Open Reel Ensemble
全く新しい音楽が生まれる瞬間を目撃した。
5月13日、渋谷WWWで行われたOpen Reel Ensembleのライブを見た観客は、誰もがそう感じたことだろう。ステージ上にオープンリール・デッキが4台並び、回転するその光景は、Kraftwerkの4人がPCを前に直立不動で音楽を奏でるあのスタイルを髣髴させ、一体これから何の儀式が始まるのかと好奇心をそそられる。そして、旧世代の録音機であるオープンリールを使って、その場でサンプリングし、再生される音はテープ特有の柔らかい音をもちつつ、かつて体験したことのない不思議な響きで聴覚を刺激する。パフォーマンス、音楽性、スタイル... どこを切り取っても全く新しいこのバンドは、既にバルセロナで開催されるSonar 2011に出演することも決定している。そして、今回なんとOTOTOYから初の音源が先行配信される。2011年、音楽の新たな可能性を切り開きながら進むOpen Reel Ensembleのリーダーである和田永。彼が頭の中で描くその風景をのぞいてみることにした。
(インタビュー&文 : 池田 義文)
Open Reel Ensemble / Tape to Tape
オープンリール・デッキを用いた脅威のサウンド・アプローチと、精密且つ大胆なステージングで大喝采を浴びたOpen Reel Ensemble。メディア・アートの世界でも新進気鋭のアーティスト集団として注目を集めている彼らの、記念すべき1st EP『Tape To Tape』がOTOTOYでHQD独占先行配信開始!
TRACK LIST
1. Taperologue / 磁力序幕
2. Recurrent Fever / 回帰転熱
3. 50μm Orchestra / 50ミクロンのオーケストラ
色々な好奇心が勝手に結びついちゃった感じですね
——まずはオープンリールとの出会いを教えてください。
放送局に勤めている知り合いのおじさんが、処分したいからといって僕にくれたのが最初です。小さい頃から機械や音の出るものが好きだったので、とりあえず頂きました。何台くらいだったかな? 結構な数でしたね。
——どのくらいですか?
五台くらい一気にもらいました。確か中学生の時。録音機だってことは解っていたんですけど、特に知識もなく、なんとなくオープンリールで遊んでいました。録音した音がすぐに再生できて、なおかつ古い音になっているというのが、ファンタジックでとても新鮮だったんですね。
——どのように使っていたのですか?
最初は声の録音です。物語みたいなものを朗読して、それを録音していました。だけれど、不具合が起きて段々調子が悪くなってきたんです。そんな時に、倒して軸が壊れて回らなくなってしまったんです。しかも、一番お気に入りのTEACのマシンを。それでも、何とか使いたかったので、手で回し始めたんです。クソー!! みたいな感じで(笑)。そしたら、録音した音が変な回転数で再生され、不思議な音が出たんです。「これはこの世のものではない、あの世からの音だ! 」と思いましたね(笑)。かなりの衝撃をうけたし、しびれました。その時にこの機械は異世界からの贈り物なんじゃないかって思ったんです。それ以降壊れたままでずっと遊んでいました。どうせ壊れちゃったんだから、もう何をしてもいいんだって思って、何台も並べてとにかく変な音を出して、一人で儀式のように家で遊んでいました。それを横目で見ていたのが今のOpen Reel Ensembleのメンバーなんです(笑)。
——メンバーの皆さんは幼馴染なんですか?
中高一緒です。だから、時々みんなが家に遊びに来たりしていました。そうすると、僕は何事もないようにオープンリールで遊び始めるわけですよ。でも、メンバーからするとよく解らない機械を並べて遊んでいる(笑)。そんな関係だから、大学に入ってオープンリールを使って演奏するユニットを組もうといったときも自然と受け入れてくれたんでしょうね。
——実際に今の形で活動するようになったのはいつ頃ですか?
結成は2009年です。オープンリールって音と動きが連動していて、音が回転に置き換わっているということに気づいたんです。なので「回転」に焦点を当てて、オープンリールを改造して勝手に動いたり、iPhoneを使ったりして動かせるようにしたんです。それで、リールを並べるのか、円を描くのか、ひざの上におくのか。それを考える事から始まって、実際に音楽を作り始めて、未だに表現をずっと追求しつづけています。今も発展途上なんです。
——実際にやろうと思っても、それを楽器として形にするまでは相当大変だったと思うんですが。
そうですね。普通に考えたら頭おかしいんですよ(笑)。録音機ですからね。でも、苦労を超えてでも、どうしてもやりたいんですね。やりたいことが頭に浮かんでしまうと、なんとしてでもやらなくては気がすまないんです。そこに理由はないですね。
——アイデアが思いついたときに、完成形のイメージはあるんですか?
