
Chris OlleyとBlindfold
91年に結成されたイギリスはノッティンガムのバンド、SIX BY SEVEN。そのブレーンであるChris Olleyのソロ作品をまとめた日本独自編集盤『The Continuing Adventures Of Baron Munchausen By Proxy』が発売された。OTOTOYで特集記事を組んだ注目のkilk recordsからのリリース。ジャンルレスで独創性重視というレーベルの姿勢にとてもふさわしいアーティストだと思う。なぜなら、Chris Olleyが生み出すサウンドは、彼ならではのサイケデリック感覚と美しさに満ちており、ラウドなロックからドリーミィなシューゲイザー的轟音、シンガー・ソングライター然としたささやかな小曲まで実に幅広いからだ。初となる今回の日本盤も多彩な楽曲が収められ、そのセンスがあらためて窺える充実作となっている。リリースの経緯とアルバムの内容について、Chrisに聞いた。
なお、kilk recordsからは同発でアイスランド出身の5人組、Blindfoldのセカンド・アルバム『Faking Dreams』もリリース。彼らの夢見心地な美しきサウンド・スケープもぜひ合わせてチェックしてほしい。
インタビュー & 文 : 田山 雄士
Chris Olley / The Adventures Of Baron Munchausen By Proxy
『The Blackest Soul EP』『East Of Edale EP』『A Streetcar Named Disaster』の3枚から収録され、日本では先ずお目に掛れないレアなトラックも含めた珠玉の選曲はクリス自らセレクト。キャリアを振り返る事が出来る上に、彼自身も納得の作品であることは間違いない。粒ぞろいの名曲が並んだベスト的な内容としても楽しめる。ノイジーなギター・サウンドに、心動かすポップなメロディ。全盛期のSIX BY SEVENより好きだ! という人が沢山いても可笑しくない素晴らしい仕上がりになっている。
Blindfold / Faking Dreams
各国メディアがこぞって大絶賛する、アイスランド出身、Blindfoldの2ndアルバムは白昼夢のような感動の作品。Sigur RosやKyteに通ずる幽玄なサウンド・スケープ、RadioheadやColdplayを彷彿とさせる美しくもメランコリックなメロディ。柔らかくも広がりをみせるシンセの上をチェロの音色が舞い、伸びやかな高音ヴォーカルが重なる前には、最早驚く暇もなく目を閉じて、うっとりさせられるであろう。
INTERVIEW
——日本独自編集盤『The Continuing Adventures Of Baron Munchausen By Proxy』は、『The Blackest Soul EP』『East Of Edale EP』『A Streetcar Named Disaster』の3作品をまとめたものになりますが、そうした形態でリリースする理由を教えて下さい。
Chris Olley(以下C) : kilk recordsから「日本のリスナーのために、過去の作品から全てを伝え切れるようなアルバムにするアイデアはないだろうか? 」という提案があり、そこからこの形態を思いついたんだ。
——選曲はどのようにして決められたのでしょうか?
C : kilk recordsにも意見を聞きつつ、最終的には僕がそれぞれの過去作から自信のある楽曲を選んで決めたんだ。とてもいい選曲になったと思ってるよ。あと、アルバムのタイトルは言葉遊び的な感じのものにした。ユーモラスなのが好きなんだよね。

——ジャケット写真は、SIX BY SEVENのファースト・アルバム『The Things We Make』(98年)を想起させますね。
C : うん。あと、これってJoy Divisionの「Unknown Pleasures」を彷彿とさせるでしょ? 実は過去に何かでもらった日本のポストカードから得たアイディアなんだよ。それに遊び心でラインを加えたりしてみたというわけさ。
——世界的に盛り上がりを見せていますが、特に日本ではこの数年、シューゲイザーのリバイバル傾向があります。そのような状況に関してどう思われますか? 「Way Up High」や「Everything Must Take It's Course」は、最近シューゲイザーを知ったようなファンにも届くサイケでキャッチーな楽曲だと思います。
C : その通りだね。そういえばこのシューゲイザーのリバイバルを「newgaze(ニューゲイズ)」って言うんだってね! シューゲイザーという枠で捉えてもらってもいいし、全然悪い気はしないよ。
——最近お気に入りのミュージシャンやバンド、作品などがあれば教えて下さい。
C : 今凄く惹かれてるのが、Underworldの『Barking』だね。
シンプルなギターのみでの曲を書いてみようと思ったんだ
——このアルバムはこれまでの活動の集大成という感じがします。サイケデリックでダークなものもあれば、シューゲイザーの轟音もありますし、シンプルなサウンド・プロダクションが活きた「Who Cares About Tomorrow Anyway」には、Elliott Smithのような叙情を感じもしました。今のタイミングで、自分の中にあるものを一度すべて出し切りたいような思いがあったのでしょうか?
