
FUTURE TERROR主宰、DJ NOBUの最新DJ ミックス登場
ここ数年日本のアンダーグラウンド・パーティーが面白い。そこで流れるセールスにとらわれない自由で、快楽主義的な音楽は実験精神に溢れている。そして、DJ達は音楽の概念を少しでも広げようと、夜な夜なパーティーという名の実験を繰り返している。そんなパーティーの中でも、もっともハードコアで多くのパーティー・ピープルから絶対の信頼をおかれているイベントがDJ NOBUが地元千葉で主催するFUTURE TERRORだ。2001年のFUTURE TERROR開始以来、彼の情熱とグルーヴが作り出すサウンドの影響は徐々に各地に広がり、今では日本中を飛び回り年間100本近いプレイをこなすほど多忙なDJとなった。
今回、そんなDJ NOBUが万を辞してMIX CD『ON-Another Mix』をリリースする。Crue-L GrandOrchestraやALTZのリミックス、本人名義での12inchのリリース、さらにはドイツ・ベルリンでプレイするなど、大きな転機となった2010年を振り返ってもらいつつ、自由自在に、有機的にうねる彼のグルーヴについての秘密、そしてFUTURE TERRORに対する思いを聴いてみた。
インタビュー & 文 : 池田 義文
「自分的にはかっこいい、かっこわるい以前に、凄いを意識して作りました!」 — DJ NOBU
DJ NOBU / ON-Another Mix 価格 : ¥1,800(MP3 ver.) / ¥2,200(WAV ver.)
01. Freerotation - Reagenz
02. Voices No Bodies - T++
03. Let Go - Shackleton
04. Skin QER REMIX (reconstructed by DJ Nobu) - Moebius&Neumeier
05. Scylla - Dino Sabatini
06. Enjoyable Employable (Marcel Dettmann remix) - Glimpse
07. Fairies - Khixbrrr
08. Motive (Original Mix) - Marcel Dettmann
09. The Return Of Horst Jackson - Jens Zimmermann
10. Zap (Norman Nodge Remix) - Andre Lodemann
11. Silex (Original Mix) - Marcel Dettmann
12. Drawing (Original Mix) - Marcel Dettmann
13. Nearly (Originals) - Kevin Gorman
14. Now - Laric & Stefano Greppi
15. Untitled (SDSMP2-A) - Silent Servant
16. Perseus - Dino Sabatini
17. Untitled (GPH14-A) - Mike Parker
18. 3Tempo3 - Punto
19. Deep Blue Meanies - Juju & Jordash
20. Shibuya Days - Reagenz
(※このアルバムはまとめ購入のみになります。)
テクノをかけ始めてからの集大成
——今作ではPR用リリースシートに「自分的にはかっこいい、かっこわるい以前に凄いを意識して作りました!」とありますが、NOBUさんにとってその違いはどんな所にありますか?
DJ NOBU(以下N) : どういう違いなんですかね(笑)。口だとうまく説明できないです... 。このMIX CD『ON-Another Mix』を聞いてもらうのが一番いいんじゃないですかね(笑)。
——では、聞いてのお楽しみということで(笑)。ちなみにタイトルの意味は?
N : 色々な意味があるんですけど、使っている曲も含めて、俺の中では「ON!」っていう感じの曲なんですね。そこに行く瞬間という意味ですね。スイッチが入っていますってことです。
——今回のMIXは現場のノリを重視したのか、それともまた別ものとして作成したのでしょうか?
N : 現場のノリもありつつ、今の自分を表している感じ。現場で吸い上げたものを、いい感じにフィード・バックできましたね。
——2010年は多くのリミックスを手がけ、またドイツのベルリンでプレイするなどNOBUさんにとって変革の年だったと思うのですが、今年一年振り返ってみてどうでしたか?
N : 今迄の積み重ねが実を結んだ年でした。一区切りという感じはありましたね。またリリースが多かったので楽曲制作能力はあがったと思います。自分の考えている事を形にする能力があがりました。DJとしても、もちろん同じ事が言えます。
——今年は自身初のアナログをリリースしましたね。
N : やっぱり嬉しかったですね。自分の作品が形になるのは非常に感慨深かった。今度、俺名義で初めて出したアルバムのリミックス盤が、3月くらいに出ます。それはCMTとMarcel FenglerというベルクハインのDJのリミックスです。

——今年の締めくくりとして、今回のニュー・アルバム『ON-Another Mix』が出るわけですが... 。
N : ここ何年かテクノをかけ始めてからの総まとめという感じです。ひとつの集大成ですね。このMixはVinylだけで作ったんですよ。アナログ・カルチャーが縮小していく中でレコードだけでここまで出来るよ、というのを提示したかったんです。でもDJってどういうツールを使ったとしてもいい人はいいし、ダメな人はダメだと思うんですけどね。
——最近はCDJ2000(※註 : DJ NOBUが使用している『CDJ2000』はCDではなくメモリースティック仕様で、音質もCD-R AUDIOより改善されているもの)を使ってでもプレイするようになりましたよね?