なんとなくあります。でもそれは幻のような感じで、見えているような見えていないような、響きのような風景のようなものですね。だから、僕は自分の演奏している姿を見るのが嫌なんです(笑)。本来は景色なので、イメージと違うというか… 。
——(笑)。そのイメージを少しづつ形にしていくんですね。
僕にとって形にすることは物語を書いていくことに近いんです。例えば、とあるところでオープンリールという昔の機械が拾われて、よく使い方の解っていない人たちがそれをいじり始めて、それを触っていくうちに段々音楽になっていく。場所は森なのか、未来のどこかの街なのか。そうやって場所のイメージが変わると、そのたびに聞こえてくる音楽が変わるんです。
——現時点でのOpen Reel Ensembleに関しては形になってきている実感はありますか?
ようやく見えてきたんですけど、ライヴが終わると全部を否定したくなるんですよね(笑)。
——なぜですか!? (笑)
自分でもよくわかんないんですけど、次の新しいイメージが見えてきちゃって、早く次のことがしたくなっちゃうんです。一生終わらないって感じですね(笑)。
——そういう意味では、音源を作る作業は大変ですね。完成した瞬間に過去のものになってしまうわけですから。
多分ライヴ・パフォーマンスとしてのOpen Reel Ensembleと、音源を作るOpen Reel Ensembleでは全く別のプロジェクトになるでしょうね。ライヴの場合はオープンリールという楽器を並べてアンサンブルを作り、レコーディングの場合は、時間を操るプロジェクトになるでしょうね。ライヴ=ビジュアル、レコーディング=時間の操作ですね。
——時間の操作?
時間をずらしたものがトラックの中でアンサンブルを作り上げていく感じになると思います。例えばBPMが246のトラックをコンピュータで作るんです。それをテープに通して半分、つまりBPMが123の速度にする。その前提でコンピュータでトラックを作るということをやろうと思っています。後のことを全部計算してコンピュータで打ち込んで、テープで全部回転を変えてポリリズムを作るということですね。
コメディ映画を見ている感じで楽しんで欲しいです
——もともと音楽そのものよりも、複合的な芸術表現に興味があったのでしょうか?
もともと映画が好きで、そのセリフのときにその音がきて、その画がある。そういうのに僕自身がグッときちゃうんですよね。演劇でも、その動きの時に合った音がある。色々なものが重なり、音だけでは見えないものがパッと浮かんできたり、匂いが発生するみたいなことありますよね? それって僕は“倍音”だと思っているんです。なので、僕の場合は物語や映像的なものがあって、そこに乗っかる響きがあってメロディが紡がれていくんです。このバンドに関しては、オープンリールのような既に消えかかっているものを、僕らが発掘して音楽を作っているというところに面白さがあると思うんですよね。
——既にそこに物語がありますね。
そうなんです。そして僕らはそのストーリーから生まれてくる音楽を紡いでいくんです。だからヴィデオ・クリップも作りたくて、例えば地上50m上でオープンリールが回っているとか、超巨大なオープンリールだったり、とにかくありえないだろうってものを作りたいんです。
——Open Reel Ensembleのライヴを見たり、和田さんの話を聞いていると、"瞬間"や"偶然"というものをとても大事にしているように思います。そういう意味では"完成"は難しいと思うのですが、その点に関してどの様に考えていますか?
まさに今、それを模索している状態です。今は未完成をどんどん卵のように生み出している段階です。次は、それをどう磨いていくかということになると思います。僕は何でも「まずやってみる」という原動力で進んでいて、とにかく動いている内に色々と見えてくると思っています。完成の話だと、年末に音源を作ろうと思っていて、あとはそこに向かってどう今を積み重ねていくかということですね。今回の配信もその卵の一つです。
——始めてライヴを見たとき、まずステージにオープンリールが四つ並んでいる光景が衝撃的でした。
シンセでやれば似たような音を作れるんですけど、やっぱりあの音はテープでなくては出ないし、オープンリールを並べるというのは、シャーマンが失われた機械に生命を吹き込んで力を与えるみたいなイメージなんです。オープンリールって実は出来ることがとても少なくて、再生と録音だけなんです。その制約の中で何が出来るか考えるのが最初にあって、それを逆算していくんですね。それじゃ頭だしが間に合わない! みたいなことをいつも言っているバンドです(笑)。
——ライヴ中の和田さん本当に楽しそうですよね。
あれ本当に楽しいんですよ! ただ楽しくなりすぎて我を忘れてしまうんです(笑)。それであとでビデオをみて、気持ち悪い! 何こいつ! ちょっとイメージと違う! みたいな(笑)。リールが回っているので、見ていると自分の目も回ってきて、シャーマンみたいに何かが憑依してくるんですよね(笑)。それで周りがみえなくなってくるんです。最終的に違うところに行っちゃって、気づいたら後ろにお客さんがいたみたいな(笑)。体を動かしてその動きとリンクして音が変わるじゃないですか。やっぱり何かが憑依してトランスしちゃうんですよね。
——遊んでいる感じですもんね(笑)。
それが全てですね。それが無くなったら終わりですね。遊びたい気持ちが無くなったら、プロジェクトが終わっていくということでしょうね。でも、いつかそういう気持ちが失われていくという、ある種の開き直りがあるんです。その開き直りがあってやっています。
——使用しているオープンリールを改造していると聞いたのですが。
そうですね。実はあれ、配線を切っているんです。そうするとモーターが壊れた状態になって、ありえない速さで回るんです。今まで主にリサイクル・ショップでジャンク品といわれているものを購入して、それを直して使っていたんですけど、バック・アップ用に同じ機種をもう一台買ったんです。そしたら前のものと同じ動作をしなかったんです。よくよく調べたら前のものが壊れていて、そのためにとてつもない速さで回っていたんです。そういうものだと思って使っていたので、速く回らないと困るので修理に出したんです。いや、修理じゃないんですよね。壊してくださいって、メーカーさんにお願いしたんです(笑)。そしたら「それは暴走状態ですけどいいですか? 」って聞かれて、「そうですね。暴走しないとダメなんです。」ってお願いしました。それで壊せるスイッチをつけたんです(笑)。
——じゃあ、たまたま壊れていたから、今のOpen Reel Ensembleがあるんですね!
