる、前景化し後景化するメロディーやハ一モニーの、さまざまな音色の、テンポのグラデーションが、刻々と変化するさまが、美術とは異なった時間の刻々と変化するながれのなかで、あらわれてくるのだから。もしかすると、だ。楽曲名がならんでいるのをみただけではぴんとこないかもしれない。バッハの聖書にもとづくタイトルはややこしく紛らわしかったりもする。でも、音楽を聴けばひとつひとつはっきりとわかるだろう。アルバム全体をとおしてこそあらわれてくるのが、文字どおり、時間によってあらわれるキアロスクーロなのだ。昨今気がむいたものだけネットでDLする聴取からではみえてこないものが、アルバムを順番どおりに聴いてこそ浮かびあがるもの、聴き手のなかにおこることどもが、しっかり曲目に、曲目のならびにあらわされている。バッハとピアソラ、というようなプログラムは珍しくはないだろう。弦楽器とアコーディオンという組みあわせも同様だ。それでいて、そう見えない、聴こえないのは、「キアロスクーロ」が意識されているからだ。ゆっくりと静かな曲調のものだけを集めたバッハがつづき、やはリテンポがゆっくりしたくオブリビオン>を経過句のようにして、規模の大きな、そして20世紀的なくタンゴの歴史>へとはいってゆく。最後にはアンコールのように、アップテンポの、いろいろな要素をとりいれたくチェ・タンゴ・チェ>で締めくくる。前半と後半でのキアロスクーロと、ピアソラ作品内でのキアロスクーロ。部分的に入れ子になっているような構成。


トランジション
トロンボーンクァルテット・クラール
ついに、彼らがCDを発表するという。待ちに待ったファンも多いだろう。今、最も精緻な演奏を披露するトロンボーンカルテット・・。それは紛れもなく世界レベルだ。2004年結成以来、全曲暗譜の演奏会を開催し続けている努力と実力と実績とは裏腹に、彼らはなぜか奥ゆかしく、謙虚で、売り込みが下手。初CDを出すのに15年もかかっているではないか! まあ、しかし、そこもクラールらしいところ。「クオリティに妥協が無い」「ライブで真価を発揮する」ことにこだわるプライドやポリシーも、彼らの生の演奏を聴いたことがある人には理解できる。さて、いよいよ重い腰を上げて制作したこのCDは新旧数多くのレパートリーの中から「クラール」の魅力を余すところなく伝えられる楽曲が厳選されている。ファンのみならず、お気に入りの1枚になることは間違いない。


フランス・ピアノデュオ作品集
花房晴美&花房真美
このディスクは日本を代表する名ピアニストの一人で、国内はもとより海外での評価も高く、国際的な知名度を誇る花房晴美のCDである。一方花房は、実妹花房真美と1992年から「花房シリーズ・ピアノ・デュオ」の本格的な活動をスタートさせており、1993年にはピアノ・デュオ作品を集めた「ア・グレイスフル・フレーム」をリリースしている。今回の「フランス・ピアノデュオ作品集〜花房晴美ライブ・シリーズV」は、2018年11月15日(木)東京文化会館小ホールにおいて行われた、花房晴美と真美の演奏を収めたものである。収録曲を見て気づくのは、ドビュッシー作品が多いことである。それは連弾曲、そして2台のピアノ版を通して指摘できることのように思われる。花房晴美のドビュッシーへの想いは深く、ドビュッシーが没後100年を迎えた昨年には、演奏活動やコメンテーターとして発言を求められ、とても忙しい毎日だったはずである。花房は「ドビュッシーが素晴らしいのは、言葉では言い表せない何とも言えない響き、空気とも呼ぶべきもので、つかみどころがなく、あいまいで輪郭がはっきりしない。しかし、形のある音楽作品に仕上げるには、楽譜を明晰に分析し、はっきりしたビジョンを持たなければならず、そうして初めて曖昧さを形として聴き手に届けることができるのです。」と話している。そして、今回のアルバムの最後は、ドビュッシー作曲の管弦楽曲「夜想曲」より、1.雲、2.祭りを取り上げ、これまた、花房晴美が愛してやまないというラヴェルが、2台のピアノ版に編曲した版で演奏されている。これまで、花房晴美はフランス音楽を中心に精力的とも言える演奏活動を繰り広げてきた。「フランス・ピアノデュオ作品集」も、そうした活動の一貫だと思われる。しかも、他ならぬ実の妹、真美との共演である。これ以上、望むものはない、と言える演奏である。諸石幸生


