
ある日、デスクの上に一枚のCDが置いてあった。
黒人の歌手がスーツを着てデカデカと写ったジャケット。「いつもの黒人ソウル歌手の再発か。」と思ったけれど、何かおかしい。よくよく見てみると、題名は『関西空港』・・・ 。
とりあえずその音源を聴いてみた。・・・ ! ! ! 演歌! ? ソウル! ? R&B! ?
どこかで聴いたような、初めて聴いたような不思議な感覚。ヒップホップがDJ、MC、ブレイク・ダンスやグラフィティなど他のジャンルの要素を吸収することによって生まれたように、今まさに何か新しいジャンルが生まれようとしているのかもしれない! そう考えて、早速彼にアポをとってインタビューをすることにした。結論から言わせてもらうと、以下のインタビューにはフレディーのジャンルによる偏見のない音楽に対する愛と、全く新しい音楽を作り出そうとする意気込みで溢れている。
インタビュー & 文 : 池田義文
英語より日本語の方が気持ちが伝わると思った

—そもそも、フレディーはなぜ日本語で歌おうとしたのですか?
それ、いい質問! 理由はね、日本にいるから。日本語そんなにうまくないけど、英語より日本語の方が気持ちが伝わると思ったから。フレディーのファンがいまして、いつも「英語わからない。日本語で歌って!」と言うから、日本語で歌おうと思った。でも英語も好きだから混ぜて歌っています。
—『関西空港』にはどんなエピソードがあるんですか?
悲しい思い出があります。歌詞の内容はフィクションじゃなくて、全部本当のこと。そのハプニングは関西空港でおこった。ある日家族とヴァケーションに行く予定だったのに、仕事で行けなくなった。でも空港まで行った。それで、バイバイした時に突然ブルーになってしまった。その時の歌。
—フレディーは小さい頃はどんな音楽を聴いていたんですか?
ゴスペル、ロック、ブルーズ、カントリー、全部アメリカン・ミュージック。初めて演歌に出会ったのは4、5年前。20年以上日本にいて、もちろん自然に耳に入ってきた。でも、4、5年前になぜかフレディーに演歌を歌う仕事が入りました。それで、勉強のために詳しく聴きました。
—初めて演歌をじっくり聴いた時どう思いましたか?
Oh!! 素晴らしい! すごい! と思いました。以前から演歌歌手はすごくうまいと思っていました。でも、あまり興味がなかった。詳しく聴いてみたら、すごくドラマティックで、ベリー・ベリー・グッドでした。
—その中でも特にお気に入りの演歌歌手はいますか?
歌手の名前はわからないけど、(五木ひろしの)「高瀬舟」という曲。彼の歌い方素晴らしい! あとは「島原の女」。あんまり大ヒットじゃない曲だけど、素晴らしい。「島原の女」はすごく気持ちいい。「高瀬舟」はプリンスみたい(笑)。セクシー!! ほんまに。
—僕より全然詳しいですね(笑)。
特に「高瀬舟」を歌うのは大好き。メロディがわかっているから、自分の味も入れられる。演歌の形の中で、フレディーの味が出せる。最初に一番大変なのはメロディを覚える事。自分の味を入れる前に、ちゃんとメロディがわかっていないと。R&Bとスケールが違うから。たまにおかしい!! でもそれが演歌の味。
—最初に演歌を歌ってみて、違和感はなかった?
ありました。まずはヴィブラート。R&Bシンガーのピッチは真ん中。でも演歌の場合は、ピッチが少しあがっている。だから聞くとちょっとキーがずれているみたい。でも、そういう歌い方。それが、コブシ。
—演歌とゴスペルやR&Bとで似ている部分はありますか?
アー、それはね。民謡の方がゴスペルに近い。メロディも雰囲気もすごく近い。演歌はね、もうちょっとブルーズに近い。でも歌い方はブルーズではなく。R&B・・・ とも違う。アイズレー・ブラザーズのラヴ・ソングは演歌のフィーリングが入っている。歌詞の内容も似ている。内容は「男女の別れ」。R&Bもそう。「悲しい酒」とジェイムス・ブラウンの「Please Please Please」とか。よく似ている。

