このアルバムがすごい!ーー13年の時を経て、作曲家・一ノ瀬響の原点にして唯一無二の傑作1stアルバムが新装ハイレゾ・リリース

2002年、半野喜弘主催のレーベル"current"からリリースされ、高い評価を受けつつも長らく廃盤だった幻のエレクトロニカの名作『よろこびの機械』が、オリジナル・リリース時の録音素材により作られた新曲「Angelic overflow」を加え、全編リマスタリング。現代音楽作曲家・一ノ瀬響にとって原点とも言える本作がハイレゾで新たな息吹をふきこまれ蘇る。また、美術家・小阪淳による24ページにわたる豪華ビジュアル・ブック・ジャケットも同梱。音楽とビジュアルのコラボレーションによって立体的に浮かび上がってくる本作について、一ノ瀬響にロング・インタヴューで迫る。13年前に生まれたとは思えない先鋭的で実験的な本作に耳を傾けてほしい。


一ノ瀬響 / よろこびの機械 2015(24bit/48kHz)

【配信形態】WAV / ALAC / FLAC / AAC

【配信価格】 単曲 250円 / まとめ価格 2,800円(小阪淳による24ページにわたるビジュアルWebブックレット付き)

収録曲 :
1. Engine#1
2. Planetarium
3. Engine#2
4. Blue grains
5. Engine#3
6. Installation
7. Engine#4
8. Difference mind
9. The Machineries of Joy
10. Angelic overflow

まとめ購入のお客さまには、美術家・小阪淳による24ページにわたるビジュアルWebブックレットが同梱でついてきます。

INTERVIEW : 一ノ瀬響

ソロとしての音源をはじめ、数多くのCMや映画のサントラ制作ほか、多彩な活動遍歴を挙げれば切りがない作曲家の一ノ瀬響。そんな彼の記念すべきファースト・アルバム『よろこびの機械』が13年の時を経て新装リリースされる。その崇高さ、鋭い芸術性について、著名人やアーティストが熱の籠ったコメントを寄せているとおり(※特設サイトに掲載)、今なお時代を超えて聴き継がれる強度のある一作だと思う。と同時に、“この映画がすごい!”“このマンガがすごい!”みたいな気軽さで、“このアルバムがすごい!”と誰かに教えたくなったりもする。

新曲「Angelic overflow」を追加し、全編リマスタリング。さらに、美術家の小阪淳によるアートワーク、曲ごとに描き下ろしグラフィックを収めたビジュアルブック仕様で生まれ変わった『よろこびの機械 2015』。しかも、OTOTOYではこのアップデートしたすばらしい音世界がハイレゾで配信されるので、ぜひともゲットしてほしい! 音を聴いて納得できるタイトルを冠した名盤について、一ノ瀬にあらためて話を聞いた。

インタヴュー & 文 : 田山雄士

もう一度出す価値があるのかどうか、あらためて客観的に聴き直してみた

ーー『よろこびの機械 2015』は、ハイレゾで聴いてほしい作品ですね。

一ノ瀬響(以下、一ノ瀬) : そうですね。こういった高音質で配信するのは、今回が初めてになりますし。

ーーじっくり1時間ぐらいこのアルバムを聴くのは、すごく豊かな行為なんじゃないかなって思うんですよ。

一ノ瀬 : 僕のイメージとしては、音楽をじっくり聴くこと、自分と音楽が向き合うみたいなことは、読書に近いと思ってるんです。気に入った本を腰を落ち着けて読む体験と同じような。たとえば、イヤフォンでジョギングしながらとか、通勤途中にほかのいろんな情報を摂取しながらとか、そういう聴き方とはまた別の。そのためだけの時間があっていいんじゃないかなと。

ーー確かに、向き合いたくなる一作でしたね。だから、フォーマットがまさに本。ビジュアルブックが付いた仕様なのも、すごくしっくりきました。では、今回の新装リリースの経緯を訊かせてもらえますか?

