2016/06/07 18:58

【最終回】STEREO JAPAN、シングルが1万枚売れたら解散!?ーVol.11 吉田豪による水江文人・インタヴュー

EDMアイドル、Stereo TokyoとStereo Fukuokaによる合同グループ、STEREO JAPANが、2016年5月4日にシングル『Dancing Again』をリリース。5月29日にELE TOKYOにて開催されるリリース・パーティまでに同シングルが1万枚“売れたら”解散する。パーティをすることに力を入れてきたSTEREO JAPANが、なぜこのタイミングでそうした舵を取ったのか? 果たして1万枚売れて解散してしまうのか? その経緯から動向、結果まで、OTOTOYではインタヴューやライヴレポートなどで毎週追いかけていく。更新日は毎週月曜日を予定。

運命の日、5月29日。リリース・パーティの本編が終わり、プロデューサー・水江文人から発表された売り上げ枚数は… 4,880枚。1万枚を売りあげることができず見事解散を免れた。ただその場で水江は同時に2つの卒業を発表した。1つは、マネージャーの平川氏の卒業。もう1つは、CDを売ることからの卒業(今後は配信に移行)。連載最終回となる11週目の今回は、吉田豪による水江文人(STEREO JAPANプロデューサー)へのインタヴューを掲載する。2ヶ月にわたる本企画の意図、CD販売をやめること、EDMとアイドルについて、これまでにない深さで真相に迫った。いままでのSTEREO JAPANを総括し、次のステージへ!!

5月29日にELE TOKYOで開催されたリリパのハイレゾ音源をフリーDL

STEREO JAPAN / 『Dancing Again』Release Party@ELE TOKYO(24bit/48kHz)

【配信価格】 まとめ購入 0円

【配信形態】
FLAC、ALAC、WAV(24bit/48kHz)

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All Songs Performed by STEREO JAPAN

Recorded & Mixed & Mastered by 徳永宏
Recorded at ELE TOKYO

All photos by Jumpei Yamada

Supported by KORG INC.

Produced by STEREO JAPAN、OTOTOY
Project Director 西澤裕郎(OTOTOY)

Special Thanks to 樫本大輔、佐々木小夏、玉澤香月、Party People
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1万枚企画で4,880枚の出荷を記録したシングル

STEREO JAPAN / Dancing Again
【配信価格】
WAV / ALAC / FLAC / AAC : 単曲 200円 / まとめ購入 400円

【Track List】
1. Dancing Again
2. RUN

STEREO JAPAN / Dancing Again(Official Video)
STEREO JAPAN / Dancing Again(Official Video)

INTERVIEW : 水江文人(STEREO JAPANプロデューサー)

取材&文 : 吉田豪
写真 : Jumpei Yamada

異文化でハマった時の爆発力ってすごいデカいじゃないですか

ーー率直に聞きますけどEDMはお好きなんですか?

水江文人(以下、水江P) : Stereo Tokyoをやり始めてだんだん好きになってきました。豪さんがさっき「はじめてEDMの現場に行って、居場所ゼロで早く帰りたいと思った」みたいなお話されてて、僕もすごくよくわかるんです。居場所がなくて帰りたいと思うんですよ。ははははは!

ーー最近、ボクもあるEDM映画のコピーが「EDMドリームにかける青春」「#仲間」「#最高かよ」だった時点で、こんなに苦手な要素が詰まった世界もないと思ったんですけど(笑)。

水江P : すごいですよね。僕も別世界です。

ーーそういう完全に別世界のものを、うまく取り入れたなってホントに思うんですよね。さっきも言ったんですけど、アイドルとEDMの融合がボクはほとんど苦手なんですよ。

水江P : 僕もそれわかります。あんまりろくなことになってる人見たことないですよね。中途半端っていうとアレですけど…(笑)。

水江文人

ーーアイドルの掛け算であんまりよくないものの1つだと思ってますね。アイドル×ボカロPも今のところ正解がないのと同じで。

水江P : めちゃくちゃわかります。なんか、お互い折衷案みたいにやってるから、ちょっとよくわからないところにいる感じになっちゃいますよね。どっちかに振り切っちゃうといけるんですけど。

ーーどうしても、お互いの良さを消し合ってる感じがある。

水江P : すごいわかります(笑)。

ーーだけど、なぜかStereo Tokyoはいいと思ったんですよ。

水江P : ありがとうございます。僕も一リスナーとしてはホントに同じ意見を持っていて、大体普通のアイドルで曲をいろいろ出してく中でたまに「EDMです!」みたいなのとかがあると、僕もホントに誰が得するんだろうみたいな(笑)。なんかアイドル・ファンは「うっ…」と思うし、かといってそういうのが本当に好きな人が聴くかって言われたらそうでもないし、誰に向けてのこの1枚なんだ、みたいな(笑)。

