
ベース、ドラム、2本のギターからなる4人組インストゥルメンタル・ロック・バンド、OVUM。彼らが、5年半ぶりとなるフル・アルバム『ascension』を11月13日に発売する。OTOTOYでは、高音質音源で配信! 『joy to the world. ep』発売後、2度のメンバー・チェンジを経て作られた今作は、宇宙を感じさせる神秘的で壮大な音楽でありながら、ストレートなロックの側面も感じることのできる作品となっている。今回のインタヴューは、バンドの中心人物、Norikazu Chibaの音楽遍歴から、いい音楽とはなんなのか? を追い求めたアルバムについて掘り下げるものとなった。インタビューとともに、全8曲74分におよぶ気高い世界を味わってみてほしい。
OVUM / ascension
【配信価格】
HQD(24bit/48kHzのwav) : まとめ価格 1,800円
【Track List】
01. the prayer anthem / 02. never ending rainbow / 03. defection / 04. your cruel virginity / 05. the five sacred wounds / 06. cause after effect / 07. stella / 08. blessing
INTERVIEW : Norikazu Chiba(OVUM)

4人組のインストゥルメンタル・ロック・バンドOVUMが、フル・アルバムとしては実に5年半ぶりとなる新作『ascension』を発表する。2010年に今回の作品にも収録されている「your cruel virginity」を含む『joy to the world. ep』を発表するも、翌2011年4月にベーシストが脱退。しばらくメンバーが固まらない時期が続いたが、2012年4月に現在のメンバーであるJingujiが加入すると、そこからさらに1年半をかけて、遂にアルバムを完成させたのだ。
この5年半の歳月によって、バンドが大きなスケールアップを果たしたことは間違いない。2008年発表のファースト『microcosmos』は、どちらかといえば繊細なイメージの強い作品だったが、今作ではバンドのグルーヴ感が大幅にアップしているのがまず印象的。「普遍的な美しさ」を標榜するOVUMらしさはそのままに、四つ打ちを取り入れた曲から、エフェクトを大胆に効かせたサイケデリックな曲まで、楽曲のバラエティを大きく広げてもいる。さらに、オープニングの「the prayer anthem」や、ラストの「blessing」といった轟音系ナンバーのスケール感もより一層大きくなって、まさに「昇天」を意味する『ascension』というタイトル通りの作品になったと言えよう。
今回インタヴューに応えてくれたOVUMの中心人物Norikazu Chibaは筆者とは同年代ということもあり、音楽トークから、ちらりと覗かせる本音まで、さまざまな話を聞くことができた。Chibaは今年の6月に、彼の持つクラシックやエレクトロニカ的な素養を解放した初のソロ・アルバム『The Songs of the Circling Stars』を発表しているが、やはり30歳過ぎという年齢は、改めて「自分にとって音楽とは?」ということを考え直す時期なのだと思う。たとえば、つい最近だと京都インスト・バンドの雄Nabowaの景山奏がTHE BED ROOM TAPE名義でパーソナルなソロ作を発表したりもしていたが、ここにはなんらかのシンクロニシティがきっと存在するはずだ。Chiba自身がインタヴューでも語っている通り、『ascension』という作品は、バンドにとってひとつの区切りとなる作品であり、またはじまりを意味する作品でもあるのだ。
インタヴュー&文 : 金子 厚武
ひとりでトラックを作ってたんですけど、やっぱり自分で演奏したいかもって
――OVUMの話をする前に、まずはChibaさんご自身の音楽歴をお伺いしたいと思っていて。OVUMって、はじめからインスト・バンドを志向していたバンドではないそうですし、Chibaさんは作曲家的な資質も持っていらっしゃる方だと思うので、きっといろんな音楽を聴いてきているんだろうなって思ったのですが。
Norikazu Chiba(以下、Chiba) : 自分で「僕は音楽が好きなんだ」っていうことを自覚したのは、中学1年生のときですね。私立の中学校だったんで、家から遠くて、通学途中にウォークマンを聴くっていうのが、なんかいいなあと思って(笑)。そういう中で、まず最初に衝撃だったのがXで、とにかく曲が速くて、メロディーもクサいじゃないですか? そういうのを「すごい!」と思って、「僕もギターやりたい」ってなって、そっからはわりとメタリックな、メタリカとかに行きましたね。
――やっぱり、小さいころは刺激の強いものに憧れますよね(笑)。
Chiba : それからニルヴァーナとかが出てきて、グランジとかオルタナティヴなロックに流れるんですけど、高校生ぐらいから、世間的にヒップホップが流行り出したじゃないですか? 「これからはこれなんだ」っていう、ある種間違った確信みたいのがあって(笑)。

――それって、DRAGON ASHとか?
