
suzumoku インタビュー
2010年に3作目のソロ・アルバム『素晴らしい世界』を発表して以降、suzumokuは実に精力的に活動している。作品のリリースも実にハイペースで、ライヴも頻繁に行なっているのだが、彼自身にとってはまったく特筆するようなことでもなく、ただ単に自然体で行動した結果が表われたものらしい。だからこそ、彼の気ままな活動スタイルはとても清々しいものであり、それはシンガー・ソングライターのあるべき姿なんだろうとも思う。
そんな彼が今年1月に発表した『ベランダの煙草』に続き、初のエレキ・ギターによる弾き語りアルバム『Ni』(ニッケル)をリリースした。これまで頑ななまでにアコ―スティック・ギターを持ち続けた彼が新たな一面を見せた本作には、心地よくさばけた空気感があって、ゆるやかなリラックス・ムードが漂っている。アグレッシヴに活動しつつ、こんなに素敵なアルバムを作れることからも、今のsuzumokuがいい状態にあることがわかるのではないだろうか。このコンセプチュアルな新作について、彼に話を聞いた。
インタビュー&文 : 田山雄士
初のエレキ弾き語り! 沖縄ひとり旅レコーディング作品
suzumoku / Ni
前作から6ヶ月、suzumokuの新作が完成。事前に何も決めずに沖縄のスタジオに泊まり込み、その場で思いつくままに作曲/レコーディングを敢行。これまでのアコースティック・ギターでの演奏スタイルから一転、初のエレキ・ギターでの弾き語り作品を収録。一日の始まりから終わりまでの物語に沿った楽曲が揃いました。
ストラトキャスターでジャーンって弾いてて「アリだなぁ」と思った
——『Ni』はコンセプト作と言える作品ですが、なぜこういうアルバムを作ろうと思ったんですか?
自分の原点は弾き語りですし、全曲弾き語りのアルバムを作りたい思いはずっとあったんです。去年の11月頃に初めて沖縄に行ったんですけど、ライヴをやりつつ、今回の『Ni』を録ったレコーディング・スタジオを見せてもらって。そこは寝泊りもできるようなところで、「ここで弾き語りのアルバムを録れたらいいなぁ」なんてぼんやり考えてはいましたね。

——それで実際にアルバムを制作することになったと。
最初の時点では、アコースティック・ギターでのんびりというのが頭にあったんですけどね(笑)。ま、レコーディングにあたって特にこうしなきゃっていうのはほとんど考えずに沖縄へ行って、向こうに着いてから何録ろうかなって。そこでエレキ・ギターというアイディアが浮かびました。そもそもエレキは専門学校時代に作ってて、アコギよりもエレキの方がたくさん作ってたんですよ。
——そうか、suzumokuさんはギター制作の専門学校に通っていて、ギター工場にも就職されていたんですもんね。
そうなんです。だから、エレキとまったく縁がなかったわけでもなくて。ただ、弾き語りにおいてはアコギっていう頭がありましたね。アコギはやっぱりパッと持ってその場ですぐできる機能性があるので。でも、東京に出てきて仲間のライヴを観たりしていくうちに、ふとエレキを持ってもいいのかなって。自分の音楽を作る上でエレキという存在が自然に膨らんできました。おおはた雄一さんのライヴを初めて観たときも、アコギのイメージがすごくあったんですけど、ストラトキャスターでジャーンって弾いてて「アリだなぁ」と思ったりもして。
——suzumokuとしてのライヴでは、エレキで演奏されたことはないですか?
ずっとアコギです。
——それでも、自分の部屋にエレキがポンと置いてあったりもしたわけですよね?
いや、エレキはずっと持ってなかったんです。作ったものはずっと実家にしまいっぱなしで。でも、今回こういうアルバムを作ったことですし、ついにエレキを買いました!
——ちなみにどんなギターを買われたんですか?
非常にマニアックなんですけど、ギブソンのヴィンテージものです。ES-335ってあるじゃないですか。あの形をしてるんですが、仕様は全然違う。型番的にはES-320という変なやつですね。いろいろ楽器屋を回って散々悩んだ結果、一目惚れに近い感じで購入しました。

——これからライヴでも使っていくんですね。
実はついこの前、イベントで初めて使ったんですよ! 7月16日のap bankでまず弾き語りでやって、17日の富山のSummer Voice Carnivalではバンドでガンガン歪ませてやりました(笑)。もうソワソワしましたね、大丈夫かなって。でも、いざ始まると気分がだんだんノッてくるんですよね。
沖縄は空も広いし、人が慌てないで自分のペースで生きてる
——エレキ購入前のレコーディングの話に戻りますが、沖縄に行ってからの作業はどういう風にスタートしたんですか?