N : もちろんVinylに対するこだわりはすごくあるんですけど、最近はDataも音がすごくよくなっているので、使い方によってはうまく出来ると思うし、新しい可能性を自分のスタイルの中に取り入れていくような柔軟性も必要だと思っています。
——ドイツのDJ達はDataとVinylどちらの比率が高いのでしょうか?
N : ベルリンのDJはやっぱりVinylが多いですね。レコード屋もまだまだ沢山ありますからね。でもベルリンはちょっと異常だと思いますね(笑)。
——今年のベルリンでのプレイはそういった影響も受けてきましたか?
N : 影響というより、自分のスタイルが間違っていなかったんだ、という再確認が出来ましたね。ベルリンに行って自信がつきました。
——新しい発見はありましたか?
N : グルーヴのつくり方が、今まで自分がやってきたものと全く違った事ですかね。その辺りは完璧に盗んできたつもりですね。
——具体的にどんな違いがありますか?
N : 下の音だけじゃなくて、ハットとか上の音でひたすらグルーヴを作る感じですね。特にMarcel Dettmannはそういうグルーヴの作り方をしていましたね。僕はいつもベースや下の音中心でグルーヴを作っていたから。

——今作にもその影響が見られますね。
N : そうですね、多少は出ていると思います。ただそれだけになっちゃうとただのマネになるから、自分のグルーヴの作り方もたくさん取り入れました。ベルリンを通過した後の、自分流のグルーヴを提示出来たと思います。
——今回のMIX CDを完成後に聞き直してみてどうでした?
N : これはやったんじゃないかなって思いましたね(笑)。思った通りのことが出来たので、大満足です。細かい部分に時間がかかっただけで、最初からある程度イメージがあったので、割とすんなり録音も出来ましたね。
——今作を作る際のテーマはありましたか?
N : 自分にしか出せない世界観、誰もやっていないテクノの世界観を出そうと思いました。
——その世界観が固まってきたのはDJを始めてどのくらい経ってからですか?
N : 最初からありました。基本的には昔からやっていることは変わらないと思います。ただアップ・デートされていって、徐々に洗練されていっている感じですね。
常に変わり続けていきたい
——NOBUさんのプレイを聞いていると、James BrownやDUBからの非常に黒いミニマル的な要素を感じるのですが、どのような音楽から影響を受けていますか?
N : DJとしてはRon Hardy。彼の影響は超でかいですね。4つ打ちのDJを始めた頃から今でもずっと神様ですね。
——DJを始めるきっかけは彼の影響ですか?
N : それは全く関係ないです(笑)。最初は何となく回りにDJを始める奴がいて、それで俺もやりたいな位でしたね。パーティにはよく遊びにいっていたので、その感覚が今でも続いている感じですね。
——DJプレイをするときにNOBUさんが気をつけていることはありますか?
N : グルーヴをキープするというのはものすごく考えますね。その中に色々な要素を組み込んだり、途中でドキッとするような仕掛けを入れることもあります。その時々の閃きを大事にしています。後は、その日のお客さんの体調だったり、箱の雰囲気をちゃんと読んで選曲するようにしています。だから、プレイを決めてから行くことはないです。固めてしまうと柔軟性がなくなって、面白みがなくなるんですよね。
——流れやフィーリングを大切にするということですね。
N : パーティやイベントを企画する時にも言える事で、アーティストのブッキングや出演する順番、プレイする時間なんかがその日の流れを無視した内容だったりすると、なによりまず僕自身も楽しめないので、FUTURE TERRORではDJの出演時間もゲスト・ブッキングも、その日の流れをしっかり考えて組むようにしていますね。
——ベルクハインでのプレイはどうでしたか?
N : 最初はすごく緊張してましたね。日本とは雰囲気が全然違うし、自分自身も慣れていないですから。それでいてベルリンの人たちは、俺のことを何も知らないわけですから。最初は探りつつも、自分の表現したいことを徐々に出していきましたね。結果的にすごくうまくいったし、どこでも通用するんだっていう自信になりましたね。
——今後海外でプレイする予定はあるのでしょうか?
N : 来年もう一度、夏前くらいに海外に行きたいなって思っています。

——NOBUさんは一度、2年ほどDJ活動を休止していましたよね? 何か原因があったのでしょうか?