Chiba : もうちょっと硬派な感じですね。日本語ラップが注目されはじめたころで…。
――さんぴんキャンプとか、そっちの流れ?
Chiba : そうです、そうです。最初はB-BOYファッションとかから入ったんですけど、やっぱり音楽自体が好きなので、トラックに興味がいくようになって、そこからアメリカの東海岸寄りのヒップホップを聴くようになり、DJ KRUSHとかDJシャドウにいきあたって、「こんなすごい人たちがいるんだ」と思って。
――僕らはDJシャドウの『Endtroducing』でやられた世代ですもんね。
Chiba : そうですよね、ほんとうに。「ヒップホップの手法なんだけど、こんなに自由なんだ」って驚いて、アブストラクト・ヒップホップの流れで、今度はWARPに行って、エイフェックス・ツインとかオウテカ、プラッドとか、ほんとうに素晴らしいなって思ったのと、ビヨークの『Homogenic』とかマッシヴ・アタックとかがリンクして、そういう方向に行きました。
――よりエレクトロニックな方向に。
Chiba : ただ、そこをどんどん突き詰めていくと、オウテカとかは自分でパッチを書いたり、いわゆる音楽というものからは離れていくんですよね。それで「果たして僕はこれが心の底から好きなんだろうか?」っていうふうに思い始めて、やっぱり自分で演奏するときのエクスタシーとか高揚感とか、そっちなんじゃないかなって。クラブ・ミュージック的なものをよく聴いてたときは、サンプラーとかシーケンサーを買って、ひとりでトラックを作ってたんですけど、「やっぱり自分で演奏したいかも」って思いはじめたときに、自分にとってすごく大きかったのが、ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー。あれはすごく肉体性があるし、高揚感もあって、「やっぱり僕はバンドをやろう」って思ったんです。
――なるほどなあ、共感する部分がとても多かったです(笑)。あと、クラシックとか現代音楽も影響源として大きいそうですね。
Chiba : ヒップホップからエイフェックス・ツインに行ったあたりで、もっと音楽全般を知りたいと思うようになって、クラシックとか現代音楽は聴き漁りましたね。なかでも、スティーヴ・ライヒとアルヴォ・ペルトはすごく衝撃で、どちらもミニマルな要素があって、普遍的な美しさと、エッジィな部分を両方感じさせるっていう意味で、すごく好きですね。
――そこはそのまま「OVUMらしさ」にもつながってそうですね。Chibaさんは2011年からworld’s end girlfriendのバンドでもギターを弾いていらっしゃいますが、WEGの前田(勝彦)さんとも「クラシック」っていうのは共通点なんじゃないかと思います。実際に、どのようにバンドに参加されたのですか?
Chiba : もともとは普通にWEGのファンで、あるとき自分たちのイベントに出演依頼をしたんですけど、そのときはダメだったんですね。でも、少し経ってから、前田さんが急に「今度WEGでライブをやるから、ギターを弾いてくれませんか?」って、メールをくれたんです。「ちょっとは気にしててくれたんだなあ」っていう(笑)。
――実際に前田さんと一緒に活動をしてみて、どんな部分で得るものが大きかったですか?