一ノ瀬 : えーっと。2012年ぐらいにNovel Sounds代表の増井(真太)さんと出会ったんですね、知り合いづてに紹介されて。そのときに“『よろこびの機械』がほぼ廃盤状態になってしまってるので、ノベルから新装版で出したい”とお話をいただいたんです。でも、僕としてはあまり自分の音源って聴き返さないし、もう10年も前のアルバムだったし、もう一度出す価値があるのかどうか、あらためてリスナーの気分で客観的に聴き直してみたんですよ。過去に書いたラブレターじゃないですが、すごく恥ずかしい思いをするかもしれないと覚悟しながら(笑)。ただ、意外にも時代の経過が悪く作用しなかったというか。自分で言うのもアレですけど、けっこういいかもしれないなと。それで、「ではぜひご一緒しましょう」と答えました。

『よろこびの機械 2015』に同梱されるビジュアルブックより

ーーオリジナルは2002年リリースだけど、正直いつ作られたかわからないような音楽ですよね。まったく古く感じないし、むしろ新しく感じるところもあるはずなので、今の若い人にも聴いてもらいたいです。

一ノ瀬 : うれしいです。どういう音が流行ってるとかを意識して作らなかったのが、かえってよかったのかもしれないですね。

ーー『よろこびの機械』という目を引くタイトルも、流行とはどこか別の場所を思わせます。これは短編小説からのものですよね?

一ノ瀬 : はい、レイ・ブラッドベリの。要するに、宇宙開発の時代を迎えて、宇宙や神秘の領域が開拓されていくとき、4人の神父たちがどう対応したらいいのか悩むんです。そういうお話なんですよ。宇宙旅行の是非を宗教的にどう考えるかという。で、「どこかでウィリアム・ブレイクが“よろこびの機械”っていうようなことを言ってたんではないでしょうか?」みたいに司祭が話す場面があったりする。でも、小説のストーリーをなぞってるわけではなくて。まぁ、言葉のイメージに惹かれた部分も大きいですよね。“よろこび”って人間の感情とかに結びつくイメージの言葉ですけど、それと相反するワードが“機械”。その両方の要素がこのアルバムにはありますね。

ーーその“悩む”っていうニュアンスは、聴いてて伝わってきました。もちろん、穏やかな音の集まりも感じるんですけど、一方でそうした要素があるというのは、展開の起伏なんかから見ても。

一ノ瀬 : ありえないような展開があったりしますもんね(笑)。曲の脈絡、時間の経過を自分の中でどれだけ驚きをもって感じられるかみたいに作ってた気がします。その途中で小説の名前を掴んだ形で。それを掴むと、またそこからのフィードバックがある。僕、言葉がすごく気になる人間で、小説に限らず言葉のことはよく考えてるんです。曲のタイトルになってる言葉と音楽とのイメージをかなり考えて作ってるので、タイトルは重要だったりしますね。これもサウンドができていく過程で、何か言葉を掴まえる感覚。そして、また言葉からのフィードバックがあって。そういう作り方が多いですね。

日常と結びつかないような音なのかもしれない

ーーあらためて作品を見つめ直す機会にもなったと思うんですが、年月が経ってみて『よろこびの機械』はどんなアルバムだと感じますか?

一ノ瀬 : もうね、自由というか、意味不明というか。どうしてこういうふうになるんだろうと。曲の展開や組み合わせにしろ、最近の自分の作品と比べても、意味不明度がかなり高い(笑)。最初のアルバムならではの奔放さっていうんですかね。なんでこの場面のあとにこんな音が来るんだろうとか。

ーー「Blue grains」とか、すごいですね。

一ノ瀬 : まん中へんでドアの音がガシャガシャ鳴ってたりしますね。めまぐるしさやスピード感みたいなのも今まででいちばんあるかもしれない。予測不能なものを作りたかったし、自然とそうなっちゃったのもあります。「Installation」で、急に弦が入ってくるのも異質でスリリングですよね。当時の勢いが出てる。

ーー初めてのアルバムでしかもここまで密な内容なので、制作時間は相当かかってると思うんですが。

一ノ瀬 : かかってます。まず、最初に断片をたくさん録っていったんですね。断片のための譜面を書いて、生のヴァイオリン、チェロ、僕自身が弾くピアノ、あと高校生の女の子たちのコーラスをスタジオで録音して。素材が(最終的に)どうなるかわからないまま録ってる感じでした。本当にどれもこれも、何秒かしかない断片なんですよ。その素材をファイルで自宅に持ち帰って展開させていくわけですが、それを半年ぐらいやってましたね。ファイルのサウンドがどんなふうに変化したがってるのかを自分なりに考えて広げていくっていう。曲の設計としては、あまりないやり方じゃないかな。始まりの時点で、最終形がまったく見えてないので。

ーーファーストにしてその手法は大胆ですよね。となると、一人で悩む時間がめちゃくちゃあったんじゃないですか?