ーーそうなんですよね。具体例は出さないですけど、●●●●●とかそっち路線じゃないほうがいいのにとかホントに思うんですよ(笑)。

水江P : はははははは! 言っちゃった(笑)。言わないようにしてたのに(笑)。

ーーもったいない、もっと向いてる世界があるはずなのにって。

水江P : いやー、そうなんですよね。そこにEDMを投げても無理でしょって(笑)。

ーーボクの持論としては、PASSPO☆ぐらいでもないとEDM感は出せないだろうなって。

水江P : たしかに! プラチナムさんで作ったりしてたら…。

ーーそう! いちばんEDMに似合う事務所はプラチナムなんですよ(笑)。

水江P : いいかも! prediaさんとか、たしかにプラチナム×EDMって最高ですね(笑)。

ーーまさかそんな意見まで同意してもらえるとは(笑)。

水江P : 僕もアイドルは好きでしたし、BiSの話を聞いてたので異文化でハマった時の爆発力ってすごいデカいじゃないですか。BABYMETALとか最初の頃から観てて、「あ、おもしろいな」って思ってたものがあんなにボンって爆発するから、やっぱりああいうことだと思うんですよね。きちんとやるというか。

お客さんの一緒に盛り上げる力っていうのはすごいんですよ

ーーアイドル×メタルみたいな楽曲ならそれまでにいろいろ存在したけど、あそこまでコンセプトとしてアイドル×メタルをちゃんとやってるグループはいなかったってことですよね。

水江P : そうですね。コンセプトとしてしっかりアイドル×何かっていうのをやると強いですよね、ハマると。

ーーEDMやってるアイドルグループはいっぱいいるけど、ここまでちゃんとやろうって人がいなかった、と。ライヴやる上での小屋までちゃんと考えてるのかとか。

水江P : そうですね(笑)。小屋はめちゃくちゃ気を遣ってますね。

吉田豪

ーー今回の会場・麻布十番ELE TOKYOはアイドル・イベントとは一切関係ない、普段はドレスコードのある高級感たっぷりのクラブなわけで、どう考えても予算としては借りるのもキツいと思うんですよ。

水江P : 高いです…。アイドルだったら、1番安いところでいえば阿佐ヶ谷ロフトとかでやったら数万円とかでいいところを、今日はなんだかんだ入れると1000人キャパのところで普通にライヴするよりちょっと高いくらいです(笑)。

ーーうわー(笑)。でも、やっぱり高いだけのことはありましたね。

水江P : あの空間ですからね。

ーー会場がLEDだらけのチャラい感じがEDMにピッタリで。あと、店員さんの表情がおもしろかったです。苦々しい顔してる人と半笑いの顔してる人の2パターンで(笑)。

水江P : 普段アイドルを絶対に見てないから(笑)。だからみんな結構びっくりしてて。今までも何回かああいうところ借りてて、正直、今日のところはみんな良い人だったんですけど、すごいところもあるんですよ。もうオタクにドリンクをバーン! みたいな感じでキレてる人とかいて(笑)。

ーーお客さんを見下しながらドリンクを出す(笑)。

水江P : 何にこんなに怒ってるのかわからないくらい1日中切れてるバーテンとか。あと、こっちで照明とか音響とかお願いしに行っても「うるせえ! 」みたいなテンション感できたりとか(笑)。

ーー「普段の営業だったら入り口の服装チェックで入れないような奴ばっかり集まりやがって!」的な憤りがあるわけですかね(笑)。

水江P : でも、例えば最近は渋谷のクラブとかで地下アイドルのイベントやってるじゃないですか、日曜の朝とかに。そういうときのリハーサルのPAさんとかマジ死んだ顔してやってるんですけど、僕らがやると最終的にすごい前のめりになって、本来の自分たちの仕事みたいな感じで(笑)。

ーーダハハハハ! 「最近ちょっとハコ埋まらなくて、しょうがないからアイドルやってるけどさ」っていう感じのスタッフにスイッチが入る(笑)。

水江P : そういう感じだと思うんですよ、たぶん。新木場STUDIO COASTのアイドル・イベントとかもそうで、Stereo Tokyoの時に照明の人が最終的にすごいガンガンにのってるっていうのを見ると、なんかちゃんと通じるのかなって思って。