Chiba : 前田さんの音楽に対するスタンスですね。前田さんは「音楽に身を捧げてる」って言ってますけど、まさにそうだなって思って。僕なんかだと、音楽を聴くとき「これを聴いたら自分の身になるんじゃないか」とか、自分にとってどうかっていう感じなんですけど、前田さんはそうではなくて、音楽っていうもの自体をすごくフラットに愛してるというか、自分がミュージシャンであり、作曲家であるとか、そういう視点じゃなくて、ただ音楽自体を愛してる。そういうところがホントにすげえなって思います。
――最初に話してもらったリスナーとしての変遷は、まさに「これを聴いたら自分の身になるんじゃないか」っていう視点もあったでしょうね。
Chiba : そうなんですよね。自分本位っていうか、「いかに自分を高められるか」みたいな、そういうのが常にあるんですけど、前田さんを見てると、「それって小っちゃくてつまんねえな」って思わされるんですよね。
――今年の6月に初のソロ・アルバム『The Songs of the Circling Stars』を発表されていて、あの作品はクラシックやエレクトロニカの要素も強く、ある意味WEG寄りな作品でしたよね。あの作品を作ったことも、作曲家としての自分を見直すことになったのではないかと思うのですが。
Chiba : そういうのを前から出したいと思っていて、バンドの方がちょっと滞っていたというか、曲自体はできてたんですけど、なかなかレコーディングに至らないっていう時期に、逆にいい機会だと思って、「自分ひとりで作品を世に出してやろう」って決めて、一生懸命集中して作りました。
――曲を作り貯めてたわけじゃなくて、「出そう」って決めてから作ったと。
Chiba : そうです。まあ、あんまりポンポン曲ができるタイプじゃないんで、頭を抱えながらやった感じですね(笑)。
――宮沢賢治からインスピレーションを受けての、「星」をテーマにした作品でしたが、それも作品を形にするためのテーマ設定だった?
Chiba : そうですね。もともとすごく好きなテーマだったんですけど、まずそのテーマを決めて、それから作りはじめた作品でした。
もっとロック・バンドっていうか、もっとヘヴィで、ずっしりくるものを作りたい
――では、そろそろOVUM自体の話に移ろうと思うのですが、さきほど「活動がちょっと滞っていた」という話も出ましたが、フル・アルバムとしては実に5年半ぶりの作品となりました。間に2度のメンバー・チェンジがあったので、それも大きかったとは思うのですが、時間がかかった最大の要因はなんだったのでしょうか?
Chiba : メンバー・チェンジがもしなかったら、1年ちょっとは短縮されたと思うんですけど、ただ1番の原因は、曲を作れなかったっていうことですね。僕の力不足です。
――この5年半というと、やはり2011年の震災が最も大きな出来事だったと思うのですが、「曲を作れなかった」っていうことと、何かしら関係はありますか?
Chiba : 当然震災があっていろんなことを考えましたけど、それとこれとはまたちょっと違うというか、あるきっかけで曲を作れなくなったっていうよりも、単純に力が足りなかったっていうか… あと、これは今も続いてることなんですけど、音楽の判断基準、「いい音楽ってなんなのか?」とか「自分にとってオッケーな音楽ってなんなのか?」っていうのを、見失ってますね。
――今も?
Chiba : 今もです。価値観がすごく多様化してる時代じゃないですか? 果たして何がいいのか悪いのかっていうのは、結構難しいですよね。そこの明確な基準っていうのは、正直できてなくて。自分がやりたいこと、やれることっていうのは、ある程度見えてはいるんですけど、「僕はこうだよ」って言えるだけの確信みたいなものって、実はそんなにないかなって思うんです。
――たとえば、『microcosmos』を作ってたころは、ある種の確信を持って作ってた?
Chiba : わりとありましたね。あったんですけど… こういうことを言うのはあんまりよくないかもしれないけど、それまで自分が「これはいい」って思うものを作ってたんだけど、意外とみんなそう思わないんだなっていうのを学習してきてしまって、ちょっと揺らいでるっていうのが正直なところですね…。あんまり人に言いたくないですけど(笑)。
――でもね、やっぱり今回の『ascension』は5年半を費やしただけの作品になってると思うんです。これまで同様に「普遍的な美しさ」っていう部分がありつつ、スケール感はより壮大に、一方でグルーヴィなバンド感もすごく出てる。前作はどちらかというと繊細なイメージが強くて、そのよさは今作にもあるんだけど、やっぱりバンド感はすごく上がったなって思いました。
Chiba : ありがとうございます。そこはメンバーみんなで「そういうふうにしよう」っていう話を結構しました。『microcosmos』はわりとアンビエント風に捉えられることが多くて、自分たちはそういうつもりでは作ってなかったんですけど、結果的にそうなってたので、次の作品はもっとロック・バンドっていうか、もっとヘヴィで、ずっしりくるものを作りたいねって話をしてたので、そういうふうに思ってもらえたのはすごく嬉しいです。

――だから、その分2度のメンバー・チェンジがあったっていうのは、グルーヴを再構築する上で大変だったと思うんですよね。今のベースのJingujiさんとはどのように出会ったのですか?