ドビュッシー&ラヴェル:弦楽四重奏曲
ひばり弦楽四重奏団
それぞれの楽器の響きの魅力もありながら、全体として音楽を高揚させて行くときのワクワク感や、静かな楽章においての緊張感を失わない「ひばり弦楽四重奏団」の演奏には、ともに音楽をする喜びが感じられる。時にドビュッシー&ラヴェルとひとくくりにされることもある2つの弦楽四重奏曲だが、それぞれの個性の違いを浮き彫りにしながら、同時にフランス近代の独特の繊細さを感じさせる演奏の中に、また新しい魅力を発見できる、そんな録音でもある。今後はベートーヴェンを視野に入れながらの演奏活動となるだろうが、ベートーヴェン以外の作曲家の作品にも、彼らなりの個性が発揮されて行く事を期待したい。片桐卓也(音楽ライター)


シャコンヌ 〜ヴァイオリン名曲集
永井公美子/佐藤卓史
2002年、イタリアのミケランジェロ・アバド国際ヴァイオリン・コンクールを制覇、優勝の栄冠を獲得して一躍注目を浴びた国際的ヴァイオリニスト・永井公美子、待望のCDデビュー盤である。稀有な美音と超絶技巧、豊かで個性的な音楽作りで定評ある彼女のファースト・アルバム。まずユニークなプログラミングが注目を引く。ヴィタリのシャコンヌやマスネのタイスの瞑想曲、チャイコフスキーのメロデイーといった良く知られた名曲のリフレッシュされた名演に加え、ユーモラスなヴュータンのアメリカの思い出やポーランドの鬼才・シマノフスキの作品:有名なアレトゥーサの泉やパガニーニの目も眩むような難技巧曲・奇想曲第24番のピアノ伴奏版、大傑作ヴァイオリン・ソナタなど、永井公美子ならではの素敵な選曲が嬉しい。名ピアニストで彼女の盟友佐藤卓史の共演も「見事!」の一語に尽きる。一人でも多くの方に手に取り、傾聴していただきたい名盤の誕生である。音楽プロデューサー 中野 雄


ファルベン -色彩-
保屋野美和
保屋野美和の演奏を、ほんの数小節聴けばわかるだろう。彼女が音楽への尊厳と、芸術家としての責任を自覚する真摯なピアニストだということを。例えば一途で純粋なバッハ、新鮮でユーモラスなハイドン。表現の幅と気品ある演奏は、まぎれもなく彼女の本質だ。明快で意志が強い演奏と、説得力のある解釈と構成力は、一聴の価値がある。是非、このアルバムに身を委ね、200年にわたる音楽の歴史を辿る旅の喜びを得て欲しい。ベルント・ゲツケ(ハノーフアー音楽演劇メディア大学教授)


リヒャルト・シュトラウス歌曲集
小森輝彦/井出_彦
この録音において、小森さんは、作品の深奥をえぐるような声の力と、正確極まりない(ドイツ人を上回るほどの)ドイツ語の発音、そして数多くの舞台を経て培った経験をもって、シュトラウス歌曲の新たな魅力を引き出している。オペラ歌手としての迫力と、リート歌手としての繊細さが、絶妙のバランスで同居しているというべきその歌声は、決して多くの歌手に望みうるものではない。ささやくような弱音から迫力ある強音まで幅広い表現力を誇る小森さんの傑出した資質をもってシュトラウスが歌われると、どのような作品もひときわ華やかさを増すように感じられる。小森さんとは視座の異なる透徹した視点で、作品世界を一筆書きのように描き出す井出_彦さんの伴奏を得て、両者の演奏にはまさに「祝祭感」が宿るのである。このアルバムが、ひとりでも多くのひとの手に届き、小森さんと井出さん、ひいてはシュトラウス歌曲の真価に目覚めるよう、願ってやまない。(広瀬大介:音楽学・音楽評論)