ーーSTUDIO COASTが、こんなにアイドルイベントをやるようになるとは思ってなかったですからね。

水江P : 今すごいですよね。だから僕らがやる時はageHa(※新木場にある日本最大級のエンターテイメント・スペース)仕様でやりたいなって思うんですけど、なんかあんまりアイドルがやってるってところではやりたくないなっていうのはありますよね。

ーー「つまらないアイドル・イベントには出ない」と宣言してましたけど、どんどんそこと差別化していきたい、と。

水江P : そうですね。だから、今日もお金はすごいかかってるんですけど、売上もかなりあるのが正直で。

ーーVIP席とかの価格設定が成功して。

水江P : そうですね。普通アイドル・イベントって2,500円とか3,000円くらいのライヴ・チケットだと思うんですけど、そもそも1番安いチケットが4,000円、その上が1万円、1万5000円、2万5000円ってしたら、高額なチケットが全部完売したので。この先、CDを出さないとかリリイベやらないみたいな話もそうなんですけど、あれって結局CDを作ると、作ったお金に見合うように、もっとプラスして稼がなきゃいけないから、毎週リリイベやって、女の子たちも疲れ果てて、観てる側も飽きるみたいなのがあるかなって思って。

ーー今オリコン・チャートでベスト10に入ってもどれぐらいの宣伝になるのかって考えだしたらキリがないですからね。

水江P : ほんとですよ! 火曜発売とか発売日をズラして。

ーーそれで「ついにベスト10に入りました!」なんて大騒ぎして、どんな意味があるのかなって。

水江P : ぜんっぜん意味ないと思います(笑)。おんなじ業界の人とかと話してて、たまにそういう人いるんですよ。オリコン3位だったんでとか、具体例出すわけじゃないですけど(笑)。それがどうにもならないっていうのは数多のアイドルが証明してることじゃないですか。いまは収入源としてCDを出してリリイベがあって、僕らはお金が入るっていうのはあるなと思うんですけど、でもそれは紐解いていくと、お客さんはおんなじようなセトリのおんなじようなインストアでいっぱいCDを買わされてるわけで、もっと気持ちよくお金を払える方法ってないかなっていうのをずっと思ってて。同じお金を払うにしても。

ーーメンバーも運営もファンも疲弊していっちゃいますからね。

水江P : それが僕らの中の答えは、リッチな箱でやったりとか、EDMバスを走らせたりとか、それで納得して高いお金を出してもらって、そのお金で僕は事務所が存続できて、女の子たちも生活が維持できるところでやれるといいなって思っていて。その結果、ここ最近の高額チケットとかがどんどん売れる感じになってきたので、それはいい傾向だと思いますし、そっちを育てていきたいなって。

ーーそれで自信がついたからこそ、もうCDリリースもしないでいいかなっていう振り切り方ができたわけですね。

水江P : そうですね。それこそリリース・イベントってタダだから、最初の入り口になるところじゃないですか。

ーー新規のお客さんを増やすのに1番いい、お試しの場ですからね。

水江P : そうですね。新宿タワレコにいこうとか渋谷タワレコでやってるからいこうとか、すごくいいのはわかるんですよ。その代わりに極端な例ですけど、お金を出したいと思ってる人たちがたくさんお金を出してくれれば、僕らは今日みたいな箱を借りて、じゃあその新規の人にはタダで開放することもできるかもしれないなって思っていて。CDを売らない代わりに、1万5000円で握手会とか写メ無限撮り放題みたいなチケットと、0円でエントランスだけできるけど接触はできないみたいな。

ーー新規専用スペースとか作っちゃえばいいですよね。女性専用スペースみたいな感じで、後ろの方に(笑)。

水江P : そうそうそう(笑)。そっちのほうが全然いいなと思ってて。今だと東京都内の大きいところ、新宿、渋谷とかでリリイベやると人も集まっちゃうし、お客さんもああいう感じなのでハプニングがいろいろ起きたりとかして。

ーーまあ、確実に起きますよね。

水江P : そうなんですよ。それが問題で。やりたがってはくれるんですよ、お店も。だけど音量の問題とかお客さんの節度というか盛り上がり方の問題とかもあったりして。

ーーあんまりお客さんには注意したくない派なんですか?