一ノ瀬 : これに関しては、本当にそうですね(笑)。ひたすら一人で悩んでました。もちろん元の演奏もすばらしくて、その素材が生で出てくる場面もごくわずかにあるんですよ。そこが逆にすごく色鮮やかに感じられるといいなと思ってまして、声だったりチェロだったり。チェロは徳澤(青弦)くんが弾いてくれてます。

ーー「Planetarium」のチェロもゾクっとしますし、やっぱり再生した瞬間から浸れるんですよね。オリジナルを発売したときのキャッチコピーが“遠く、はかない、機械と人の夢。新しい耳のための、9つの断章。”だったんですけど、まさに耳が自然と惹かれる音だなと思って。聴覚を気持ちよく包み込むような。

一ノ瀬 : ありがとうございます。自分としては、音楽そのものが1個の対象になって、聴き手と向き合ってる状況を常に想定してはいますね。作者はむしろ、背後に隠れてていい。演奏そのものではないわけですし、ライヴの再現でもない。音源が完成してる、そういう作品ですので。それが独立して、聴き手と1対1の関係を持てるような音楽がいいなと思ってるんですよ。

ーーなるほど。『よろこびの機械』は、“音源 対 リスナー”の形で向き合いやすい作品と言えそうですね。

一ノ瀬 : なんか一種の真剣勝負じゃないですけど、そんな感じ。

ーーですね。気付けば夢中になってて、わりとあっという間に感じるっていう。シンプルに聞こえるために意識されてることはありますか?

一ノ瀬 : トラック分けしてるビジュアルが見えないというか。オール・イズ・ワンじゃないですけど、全体が一つになってるイメージを持ってますね。たとえば、”リズム・トラック”とか”上モノ”とかそれぞれの役割を想定できない音のあり方は意識してます。実際はDAW上で細かくやってるんですが、一つに聞こえるように工夫して。

ーーそう、音がギュッと集まってる印象です。辛酸なめ子さんやヲノサトルさんは“宇宙”という言葉を使ってコメントを寄せてましたね。

一ノ瀬 : あー、そうですね! 期せずして、宇宙って。僕もびっくりしたんですけど、示し合わせたみたいに(笑)。もしかすると、日常と結びつかないような音なのかもしれないですね。

ーーさっき、ちょっと話に出た高校生の女の子たちのコーラス。タイトル曲「The Machineries of Joy」のあの会話なんかは、日常がよぎったりもしますけど。

一ノ瀬 : あっ、それはそうですね。距離の遠い近いが両方とも、1曲の中に表われるというか。

観察することの能動性みたいな、受け身ではない観察の行為ですよね

ーー「The Machineries of Joy」に出てくる、あの“せーの!”っていう部分。あれは何なんですか? あそここそ意味不明な、摩訶不思議さが際立ってるポイントですよね。

一ノ瀬 : 謎ですよね、本当にね(笑)。もう何年も前の作品なのでネタばらしをしてしまうと、コーラスをやってる女子高生たちに、譜面に書いたメロディやコードを歌ってもらうのとは別で、「当日までに好きな言葉を一つだけ考えてきてください。それをスタジオで全員一斉に話しましょう」ってお願いしたんですね。みんなで一斉に別の言葉を話すので、きっと何を言ってるかわからなくなって面白い音響になるだろうと思ったんです。で、録りましょうってときにタイミングを合わせるために、代表して一人の子が“せーの!”って言ってくれて。もちろん、そのあとでみんなが好きな言葉をしゃべるのを録ったんですが、結果的に使わず。