C : そうでもないかな。僕は常にそのときにベストである曲を作るし、そうあり続けたいと願ってるよ。あ、でも確かにElliott Smithみたいな曲は作りたいとは思ったけどね!

——さまざまなタイプの楽曲がありますが、ギター・サウンドに対してこだわっていることはどんなことですか?
C : サウンドのこだわりとはちょっと違うかもしれないけど、ギター・トラックを重ねて音を作るのが好みだね。RickenbackerとVOXのAC30を愛用していて、アコースティックのmartinも使ってるよ。あとはTech 21のLiverpoolのペダルを頻繁に使用してるけど、基本的にエフェクトはそんなに使わないかな。
——『A Streetcar Named Disaster』の楽曲はフォーク寄りのものが多く、バンド時代には見られなかった新たな魅力が感じられます。こういった作品はあまり凝り固まらずに出来上がるものなのでしょうか?
C : SIX BY SEVENを去ってから、僕はバンドにはなかったシンプルなギターのみでの曲を書いてみようと思ったんだ。そうするとちょっとフォークっぽくなるよね。そういうものが最近すごく心地いい。曲作りの時間に関しては、物凄く時間がかかるときもあれば、すぐ出来ちゃうときもある。曲次第かな。
——SIX BY SEVENとソロ作品の違いを挙げるとすればどんなところになるのでしょうか?
C : うーん。僕は自分が作る作品においては常に妥協してはいけなかった。バンドの曲でも、実はバンド全体でのレコーディングで出来た作品はなくて、全部の楽器を僕が演奏してたんだ。SIX BY SEVENにしても僕の曲にしても、いつも僕の音の要素を聴いてもらえるはずだよ。
——SIX BY SEVENから数えればもう約20年の活動歴になりますが、最近の状況について、そして今後の活動について何か展望があれば聞かせて下さい。バンドの動きも何か予定があれば、知りたいです。
C : バンドを再開したいなとも思うんだけど、なかなかね... (苦笑)。ひとまず、今は日本のリスナーにこのアルバムを聴いて楽しんでもらいたいな。
PROFILE
Chris Olley
今や伝説的なUKサイケデリック・ロックバンド、SIX BY SEVENのギター・ヴォーカルでありフロント・マン。98年、“ロック史上最も優れたデビューシングル”とも評されたシングル、「European Me」でSIX BY SEVENはデビュー。その後もバンドの中心人物として、数々の名作を世に送り続けてきた。2005年に惜しまれつつもバンドは解散。浮遊感のあるサウンドに、ノイジーなギターが絡んだ独自のサウンドは、今でも熱烈なファンが多く存在している。2009年には「A Streetcar Named Disaster」でソロ・デビュー。SIX BY SEVENのサウンドを受け継ぎつつも、さらに洗練されたメロディーに、英国メディアからは賞賛の声が上がっている。
Blindfold
夢と現実のはざまを歩いているような独特のサウンドを奏でる、アイスランド在住の五人組バンド。人の心を掴んで放さない魅力的な声のヴォーカル、感情の波のように揺らめくギター、そしてメランコリックで美しい楽曲の数々。Sigur Ros、Radiohead、kyteのような、美しくも独創的な世界観。彼らが巨大な存在になる日も、そう遠くはないのかもしれない。
Kilk recordsのバンド達
精力的なライブ活動で高い支持を集めている、5人組インストゥルメンタル・バンドのデビュー作。作品全体から放たれる、優しくも熱い、ギラギラとしたサウンド。それはまるで、宇宙に浮かぶ太陽からの贈り物のようにすら感じられる。サイケデリックな精神世界、ポスト・ロックの緻密さや美しさ、ジャム・バンドのような解放感、それら全てが絶妙なバランスで溶け合った快作!
飽和状態のオルタナティブ・ロック、ポスト・ロックやエレクトロニカ・シーンに一石を投じる、オリジナリティ溢れるネクスト・サウンド! ロック、エレクトロ、クラシカル、ミニマル、プログレ、サイケや民族音楽などを通過した楽曲は、驚くほどポップな感触ですんなり聞き手へと浸透していくことだろう。日本語詞を独特な響きで歌い上げるイノセントなヴォーカル。ギター、ピアノ、ビブラフォンやフルートなどの生楽器とエレクトロニクスが織り成す絶妙なアンサンブル。グルーヴィーでありながら、時に攻撃的なドラムとベース。現実のような夢、夢のような現実。見覚えのある未知なる地、記憶から消されたゆかりの地「Imaginary Truth」。
OTOTOY Kilk records特集 https://ototoy.jp/feature/20110121
Kilk records official HP http://kilk.jp/