水江P : 僕はしたくないです。だから、やっぱり僕がそもそもこういうのを始めようって思ったのも、アイドル・オタクとEDMをかけ合わせたら絶対おもしろいなって思ってて。そこで自由にさせてあげたいなっていうのはホントにあったから、なにが禁止とかなにをしないでって、あんまり言いたくないんですよ。でも、こうやってやってく中であれがダメ、これがダメっていうのがすごく多くて。インストアとかだと(笑)。

ーーTIFなんかも禁止事項が多いから大変だと思いますよ。

水江P : 去年もギリギリを攻めたので、今年は出られないかなって思ったんですけど、またオファーがきたんでいいかなって思って。なんていうんですかね…。 アイドル・オタクってすごいおもしろい人たちだと思っていて。僕もアイドル以外のアーティストとかもやってて、普通にいろいろ観に行ったりして思うんですけど、あんなおもしろい人たちいないんですよ、お客さんとして。

ーー現場を盛り上げる能力が1番高いですよね。

水江P : 高いですね。お客さんの一緒に盛り上げる力っていうのはすごいんですよ。他のJ-POPとかバンドとかって、手を叩いて観てるとかだと思うんですけど。だけどアイドル・オタクってすっごいクリエイティブだから、いろいろほっといても小道具、大道具を自分たちで作ってきたりして盛り上げてくれるから、その一期一会感っていうか、いろいろ起きてく様っていうのは一番アイドルであるなって思っていて。

単純に可愛くて踊ってますみたいなのじゃ、この先は通じない

ーーアーティストからアイドル的な方向に流れてきた人に話を聞いても、みんな「アイドルのお客さんは優しい」とか「アーティストのお客さんは対バンに冷たい」みたいなこと言ってて(笑)。

水江P : ほんとそうですね。対バンもとにかく盛り上げようっていうのもあるし、街を歩いててもアイドル・ファンってすごい節度があるから、アイドルと遭遇しても見なかったことにして自分で遠くにいってくれたりとか。

ーー一部の厄介を除いて、基本的には節度ある人が多い。

水江P : でもアーティストだと、街を歩いてても「あ! なんとかだ!!」ってお客さんが寄ってくるんですよ。やっぱりアイドル・ファンの方が… それこそ最近の事件でファンとアイドルの距離がどうのとか言われてますけど、僕はこんなにリテラシーが高くてこんなにクリエイティビティのある人たちはいないなって思ってて。Stereo Tokyoの対バンイベントとかでも、みんなクラッカーとか特効とかみたいなのとか買ってきて曲間でやったりするんですけど、すっごい勢いで転換中に床を片付けて帰りますからね(笑)。そういうところも含めてすごいマナーもあるし、節度もあるし。そもそも、このグループを始める時にそういう人たちが精一杯輝ける場所を作るって言ったら変ですけど、今までだと、例えば演者と見る人っていう関係で完結していたと思うんですよ。だけど、ここではみんなが演者でみんなが見る人で、ホントに双方向にやり取りがあるようなものが今後主流になってこないかなってと思ってて。盆踊りみたいな。

ーー盆踊り感はありますよね。

水江P : 盆踊りとかも町内会の人が踊ってるのを座って見てもいいんですけど、自分たちが輪に入って踊ってもいいじゃないですか。ホントにそういう感じだなっていうのは思ってますね。

ーーちなみに、会社の先輩でありBiSを作り上げた渡辺淳之介さんから影響を受けた部分っていうのはあるんですか?

水江P : いやー、正直、一個人的なことを言うと、僕が入った時にはBiSはそこそこもう売れてるというか、リキッドルームのワンマンとかはとっくに終わってた状況で。なんだろうな…。ウチの会社の予算会議とかでもBiSの売上で食ってるなって感じの状態の時に僕は入ってきたんです。

ーーじゃあ、意外と距離はあった感じで。

水江P : 基本的には忙しい人だったので、あんまり会社で会うこともなかったし、そんなにバキバキに一緒に仕事してたわけではないんですけど、机は近かったんで、たまに会社にいる時とか話したりしてて。さっきのアイドル・オタクはクリエイティビティがあるなって思ったのも、BiSのお客さんを見てたからでもあって。それこそ名古屋のサカエスプリングかなんかだと思うんですけど、僕は別の仕事でたまたま名古屋にいたのでBiSのステージを観にダイヤモンドホールへ行った時に、普通のバンドみたいな人たちとの対バンだったんですよ。お客さんはバンドのファン7割くらいとBiSのファンは3割くらいで、BiSが曲をやってる中でいろんな小道具が出てきて、オタクが倒れて死んだふりをしてそのまま運ばれていったりとか(笑)。そういう小芝居を見てたバンドのファンの人たちが、オタクを見て「やばい」「これはすごい」みたいなことになってて。それも1個のきっかけだったんですよ。曲がいいとか歌がいいとかダンスがいいとか、もちろんそれはそれでいいと思うんですけど、最初に「オタクがおもしろい」から入ったとしても、意外と曲いいじゃんとかつながっていくなと思ってて。

