2025/09/17 12:00
紫のペンライトが揺れる光景の中、吉乃は運命を塗り替えるかのような歌声でステージを切り裂いた。
2025年8月29日、Zepp Haneda (TOKYO)にて、吉乃の記念すべき1stワンマンライブ「逆転劇」が開催された。歌い手として、カバーを中心に活動してきた彼女にとって、この日は初めて自身のオリジナル楽曲を軸に据えたステージ。その一歩は、ネクストブレイク必至のアーティストとしての存在感を決定づけるものとなった。
開演前から会場には「吉乃! 吉乃!」と熱のこもったコールが響き渡り、観客の高揚感が伝わってくる。やがてスクリーンには吉乃のモチーフである百合の花の幻想的な映像が映し出され、紗幕の奥に吉乃が姿を現した瞬間、Zeppは割れんばかりの歓声に包まれた。
幕開けを飾ったのは、吉乃の初オリジナルソング「百倍返し」。妖艶な歌声としなやかな舞いで、一瞬にして観客を彼女の世界へ引き込んでいく。続く「なに笑ろとんねん」ではユーモアあふれるリリックとドスの効いた決め台詞で会場を沸かせ、さらに疾走感あふれる「ODD NUMBER」、そして「はじめましてー!」というキュートな叫び声とともに披露された「転校性」と、序盤から全力投球。初披露の楽曲群にオーディエンスは圧倒され、Zepp Hanedaは完全に吉乃色に染め上げられた。
最初のMCでは、吉乃が客席を見渡しながら「皆さんお久しぶりですね。こんなにたくさんの人が来てくださってありがたい限りです」と挨拶。会場を紫に染めるペンライトを見て「綺麗ですね」と感激の言葉を口にした。
前回のライブツアー「爪痕」から1年。この間にメジャーデビューを果たし、テレビアニメの主題歌やラジオ出演など活動の幅を広げてきた。「街中で自分の歌が流れることもあって、より多くの方に届けられる機会が増えました。本当に嬉しいです」と、充実した一年を振り返った。
中盤では「ルカルカ★ナイトフィーバー」のカバーで一気に会場をダンスフロアへと変貌させる。「昔からボーカロイドや“踊ってみた”動画を見ていた」という吉乃は、この曲の振り付けに愛川こずえの“踊ってみた”を参考にしたと明かした。ニコニコ動画を見て育った世代にとっては胸が熱くなる時間だっただろう。さらに、最新曲「天伝バラバラ」ではコミカルなビートを届ける。そしてすりぃの「ビーバー」、オリジナル曲「サンドペーパームーン」と続き、ジャジーなグルーヴに圧倒的なエネルギーを注ぎ込んだ。
と、ここで吉乃のトレードマークである、ポニーテールが絡まってしまうというハプニングが発生。準備のために一時中断となったが、フロアから自然と「吉乃」コールが巻き起こり、観客の力で温かく乗り越えられたのは、ライブならではの光景だった。再開後に披露された「エンドレス」では、美しいピアノ旋律に乗せて放たれるハイトーンが会場を包み込み、圧巻の歌声で魅了した。
続いてのMCで吉乃は、ライブタイトル「逆転劇」に込めた意味を語った。SNS上で「何を逆転するのか」と話題になっていたが、「自分を変えたかった。正確に言えば“自分の中の自分の認識を変えたかった”」と明かす。
「選ばれないことの方が多い人生だったけれど、こんなに多くの人が会いに来てくれることや、楽曲を作ってくださる方々がいることは普通じゃない。自分には似合っていないと思っていたけど、これは普通じゃないんだと気づいた」と胸の内を吐露。
また、自身の強さについても「もともと強いわけではない。言葉を浴び続けてきたから、傷つかないように自分に言い聞かせてきた」と告白。それでも「今は人生が変わるぐらいの変化を止めちゃいけないと思っている。覚悟を持って『逆転劇』というタイトルをつけた」と強い決意を示した。
後半戦は「我が前へ倣え」から始まり、ユリイ・カノンが手がけた新曲「贄-nie-」へと展開。畳みかけるように力強い歌声を響かせる。supercellの名曲「君の知らない物語」のカバーでは、驚きと歓声が交錯。間奏ではバレエの舞を披露し、その多才さを存分に見せつけた。続く「サマータイムレコード」では、ギター・ロックの熱気で観客を圧倒した。
