2016/08/31 20:00
東洋化成という名を耳にしたことはあるだろうか。一見、化学系メーカーかなにかのように見えるが、実はこの東洋化成、日本で唯一のレコードプレス・メーカーなのである。メイドインジャパンの名に恥じない高品質のレコードを生産し続け60年弱。レコード人気が再燃しつつある中で、私たちが手にしているレコードはどのように作られているのだろうか。この度、OTOTOYは横浜市鶴見区にある東洋化成の末広工場へ潜入し、レコード制作の工程を見学してきた。そのレポートをお伝えしよう。
工場見学スタート!
今回の見学では、カッティングルームとプレスルームの2ヶ所を見学することができた。レコードづくりの工程に沿って、順に紹介していこう。
レコードに命が吹き込む作業――〈カッティング〉
レコードを作るためには、まずは音源をレコードの方式、つまり〈溝〉に変換する必要がある。この工程を〈カッティング〉という。
しかし、クライアントから貰ったデータのままでは、レコードに適したマスタリングがされているとは限らない。最近はデジタル・データでの納品が多いため、レコードでは収録できない高帯域の音が多分に含まれていたり、サ行やタ行が強調されている歌はレコードにしたときにノイズが乗りやすいそう。そこでまず、写真の機器を用いて音源をレコードに適した音量や音質に調整をする必要がある。
そうして調整された音源は、カッティングマシンを使って、ラッカー盤に刻まれていく。これが、私たちが手にするレコードの大本となるのだ。東洋化成では、LP両面の収録時間を1時間としたとき、カッティングの工程にはおよそ4時間程度かけているそうだ。
最後は手作業で――〈プレス〉
プレスとは、プレス機で塩化ビニールに溝を刻み、整形し、ラベルを貼り付ける作業である。つまりは、盤としての最終工程だ。
プレスの際に使われるのは、スタンパーというもの。ラッカー盤とは溝が正反対の凸になっており、これを塩化ビニールに押し付けることで溝を刻むのだ。
東洋化成で使われているのは、30年前のスウェーデン産のプレス機。LP用を5台、EP用を2台備えているという。プレスする際にかかる圧力はなんと100トン(LPの場合)にも及ぶらしい。実は、盤面に貼り付けられているラベルもプレス機によって圧着されている。
プレス直後のレコードは、まだ縁が滑らかに整っていない。そこで、写真のように盤の外周をカットし整形する。最後は、業務員の方が袋に入れ、プレス工程は終了する。
見学はここまで!
REDISCOVER! ――レコード再発見プロジェクト
今回の東洋化成の工場見学は、テクニクス、ナガオカ、東洋化成の3社合同プロジェクト〈レコード再発見プロジェクト〉の第2弾として企画されたものであった。見学に先立って行われた3社代表によるトークセッションでは、各社の製品に対するこだわりや、レコードに対する思いなどが展開された。また、9月9日に発売するテクニクスのターンテーブルの新機種SL-1200Gの試聴会も開催され、土岐麻子さんの「Beautiful Day」を7インチで聴く機会にも恵まれた(「Beautiful Day/ラブソング」が収録された7インチは、おみやげとして見学者全員に手渡された)。
またトークセッションの終わりには、昨年に続きレコード啓蒙イヴェント〈レコードの日〉が今年も開催されることが発表された。リリースされるアイテムのラインナップはこれから随時発表されていくことになるが、LAMP EYE「証言」が7インチでリリースされるのは確定しているとのこと。開催は11月3日。
配信を主に展開しているOTOTOYとは、真逆の立場のように見えるレコード。しかし、実はOTOTOYもレコードと手を取り合ってプロジェクトを行っている。坂本慎太郎の新譜『できれば愛を』のLP盤にはDLカードが同封されているのだが、そのカードでOTOTOYから同盤の音源を入手できたりと、決して交じり合うことのない立場同士でもないのだ。編集部にもレコード・ラヴァーは多く、同行したスタッフは興奮気味にレコードが作られていく様子を眺めていた。オトトイ的にも、今回の工場見学は、別の音楽の楽しみ方として純粋にレコードの魅力を再確認し有意義な時間であった。(寺島和貴)
東洋化成フォトギャラリー
・東洋化成 オフィシャルサイト
http://www.toyokasei.co.jp/