ーーつまり、いま「Stereo Tokyoのオタクが面白い」と言われてるのは、いい流れだってことですね。

水江P : そうです。アイドルって正直、普通に可愛いことやってても、そこらへんのショッピングモールでリリイベやったら後ろ指を差されるだけじゃないですか。「あー、アイドルやってるよ」「AKB? 全然知らないなー」みたいな(笑)。興味もないし。だけどアイドル・オタクがクリエイティビティを発揮させてると、結構一般の人も「やばい!」 みたいな感じで写真を撮ったりするから、そうやって一般層に引っ掛からなきゃいけないんですよ、アイドルみんな。いけるとしたら、そういう要素がないと、ただ単純に可愛くてなんか踊ってますみたいなのじゃ、この先は通じないなって思って。

ーー単純な可愛さ勝負だったら大きな事務所には勝てないですよね。

水江P : 勝てないっス。欅坂とか乃木坂くらいの、あのクオリティには(笑)。

ーーあのクオリティで、あの予算でやれるところには勝てるわけがない(笑)。

水江P : ホントそうですよ。ウチみたいなとことか中途半端なとこがやったって、絶対に無理っスよ。だったら別なところからアイドルを出して上手くやらなきゃいけなくて。そういう中で僕は直に見てたBiSとかもそうだし、お客さんのクリエイティビティの高さっていうのは今後フィーチャーされてもいいんじゃないかなっていうのは最初に考えてたことです。

アイドルでよくあることを僕らなりにやってみた

ーー渡辺さんみたいな話題作りのやり方に対してはどう思いますか? Stereo Tokyoのマラソン企画とかも明らかに渡辺イズムでありながら、あえてパロディ的なことをやるみたいな感じでしたけど(笑)。

水江P : この企画は別にBiSを徹底的にこすろうみたいなところではなくて。今までウチは、あんまりいわゆるアイドル・オタクみたいな人には好かれてないだろうなって自覚はあって。それで、いきなりアイドル以外の人のところに行っても上手くいかないだろうなって思ってて。アイドルの世界である程度下地をつけていけば、次の空間ができあがると思ってたんです。そう考えた時に、もうちょっとアイドル好きの人に向けたキャンペーンみたいなのをしようかなって思ったんですけど、その時に普通にやってもなっていうので、アイドル・パロディみたいなのをちょっと思いついて、その中でアイドルが今までやってきたイベントとかでなんかおもしろそうなのなんだろうっていろいろピック・アップしてきた中にマラソンがあって。手軽っていったらあれなんですけど、予算もすごくあるわけじゃないし、1日あればできるイベントだからいいなっていうので。

ーーアイドルの定番ネタとしてのマラソンと解散商法を逆手にとった企画だったわけですよね、要するに。

水江P : ほんとそうです。アイドルでよくあることを僕らなりにやってみるっていうだけなんですけどね。

ーー予算も少ない中、炎上させながら話題を作っていこうっていう感じは渡辺イズムなのかなって勝手に思ってます。

水江P : そうですね。渡辺淳之介は自分で言ったことを覚えてるかはあれなんですけど、正直BiSだけ調子よくて、他のアーティストを全然まだこれからって時に、あの人が滅多に来なかった会議に来て、こう言ってたんですよ。「話題は作ってなんぼだから、週に1回ネット・ニュースかなんかに載るくらい常に何か考えてやらないとダメだ」って。ホントその通りだなと思っていて。単純に渋谷駅ジャックするみたいな予算がないっていうのもありますけど、今の時代別にそんなことやってもって感じだと思うんですよね。

ーー予算が掛かる割に効果もそれほどない。

水江P : やってもたかが知れてるっていうか、費用対効果で考えるとだいぶ悪いだろうなって思って。それよりはネットとかで話題になるっていうのは、1番お手軽で頭を使えばできることかなって。今日もEDMバスがトレンド1位になってる時間帯とかもあったので、そういう感じで無理してお金を使いまくって広告を打たなくても、ちょっとだけ頭を使うと上手くやれるのかなって。マラソンとかも結果よかったなっていうのは、お昼もEDMバスが走ってて、僕らはその後ろでオープン・カーに乗ってたから、道端の人の会話とか全部聞こえてくるんですよ。そしたら結構みんな「マラソンのやつじゃん!」みたいに言ってて。