この日、序盤から“ハプニング”が相次いだ吉乃。イヤモニが外れて床に落ちたり、ポニーテールが絡まって顔を下げられなくなったりと予期せぬ出来事に見舞われながらも、笑顔で乗り切り、観客を和ませた。
終盤には一転して真剣な表情を見せ、「生きていく中で失うことも、人を傷つけることもある。心が楽になってしまいそうな時は、記憶の片隅から愛のかけらを拾い集めてほしい」と語りかける。続けて「私はきれいごとを言うのは苦手だけど、きれいごとが言える世界は美しいと思う。だから信じていたい」と、自身の想いを力強く伝えた。本編ラストは「BAD MAD」。吉乃と観客が生み出す圧倒的な爆発力で、その熱気は絶頂へと達した。
アンコールでは、この日一番の「吉乃」コールに応えて再登場。と、ステージの上には、ふたつのシルエットが現れていた。その正体は、吉乃と歌い手の弱酸性。まさかのサプライズ登場に観客は大いに沸き立つ。ふたりはここでテレビアニメ『ダンベル何キロ持てる?』のオープニングテーマ、「お願いマッスル」をデュエットでパフォーマンス。弱酸性はプッシュアップやスクワットを交えたパフォーマンスで会場を沸かせた。
弱酸性がステージを去った後は、パワフルなロックチューン「渇き」、そしてバラード「ババロア」を熱唱。ドロドロとした感情の源泉をさらけ出すような魂の歌声が、聴く者の心を強く揺さぶった。
吉乃は最後に「本当にあっという間で、自分でもびっくりしています。明日もやりたいくらい」と笑顔を見せつつも、次回開催は未定だと明かすと、会場には名残惜しむ空気が漂った。
約1年ぶりのステージに立った吉乃は「こんなに温かく迎えてもらえると思っていなかったから、泣きそうになった」と胸の内を吐露。また、自身の人生観についても触れ、「私の人生を一つの演劇だと捉えています。私が主役であり、皆さんもそれぞれの人生の主役。今日こうして交われたことが本当に嬉しい」と語りかけた。
さらに観客との関係について「応援してもらう中で、距離が離れて寂しいと感じることもあるかもしれない。でも私も同じ気持ちで、その分もっと大きな舞台に立って、みんなに寂しい思いをさせないように活動していきたい」と決意を表明。
そして「日常に戻ると、自分の本音を曲げなければいけない瞬間もあるかもしれない。でも心の核だけは変えずに、あなた自身の魂を燃やし続けて生きてほしい。私もそうやって生きていきます」と力強い言葉を残し、観客に「今日一番の声を聞かせてください!」と呼びかけ、「KAMASE!!」を熱唱。スタジアムにいるかのような大合唱がZepp Hanedaを揺らし、吉乃は超絶ハイトーンをぶちかます。それはまるで「この歌声で未来を切り開く」と宣言しているかのようだった。
こうして幕を閉じた1stワンマンライブ「逆転劇」。アーティストとしてさらなる歩みを進める吉乃の決意と、観客の熱量がぶつかり合って生まれた劇的な一夜だった。幾度となく訪れたハプニングすらも力に変え、弱さも強さも包み隠さずさらけ出した姿は、彼女の真価を鮮やかに示していた。観客と共に築き上げた“逆転劇”は、ここからさらに大きなステージへとつながっていくだろう。吉乃の人生劇場は、まだ始まったばかりだ。
取材&文:ニシダケン
写真:中原幸
【セットリスト】
01. 百倍返し
02. なに笑ろとんねん
03. ODD NUMBER
04. 転校性
05. ルカルカ★ナイトフィーバー [オリジナル:samfree]
06. 天伝バラバラ
07. ビーバー [オリジナル:すりぃ]
08. サンドペーパー・ムーン
09. エンドレス
10. 我が前へ倣え
11. 贄-nie- [新曲]
12. 君の知らない物語 [オリジナル:supercell]
13. サマータイムレコード [オリジナル:じん]
14. BAD MAD
アンコール)
15. お願いマッスル [ゲスト:弱酸性、オリジナル:紗倉ひびき(ファイルーズあい)&街雄鳴造(石川界人)]
16. 渇き
17. ババロア
18. KAMASE!!
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