壊れていてくれて本当に感謝ですね(笑)。
——オープンリールに触れる前から音楽はやられていたのですか?
音楽的教育は受けていないですけど、楽器を弾いて遊んでいました。でも、特に音楽家になりたいとか何になりたいというのはなくて、今やりたいことをやっているというタイプなんです。だから思いついたことをやっています。ただ音に対するこだわりみたいのは一応あって、その音が好きというのは強烈にありますね。
——和田さんはOpen Reel Ensemble以外にも、Braun Tube Jazz Bandというのをやられていますよね。
ブラウン管を30個ぐらい使ったオーケストラです。7/24に渋谷WWWさんと共同でイベントをやろうと思っています。その日ちょうどアナログ放送が終わるので、そのタイミングに合わせて、最後の放送を30台のテレビで全員で鑑賞した後、ザーってノイズが出るじゃないですか。そのノイズから始まるコンサートをやる予定です。放送が始まった時ブラウン管のテレビをみんなで見ていたと思うんです。だから終わる時もみんなで見ようという。
——すごい… 。
でも終わるのが昼なので、昼公演と夜公演でやろうと思っています。ただ果たしてブラウン管が集まるのかと… (笑)。募集しています。お引取りいたしますので(笑)。
——そもそも楽器ではないものを楽器にするという観点が非常に面白いですよね。和田さんは、エンジニア、メディア・アート、工学、プログラマーと様々な観点が結びついていますね。
色々な好奇心が勝手に結びついちゃった感じですね(笑)。本当は取捨選択をしなくちゃいけないんだろうけど、今は混ざっていていいかなと思っています。僕自身は新しいものを作ろうという感覚はあまりなくて、自然にただ楽しいことをやっているだけなんです。だから、天然… ってよく言われるんですけど(笑)。メンバーも最初からオープンリールを楽器だと思っていたし… 。全て最初から間違っているんですね。でも、あらゆるものが音をだすからそこに境界線はないんですよ。
——最後に今後の予定を教えてください。
今年はヨーロッパ・ツアーに行ってきます。その後Sonarにも出演します。後は今回の配信でパンドラの箱を開いて、その箱からどんどん卵が生まれてくるのが年末の音源。それで、もっとさらに進化したものを生み出せたらと思っています。おそらくあらゆる人を巻き込んだ一代コントになると思います(笑)。古い捨てられた機械を使った一代コントですね。まだ今は前フリで、次にボケて、最後にまたボケ倒す。そして最後に解散して突っ込みって考えているので、皆さん長いコメディ映画を見ている感じで楽しんで欲しいです(笑)。
PROFILE
Open Reel Ensemble
和田永 ei wada Reel& Concept
佐藤公俊 Kimitoshi Sato Reel
吉田悠 Haruka Yoshida Reel & Percussion
難波卓己 Takumi Namba Reel & Violin
吉田匡 Masaru Yoshida Bass
Open Reel Ensembleはその名の通り、オープンリール・デッキを複数台使ってアンサンブルを構築し、Wifi機能をも搭載させるなど、アナログとデジタルの融合を追求し続ける音楽パフォーマンス集団。リーダーの和田永は第13回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞し、オーストリア、ドイツ、トルコ、韓国、スイス等でワールド・ワイドに活動中。メンバーの吉田悠は映像を用いて楽譜で表現しきれない音を可視化することを探求した作品「Experiment for Animated Graphic Score」がイメージ・フォーラム・フェスティバル2010にて優秀賞受賞。2010年バンクーバー国際映画祭でも上映。