Chiba : 彼は3年前ぐらいまで福岡でバンドをやってたんですけど、東京に出てきて、別のバンドをやってたんです。
――年って近いんですか?
Chiba : わりと近いです。僕の2つ下なんで。
――その年齢で福岡から東京に出てくるっていうのもすごいですね。
Chiba : 結構バカですよね(笑)。でも、最近思うんですけど、うちのバンドに限らず、いい年して音楽を続けてるやつって、どっかバカじゃないと無理だと思うんですよ。まともなやつは多分やらないですよね。だから、若い子が音楽のことで悩んでたら、「やめたほうがいいよ」って言いますからね(笑)。結局音楽をずっと続けてる人っていうのは、やめられない人なんですよ。もしやめられるんだったら、やめちゃったほうがいいと思いますよ。
――ある意味、それって音楽にその身を捧げてるとも言えそうですよね。OVUMのメンバーみんなそういう人たちなんだろうし、それはつまり今でも音楽に情熱を傾けられる人ってことで、だからこそJingujiさんは東京に出てきたんだろうし。
Chiba : よくやるなあって思いますけどね(笑)。
――アルバムの話に戻ると、さっきの「ロック・バンド的な作品」っていうこと以外に、何か作品としての方向性っていうのはあったのでしょうか?
Chiba : アルバムの中に入ってる1番古い曲が最後の「blessing」で、それは2008年にはできてたんですよ。その曲に導かれたというか、その曲を次のアルバムの最後の曲にしようっていうのはもうそのとき決めてて、そこにマッチするような感じで世界観を考えていったので、なにも考えずにバラバラに作ってまとめたわけではなく、一応方向性があって、アルバムのタイトルもだいぶ前から決まってたんです。
――アルバム全体っていう意味で思ったのは、インスト・バンドって、作品の枚数を重ねていくと、楽器の数を増やしたり、声を入れたり、何かを足す方向に向かうのが一般的だと思うんですね。でも、この作品は4人の音しか鳴ってないですよね?
Chiba : そうです。オーバーダビングもゼロですね。
――あ、オーバーダビングすらしてないんだ。そこはやっぱりこだわり?
Chiba : ありますね。やっぱりバンドをやるのであれば、生で演奏してこそっていうか、技術が発達して、ほんとうにいろんなことができるじゃないですか? だからこそ、全部生で演奏する、クリックとかも使わないで、完全に自分たちの生のものを記録することに決めたというか、意地みたいなものもありますね。
雰囲気的には「ストレートなロックをやってみたい」っていうのが出発点だったんです
――では、具体的な曲について聞いていくと、スケール感のある轟音系の1曲目「the prayer anthem」と、グルーヴィかつプログレッシヴな二曲目「never ending rainbow」のふり幅っていうのが、アルバムを象徴してるように思いました。なので、この2曲のことを個別にお伺いしたいのですが、まず「the prayer anthem」は、1曲の中にメジャー系の轟音とマイナー系の轟音が両立してるっていうのがおもしろいですよね。
Chiba : さっき「判断基準が明確じゃない」っていう話をしたものの、僕個人が音楽の善し悪しを判断するときに、いかにおもしろく曲を展開していけるかっていうのがあるんです。スタートしてから、いかに不自然ではなく、離れたところまで持っていけるかっていうのがあって、その対比をつけるために、メジャー的な感じとマイナー的な感じが入ってるっていうのはあると思います。あとは、クラシックの影響もでかいかな。
――楽章ごとに分かれてるような感じですよね。それって、最初から全体の展開がなんとなく見えてるんですか? それとも、作りながら考えていくわけですか?