ーーそこの認識はちゃんとされてたんですね。

水江P : 想像以上にありました。「これやばい、マラソンのやつだよ!」とかみんな言いながら写真を撮ってたりしてたんで、やっぱりそういうことかなと思って。ただ「炎上」っていう言い方をしますけども、僕は炎上だとは思ってなくて。あれがほんと不謹慎な事件や事故をネタにしてたら「炎上」だと思うんですけど、そういう誰かの具体的な不幸だったり、誰かに迷惑をかけるみたいなのはちょっと違うなって思ってて。単純にオタクがマラソンするのって、あれで走ってる人たちが「なんで俺たちが代わりに走らなきゃいけないんだ!」とか怒ってるんだったらご批判もっともだと思うんですけど、みんな笑いながら走ってるし(笑)。

ーー騙して走らせたわけじゃないですもんね。

水江P : そういうのって幸せじゃないですか。誰も傷ついてないし、それで外側の人が「ひどい!」って話題にしてくれる分には別にいいなと思ってて。今日のEDMバスも誰にも迷惑かけてないので。出したい人がお金を出して高額なチケットを買ってバスで走ってるっていう、ただそれだけで。実際に走ってても、日本人ってあんまり賑やかな人種じゃないから、ああいうのしかめっ面する人も多いのかなって思ってたんですけど、みんな笑顔で手を振ってくれたりとか。

ーー意外とみんな「浮かれたバカがきた!」みたいな感じで楽しんでましたね。

水江P : 若い子がそうならわかるんですけど、お年寄りの人とかも手を振ってくれたりとか。

ーーすごい怖かったのが、横に怖そうな人が乗ってるリムジンが止まったじゃないですか。

水江P : あー来ましたね、六本木で(笑)。

ーーこれは下手にいじっちゃいけない人が乗ってるのかもしれないと思ってたら、メンバーが呑気に手を振って、そしたら向こうも返してくれて。リムジンに乗ってるようなタイプは、どういう人か考えようよって思いましたけど(笑)。

水江P : あれ、すごかったですよね。横の3台白いリムジン。みんな結構ピースフルな感じで。あれで「うるせえ、くそ!」みたいなこと全然なくて。もちろんそう思ってる人も中にはいるかもしれないんですけど、概ねみんな笑顔になってくれるから。すごい当たり前ですけど、こういうエンタメの仕事してて、お客さんも笑顔で周りの人も笑顔になってくれて、改めていいなって思いましたね。

ーー渡辺淳之介さんの本にも書いてありましたよ。あの人、BiSでメンバーを追い込むようなことばかりやってきたけど、これは誰も笑顔にしないってことに気付いたって(笑)。

水江 : はははははは(笑)。

ーーその結果、BiSHではメンバーを追い込まず、笑顔になるように心掛けて、お金をちゃんと払うシステム作りが完成したんですよね。

水江P : なるほど、たしかに笑顔、つらそうだったもんなあ…。

ーーEspeciaのデビュー当時、一緒にイベントやったんですよ。プロデューサーの清水(大充)さんが打ち上げに合流して。その日、メンバーが全然ライヴのこと呟いてないなって思ったら「説教して泣かせてきたんです!」って言ってて。で、打ち上げでhy4_4yhが仲良く飲んでたら、清水さんが「うわー、アイドルってこんな楽しそうに話すんですね!」「僕BiSとEspeciaしか知らないんで、こういうの見たことないんですよ!」って(笑)。

水江P : はははは! 追い込み系ですもんね(笑)。

ーーつばさはどんな会社なんだって思いました(笑)。そう思うとStereo Tokyoは意外と平和なグループですよね。もっとみんな消耗してると思ったんですよ、今までの流れを見ていて。

水江P : 普通に守られてると思いますよ。もちろん、よその幸せそうなグループに比べたら、全然消耗してると思うんですけど。僕もウチの極端な例しか見てないんで、メンバーが体調的にきつかったりとか、人に何か言われるのがきついみたいなのをたまに言われることがあっても「そんなの全然マシでしょ!」としか思わない(笑)。ウチの極端な例が基準だから、「こんなのでそうなっちゃうの?」 とか(笑)。