アメリカ人の友達も「好き!!」と言っていた。日本人と同じリアクション。
—今回は演歌とR&Bやソウルの歌い方が絶妙に混ざり合っていますよね。R&Bでもあるし、演歌でもある。初めて聞いたような、懐かしいような。
それすごい大事なポイント。色々な混ぜ方があって、料理みたい。アメリカ人の友達も「好き! !」と言っていた。日本人と同じリアクション。「フレッシュ! いいじゃない!」みんな一緒。面白い。だから、演歌とソウルの真ん中をミックスすることはすごく大事。行き過ぎダメ。
—英語を混ぜるのは大変じゃなかった?
そんなに大変じゃなかった。なぜなら、日本人がよく使っている言葉だから。でも、これからもっとイングリッシュも入れる。でも「ありがとう」は難しかった。なぜなら、第1のヴァースは日本語、後は英語。最初は自然に日本語が出てきたから、そのフィーリングを守りたくてキープした。
—演歌とソウルをうまく混ぜるために、演奏の部分で苦労した部分はありますか?
R&BにはR&Bの決まりがあります。それを破ると雰囲気がなくなってしまう。演歌はドラマティック。それを混ぜるのが大変だった。でも演歌の雰囲気を入れるならそのドラマティックなリフが必要。「ちょっと待って」はそういうのがたくさん入っている。「関西空港」はあまり入っていないけど、メロディは演歌。だから色々な混ぜ方がある。色々シチュエーションによって変えた。
—演歌以外にも日本の音楽は色々と聴きますか?
イエス。J-POPをよく聴いています。J-POPとても可愛い(笑)。日本独特のオリジナルの雰囲気がある。インターネットのアメリカのレディオ・ステーションでも「J-POP」というジャンルもあるんですよ! あと演歌はやっぱり好きだからiPodに入れて、聴いています。本当に好きだからそのフィーリングを失いたくない。フレディーの演奏には大事。R&Bだけ聴くと、演歌の雰囲気がなくなる。すごく日本の音楽が聴きたくなる時がある。本当に。
—どんな時に聴きたくなりますか?
リフレッシュしたいとき。ずっとR&B、ずっとソウルばかり聴いていると、もう聴きたくない・・・。そんなとき「演歌! ! ! 」リフレッシュ! そういう時。
—エンソルは誰がなづけたのですか?
それは私のスタッフ。私も色々すごい考えた。すごいダサイ名前もあった。例えば「R&Benka」とか(笑)。でも、ある日スタッフが「エンソルは?」って聞いてきたから、「それいい!」となった。
—次回作も「演歌+ソウル」のエンソルで作品を出すのでしょうか?
オー! イエス! もちろん。でもエンソルだけじゃない。この話はまだ早いかもしれないけど、次のレコードで自分のアイデアは、同じ曲を最低2ヴァージョン。イングリッシュとジャパニーズ。3ヴァージョンの場合はイングリッシュとジャパニーズを混ぜたもの。イッツ・マイ・スタイル!
PROFILE

アメリカ生まれ。シンガー・ソング・ライター。ギター、ベース、ドラム、キーボードなどのプレイヤーであり、プロデューサー。ミュージシャンの父の影響で幼少期より歌を歌い、やがてバンド活動も始める。これまでに、ジャネット・ジャクソン、シェリル・リン、HY、もんたよしのり、KAN、中村雅俊など、日本国内外関わらず、多くのアーティストと共演し、TV、CMの音作りもこなすマルチプ・レイヤー。 R&B、RAP、POPS、JAZZやROCKなどのジャンルを問わず、カバー曲も取り入れながら、自身のオリジナル・バンドで多くのイベントに参加、コンサート・ホール、ライブ・ハウスなので定期的にライブ活動中。2005 年より尼崎にある「天然温泉あま湯ハウス」にて、演歌を取り入れた楽曲でのソロ活動を開始。その評判が広がり、翌年、岡山にある「瀬戸大橋スパリゾート」でも活動する。
さらに自身の音楽性を広げるべく、演歌とルーツであるR&Bを融合し、新ジャンルを誕生させた。
・ フレディー特設サイト : http://bls-act.co.jp/pages/freddie/
フレディーのルーツとなるアメリカン・ミュージック
Heavenly Soul Music - The Jewel / Paula Recordings / ROSCOE ROBINSON
夏が終わろうが何だろうが、過去に残されたソウルの素晴らしさがそこに在り続けるのは当然! ジュウェル〜ポーラ〜ワンドの世界初CD化音源をまとめたロスコー・ロビンソンの編集盤『Heavenly Soul Of Music -The Jewel/Paula Recordings』はマスト! ゴスペル出身らしいスケールの大きな歌いっぷりと弾けるようなノリの良さに感動を押さえきれない、濃密なソウル汁迸るドス黒盤。
グレイト・ブルース・マスターズ Vol.1 / B.B. King
激シブのスロー・ブルースから、踊れるファンキー・ブルースまで偉大な10人のブルースメンの楽曲をセレクトしたGREAT BLUES MASTERSシリーズ(全10タイトル)。本作は第1弾、B.B.キング編。ケント・レコード作品を中心にセレクトした16曲を収録。
Live In New York / KING CURTIS ALL STARS
テキサス出身のサックス奏者で、50〜60年代にかけてニューヨークR&Bサウンドを築き上げたキング・カーティス。本作はファン待望の初CD化。カーティスのサックスがブロウし、アル・ケーシーのギターも冴え渡る。ポール・グリフィンのピアノ、ジミー・ルイス(B)とベルトン・エヴァンズ (Dr)のリズム隊も一丸となってグイグイとグルーヴを生み出している。
オール・ユア・ラヴ - 激情ライヴ! 1976 / OTIS RUSH
シカゴ・ブルース・マンの、ラジオ番組用に収録された地元クラブでのライヴ音源がCD化。既発表作品を凌ぐとその“通たち”をも唸らせる、レギュラー・バンドでの絶品ライヴ。だが、どれほど“激情”に走ろうと流れないギターと歌にある何ともいえぬモダンさが魅力大。