
東京の高円寺にはたくさんのライヴ・バーやライヴ・ハウスがある。その中でも一際異彩を放つ無力無善寺というライヴ・ハウスを知っているだろうか? バンド以外にも詩の朗読や舞踏など様々なアーティスト達が集まり、鬱屈した思いを惜しげもなくぶちまけている。、前野健太、三上寛など、無力無善寺の魅力に取り付かれた著名なアーティストがたくさんいる。彼らの共通点は圧倒的な個性だ。
今回紹介するというバンドはその無力無善寺出身のアーティスト。僕のバンド、ジプシー・ルーズが初めて共演した時、圧倒的な存在感と音楽を超えた表現方法を目の当たりにして、一目惚れをしてしまった。それ以来、一緒にツアーに行くほど意気投合したが、今回1st フル・アルバム『うむひとうまれるひと』をリリースする。リリース直前、関西で行われたの自主企画に筆者自身が同行することになったので、高速道路上でのインタビューを試みた。(多分・・・)世界史上初の時速100kmインタビューをの音楽と一緒にどうぞ!
インタビュー & 文 : 池田義文
→「知りたいよ」のフリー・ダウンロードはこちら (期間 : 10/29〜11/5)

灰緑の生い立ち
—はどのようにして、結成する事になったの?
山口 (以下 Y) : おにいちゃん(Ba:刈田英之)が西宮君(Gr:西宮灰鼠)を最初に誘ったのが始まり。それで、ちょうど刈田英之君の弟のオサムちゃん(Dr:刈田修)が上京するからドラムをお願いして、僕もちょうど暇だったからお兄ちゃんに誘ってもらった感じだね。最初は誰が何の楽器を担当するかもあまり決まっていなくて、刈田兄弟と僕は全くの初心者だったんだ。
—どんな音楽をやろうとかそういうのはなかった?
Y : 全く決まってなかった(笑)。最初は西宮君が作った曲をみんなで演奏していて、今とは全く違う形の音楽だったね。演奏が下手な歌ものバンドっていう感じだった(笑)。
—最初は西宮君がボーカルだったわけだ。そこからどうやって、山口君が歌うようになっていくの?
Y : 酔っぱらってスタジオに入る事が多くて、その勢いで無理矢理マイクをつかんで、「この曲は俺が歌う!」 みたいな感じで歌ったのが最初かな。もちろんその頃、ライヴは全然やっていなかったし、一生ライヴはやらないだろうと思っていた。
—遊びでみんなでスタジオに入っている感じだったと。
Y : そうそう。人に見せられるものじゃないと思っていたからね(笑)。一年間はスタジオに入っているだけだった。そのうち西宮君がソロで高円寺の無力無善寺でライヴをするようになって、それで初めて行って、この場所なら何をやっても恥ずかしくないだろうと思った。その後一年くらいはずっと無善寺だけでライヴをしていたね。
—その頃から演奏している曲はある?
Y : 今回のニュー・アルバムにも収録された「アラビア」という曲かな。この曲は僕とオサムちゃんがスタジオに入っていて、こんなのどうかな? っていいながら遊んでいるうちに出来た曲なんだよね。今やっているフレーズをただ繰り返していただけで、他は何もできていなかった。

高円寺無力無善寺とは?
—灰緑から見て、無力無善寺はどんな場所?
Y : そうだな。一番好きだし、面白い場所かな。動物も劣悪な環境に慣れるように、最初は変な場所だなって思ったけど、いつの間にか居心地がよくなっていたね。以前、地味なおばさんがSMみたいな格好をして、テクノ歌謡を演奏していた時は、さすがにわからないなって思った(笑)。もちろんそれを見に来ている人もいるんだけど。
刈田修(以下 O) : でも、ジュン君(Gr,Vo : 山口)の好きな世界ではあるよね? ガロ系の。
Y : ガロっていう漫画の想像の世界が現実に現れちゃうのは怖いよ(笑)。
—話は変わって、「甲子園」というほぼ語り(!?)が入る曲があるけれど、あの曲はどうやって作ったの?
Y : セッションだね。後は「甲子園」の事はオサム先生に聞いて。
刈田修(以下O):俺はいつもスタジオでみんなを笑わせるのが楽しいから、「絶対に甲子園に行こう」とか適当な事をずっと言っていたら、ジュン君が「それ面白いんじゃない?」 みたいになって、いつの間にか曲になった感じかな。
—じゃあ、あれは曲なんだね(笑)。
O : なんだろうね(笑)。パフォーマンス。パフォーマンス集団。
—ってパフォーマンス集団なんだ(笑)。
O : そう。
Y : そうなの!? ちがうちがう。
—あの曲の語りの部分はライヴでは毎回違うけど、完全にアドリブ?
O : 3パターンあって、完全ノー・プランか、言葉のアイテムだけを持ってくるか、全て作り込むかだね。
—昨日のライヴ(10/21に大阪の塚本エレバティで行われた、灰緑企画のライヴ)はどのパターン?
O : 昨日のは完全ノー・プラン(笑)。だって最初の一言が「う○こ」だったでしょ? 下ネタで入ったときはだいたいノー・プラン。何にもないから、これを言っておけば無難だろうと(笑)。普段は一番を演奏している間に、次は何を言おうか考えているんだ。
—下ネタだけどかなり頭脳派なんだね。
O : やっぱり緊張感がないと、思い浮かばないんだ。
—追いつめられたりしない?
O : いつも追いつめられている(笑)。ひどい時も何度かあったよね? ステージ上で、「どうしたらいいんだろう?」とか言ったこともあるし。そしたら、その時にジュン君が「がーんばれ、がーんばれ」って。
Y : あの姿見てると、同じステージ上にいるのに応援したくなる。
O : 一度全て台詞を考えて、ライヴをした時に西宮君に「考えてこない方がいい」っていわれて、それ以来自分を追いつめて、不安な状態でライヴに望むようにしている。
Y : きれいにまとまっていると、後でお客さんに文句を言われたりするからね。
—あの台詞も色々と難しいんだね。
O : そうなんだよ。危険なところから生まれるからいいんだろうね。俺にとっては恐怖でしかないよ(笑)。
—そのアドリブが生活の中で、アイデアの思いつきとか、商談とかに役に立ったりする?
O : いや。全然たたない! 糞の役にもたたない!

