Christian Vuust
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注目すべきは共演者だ。ピアノのアーロン・パークス(1983〜)は18歳でテレンス・ブランチャード・グループに参加し、頭角を現した。クリスチャン・スコット、ケンドリック・スコット、カート・ローゼンウィンケルらNY新世代との交流で存在価値を高め、Blue Noteからのリーダー作『インヴィジブル・シネマ』(2008年)で飛躍。昨年ECMデビュー作をリリースして、新たなステージに進んだ。今年3月にはデンマークでのリリース・ツアーに参加している。ベースのベン・ストリートは90年代半ばにレコーディング・キャリアをスタートさせ、ヴーストとの共演歴があるヤコブ・ブロの他、ローゼンウィンケル、ポール・モチアン、マーク・ターナーと録音。フリー系人脈を含めて、NYシーンの重要な一角に位置する。ドラムスのジェフ・バラード(1963〜)は2000年前後にチック・コリアのオリジンとニュー・トリオに抜擢されて、世界的な知名度を獲得。近年はブラッド・メルドー・トリオ、マーク・ターナーとのフライ・トリオ、ジョシュア・レッドマンらのアルバム参加やエンリコ・ピエラヌンツィとの共演、リオーネル・ルエケ+ミゲール・ゼノンとのリーダー作『Time’s Tale』で当代トップ・ドラマーの評価を確立している。 本作のネーミングに関して、ヴーストはNYとデンマークの土地柄を象徴する二つの言葉を組み合わせて、両者のイメージを融合させたアルバム・コンセプトに由来すると言う。選曲はすべてヴーストのオリジナルで、ニューヨーカーとの現地著名エンジニアが参画した録音であることを踏まえれば、ヴーストに期するものがあったことは想像に難くない。グリーンランドの伝統音楽に依拠した「サマー・バイゴーン」は穏やかな曲調で、パークスとの信頼関係がうかがえるデュオ。テナーとピアノの動きにキース・ジャレット・ヨーロピアン・クァルテットのエコーが感じられる「ヘリエネス」、テナーとそれに呼応したピアノがメランコリックに融合する「アーバン・ヒム」、メロディアスなピアノ・トリオのパートと、それに刺激されたテナー・ソロが収穫の「フィアー(フェザー)」、チャールス・ロイド的な意外性が浮き彫りになる「トンプキンズ・スクエア・パーク」、デクスター・ゴードンを想起させる大らかなテナー吹奏が曲名に合致する「バイキング・ザ・ビッグ・アップル」、前曲からの流れでアフタ−・アワーズ風の雰囲気を醸し出す「ルバート・NYC」、テナーが設定したムードをトリオが発展させる「レアケ(スカイラーク)」、葬送曲のような趣があるバラード「プロセッション」、家族を大切にするヴーストが妻をイメージしたと想像できる「ウェディング・ソング」。最後まで聴き進めれば、欧米のブレンド効果を企図したアルバム・コンセプトが、実際は米国トリオを自身の土俵へと招いた仕上がりになっており、このヴーストの個性がワールドワイドにアピールする日も、すぐ間近にあると確信する。杉田宏樹 (ライナーノーツより)