沖縄のスタジオにエレキが5本くらい置いてあって、なんとなく試しにテレキャスで「ガタゴト」を録ったんですよ。そしたら意外と面白くて、エレキを弾き語りでやっても十分味が出るんだなと感じました。気付けば全部エレキで録ってたという(笑)。
——現場でのインスピレーションなんですね。ほぼノープランな中、事前に決めていたことって強いて言うなら何かありますか?
「セスナの空」を入れようっていうことくらいですかね。『プロペラ』に収録されてるのは実は元のヴァージョンじゃなくて、今回のゆったり弾いてるのがオリジナルなんですよ。『プロペラ』のときのは軽快なアレンジになってるんですけど、もともとのやつも好きだからどこかで入れたいなと。あとは今までに作って発表してない曲もけっこうあったので、そういったものを新曲としていくつか録れたらいいなと思ってました。
——アルバムの前半はもともとあった曲の別ヴァージョンが続いていますね。
曲順をあとから考えてこうなりました。朝の曲で始まって、昼、夕方、夜の並びにしたら面白いなって途中で思い付いたんですけど、並べたら夕方が全部新曲でした(笑)。僕は夕方の曲がわりと多いかもしれないですね。
——沖縄レコーディングはいつ頃やられていたんですか?
5月の頭に10日間くらいでやりました。マイペースでありながら、わりとサクサク進みましたね。古座のスタジオなんですけど、キッチンやリビングもあるところで。スタジオとホテルを行ったり来たりじゃなくて、ずっとスタジオでのんびり作業することができました。

——『Ni』はこれまでのアルバムの中で、最もパーソナルな1枚だと思いました。
そうですね、本当に自然な感じ。自然といってもオーガニックとかじゃなくて、僕の素なんですよね(笑)。それがすごく出たなって。全然意図して出来上がったわけではなく、偶然が重なってのものです。
——沖縄レコーディングのせいか、アルバムの前半を聴いているとどこか夏っぽさがあるんですが、途中から季節が変わっていくのがわかる。その徐々に気付いていける感じも面白いなって。
そうなんですよね。リリースしたばかりの今のタイミングで聴くと、夏のアルバムっていうイメージが僕もすごくありました。かといって全部が夏をイメージした曲なのかといえばそうではなくて、秋口もあるし、「如月」は2月ですからね。だから、秋や冬に聴いても馴染めるような一枚になったんじゃないかなと思います。
——「ガタゴト」や「ホープ」は都会の風景を歌った曲ですけど、このアルバムの落ち着いた雰囲気にうまく溶け込んでいますね。
沖縄の空気感がうまく入りましたよね。沖縄は都会に比べて全然ゴミゴミしてないし、空も広いし、人が慌てないで自分のペースで生きてる気がしました。そういうのもあって、とてもマイペースにできたんだろうなと。
——以前発表した「モダンタイムス」という曲は現代社会へのアンチ・テーゼだったりしたじゃないですか。でも、今作ではそういう部分とは別の側面が前に出ていますよね。あの強烈な路線もとても好きですけど(笑)。
あははは。「モダンタイムス」は新宿とか渋谷とか原宿とかを歩けば出てくる感情ですかね。結局はそのときの気分で、曲の雰囲気はいくらでも変わりますよね。たとえば、「ガタゴト」みたいな世界観だって「モダンタイムス」っぽくしようとしたらできると思うんですよ。その曲を作るときにどういう気分であるかが大事です。同じ電車の曲でも、「ガタゴト」はたぶんウキウキした感じで作って、「夕焼け特急」はちょっと切ない気分が出てます。

——suzumokuさんの歌詞って、目線がリアルに伝わってきます。たとえば、電車の中で見ている風景にしてもわかりやすいですよね。見落としがちな風景を掬い取って歌っているというか。
そうですね。そういう目線って、自分の趣味がカメラであることも影響してるのかなと思います。人よりかは風景に魅力を感じて、そっちを撮る方が多いので。
——風景が最も印象的だった曲は釣りに行く男を描いた「ラムネノーツ」ですね。アルバムの雰囲気を一番よく表わしている曲でもあると思います。
生産性のない曲で、ダラ~っとしてますよね(笑)。ま、仕事してるのかなっていうこの主人公は僕なんですけどね。僕は実家が静岡で、わりと近場に港があるんです。釣りが好きなので、実家に帰るとよく行くんですよ。
——へぇぇ、けっこう昔からやっているんですか?