Chiba : さすがに一気に全部降りてくるっていうことはないですね。モーツァルトは一気に20分とかそれ以上の音楽が降りてきたらしいですけど(笑)。僕の場合はせいぜい3分とか5分ですけど、最初の取っ掛かりができれば、「こうしてこういってこう」っていうのが見えてきますね。

――でも、この曲も14分近くあるし、OVUMは1曲作るの大変そうですよね(笑)。
Chiba : しんどいですねえ(笑)。オーバーダビングもしてないので、要は音程を出せる楽器が、ギター2本とベースの3つしかないんですよ。でも、ベースはどうしてもコードを出すために制約もでかいし、いかに限られたリソースでちゃんと過不足なく構築するかっていうのがすごく難しいですね。
――一方、二曲目の「never ending rainbow」は5分ほどのOVUMとしては短めの曲で、OVUMっぽくない四つ打ちの入った曲ですね。ただ、「盛り上げるために四つ打ち入れてみました」という曲ではなく、あくまで一要素として使われているし、ポリにしたりして、展開の多さも含め、ちゃんとOVUMらしい仕上がりになってますよね。
Chiba : 結果的にはストレートじゃないんですけど、雰囲気的には「ストレートなロックをやってみたい」っていうのが出発点だったんです。でも、「これじゃあなんかなあ」っていうところから、いろいろ頑張っていったら、こうなっちゃったんです(笑)。この曲に関しては、僕が基本的なドラム・パターンも考えたんですけど、よく叩けたなって思いますね(笑)。足が4で、右手が2拍3連で、左手は4分取んないとダメって感じで、「これできんのかな?」って思いながら作って、最初はやっぱりできなかったんですけど、少しして「できるようになったよ」って。
音楽って祈りに近いものだって昔から思っているので、それをバンドで表したいなって
――素晴らしいですね。では、今回の作品の中で、特に想い入れの強い1曲を挙げるとすれば、どれになりますか?
Chiba : 「the prayer anthem」か、もしくは「blessing」ですね。結局そこがアルバムを象徴するというか、そういう曲だと思っているので。個人的に完成度が高いと思っているのは、「the prayer anthem」かな。
――この曲のどこまでも飛翔していく感じっていうのは、『ascension』というタイトルともぴったりですよね。かなり前からこのタイトルが決まっていたということでしたが、どんなイメージだったのですか?
Chiba : 今回に限らずなんですけど、音楽って本来の意味としては儀式的というか、祈りの場で使われたりしたわけじゃないですか? そのイメージが昔からあって、讃美歌とかもそうだと思うんですね。そういう人間の本質みたいな部分に、音楽で迫りたいっていうところから、イメージが出てきてますね。音楽って祈りに近いものだって昔から思っているので、それをバンドで表したいなって。
――『microcosmos』、『The Songs of the Circling Stars』、『ascension』と、これまでの作品を並べてみると、宇宙や星、天体への憧れが感じられますよね。
Chiba : 完全にあります(笑)。宇宙っていうか、そのもっと上の方っていうかね。そこになんかあるんじゃないかっていう。世界の真理みたいなものがきっとどこかにあって、そこに少しでも近づきたいっていう、そういう憧れがありますね。
――途中で話していただいた音楽の判断基準という話も、最終的にはこの話とつながってきそうな気がします。人間の根源、祈りの感覚といったものが、キーになるのかなって。

Chiba : そうですね。そこを表現するっていうことに関しては、自分の中にぶれはないと思うんですけど、具体的にどういう手法なり方法を使って、それを描くのかって いうところがまだ見えてないんですよね。
――その意味では、2013年は初のソロ作と、OVUMのひさびさの作品を発表できたことで、これからはより自由に、自分に1番フィットする表現方法を探していくことができる、そのはじまりの年だとも言えそうですね。
Chiba : そうですね。だから、今後どうなっていくかはホントにわからなくて、少なくとも、次のアルバムの曲はまだ1曲もできていない状態なので、どういう方法を使って表現をするか、みんなで考えてるところです。
――あくまで可能性として、OVUMとしての表現方法がガラッと変わることもあり得る?