N : つまんなくなったからやめた感じですね(笑)。それで、またやりたくなって始めただけなんですよね(笑)。特に何か大きな事件があったわけでもなく、なるべくしてなった。そういうタイミングだった、っていうことですね。その当時の状況と自分がマッチしていなかったんでしょうね。今はすごく自然に活動出来ていますね。
——今年は周りの状況も大分変わってきたと思うのですが、来年以降NOBUさん自身が変えていきたいと思う部分はありますか?
N : 意識しなくてもプレイは自然と変わっていくとは思うんですけど、常に変わり続けていきたいですよね。後は、海外でやりたいというのはありますね。行けるところならどこにでも行きたいです。
——今注目している場所は?
N : 上海やイランなど世界各地にアンダーグラウンドなパーティーをやっている人たちがいるらしくて、そういう場所で一緒にプレイしてみたいです。かっこいいことをやっているけれど、なかなか表には出てこない人達もいるじゃないですか? そういうところは気になるし、うまくつながれるといいですね。自分の可能性をもっと覗いてみたいですし。
——日本のDJシーンについてはどう思いますか?
N : 世界的にみても非常に特殊で素晴らしいと思いますね。色々なシーンが生まれてきているし。うまく言えないですけど... いいですよね。
——過去のインタビューで、以前東京で何度かプレイをして違和感を感じたことがあり、それがきっかけとなりFUTURE TERRORを始めたと言っていましたが、その後東京でのプレイに違和感は感じなくなりましたか?
N : そうですね。箱との信頼関係も含めて、東京で「これをやっちゃってもいいんだ」という環境が出来たのが大きいですね。来年もFUTURE TERRORを東京でもやります。
——当時はどのような違和感を感じていたのでしょうか?
N : パーティーに遊びに行ってもつまらないというのがありましたね。
——初期のFUTURE TERRORの熱量はどうでした?
N : すごい熱量でした。自分たちが面白く、かつ何不自由なく楽しめればいいという気持ちで始めて、それがうまく形になっていました。
——その熱量が徐々に各地へと広がっていますね。
N : いやー。まだまだ満足出来ないですね。もちろん千葉でやるFUTURE TERRORが自分の核にはなっているんですけど、あの空気感をもっと広げていけたらと思っています。
——FUTURE TERRORも含めNOBUさんの活動からは、非常に強い現場主義が感じられます。
N : まぁ、パーティに来てよってことです。千葉でやっていることが俺の一番やりたいことで、それを話して伝えるというよりは、やっぱり遊びに来て欲しいですね(笑)。

Information
12/25(Sat)@ 東京 Amate-raxi 『ISLAND』
12/31(Fri)@ 東京 Liqudroom 『2011LIQUID』
1/02(Fri)@ 群馬 warehouse RAISE 『SPROUT』
1/15(Sat)@ 東京 eleven 『UNDERGROUND QUALITY vol.2』
Profile
千葉FUTURE TERROR主宰/DJ。DJに対するストイックな志、音楽への愛情、そしてパーティへの情熱、これらが一体となったそのプレイは、音楽に宿るエネルギーを最大限に増幅、圧倒的な存在感のグルーヴをダンス・フロアへと投下し続けている。 「FUTURE TERROR」ではこれまでに各地で活躍する国内DJはもちろん、海外DJのブッキングにも徹底してこだわりを見せ、シーンのトレンドに流されずアンダーグラウンドで良質なブッキングを行ってきた。 また自身も2003年と2004年にデトロイトへDJとして遠征、「DETROIT BEAT DOWN」のパーティーや「MOODS&GROOVES」のパーティーへ出演を果たし、2010年4月に盟友マルセル・デットマンからのオファーを受け『21世紀のパラダイスガラージ』と言われるドイツ・ベルリンのクラブ『ベルクハイン』で華々しいデビューを飾ったのは記憶に新しい。 近年では音源制作も活発に行なっており、2010年4月にCrue-L Grand Orchestra 「Endbeggining」のリミックスを2曲手がけ、同年6月にはALTZの12インチ 「Mariana」にリミックスを提供、同年7月には神戸のGRASSWAXXより本人名義での12インチ 「011 E.P.」 をリリース、自身のプレイ・スタイルそのものが反映されたような漆黒のサイケデリック・グルーヴを展開、彼がアーティスト、トラック・メイカーとして一段とスケール・アップしている事を知らしめることとなった。 同年10月にはリカルド・ヴィラロボス、プリンス・トーマスらと共に参加したジャーマン・ロック再構築プロジェクト『ZERO SET II RECONSTRUCT』(CD)がリリース、同盤の12インチはMULE MUSIQ LIMITEDからのライセンス・リリースという形で国内のみならずヨーロッパでもリリースされる予定となっている。