ーー当初の目的が変わってしまったというか。

一ノ瀬 : そうなんです! “せーの!”の方を使っちゃった(笑)。好きな言葉じゃなくてそこに至るまでの助走なんですけど、すごくいい音で録れて僕が気に入っちゃったんですよね。“せーの!”って言われると、期待しますよね? “絶対、なんか来る!”みたいな断片、いいなと思って。その前に出てくるみんなで雑談してるっぽい音も、本番前のブースでのガヤガヤをそっと録ってて、雰囲気がとてもよかったので。何語かわからないように加工しました。

ーーこの雑談が最もわかりやすかったんですけど、事象を俯瞰してる目線が全体的にある気がしたんですよね。女の子たちの会話を一歩引いて眺めてる人がいる感じ。

一ノ瀬 : 楽音もそうでないものも両方見てるというか、同じように聴いてみたらこうなる感じですね。本来なら雑談の部分なんてぜんぜん音楽とは見なせないですが、じつは地続きなのかもしれないなんて考えてて。どんな人でも何かを観察したり聞いたりする瞬間ってあるじゃないですか。観察することの能動性みたいな、受け身ではない観察の行為ですよね。何かを見たり聞いたりしてるんだけど、そのこと自体が何かを作り出してる。そんなつもりで作ってたのかもしれないです。

『よろこびの機械 2015』に同梱されるビジュアルブックより

ーー“機械”とタイトルにあるからなのか、キンと高い音がちりばめられてもいますよね?

一ノ瀬 : 高音域、出てますよね。じつは今回のリマスタリングにあたってそこを注目して、さらにハッキリと聴かせるようにしたんです。やっぱりリマスターする以上、前回とあまり変わらないのは面白くないなと。だから、オリジナル盤とはかなり違いますね。リマスタリング・エンジニアのZengyoさんも「2015年の音にしました」と言ってくれましたし、存在感がちゃんとあるブライトな音になってます。

ーー当時、オリジナルを買ってくれた人も『よろこびの機械 2015』と聴き比べて楽しんでほしいですね。ハイレゾ版もありますし、新曲の「Angelic overflow」も追加収録されてますから。

一ノ瀬 : そうですね。当時いちばん最初に録音した素材のデータが運よく残ってたんですよ。それを使って新しい曲を作ろうとしたんですけど、だいぶ時間が経ってるせいか、オリジナルと違和感のないものを作るのに苦労しましたね。結果、違和感があるのかないのかわからなくなりましたが(笑)。むしろ、仮にあったとしても、同じ素材で同じ人間がやってるわけだし、なんらかの関連性は自然と残るのかなと。最後には曲に集中して、馴染ませることもあまり考えずに作りました。「Angelic overflow」はすごく穏やかなドローン展開で、今の、2015年の自分らしいと思います。あ、新曲以外でも、このアルバムでは異なる曲同士に共通する素材がけっこう登場するんですよ。「Engine#1」と「The Machineries of Joy」も部分的にそうですし、よく聴いていくとそんな謎解きもできますね。

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PROFILE

一ノ瀬響

1972年、東京生まれ。東京芸術大学音楽学部作曲科卒業、同大学大学院音楽研究科修士課程修了。大学在学中より現代音楽の作曲家として活動をスタートさせる。2002年、独自の豊穣なエレクトロニクス・ミュージックにより、半野喜弘がA&Rを務めるCurrentレーベルより初のソロ・アルバム『よろこびの機械』をリリースする。以降、『Lontano』(cubicmusic, 2004年)、『Protoplasm』(starnetmuzik, 2007年)、『Earthrise 2064』(Plop / Mu-nest, 2011年)と合計4枚のソロ・アルバムを制作、UKの音楽雑誌”WIRE”の特集にて年間ベスト・アルバムの1枚に選ばれるなど、ヨーロッパをはじめとする海外から高い評価を受ける。またソロ活動以外にも数々の先鋭的なCM音楽の作曲やアーティストとのコラボレーション、インスタレーションのサウンド・プログラミングまで、常に音と音楽の境界を探るジャンル横断的活動を展開している。

一ノ瀬響 official HP

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インタヴュー

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筆者について
田山 雄士 (田山 雄士)

ライター/編集者です。

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