はい。そもそも親父が釣り好きで、いっしょに行ってるうちに好きになっちゃいました。釣りに行くときは「よし、今日は○○を絶対に釣るぞ!」っていう感じじゃないんですよ。行く途中にコンビニに寄ってビールかチューハイを買って、適当に仕掛けをして、ポチョンって釣竿下ろしてボーっとしてます(笑)。そうしながら空をぼんやり眺めるのが好きで、そうやってるといろいろ考えるわけです。まずは身近な「何釣れるかな?」から始まって、「もし釣れたら、今日の晩メシは…」とか、「明日の予定は○○があって」とか。そんな風に考えが分岐していく中で、気付いたら前の失恋のことだったり、宇宙のことを考えてたりするんですよね。行くところまで行ったところでハッて我に返って竿を上げると、ぐったりした魚が1匹釣れてたりして(笑)。
——面白いですねぇ(笑)。「衣替え」というタイトルの曲がラブ・ソングなのも独特だなって。
「衣替え」はパートナーがいないときに作った曲なんですよ。そしたら、猛烈に恋愛がしたくなってきたりしてね(笑)。けっこう理想というか、こういう気持ちで付き合えたらみたいな世界観です。歌詞は現実と想像を混ぜたりもしますね。風景的にはいつも自分が歩き慣れた道を出してるんですけど、どう思いながら歩くのかは想像の域で。

——あと、新たな試みでは今回ループ・マシーンを使用されているんですよね?
エレキ以外でも何か面白いことができればと思いまして、たとえば「ガタゴト」ではストロークのリズムを入れてみたり、「ホープ」ではライターをチャッチャッってやってみたりしてます。ちょっとしたエッセンスですね。
「僕らは人間だ」は、いつか歌う必要がなくなってほしい
——音質面についてもお伺いしたいのですが、ご自身でも「live szmk」というサイトで高音質のライヴ音源を配信されているsuzumokuさんは、配信やその音質についてはどんな考えを持っていますか?
ライヴ音源にはそのときにしかない空気や感情が入ってると思うんですよね。でも、ライヴ映像をYouTubeで見ても、あまりに音が悪くてそれが伝わらないじゃないですか。だったら、音が高音質であればいいのかなって。人間は想像できる生きものですから、音が鮮明であれば、聴きながら自分なりの想像を膨らませられるはずなんですよ。すべてのライヴをCD化するのはまた違うし、そういう意味で配信はいいツールですよね。ただ、オリジナルの作品に関しては、配信以外にCDでも出したい気持ちがあります。ジャケットのデザインとかに自分らしさがより入れられますしね。
——今回のアルバムにおいて、音質面でこだわったことなどがあれば教えて下さい。
生っぽさというか、すぐそばで歌ってる感じを出したくて。ステレオだけど、かなりモノラルに近い音質なんですよ。変にステレオでLRに振るよりかは、真ん中に軸を置いてそういうニュアンスを出すようにしました。あとはギターと声の絡み具合がちょうどよくなるように、弾きながら歌ったものを録音してます。
——8月から始まるエレキの弾き語りツアーはどんな内容にしたいですか?
エレキがありつつ、アコギも挟んでやっていきたいですね。お客さんには2つの音をじっくり比べて聴いてもらえたらと思います。そうすることで楽曲の捉え方や感じ方も変わるだろうし、新曲含めてその違いも楽しんでほしいなと。まだまだ弾き方がアコギとほぼいっしょなので、エレキらしい弾き方を覚えて、ツアーを通じてエレキの感触をもっと自分に馴染ませたいです。
——最後に、震災についての話も聞かせて下さい。地震が起こったときはツアーの移動中だったんでしたっけ?