—(笑)演奏もアドリブなの?
Y : ほとんどアドリブかな。自分でも何をやっているかよくわからないからね。
—練習はしているの?
サンタ(以下 S) : してないな〜。
Y : 最近はほとんど会議ばっかりだね。スタジオ入っても、なんで曲がなかなかできないんだろうとか、そういうことを話し合っているね。
—そもそもの曲はどうやって作るの?
Y : なんとなくの形ができて、それをとりあえずライヴでやって失敗する。最初の内は本当によくわからなくて、ノイズみたいになっていたりすることもあるんだよね(笑)。だから、ライヴを重ねていくうちにだんだんと曲になってくる。
—アルバム名の『うむひとうまれるひと』はどういう意味があるの?
Y : 意味考えてつけたけど、忘れちゃったな。なんだっけ?
O : 「うまれてすぐうまれた」っていう曲があるからかな? でもあの曲はそんなに重要じゃないよね? 結局はよくわからないってこと(笑)。
—レコーディングに関してはどうだった? の曲はどこでオッケーがでるんだろう(笑)。
Y : テンションの問題だね。今回は特に歌も楽器も全部一発撮りだったからね。鐘の音とか、サックスが逆回転になってりと面白い要素は入っているけれど。歌詞が間違えているのもそのまま入っている。「やきそば」が「そきそば」になってたり。
—苦労したところはある?
O : レコーディングが二日しかなくて、体力勝負だった部分があるかな。
Y : 二日で12曲を録音したからね。一回で撮り終えた曲もあるし。「おばけ」って曲はレコーディング前に一度だけ練習して、面白かったら入れようぐらいだったんだけど、実際撮ってみたらいい緊張感でとれた曲なんだよね。本当に場当たりです(笑)。茶畑がきれいだ。
—今静岡あたりです(笑)。
O : ジュン君。申し訳ないんだけど、トイレ行きたい。水飲みすぎちゃった。
一同 : (笑)

メンバーの共通点
—唐突だけどの到達点はどこにあるのかな?
O : 絶対メンバー5人とも違うと思う。曲がなかなかできないのもそういう原因があるとおもうな。それでも、ちゃんと曲が出来るときがあるから不思議なんだよね。
Y : 確かにバラバラの周波数がたまに合う時がある。皆既日食みたいな感じ(笑)。でも、そもそもバンドの到達点ってどこにあるんだろうか?
—ないんじゃないかなという気もするね。
O : やっぱり最高のライヴなんじゃないのかな。
Y : 急にいい事言い出した(笑)。
O : 常々サンちゃんと話しているのは、「ライヴで死にたい」って。
—そんな事常々言っているの!?
S : まあ、「常」ぐらいかな?
O : 「常」ぐらいだね!!
—じゃあ、最後にのメンバーの共通点はどこにあるのかな?
S : 基本みんなバラバラだけど、この前オサムちゃんと話をしていて気づいたのは灰緑の共通点は「うまい飯が好き」っていう事になったんだよね。
O : そうそう。
—「うまい飯が好き」っていうのが共通点なの!? それって誰でもそうじゃない?
一同 : (爆笑)
O : こいつぁいいや(笑)。でも真理だよね。
PROFILE
2004年3月 刈田英之(ベース)が大学の同級生であった西宮(ギター)を誘いバンドを結成。刈田英之の弟、刈田修(ドラム)が大学入学のため、上京。刈田英之、刈田修をバンドに加入させる。
2004年5月 刈田英之、高校時代の同級生、山口(ギター・歌)を誘う。2004年5月 に東高円寺ファミリーマート前あたりで4人が揃う。 同年6月 刈田英之が西宮の家に遊びにゆき、クレヨンの中におもしろい名前の色があるとの経緯でバンド名が「灰緑」となり、更にサンタ(サックス)が加入、灰緑独自のパンク・サイケデリック演歌民謡ファンク・ミクスチャー・サウンドが完成する。
LIVE SCHEDULE
『うむひとうまれるひと』リリース・パーティー 〜灰緑の11月にうまれ、10日で恋におちる方法〜
- 11/10(木) @ 下北沢シェルター
前売り2000円+1D 当日2300円+1D
w/ 埋火 / Qomolangma Tomato / 灰緑 /
11/10の灰緑企画に出演するアーティストを紹介
わたしのふね / 埋火
現代和製ロック界に大衝撃!! 二階堂和美、トクマルシューゴに続く、埋火(うずみび)による正式デビュー盤にして大名盤がついに完成!! レトロでサイケ感漂う雰囲気を兼ね備えながらも、サウンドはエモーショナルでキャッチーなメロディー、静と動が入り混じったこのロック・サウンドはクセになります。
・ 埋火 インタビュー : https://ototoy.jp/feature/20081226
camouflage/ Qomolangma Tomato
シーンの垣根を越えオーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドを自由に行き来する稀有な存在の4人組バンド。1stの初期衝動と2ndでの進(深)化を経て辿り着いた新境地は「解放」。叙情的な内側を描き出した、待望の3rd Album。
・ Qomolangma Tomato インタビュー : https://ototoy.jp/feature/20090513