2012/03/07 00:00

次世代ニュー・ジャズ・セクステット、10年目のファースト・アルバム

これは洒落ている! むかし西麻布のバー・ラウンジ「VERANDA」で、ひとりカウンターに座り、豆腐料理に舌鼓を打ったことを思い出させるような音。egoistic 4 leavesの結成10年目にして初のアルバム、『aluva』を聞いたときのことだ。彼らは変拍子やポリリズムを大胆に取り入れた、名古屋の次世代ニュー・ジャズ・セクステット。ジャズはもちろんラテン、ポスト・ロック、エレクトロニカなどさまざまなフレイバーを効かせ、スタイリッシュでクールな演奏で魅せてくれる。sgt.L.E.D.MASなどの作品をリリースしているPENGUINMARKET RECORDSからの発売という点にも注目だ。

今回、メンバーから理系のビート・ジャンキー・林礼一(ドラム)と、文系の盛り立て屋・河瀬浩二(ギター)が登場。各々の意外な音楽遍歴、10年間名古屋でやり続けてきたこと、まさにベスト盤といってもいい新譜について語ってもらった。「クラブ・ミュージックをパンクでやる」「thinkからfeelへ」「どこか崩したい」と、エモーショナルな発言も。ライヴが見たい!

インタビュー&文 : 福アニー

egoistic 4 leaves / aluva
変拍子・ポリリズムを大胆に取り入れ、スタイリッシュなジャズを魅せる、名古屋の次世代ニュー・ジャズ・セクステット、egoistic 4 leavesの、結成10年目にして初のアルバム。ジャズ、ラテン、アフロ、ハウス、エレクトロニカなどの様々な音楽的要素を、ダンサンブルでミニマルな楽曲としてアウト・プット。彼らの名刺代わりであり、ベスト盤といってもいい1枚。

【Track List】
1. trim / 2. gestalt / 3. arupmet / 4. egaus / 5. iaru-five / 6. nepnah / 7. utaknot / 8. egaarak / 9. azoyg

自分たちのことをライヴ・バンドだと思っている

――音を聞いたときに思わず六本木や麻布十番のバー・ラウンジに行きたくなったんですが、失礼ながら名古屋のバンドだと知って驚きました。名古屋でスタートしたんですか?

河瀬浩二(ギター/以下、河瀬) : はい。もともとパンク・バンドをやっていたんですけど、そういう音楽じゃないことがやりたいと思って。でもまったくあてがなかったので、「仲間を集めてよ」って礼一に声をかけたのがはじまりです。
林礼一(ドラム/以下、林) : 僕、河瀬、辻井(伸太郎/ベース)は岐阜の高校の同級生なんです。声をかけられた当時、僕も別でパンク・バンドをやっていたんですけど、たまたま名古屋で会ったときにバンドやろうよって話になって。大学の同級生と後輩、専門学校の同級生を誘ってスタートしました。
河瀬 : 結成したのが10年前。その後ベースが辻井に変わって、5年前に堀嵜(ヒロキ/パーカッション)、3年前に深谷(雄一/ドラム)が入っていまの編成になりました。

――へー、おふたりはパンクスだったんですね。意外です。他のメンバーは?

林 : 辻井は僕と一緒にパンク・バンドをやっていて、あとはクラシックとメタルあがり。バラバラです。

――自主企画名が「blue in green」だったので、みなさんマイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスもお好きなのかと。

ふたり : 大好きです。モロそこからです。
林 : エレクトリック・マイルス、ジャズ、クラブ・ミュージックは共通項なんですけど、6人それぞれ別々のものを聴いてるんで幅は広がりますね。
河瀬 : X JAPANからHi-STANDARDまでね。

――それがどうやっていまの音楽性に結びついていったんでしょう?

林 : 昔はいまと全然違って、ジャム・バンドに興味があったんです。
河瀬 : 僕と花田(大輝、キーボード)がSouliveやMedeski、Martin & Woodが好きで、その辺直球の音楽をやっていましたね。
林 : でも堀嵜が入ったあたりから、僕はずっとニュー・ウェーブやエモやポスト・ロックをやっていたので、そういう要素も入れ始めて。
河瀬 : その後、深谷が入ってツイン・ドラムになってから、ドラムの構築をすごく考え出して、いまのようになったかな。

――今回、結成10年にして初のアルバム『aluva』を出すことにも驚きました。なぜ、いままで音源を出してこなかったんですか?

