2000年代ポップ・パンク・リバイバルみたいなことを3人でやっていきたい
──そういうポップ・パンクをやるとなると歌詞も自然と英詞になると。IFの歌詞は情報量の詰まり方がFOMAREの日本語詞と全く違いますよね。FOMAREは表現が具体的ですけど、IFでは自分の心情がシンプルにそのまま表現されていて、その感じもパンクっぽいなと思いました。
Ko-hey:英詞だとそのへんを濁すというか、受け手に任せる感じで書きますよね。俺、歌詞とメロディのハマりのチェックも兼ねて、書きかけの歌詞を見せてもらってたんですけど、FOMAREとは全く違う歌の世界になってるなとその時点で思ってました。俺がメロを書いてるっていうのもありますけど。
──Ko-heyさんが全ての作曲を手掛けているのもおもしろいですよね。アマダさんも自分で曲が書けるのに敢えてそうしなかったという。
Ko-hey:曲作りの段階で、俺のほうが曲を書くスピードが早いから、5曲入りのEPを出すなら俺が4曲、シンスケは1曲書こうみたいな話になってたんですよ。でも、シンスケがつくったデモを1、2曲聴いてみたらどうしてもFOMARE感が強くて、洋ポップ・パンクというよりもシンスケの歌のクセが前に出てたんですよね。それで俺が全部書くことになったんですよね。
──より独自色を出すために。それにしても、Ko-heyさんがここまでメロディアスな曲を書く人だったとは。
Ko-hey:ただのハードコア・パンク好きじゃないっていう(笑)。俺が2000年代にいちばんハマったのはエモ/スクリーモで、いちばん好きな国がUKだから、どうしてもエモくなっちゃうんですよね。(NAMBA69の)難波さんみたいにカラッとしたメロディ・ラインは俺にはつくれなくて。
──SHUNICHIさん的にKo-heyさんの曲はどうですか?
SHUNICHI:めちゃくちゃいいですね。ドラムのフレーズもデモ段階でKo-heyが全部つくってくれてるんですけど、ドラマーだとこんなのは思いつかないなっていうフレーズもあったりして、それを自分でアレンジしたりそのまま使ったり、すごく楽しかったです。
──COUNTRY YARDとはアプローチが変わってくる。
SHUNICHI:COUNTRY YARDはデモをつくることがないんですよ。スタジオに入ってヴォーカルのSit(Keisaku “Sit” Matsu-ura)が持ってきた曲にあわせてみんなでどんどんアレンジしていくってやり方なので、どうしても自分の手癖が抜けなかったり、自分のやりやすいように進めちゃうところがあるので、今回は刺激がありました。
──Ko-heyさんはなぜそこまでしっかりデモをつくっていったんですか?
Ko-hey:NAMBA69でもデモをつくるときはリズムの展開からオカズやキメまである程度できあがった状態で持っていくんですよ。あと、これはバンドマンあるあるだと思うんですけど……曲作りのためにスタジオに入って、誰かが「こんなんどう?」って出したアイデアに対して「それはちょっとダサいね」ってほかのメンバーが返すと、そのアイデアを出したほうは不機嫌になるし、次のアイデアも出しづらくなるじゃないですか。で、次にさっき「ダサいね」って言ったヤツが「こういうのどう?」って言うと、さっきダサいって言われたヤツはイライラしてるから「いや、それはないっしょ」って返してどんどん空気が悪くなっていって、スタジオにいる間ずっと修行みたいな時間を過ごすっていうことがよくあるんですよ。それを阻止したいっていう気持ちもあります。あの時間、耐えらんないよね?
SHUNICHI:COUNTRY YARDでそういうことはないけど、昔組んでたバンドで深夜にスタジオに入ってたときは地獄でしたね。フレーズのひとつひとつを確認していって、「違うなあ」「そうじゃないなあ」「なんかしっくりこないなあ」って。あの時間は本当に無駄ね。本当にしんどい。
Ko-hey:ね。そういう無駄な時間を過去に何十時間も経験してきてるから、ある程度たたき台があるほうがいいんですよ。
──我々リスナー側が聞くのは、「スタジオでメンバーが出したアイデアに全員『それいいね!』ってなって」みたいな話ですけど。
Ko-hey:アーティストはインタヴューでそういうところしか話さないからね(笑)。
SHUNICHI:本当はもっと生々しいよな。
Ko-hey:ね。そこに到達するまでに12時間ぐらいなにも生まれてなかったりするから(笑)。ちなみに、ヴォーカルがメロを持ってくるほうが曲作りの進みが早いんですよ。なぜならほかのメンバーはそのヴォーカルのメロディセンスや声が好きだから。COUNTRY YARDなら、たとえSITがサビしかつくってこなかったとしてもそこからは進みやすいだろうし、それはNAMBA69も同じで。でも、ヴォーカル以外のメンバーがつくってきたもの、たとえばリフだけとか、そうなるとなかなか難しい。
──そういう経験がIFの在り方にも反映されていると。たしかに、せっかく新しくはじめたバンドなんだから楽しくやりたいですよね。そのせいなのか、『In forward』はやりたいことが明確ですよね。こういうポップ・パンクがやりたいんだという思いが伝わってきます。
Ko-hey:俺はそこしか目指さずにデモをつくってました。
──ギターは重ねているけど、同期系の音はないし、最低限の音しか鳴っていません。そういうシンプルさは最初から意識していたんですか?
Ko-hey:2000年代ポップ・パンク・リバイバルみたいなことを3人でやっていきたいというのがスタートだから、その枠のなかに収めればいいっていう考えでつくってました。そのなかにブレイクダウン的なパートがあったり、メタリックなリフをLRでハモったりっていうのはあるけど、大枠では2000年代ポップ・パンクの枠のなかにいるほうがいいんだろうなと。
──最近はより新しいことをやろうとしがちだけど、逆ですね。
Ko-hey:むしろ、それが新しいんじゃないかと思うところもちょっとあったりして。マシン・ガン・ケリーが去年辺りからずっとポップ・パンクをやってて、あれはトラヴィス(・バーカー。アメリカのポップ・パンク・バンド、ブリンク182のドラマー)が叩いているからっていうのもあるけど、彼はブリンク時代のポップ・パンクをやってるじゃないですか。俺らからするとブリンクが第一線で活躍していたのは20年前の出来事だけど、若い子たちはまだ生まれてない頃の話だからああいうサウンドが新鮮に聴こえたりするんだろうなって思う。
──世界レベルではそうなのかもしれないけど、国内の状況だけを見るとパンク・シーンは元気のない状態が続いていて。
Ko-hey:全然元気ない!ヒップホップに押されまくってるもんね。
──そういうなか、IFがこういうストレートなサウンドで打って出るのが潔いというか。
Ko-hey:だって、このバンドのメンバー構成も、サウンドもおもしろいじゃないですか。音に関しても、懐かしいと思うヤツもいれば新しいと思うヤツもいるっていうのがおもしろい。あと、NAMBA69とCOUNTRY YARDのファンベースは近いかもしれないけど、FOMAREは客層も年齢も完全に違う。こっちはハードコア・シーンの若い子たちから40過ぎのライヴ慣れしてる人たちがいて、FOMAREは若い子たちがメインだから、IFを聴いて「アマダさんってこういう音楽が好きだったんだ!」っていうのを入り口にして10代から20代前半の子たちがパンクのシーンに来てくれたらいいなと思います。