
生命力が混ざり合う
中学生のときにブルー・ハーツを聴いたのがきっかけでパンクにはまった。その後セックス・ピストルズやクラッシュなどのUKパンクを聴き、ニューヨーク・パンクも聴きあさった。更にはザ・フー、キンクスやストゥージズなどのパンクの起源といわれる音楽にまでさかのぼるようになった。おそらくジャンルは違えど、同じように自分の好きなミュージシャンから、そのルーツをたどっていった経験は誰にでもあるだろう。もし、そのルーツを極限までたどっていったのならば、一体どこにたどり着くのだろう? それは、人類の起源を探すようなもので、想像するだけで好奇心をそそられる話だ。
そんなファンタジックな想像力を掻き立てられる音楽が『Mudanin kata』だ。ボアダムスのYOSHIMIや、カヒミ・カリィも絶賛するという本作は、映画音楽、現代音楽やジャズなど様々なジャンルを行き来する音楽家であり、チェリストでもあるデヴィッド・ダーリングと、台湾に存在する先住民族ブヌン族が共演したアルバム。現地の言葉で「人」 という意味を持つブヌン族。彼らの音楽の特徴である八部合音のハーモニーは、柔らかな響きを持ち、非常に複雑な和音で構成されている。現在では、民俗学や音楽の起源に関する学術的な研究においても注目を集めている。今回の音源は、台湾の奥地でフィールド・レコーディングしたという。その中には、八部合音のブヌン族の歌声とデヴィッド・ダーリングの優しいチェロの音色、そこに鳥の鳴き声、虫の羽音や風の音までも一緒に収録されている。東洋と西洋の音楽が混ざり合い、地球の自然音までもが競演し、それら全てが一つの音楽として収録されている、なんとも壮大な作品だ。何千年もの時を経て受け継がれてきた音楽を、こうして何度も聴くことが出来る喜びを噛み締めながら、極上のヒーリング・ミュージックと共に秋の夜をのんびりと過ごしてみるのはいかがだろうか。(text by 池田義文)
David Darling & The Wulu Bunun / Mudanin Kata
1. Ku-Isa Tama Laug / 2. Lugu Lugu Kan-Ibi / 3. Mudanin Kata / 4. Manas Kala Muampuk / 5. Malas Tapag / 6. Wulu Dream / 7. Macilumah / 8. Pasibutbut / 9. Mataisah-hik Sagan / 10. Wulu Mist / 11. Bunun Tuza / 12. Sima Cisbug Bav / 13. Malkakiv Malvanis / 14. Wulu Sky / 15. Pis Lai
mp3 1500円 / WAV 2000円
*アルバム購入者には、特典としてライナー全文 / 歌詞(原詞、和訳詞)入りオリジナル・ウェブ・ブックレットをプレゼント。本作のことはもちろん、プヌン族のことがもっとよくわかりますよ。
2000年秋、私はミュージシャンのデヴィッド・ダーリングとWuluにある小さな小学校を訪れた。その時私は生まれて初めて初めてブヌンの聖なる歌「Pasibutbut」を生で聴いたのである。ブヌンの男たちは円を作りお互いの肩をしっかり組み、厳粛な表情を浮かべて顔を上に高くあげている。彼らは歌いながら、声を張り上げる度にステップを踏み、揺れ動いた。
まず歌はミツバチの群れの低くぶんぶん鳴っているような音を連想させる声から始まり、そこから徐々にに調子を上げていった。その音のスケールは、セミ・トーンとクォーター・トーンの間隔で、タイトなハーモニーの構造をくずさずに上昇していった。低、中、高音はともに美しいバランスでお互いに音を補完、また肉付けしあっている。最後には歌い手達の声があわさりパワフルな音を作り出した。その声は、まるで歌い手達を囲む山々のごとく広大なものだった。
私は、この複雑で精緻な、現代の音楽とも類似する部分を持った古くからの歌唱スタイルを、台湾の東南の山奥で聴きながら録音についてのプランを練り始めた。