河瀬 : レコーディングはここ数年で何回もやっていました。でも伝えたい熱量やライヴ感が全然出しきれていなくて、僕らじゃないなと思って出さなかったんです。自分たちのことをライヴ・バンドだと思っているんで。

――でも今回出せたということは…。

林 : すごく、ふっきれた感はありましたね。ちゃんと出そうって決めて、時間とお金の制約があるなかで録り始めたので、失敗しちゃいけないって考えるより、思いっきりやろうって。ライヴをイメージして演奏したので、勢いよくダイナミクスをつけちゃったり。
河瀬 : うん、僕のできる幅はこんだけなんだから、それを出せたらいいやって。思いっきりやったらいいノリが生まれたし、満足できたんです。

「クラブ・ミュージックをパンクに演奏する」

――ちなみにこの10年間、みなさんは名古屋でどうやって過ごしてきたんですか?

河瀬 : 僕は早くに結婚したんで、普通にいいパパしてます。言っちゃったー!
林 : メンバー4人が同い歳なんですけど、みんな所帯を持って仕事をしながら、二足のわらじでやってます。

――名古屋でやり続ける原動力もそこにある?

林 : そうですね、みんな生活があるっていうのもありますけど、バンドとしてよりローカルを意識したいんですよね。支えてくれてる地元の人たちに返していきたいって気持ちが強い。

――でも音楽と生活、バランスを取るのが大変そうですね。

林 : 大変です。練習もそろわないことが多いし、ライヴもギリギリまで来れない人がいたり。
河瀬 : 僕、ライヴで最後の一曲だけに参加したこともあります。演奏中にステージによじのぼってギター弾き始めたんで、お客さんも「なんだこれ? 」「えー! 」みたいな。
林 : そんときキーボード(花田)がギター(河瀬)のいないプレッシャーに耐えかねて、ステージ袖で吐いてたしね(笑)。

――(笑)。以前OTOTOYで名古屋特集をやっていたんですが、それはロック中心だったんです。ジャズ事情はどんな感じなんですか?

林 : 昔はコンテンポラリー・ジャズやクラブ・ジャズの人たちと一緒にやってたんですけど、いまはわからないなあ。でも名古屋はクール・ジャズが強いみたい。ロック・テイストのジャズ・バンドっていうのはあまり耳にしたことがないですね。

――他の地域との交流は活発?

林 : 東京にstim、大阪にmiddle9ってかっこよくて仲がいいバンドがいるんで、自主企画で呼んだりしてます。レーベル周辺が多いかな。

――レーベルというと、新譜はsgt.L.E.D.も所属しているPENGUINMARKET RECORDSからのリリースになるんですよね。どういった経緯があったんでしょう。

林 : PENGUINMARKETってsgt.のメンバーがやっているレーベルなんですけど、egoistic 4 leavesとsgt.が共演する機会があって仲良くなって。今回のアルバムは、自分たちの好きな人とだけかかわりたかった。だからレーベルもPENGUINMARKET以外とやるつもりはなかったですね。
河瀬 : PENGUINMARKETのアーティストってみんなかっこよくて大好きなんですよ。そこで出せるんだったら誇りに思えるなって。

――同じレーベル所属ということで、L.E.D.MASが引き合いに出されることもあると思いますが、どういうところで違いを見せていきたいですか?

林 : 自分たちなりのジャズ感やパンク感を大事にしつつ、リズムとコードのコントラストは他のバンドと変えていきたい。「クラブ・ミュージックをパンクに演奏する」ってイメージですかね。どの曲も徐々に激情があふれてきて、最後に爆発するような。

いまは、考えることより感じることのほうをフォーカスしてますね

――音源はクールでスタイリッシュな印象ですけど、ライヴはアグレッシヴ?

ふたり : ひどいです。頭振りまくるから、終わったらぐたーってなる。
河瀬: ライヴのコンセプトは「やりきる」。下手でもいいから出しきって、乳酸ためたら勝ちみたいな。翌日はむち打ち状態になるくらいやります。

――それにしてもツイン・ドラム、パーカッション、ベースとメンバーの半数がリズム・セクションですよね。やはりビート重視?

河瀬 : それはあります。曲を作るときのセッションもドラムから始めるんで。礼一が変なビートを叩き始めて、これ何拍子だ、じゃあそこにあわせてポリリズムを入れようとか。
林 : バランスにこだわりながら、いま自分たちが新鮮に思うところでまとめていきますね。ポスト・ロックやクラブ・ジャズになりすぎたらダメで、微妙なジャズ感やニュー・ウェーブ感は大事にします。

――ツイン・ドラムとパーカッション、三者三様の違いを出していくところで意識している点はありますか?