Chiba : あり得ますね。インスト・バンドって結構難しいというか… インスト・バンドに限ったことじゃないですけど、自分たちっていうものを確立することの難しさっていう、当たり前の話なんですけどね。
――途中でも話に出たように、価値観が多様化しているなかで、みんなが好きなものを作るっていうのは、わかりやすい歌ものを作るにしたって、すごく難しい作業でしょうからね。
Chiba : みんなに好かれなきゃいけないと思っているわけではないので、自分たちが納得できる形で、自分たちのあり方っていうのを確立できたらそれでいいんですけど、そのためには、自分たちだけがいいと思っててもそういう状態にはなれないし、ある一定の評価は必要になってくると思うので、うまいバランスを見つけられればいいなって思います。少なくとも、現時点では自分たちがいいと思える状況には到達していないので、そこはこれから頑張って目指していきたいですね。
――具体的に今後どうなるかはわからないけど、一区切りの作品になったことは間違いなさそうですね。
Chiba : 結構できることはやったなっていう感じがあるので、次のステップに進みたいなってすごく思ってるし、大きな転換を図るときかなっていうのも考えてはいますね。
OVUMの過去の作品はこちら
OVUM / joy to the world. ep
Sigur RosやKyteに通じる壮大な美旋律と、EnvyやMogwaiとも共鳴する轟音ギターの快楽性を自在に操る、OVUM! ヴォーカル・レスであることをも忘れさせる、極限まで研ぎ澄まされたメロディとハーモニーは、静寂や轟音といった聴覚への刺激だけでなく、リスナーの心の奥底へと訴えかけ、僕らをまだ見ぬ何処かへと誘ってくれる。ピュア・ポストロックの理想形とも言える作品。
Norikazu Chibaのソロ作品はこちら
Norikazu Chiba / The Songs of the Circling Stars
インストゥルメンタル・ロック・バンド OVUM のギタリスト / コンポーザーとして、国内外を問わず精力的な活動を展開してきた Norikazu Chiba が初のソロ・アルバムをリリース。宮沢賢治の作品にインスピレーションを受けて「星」をテーマに作曲された全10曲。ギター、ストリングス・カルテットを中心に、心の琴線に触れる旋律が緻密に織り重なり、ピュアで透明な世界を描いている。バンドという制約から解き放たれ、作曲に対する情熱を存分に発揮した意欲作。生前に賢治が作詞作曲した「星めぐりの歌」のカバーでは、ヴォーカルとして上邨辰馬(wooderd chiarie)が参加。
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LITE / Installation
前作アルバム『For all the innocence』から約2年ぶりのフル・アルバムとなる本作は、日本のスタジオとアメリカ・オースティンにある「OhmRecording Facility」の日米2カ国でレコーディングが行われ、初期LITEの作品にあった、テクニカルでエモーショナルなリフやメロディといったマス・ロック、ポスト・ロック的なアプローチと、シンセ導入以降のテクノ、ダブ、エレクトロニカといったクラブ・ミュージックとの融合が、より肉体的かつ斬新な進化を遂げた作品となっている。
rega / SOLT&PLUM
2012年7月6日に日本橋公会堂にて行なわれたライヴ・イベントで、演劇ユニット「バストリオ」による演劇が繰り広げられる中で、同ステージ上で演奏されたアルバム収録曲の録音をベースに、スタジオ録音を重ねた、ライヴ盤でもスタジオ盤でもないもの。緊張感と温かな雰囲気が入り混じった作品となりました。
LIVE INFORMATION
OVUM presents "quiet life vol.7" 『ascension』 release party
2013年12月7日(土)@新宿NINE SPICES
open / 18:00 / start / 18:30
出演 : isolate / a picture of her
2013年12月28日(土)@京都GROWLY
2014年1月11日(土)@福岡Queblick
PROFILE
OVUM
2006年、東京にて結成。ベース、ドラム、2本のギターからなるインストゥルメンタル・ロック・バンド。本格始動間もない頃から都内のライブハウスを中心に精力的な活動を続ける。2007年5月の『under the lost sky. ep』のリリース以降その活動を更に加速させ、2008年4月、1st アルバム『microcosmos』のリリースと共に一気にインストゥルメンタル・ロック・シーンの最前線へと躍り出ていった。FORMOZ FESTIVAL(台湾)や、CMJ08(アメリカ、NY)への参加、香港やロンドンへのツアーなど、海外での活動にも積極的に挑戦している。即興や奇抜なアイディアで勝負するのではなく、楽曲に宿した強靭なアンサンブルと繊細に紡ぎだされたメロディーが美しき音像を描き出す。その音楽は言葉を持たないが、優しく、時に凶暴な音塊となって聴く者の感情に訴えかける。