まず、チェロを演奏するデヴィッドのまわりをブヌンの人々が囲んでいるイメージが頭に浮かんだ。私の考えはごくシンプルである。まずチェロの音楽は他のどの西洋の楽器よりも、人間の声に近い。デヴィッドの独創的なチェロの演奏をもってすればきっとブヌンの歌とうまく合わさり、本人も彼らの音楽の中に自分の居場所を見つけることが出来るだろうし、そして何か新たな音楽を作り出せるのではないかという確信が私にはあった。東と西のミュージシャン間の対等な真のやりとりというものを実現してみたかった。 (ライナーより抜粋)
PROFILE
ブヌン族について
台湾に存在する12の先住民族のひとつであるブヌン族。ブヌンとはブヌン語で人という意味である。彼らの複雑な八部合音のハーモニーは民俗音楽者の音楽起源に関する研究においても国際的に注目されており、それまでの「楽曲の起源は単音を基調としてより複雑なアレンジに発展していった」という学説を覆すものであった。本作品中の「pasibutbut」は「自然の音」と名づけられており、鉢のブンブンという羽音や流れる滝の音、風に揺れる木々の葉づれの音から影響されたものだという。彼らの日常での体験に深く根ざした音楽は圧倒的な説得力を持っている。今回聴き逃してならないのは、鳥や虫、風による実際の自然音である。録音場所に関して、台湾奥地、ブヌンの村から少し離れた谷あいの場所が選ばれたが、この土地が素晴らしい環境音と、参加者には心の穏やかさを与えてくれた。
デヴィッド・ダーリング
1941年3月3日生まれのアメリカ人チェリスト / 作曲家。映画音楽から現代音楽、ジャズやニューエイジなど様々なジャンルを横断する音楽家である。ウエスタン・ケンタッキー大学で教鞭をとった後チェリストとしての活動を始める。1960年代には、ジャズにアフリカ、アジアや南米などの民族音楽的要素を初めて取り入れた革新的な音楽グループ、ポール・ウィンター・コンソートにて活動する。およそ10年間の活動の後、ジャズ、現代音楽の名門独ECMから『Cycles』(1981、ヤン・ガルバレク参加)や『Cello』(1992)、『Darkwood』(1993)などの傑作をリリース。自身がプロデュースした「Cello Blue」は2002年グラミー賞にノミネートされた。その傍らヴィムヴェンダース、マイケル・マン、ジャン=リュック・ゴダールらの映画作品に参加、近年更に評価が高まりつつある隠れた巨匠の一人である。
民族音楽を届ける注目のpanaiレーベル
アフリカ南東部ジンブバブエ / ショナ族の民族楽器「ムビラ」(別名カリンバ。親指で弾くことから親指ピアノの愛称でも親しまれている)によって奏でられた至福の音楽集! かつてはギタリスト、ピアニストとして活躍していたリチャード・クランデルが、2000年の初め頃、本作のタイトルでもある「Essential Tremor」(本態性振戦=突然、手の震えなどが起きる症状)に急に犯され、さらにムビラに傾倒していきました。TZADIKから過去2枚の作品の延長上にある本作は全曲本人が作曲したもので、ムビラ自体にコンタクト・マイクを付け、ループ・ペダルと組み合わせて、独奏主体の演奏を聴かせる。その楽曲は透明感に溢れ、シンプルでありながらも奥深く様々な表情を見せます。彼にしか到達しえないアメリカン・ミニマル・ミュージック。郷愁感に溢れた普遍的サウンドは、ジャンル問わず全ての音楽ファンに大推薦です。
アリ・ファルカ・トーレ、サリフ・ケイタを生んだ音楽大国、西アフリカ・マリ共和国から、国際的なフェスにも多数参加し、地元でも注目度抜群の若手実力派バラフォニストのラミン・トラオレのデビュー・アルバム。アフリカ大国の西に位置するマリ共和国。国土の3分の1はサハラ砂漠で、中央を流れるニジェール川沿いに人々は暮らしています。音楽の宝庫と言われるこの国では日常に音楽が溢れ、人々の生活の一部でもあります。その中でもマリの伝統的な楽器、リズムをベースにしたラミン・トラオレの音楽は、サルサやジャズの要素も入れており、アフリカ音楽といえど構えることなし、日本人のリスナーの耳にもすぐに馴染んできます。本作はバラフォン、ジェンベ、ドゥンドゥン、ンゴニ、コラやバラ… 沢山の音による複雑なリズムとバラフォンの音色のようなラミンの歌声、女性ヴォーカルによって彩られています。