フランク:ヴァイオリン・ソナタ
鍵冨弦太郎/沼沢淑音
時代と国境、そして民族や宗教を超越した、普遍的な共通感覚を第一に音楽をすることは、私たちにとって最も大切にするべきことの原点です。作曲家の内的宇宙を通してのみ立ち現れる音、未知の彼方から舞い降りて生命を授かった音こそ、音楽として普遍性を伴い、全ての人々を繁ぐ共通感覚に働きかけます。無常な時の刻みへの儚い抗い、精神の危機的状況と背中合わせに件むロマンティシズムヘの没入もまた、私たちの志向する世界であり、音楽的な彼岸です。音楽は「生」の源泉であると同時に「死」との間に横たわる不条理をも抱えています。「死」は音楽の意表の一部かもしれません。このプログラムの四つの作品、冒頭のショーソンはあたかも真夜中の太陽の匂いのような感覚があり、血の滴るようなプーランクのソナタ、異界の気配を漂わせる鈴木作品、そしてフランクのソナタには祈りと懺悔、その先に僅かに射し込む光があります。闇の中から臨めば一層強く感じられるであろう光を、救いを見出せればと願いつつ、二人でこのプログラムを組みました。シューマンの言葉にみるように「音楽とは人間の心の深奥へ光をおくること」に違いありませんが、この四つの作品は、演奏者である私たちにも大いなる希望と光を注いでくれます。もし定義できないものへの憧れと愛が生きる原動力であるならば、私たちにとってそれはまさしく音楽なのかもしれません。このアルバムをお聴き下さる方々と共に、音楽を分かち合うことができましたら、これ以上ない喜びです。(鍵冨弦太郎・沼沢淑音)


マジック・オーボエ
宮村和宏
本ディスクは、東京佼成ウインドオーケストラ等で活躍する宮村和宏の、通第2作目のソロ・ア ルバム。といってもソナタやヴィルトゥオーゾ・ピースではなく、モーツァルトの室内楽曲集である。2009年録音の前作「プロミネンス」はヴィルトゥオーゾ的な内容だったし、佼成ウインドにお ける雄弁なソロからみても、些か意外な転換だが、これには「30歳を超えて、正統的な音楽の様式に則った演奏を突き詰めたいと考えるようになった」ことが大きく働いている。そこで彼はまず、「管楽器の合奏曲中、随一の名曲」である「グラン・パルティータ」を選曲。「録音の少ない」シュヴェンゲ編による同曲の五重奏版を軸に据え、そのメンバーで演奏できるオーボ エ四重奏曲、さらにはヴェント編のフルート四重奏版「魔笛」序曲を加えて、1つのコンサートのようなモーツァルト・アルバムを完成させた。演奏自体は、十分ソロイスティックでありながら、他のメンバーとのバランスが絶妙に図られて いる。「魔笛」序曲は、歯切れよく愉悦感に富んだ四重奏曲に変貌。オーボエ四重奏曲は、協奏曲的なソロが突出しすぎることなく、室内楽の肌合いが重視された、雅趣漂う演奏が展開されてい る。「グラン・パルティータ」は、鈴木優人の巧みなピアノと相まって、やはり愉悦感と品性溢れる音楽が続き、楽器を変えても揺るがぬモーツァルトの構成力の凄さをも実感させる。ストレートな音とナチュラルなフレージングによる、爽快かつ味わい深いこの演奏は、宮村の音楽性の高さを如実に示しているといえるだろう。柴田克彦(音楽評論家)


Shine -輝く音の世界-
安田正昭
室内楽曲を始め、色々なジャンルに渡る寺内作品の中でも、ピアノソロ曲には、人の心に訴える誠実なメッセージが込められています。女性作曲家ならではの繊細な感性、やさしさ、暖かさ…時には鮮烈な情熱! に満ち溢れているのが寺内作品の特質です。まさに「音楽の女神」の如く想像力とファンタジーに溢れた寺内園生さんの音楽が、さらに多くの皆様に広まって行きますように…。安田正昭(ライナーノーツより)


源氏物語54帖の響 Vol.1
遠藤征志
「源氏物語」全曲オリジナル・ピアノ曲集第1弾。約千年前に書かれた源氏物語。100万字ともなるこの壮大な文学を現代の音、曲として表現したい。音の表現者として「文字の源氏」を「音の源氏」へひょうげんすると決めました。源氏物語54帖を1帖ずつピアノ曲として作っていくプロジェクトの第1弾です。男と女の、そして親と子の深い思いを音に表現し、魂に届けたいという願いです。遠藤征志


わたしの好きな歌
高橋薫子&河原忠之
ここに集められた歌の数々は、その作曲家の代表作もあれば、意外に知られていない作品もあり、華やかな作品もあれば、ひそやかな作品もある。また、ちょっとシリアスな作品もあれば、ユーモアに溢れた作品もある。その選曲の中に、高橋薫子の人生の様々な瞬間が浮かび上がる。その作品との出会いの感覚、それを初めて歌った時の感動など。それを今も歌い続けているアーティストとしての彼女の存在感もそこにはある。そして、その中から浮かび上がって来る歌手としての彼女の温かい人柄を、この作品集は伝えてくれる。片桐卓也(音楽ライター)〜ライナーノーツより