そうです。3月11日にワンマン・ツアーで仙台公演の予定があって、ライヴハウスに向かう途中の高速道路を走ってるときでした。事の重大さがわかったのは、仙台になんとか辿り着いて高速を降りたときですね。結局その日は泊まる予定のホテルに行って、ロビーで過ごしました。で、次の日は市役所に避難して、夜になって現地のスタッフの方が車を出してくれたんです。ツアーの行程としては続けて富山・金沢があったからそっちに向かうことになりました。
——そのあと、今YouTubeにアップされているチャリティ・ソングの「僕らは人間だ」を作るんですね。
富山に移動する車中で作り始めました。結局、ホテルでも市役所でもずっと受け身状態だったんですよね。何もできることがなかった。そこで歌なんか歌っても腹はいっぱいにならないし、そんな雰囲気でもないっていう。ずっと何かをしたいんだけどすることがなくて、すごくムズムズしてたんですよ。音楽を続けるか辞めるかの葛藤もありました。規模こそ違いますが、それって僕がギター工場を辞めてミュージシャンになろうと思ったときの葛藤とけっこう似た感じで…。でも、やっぱり曲を作りたくなったんですよね。そういう気持ちになれたときに歌詞が一気に出てきて、歌詞は車中で仕上げました。不思議なもので、車中の段階である程度メロディも頭に浮かんでたんです。ショックな出来事があった反動で、自分の中でそれだけエネルギーが生まれたというか。おかげで13日の明け方に富山のホテルに着いて、メロディも早く出来上がりました。それで近くにあったスタジオで取り急ぎiPhoneで録って、すぐにアップしたんです。僕ができることってこういうことなのかなと信じて。
——「僕らは人間だ」はその当時に聴いても今聴いても、とても胸に響く楽曲です。
そこに関しては、僕じゃなくて聴いた人たちが判断してくれればいいですかね。極論を言えば、いつか歌う必要がなくなってほしい。今後、復旧・復興が進んでいって爪痕もなくなったときに、「僕らは人間だ」に代わる1曲ができてればいいのかなって思います。
suzumoku WORKS
弾語りワンマンライブツアー『aim into the sun 〜nickel wound〜』
2011年8月2日(火)@仙台 SENDAI KOFFE CO.
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年8月3日(水)@仙台 SENDAI KOFFE CO.
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年8月9日(火)@名古屋 TOKUZO
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年8月10日(水)@大阪 digmeout ART&DINER
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年8月11日(木)@博多 Gate's 7
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年8月17日(水)@代々木上原 MUSICASA
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年8月18日(木)@代々木上原 MUSICASA
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年8月31日(水)@富山 総曲輪かふぇ
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年9月4日(日)@広島 LIVE café Jive
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年9月6日(火)@岡山 MO:GLA
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年9月8日(木)@京都 SOLE CAFE
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年9月10日(土)@豊橋 HOUSE OF CRAZY
OPEN 19:00 / START 19:30
2011年9月11日(土)@静岡 UHU
OPEN 19:00 / START 19:30
料金 : 全公演 前売3,500円 当日4,000円(共にドリンク別)
PROFILE
中学2年でギターを持ち、同時に作詞・作曲も始め、地元静岡のストリートで歌い始める。様々なジャンルの音楽を聴き漁り、音楽性を模索する日々。高校卒業後、楽器製作の専門学校に入学し、ギターやベースの製作に明け暮れる。音楽は完全に趣味にしようと決め、岐阜にある国産手工ギター工場に就職。音楽活動を一旦休止するも再開。ギター職人の道とミュージシャンの道、どちらが本当に進むべき道なのか真剣に考え、06 年夏、プロミュージシャンになることを決意。07年1 月に上京し、10月にアルバム『コンセント』でデビュー。都内を中心にライブ活動を続ける中、08 年からインスト・ジャズバンド“PE'Z”との合体ユニットpe'zmoku を結成。ギター&ヴォーカル担当として大抜擢。多くの経験を積み重ね、2010年ソロ活動を本格的に始動。アルバム『素晴らしい世界』、シングル『アイス缶珈琲』、『ホープ』『フォーカス』と積極的に発表。2011年1月にリリースしたアルバム『ベランダの煙草』はブルース色やフォーク色を強め、“陰”と“陽”のベクトルの異なる2つの要素が表現されsuzumokuの完成系と支持を得ている。音楽と文筆における感性、一貫したメッセージ性には定評がある。