ーー俺は全然追い込んでないのに、と(笑)。

水江P : 「他はもっとひどいよ!?」みたいなってなっちゃうんですけど、つばさが変なところなんですね、たぶん。BiSがそうやっていろいろ前例を作っちゃったんで。だから地方とかも車で行ってたんですよBiSは、どんな遠いところでも。だから普通にウチの会社で福岡に行きますみたいなので、普通に新幹線とか飛行機みたいなのを申請すると、「いや、BiSは車で行ってるじゃん!」って平気で言うんですよ(笑)。

ーー余計な前例があるせいで(笑)。

水江P : 「なんでBiSは車なのに水江は楽しようとするの?」って感じで言われるから(笑)。

ーー全部渡辺さんのせいですね(笑)。

水江P : ホントそうです(笑)。悪しき慣習も産まれてますね。

ーー車で行って、食事は炊飯器を持ってきなよって(笑)。

水江P : そうそうそう(笑)。「なんで地方で普通に焼肉食ってるの? コンビニ飯でしょ」って(笑)。僕はちょっと心に決めたことがあって。そういうある程度会社として結果を出したと認められてる人がそうやって前例を作ると、後ろが全部その余波を食らうことになるので、いまアイドルではない、女の子もやってるんですけど、そっちはそっちで調子がいいので。

ーーボクもミスiDで接点ありましたよ。

水江P : そうですよね、ありがとうございます。いまメジャー・デビューして、それなりになってきたので、あえてお金を使うようにしてるんです。またそういう倹約をして、次の人が「あの子は売上たってきても夜行バスだったよ」って言われるとかわいそうだなって思うんで、僕は絶対そういうのやめて、新幹線とかで移動させるようにして。それも一個の仕事だなって思って。

ーー手塚治虫先生が最初に低賃金でアニメを作っちゃったみたいなもんですよね(笑)。

水江P : ホントそうです(笑)。ちゃんとお金を使って、クリエイターの人にも払うし、メンバーにも払うし、まともな会社にしようと思ってるんですよ。ずっと詰められてるんですけどね、経理に。「お前は金遣いが荒い」って(笑)。だから、文句つけられないくらいちゃんと売上も立てていかなきゃなって思ってますね。

ーーすごいちゃんとしてる人じゃないですか!

水江P : ちゃんとしてるんですよ。常識的なんです(笑)。

ーー外見をEDMに寄せちゃったせいで、あまり伝わらないですけど(笑)。

水江P : ははははは! 僕はホント常識的だと自分で思ってるんで。

ーー話題作りだけじゃないっていうのすごいわかりました。CDやリリイベをやめるとのも、ちゃんと筋は通ってる。

水江P : ホントですか? ありがとうございます。豪さんにそう言っていただけると。世の中の人たちはどう考えてるんですかね?

うまく疲弊せずにいける道はないのか

ーーたまにアイドルのメジャー・デビュー記念イベントに呼ばれてトークで絡んだりするんですけど、メンバーにハッキリ言いますからね。「メジャーにいくっていうのは全然めでたいことじゃないんですよ。むしろ流通が減ったりして、今までインディーだと買えてたCDが全然タワレコに置かれなくなったりとかもあります。売れないと、すぐに放り出されます」って。

水江P : ホントそうですよね。Stereo Tokyoもメジャーの話とかくるんですけど、結局あの人たちがアイドルに声かけるのって、何枚は売ってくれるだろうってだけじゃないですか。

ーーリリイベで確実に売れるから。

水江P : そうそう。他のアーティストがダメじゃないですか、いまCDが売れないから。そんな中で、言わばお金儲けの道具みたいな感じで、どんだけ積めるのとか、どんくらいリリースできるのとかが求められてる。

ーー「どれがいいのかよくわからないけど、アイドルを何組か契約してれば1個くらい当たるだろう」ぐらいの感じなんですよね。

水江P : ホントそうです。で、少なくともいっぱいリリイベ組ませれば赤字にはならないし、みたいなのがすごい多くて。メジャーにいくっていうのは、そういうことじゃないですか。そうすると、やっぱりみんな疲弊しますよね。うまく疲弊せずにいける道はないのか。そういえばあれ、豪さんが言ったんでしたっけ。「アイドルは無理に武道館とか目指さなくてもいい」って。

ーーああ、そうです。新宿ロフトでトークイベントやって、その後でつぶやいたことが拡散されて。

水江P : あのトークショー、僕も普通に聞きに行ってたと思うんですけど。

ーーそうなんですか! 要するに、みんな無理して武道館を目指さなくても、それはそれで儲からなかったりするから、リキッドルーム辺りでワンマンやって物販で食べていけるバンドみたいに、程よい位置で続けていく道があるんじゃないのかって言ったんですよね。