林 : 違う拍子を刻んでもひとつのパターンになるとか、同じ拍子なんだけど別々の位置を叩いてひとつのフレーズにするとか、なるべく一辺倒にならないようにしています。
河瀬 : パーカッションはその間を縫う感じでふたつをつなぐように、3人でひとつのリズムを生みだしてる感覚はありますね。僕やキーボードは違う時間軸で動いていますし、そのなかでいかに聞きやすいフレーズを出すかっていうのを意識しています。例えば「utaknot」のアルペジオのフレーズとか。

――アルバムを作るうえで、とくにこだわったところはありますか?

林 : このコードはきれいだから、ちょっとリズムを複雑にしたいってバランスを大事にするところはあります。あと拍子もこだわりたい。昔は計算して数学から曲を作ってた時期もあって。いまはわりかしシンプルになってきましたけど。
河瀬 : 最近4拍子で作り始めたしね。
林 : でも僕たちらしさを失わないように、ひねりはきかせたい。きれいなメロディーだったらガッと盛り上げるのもいいんだけど、ずっと同じ繰り返しでじわじわ盛り上げるにはどうしようとか。「egaus」はまさしくそれで。
河瀬 : 単調なまま聞かせたいけどフックも効かせたいっていうね。ちなみに「gestalt」が、僕の思うかっこいい曲。起承転結がものすごくほしいタイプなので、ガーッとあげたいところはあげたいんですね。次々と音を重ねていって感動を呼び起こすような。

――おっしゃるように新譜は展開が多い曲があったり、ミニマルな曲があったりと幅広いですよね。

河瀬 : それぞれの好みが反映されていると思います。多分、礼一は「gestalt」はやりすぎと感じたと思う。
林 : あー、そういう話になったよね。最後の一番盛り上がるところが結構キラキラしていて、自分ではやりすぎって爆笑していたんですけど、みんながいいって言うからOKに。
河瀬 : 僕ともうひとりのドラムのごり押しです。キーボードはわりと静かで変化を求めない感じが好きかな。彼が一番おしゃれ感を求めるかもしれない。
林 : コード感とかね。「arupmet」はとくにコードが立っていて、それこそ「blue in green」がかなりモチーフになってます。あまりにきれいだったんで、どうやって僕ららしさを出すかっていうので11拍子になった。

――「arupmet」は11拍子だし「utaknot」は15拍子だし、拍子ジャンキーなんですか?

林 : 11拍子に関しては、このリズムで絶対曲を作りたいってこだわりがあったんです。15拍子は自分たちの曲にない拍子って何拍子だろうって数えていったら、15がなかったので。
河瀬 : 9拍子、13拍子、21拍子とかすでにあるしね。

――おふたりとも理系?

林 : 僕は理系です。当時はコンセプチュアルに作ったほうがかっこいいし美しいと思っていた。片方が同じパターンでやっていて、もう片方がころころ変わっても、ちゃんとはまるようにしようとか、そういうコンセプトから作っていて。でもいまは、考えることより感じることのほうをフォーカスしていますね。新譜はGAKU MCさんの言葉を借りれば、「究極の9曲」になったかな(笑)。

やっぱり自分のやりたいことをやりたい

――OTOTOYの東日本大震災救済支援コンピ『Play For Japan 2012』にも参加していますね。

河瀬 : パーカッションの堀崎が個人的に被災地に行って演奏したり、僕らも自主企画のチケット代の一部を募金したりしていたので、音楽を通して復興のお手伝いができるんだったらぜひやりたいということで参加させてもらいました。提供曲は5曲目の「iaru-five」なんですけど、まだライヴでもやってない新曲で、アルバム用に書き下ろしました。
林 : この曲はいままで作った曲のなかで、一番時間をかけて作ったよね。
河瀬 : 2年くらいかかったかな。モチーフはあったけど納得するアレンジに至らなかった曲と、全然違うところから出てきた曲をあわせてっていうおもしろい作り方をしました。
林 : 前半の部分は数学的な作り方でクールに… 4拍子と5拍子を同じ尺で割るみたいな。後半の部分はもっとエモーショナルに。理数系と体育会系が合致しましたね。

――震災から1年経ちましたが、どういう思いで名古屋の地で音楽に、生活に、震災に向き合っていこうと考えていますか。

林 : 僕は非営利団体に所属しているので、そのメンバーが復興支援のセミナーを開いたり、いろんな人の話を聞いたり、活動を見たりしてるんです。そのなかで思ったのは、やっぱり自分のやりたいことをやりたい。でもそのなかでかえしていけたり、貢献できたりすることがあればしていく。自主企画のチケット代の一部を募金しているのもそういう思いがあるからです。