スクリャービン:ピアノ・ソナタ全集
イリヤ・ラシュコフスキー
イリヤ・ラシュコフスキーの名は、2012年の浜松国際ピアノコンクールの優勝者となったことで、一躍広く知られるところとなった。1984年シベリアのイルクーツク生まれ。ロシア、ドイツ、フランスで学び、10代から多くの国際コンクールで優勝と入賞に輝いた。演奏は叙情的でストーリー性に満ち、けっしてテクニックを前面に押し出すものではなく、音楽が豊かに歌い、表情が柔軟性に富んでいる。その音楽は聴き手の心の深いところにゆっくりと浸透し、作品のよさを知らしめる。2015年11月23日に武蔵野市民文化会館小ホールで行われた「アレクサンドル・スクリャービン/ピアノ・ソナタ全10曲演奏会」は、スクリャービンの没後100年を記念したもので、3時間にわたって番号順に演奏された。ラシュコフスキーはすさまじいまでの音符の多さを誇るスクリャービンのピアノ・ソナタ全10曲を暗譜で演奏。今回の録音は、このライヴと翌日のセッションが収録されている。スクリャービンの音楽は一度聴いただけでは真意や魅力が理解できないといわれる。だが、ラシュコフスキーは美しく凛とした響きで聴き手を作品の内奥へといざなう。彼はスクリャービンの心に迫り、心情を歌い上げる。10曲のソナタからその心意気を受け取りたい。伊熊よし子(ライナーノーツより)


ソナチネ アルバム 第2巻
今井 顕
このCDは、全音楽譜出版社から出版された、新しいソナチネアルバム「初版および初期楽譜に基づく校訂版(今井顕編集)」を使用して収録したものです。古典作品における時代錯誤の解釈を排除し、オリジナルの姿を追求したピアノ学習課程における古典期作品の必修教材CD!


ソナチネ アルバム 第1巻
今井 顕
このCDは、全音楽譜出版社から出版された、新しいソナチネアルバム「初版および初期楽譜に基づく校訂版(今井顕編集)」を使用して収録したものです。古典作品における時代錯誤の解釈を排除し、オリジナルの姿を追求したピアノ学習課程における古典期作品の必修教材CD!
![バリ島トゥンジュク村のゴング・レコ I [器楽篇]](https://imgs.ototoy.jp/imgs/jacket/0110/00050800.1528782083.4541_180.jpg)

バリ島トゥンジュク村のゴング・レコ I [器楽篇]
Banjar Tunjuk Kelod Kusma Sari
一見、バリ島のどこにでもありそうな平凡な村、トゥンジュク村。だが、そこは驚くべき芸能の伝承された場所だっただ。今、明かされるバリ島随一のガムラン音楽の全貌がこの一枚に。
![バリ島トゥンジュク村のゴング・レコ II [舞踏篇]](https://imgs.ototoy.jp/imgs/jacket/0110/00050800.1528782051.8117_180.jpg)

バリ島トゥンジュク村のゴング・レコ II [舞踏篇]
Banjar Tunjuk Kelod Kusma Sari
バリ島で唯一「ゴング・レコ」と呼ばれている青銅製ガムランレゴン舞踏と儀礼が結びついたトゥンジュク村に伝わる珍しいレコ舞踏曲


夢の邂逅 リヴ・グラーセル グリーグ&バッケル=グレンダールを弾く
リヴ・グラーセル
2007年ともに没後100年を迎えたノルウェーを代表する作曲家、グリーグとバッケル=グレンダールの詩情をノルウェーの伝統を受け継ぐ名ピアニスト、リヴ・グラーセルがヴィンテージ・ピアノの比類なき美しいサウンドで再現。


カプースチン ピアノ作品集3
川上昌裕
既に「カプースチン ピアノ作品集1、2」を発売している、川上昌裕演奏の第3段。まず、今回のCDではカプースチンの未録音のものが多いこと、そして新しい新鮮な曲を録音したものを集めたアルバムである。まさに、日本のカプースチン演奏の第一人者の川上昌裕が弾くカプースチンを、思う存分楽しんでいただきたい。


大宮臨太郎 マイ ファースト ヴァイオリン
大宮臨太郎
N響第1ヴァイオリン次席奏者としての活躍のほか、N響の仲間たちとの室内楽演奏(クインテット・ディ・ピアノフォルテ・ラ・スペランツァ)を始め、盟友高橋希との定期的なデュオコンサートなど真摯な音楽活動を繰り広げる大宮臨太郎。ヴァイオリン界の若きホープ大宮の「今」を伝えるCDデビュー盤。


シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44
クインテット・ディ・ピアノフォルテ・ラ・スペランツァ
ピアニスト高橋希とNHK交響楽団の若手メンバーによるピアノ五重奏団。学生時代からの音楽仲間が集まり、新しいスタイルの室内楽を楽しもうと結成された。クラシックの名曲から、童謡、ジャズ、ポピュラーなど、幅広いレパートリーを誇り、コンサートではメンバーによる曲目の紹介やトークなど、誰もが楽しめる内容で好評を博している。本アルバムでは、室内楽の最高峰シューマン「ピアノ五重奏曲」に挑み、室内楽団としての真価を世に問う。


赤とんぼのふるさと
クインテット・ディ・ピアノフォルテ・ラ・スペランツァ
ピアニスト高橋希とNHK交響楽団の若手メンバーによるピアノ五重奏団。学生時代からの音楽仲間が集まり、新しいスタイルの室内楽を楽しもうと結成された。クラシックの名曲から、童謡、ジャズ、ポピュラーなど、幅広いレパートリーを誇り、コンサートでは、メンバーによる曲目の紹介やトークなど、誰もが楽しめる内容で好評を博している。本アルバムでは国内外のポピュラー名曲を収録し、存分に本領を発揮している。


ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第3番、第4番、第5番
漆原啓子 & 練木繁夫
ふたつの才能が溶けあうと、ベートーヴェンはこうなる。漆原啓子&練木繁夫による、ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタの全曲録音がスタート。


ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第6番、第7番、第8番
漆原啓子 & 練木繁夫
対峙と調和 -ここには聖なる魂の対話(ディアローグ)がある。漆原啓子&練木繁夫によるベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタの全曲録音第二弾。


ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第9番・第10番
漆原啓子 & 練木繁夫
指揮者のウラディーミル・ミーニンによって1972年に結成された合唱団、国立モスクワ合唱団。 演奏の質の高さ、活動の積極性など内外で高い評価を得て、国立の団体となった後も、活躍は目覚しく、ロシア最高の合唱団として高く評価されています。本盤は91年の同団来日時のオーチャードホールでのライヴ収録。 「黒い瞳」「トロイカ」「カリンカ」「モスクワ郊外の夕べ」などロシア民謡の人気曲を始め、ストラヴィンスキーによる合唱の秘曲など、盛りだくさんの内容です。本場ロシアの重厚な合唱団によるロシアのメロディーをご堪能下さい


田中瑤子の1・2・3
田中瑤子
1999年に惜しまれつつ逝った田中瑤子は、現代作品を中心に、多くの合唱団との共演など、主にアンサンブル奏者としての活躍が広く知られていますが、このCDは、そのソリストとしての抜きんでた力量を示す貴重な記録です。収録された「田中瑤子の1・2・3」は、3人の作曲家の新作2台ピアノ曲を、作曲者との共演で初演するという意欲的な企画で、ピアニストと各作曲家との交歓が客席まで包み込むような楽しいコンサートでした。特にアンコールの「ダニー・ボーイ」の親しさ!録音からも、会場の空気が目に見えるように伝わってきます。


響層I
藤井宏樹& Ensemble PVD
今や日本を代表する合唱指揮者として、国内外で活躍を続ける藤井宏樹と、注目の合唱団Ensemble PVDによる初のセッション録音。三善晃、柴田南雄、湯浅譲二という日本を代表する作曲家たちの1950~1970年代の作品が、藤井宏樹+PVDによって、新たな生命を得た。人の声の持つ多様多彩な響きの層を存分にお楽しみください。


カプースチン:室内楽作品集 1
川上昌裕
カプースチンから絶大なる信頼を寄せられるピアニスト、川上昌裕がお届けするカプースチン室内楽の真髄!世界初録音、「シンフォニエッタ」「フルート・ソナタ」を収録。


響層II
藤井宏樹 & Ensemble PVD
鬼才 藤井宏樹と、注目の合唱団Ensemble PVDによるセッション録音の第2弾(一部ライブ録音)。三善晃 最初の混声合唱曲「トルスII」をはじめ、古代ギリシャの女流詩人サッポーの詩による(古代ギリシャ語原文)「詞華抄」(鈴木輝昭作品)、萩原朔太郎「月に吠える」から−さびしい情慾−による「情燐戯画」(鈴木輝昭作品)、作曲者のピアノ伴奏による混声合唱組曲「ブルレスカ」(鷹羽弘晃)など名曲かつ名演の数々。


ハチャトゥリャン:ヴァイオリン作品集 ソナタ=モノローグ
木野雅之 & 式守満美
ヴァイオリン・ソナタをはじめ、無伴奏<ソナタ=モノローグ>など、ハチャトゥリャンの代表的ヴァイオリン作品(室内楽)を集大成。