水江P : 僕もホントそうだと思ってて。そういう道ありそうですよね。みんな無理して武道館やったりするじゃないですか。

ーーで、それっきり武道館でやれない人とか山程いますよね。

水江P : います。半分くらい客席を潰して、形だけやりましたってなっても、オリコンチャートと一緒で「アイドルが武道館やりました」っていっても、「よっしゃー、それなら『Mステ』に出そう!」とかならないと思うんですよね。だから、手段と目的じゃないですけど、目的はなんなのか。武道館をやるってことが目的じゃないと思うんですよ。武道館を武器に何かをやらなきゃいけないんだと思うんですけど、その何かがない状態で…。

ーーでんぱ組みたいに、武道館がパンパンになるくらいじゃないとやる意味ないです。

水江P : ですよね。一時多かったじゃないですか。2年前くらいですか。みんな武道館やるみたいな。武道館のありがたみもないですしね。なんでみんなそんなに武道館でやりたがるんですかね? ロック・バンドとかがやるんだったらまだわかりますけど。なんでアイドルがことさら武道館にこだわりを持ってるのが僕は全然イメージできない。

ーーそういう意味では、無理に大箱でやらなくても高額チケットが売れるようになればちゃんと食べていけるみたいなシステムを作れるわけですよね。

水江P : ホントそうです。Stereo Tokyoは、いまそれができつつあるんです。僕らもどこがゴールとかないですけど、フェスとかに呼ばれて、国外だったら国外に行けるようになって、それが5年10年ってできれば全然オーケーだと思うんですよね。アーティストとして活動できて、みんながご飯食べれて。

ーーただ最初は「子供がEDMをやってる」的なインパクトがあったのが、5年10年やると結構しっくりきちゃう問題もあると思うんですよ。

水江P : ホントそうですね。そういうベビメタ的なギャップ。

ーー子供がヘヴィメタルやってます的な。

水江P : 全然EDM知らないだろう年齢層の人がやってるっていうギャップももちろんあるんですけど、1個気づいたのはクラブ・イベントって夜やってるし、昼やってても18歳以下立ち入り禁止みたいなイベントがいっぱいあって、ウチは出られないっていう(笑)。

ーーあ、そもそも出演者が未成年だとその問題があるんですか!

水江P : 出れないっていうのはありますね。

ーー何年か後じゃないと出れない無理っていう(笑)。

水江P : スポンサーがタバコとかお酒とかで、そもそも成人しかいないっていう前提でスポンサーは売ってるから。

ーーそもそも、そこに出るようなアーティストは成人だろうっていう発想で。

水江P : じゃあ出られねえじゃんって(笑)。それも18歳越えたりすると、ちょっとまだ話が変わってくると思うんですけど、25歳くらいのおっぱいとか出してる人がEDMやっててもちょー普通じゃないですか(笑)。世界のEDMシーン的には全然普通じゃないんですけど、日本におけるEDMのイメージだとそれっぽくなっちゃいますよね。

ーーだから、メンバーはEDMとか詳しくなっちゃいけないだろうとは思ってます。

水江P : そうだと思うんですよ。今の何も知らない状態がある種おもしろくはあるんですよね。

ーー水江さんのやろうとしていることが、今回ようやくわかりましたよ(笑)。

水江P : ありがとうございます(笑)。

約2ヶ月にわたる連載もこれにて終了です。

お読みくださり、ありがとうございました!!

連載第1回 はじまり編

連載第2回 南波一海によるメンバー・インタヴュー前編

連載第3回 南波一海によるメンバー・インタヴュー後編

連載第4回 解散をかけた、三浦菜々子大マラソン大会

連載第5回 平賀哲雄によるメンバー・インタヴュー前編

連載第6回 平賀哲雄によるメンバー・インタヴュー後編

連載第7回 autoclef(サウンド・プロデュース)インタヴュー

連載第8回 すーさん(Stereo Tokyoファン)インタヴュー

連載第9回 ELE TOKYO直前メンバー・インタヴュー

連載第10回 吉田豪によるメンバー・インタヴュー

これまでのリリース作品をチェック!!

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>>>>アイドル・オタクはどこまでパリピになりうるのか?ーSTEREO JAPANディレクター・水江に訊くEDMの現在とこれから
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PROFILE

Stereo Tokyo

Stereo Tokyoは日本で最も独自なガールズ・グループです。
その人数は6人で構成されています。
その最もな特徴は、かわいいこと、そしてクラブなことです。

Official HP

[連載] STEREO JAPAN

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