――最後に、アルバムについて一言お聞かせください。

林 : 僕はローカルな人間なので、友達やファンや地元の人たちが耳にしてくれて、すごいよかったよって言ってくれたらほんとに嬉しい。あとちょっとでも音楽に興味がある人には聞いてほしいし、それでちょっとでも気分がよくなってくれたり、その人たちにとって特別な一枚になってくれたら嬉しい。ホワイト・デーに出すので、大切な人にプレゼントしてもらいたいですね。
河瀬 : 僕らの音楽を聞いた人たちの感想がつながっていって、何かしらのうねりや波を起こせたらなって思います。

egoistic 4 leaves LIVE SCHEDULE

2012年4月15日(日) @下北沢 ERA
w / UHNELLYS / nenem / MIRROR / WOZNIAK / egoistic 4 leaves

2012年4月29日(日) @名古屋 新栄CLUB MAGO&live lounge vio
w / jizue / UHNELLYS / NINGEN OK / ホテルニュートーキョー / mississippiroid / palitextdestroy / ¥1980 / egoistic 4 leaves

2012年5月12日(土) @神戸 LIVEACT BAR VARIT.
w / memento森 / bradshaw / 他

2012年5月20日(日) @京都 METRO
w / LOW-PASS / 他

2012年6月16日(土) @金沢 social
w / NINGEN OK / 他

2012年6月23日(土) @渋谷 O-NEST
w / stim / 他

2012年7月7日(土) @大阪 conpass
w / middle9 / 他

2012年7月8日(日) @名古屋 新栄live lounge vio

RECOMMEND

MAS / えんけい / En Kei

Rock、Dub、Jazz、Electronicaを内包した音楽性のMASの3rdアルバム。過去2作から格段に進化したサウンド、そして様々な情景や感情をゆさぶる美しいメロディやリズムが踊る最高傑作。シンプルで複雑、ポップでアンチ・ポップな全9曲収録。ゲスト・プレイヤーとしてpasadena/あらかじめ決められた恋人たちへの石本聡がdub mixで、BALLOONSの塩川剛志がギターで参加。ジャケットを手がけるのは創作漫画集団mashcomixメンバーであり、MASの1st、2ndも手がけた仙こと軍司匡寛。

sgt. / BIRTHDAY

フル・アルバムとしては前々作「Stylus Fantastics」以来、実に3年振りとなるsgt.の新作! sgt.特有でもある楽曲のストーリー性はいつも以上に増し、全体を通しコンセプチュアルな内容となっている。圧倒的な演奏力とダイナミックな破壊力、緻密かつ完璧なアンサンブル、そしてどこまでも美しいバイオリンで、スリリングに魅了するsgt.の最高傑作が遂に完成!

L.E.D. / LIVE at SHIBUYA WWW 2011.12.27 (HQD ver.)

2011年4月にリリースされた原田郁子をゲストに迎えてのボーカル・トラック「I'll」(『elementum』収録)が多くの話題を集めた彼らのライヴを、高音質DSDで録音。収録するのは2011年12月27日、渋谷WWWにて行われたライヴから未発表曲を含む全6曲。当日は漫画家、映像作家のタナカカツキ、そしてWEBディレクターであり、ダブ・バンド、negoのVJとしても活動するVJ mitchelとのダブルVJで映す色鮮やかな映像の中で演奏した彼ら。その非現実的なほどに美しい空間を、高音質音源とフォト・ブックレット(30ページ)で追体験してください!

egoistic 4 leaves PROFILE

DRUMS : 林礼一(DOIMOI,SU:)
GUITAR : 河瀬浩二
KEYBOAD : 花田大揮
BASS : 辻井伸太郎
PERCUSSION : 堀嵜ヒロキ(KITO,Akira Brass Band!,KASH,Angelo Aquilini BAND)
DRUMS : 深谷雄一(native,the brooch)

ツイン・ドラム、パーカッション、ベース、ギター、キーボードの6人が織りなす変拍子・ポリリズムを多用したダンサブルかつミニマル・ニュー・ジャズコンボ。

クールな楽曲・エモーショナルな演奏が好評を得る。
自主企画「blue in green」、「for a day」はチケットが売り切れる程注目を集めている。
2010年10月に”PENGUINMARKET RECORDS”5周年を記念したコンピレーションアルバム「WORLD PENGUIN'S CARNIVAL 2010」に参加し、待望の初音源をDROPする事に。

>>egoistic 4 leaves Official web

この記事の筆者

[インタヴュー] egoistic 4 leaves

TOP