ボーカロイド音源を扱う新レーベル、GINGA発足!!
ROVOを擁する日本のインディーズ・レーベル、wonderground music。その中に新たなレーベルGINGAが作られ、ボーカロイドを使用した曲を集めたコンピレーション・アルバム『0001:a galaxy odyssey』と『0002:a galaxy odyssey』の2枚を同時配信する。収録されている楽曲は、歌モノのドラムンベース、エレクトロニカ、ノイズなどとても幅広く、今までのボーカロイドのコンピレーションにはあまりなかった視点で選ばれている。そんなコンピレーションを作ったGINGAの主宰者・曽根原僚介に話を聞いた。
(インタビュー&文 : 滝沢時朗 a.k.a タキペディア)
新レーベルGINGAが発掘した、まだ見ぬP達の音源をこだわりのマスタリングでお届け!
0001: a galaxy odyssey / V.A
配信形態
1) WAV 用マスタリング音源(16bit44.1kHz)
2) mp3 用マスタリング音源
参加アーティスト
秋葉原空港、ヒッキーP、Phasma、sansuiP、nana[Sevencolors]、椎名もた[ぽわぽわP]、ニシジマユーキ、kichi、Kusegumi、NITMORIY、Kagem、Lemm、不始末
01. ChaiN De/structioN Rev.2 (ニシジマユーキ) / 02. GALAXY SPACE LINES (NIYMORIY) / 03. KiKi (Phasma)
04. 地下鉄vs高速道路 (Kagem) / 05. お前らポストロッカー (ヒッキーP) / 06. Mebaetame (sansuiP)
07. Cryin' Girl (nana[Sevencolors]) / 08. Fictitiousphere (Lemm) / 09. JAPandra (秋葉原航空) / 10. ハイイロの海岸 (kichi)
11. Kueri (Kusegumi) / 12. 架空のうた (不始末) / 13. ソラのさかな (椎名もた[ぽわぽわP])
0002 : a galaxy odyssey / V.A
配信形態
1) WAV 専用マスタリング(16bit44.1kHz)
2) mp3 専用マスタリング
参加アーティスト
ARuFa、competor、大丈夫P、KTG、geppei-taro、effe、ゆに、KIT、らいふ、FICUSEI、take、MIDNIGHT OFFICE、nekobolo
01. Plan O Outer Space (competor) / 02. musion (KTG) / 03. Miknotechnica (KIT) / 04. 濁点 (ARuFa)
05. Dissociative Texture (FICUSEl) / 06. 光の雨 (geppei-taro) / 07. 砂と重力 (take) / 08. ハートブレイカー (MIDNIGHT OFFICE)
09. 中空リプライ (らいふ) / 10. ミクサン (大丈夫P) / 11. MAGIC α (effe) / 12. SwallowS (ゆに)
13. 空中サイレンサー-Remotion-(nekobolo)
最高なヤツらだなって日々痛感します
ーーwonderground music内にGINGAを設立した経緯を教えてください。
曽根原僚介(以下、S) : wonderground musicは経営者が二人いて、ROVOみたいなインストものとロッキング・オン・ジャパンにも出るような若いバンドの二路線に分かれています。僕は入ってもうすぐ4年になるんですけど、去年の夏ぐらいになにか新しいことをやっていいってことになったので、じゃあ、ボーカロイドで何かやろうということになったんです。ボカロに関しては、僕は元々テクノやハウス、エレクトロニカ、ノイズも含めて電子音楽全般が好きなので、その流れで面白いなと思いました。僕はボカロが普通に歌うことに使われると思っていなくて、テクノとかハウスとかの声ネタになるだろうなと思ってたんですよ。そう思ってたら、完全に歌に使われていたので、これは面白いなと思いました。
ーー曽根原さんはもともとニコ動にあがっているような同人音楽には興味があったんですか?
S : 一年前までニコニコ動画をあまり見ていなかったんですけど、サービスが始まって最初の1、2年の時は働いていなくてニートだったので、ちょうどその時はずっと見てたんですよ。だから、全く知らないわけでもないし、面白そうだからやってみたいと思って動き出しました。あと、ゲームが好きなので、東方アレンジにも興味を持っていて、M3とかの即売会に行ってCDを物色したりはしてました。だけど、シューティングがめちゃくちゃ下手なので本家のゲームはやったことがないですね。ある程度文化は知っているという感じです。
ーーGINGAをやるにあたって改めて色々と調べたんでしょうか?
S : そうですね。最初は素直に「VOCALOIDランキング」の上位を見てましたね。でも、そこにいるような人たちは大きい会社のコンピレーションにもう入ってしまっている。しかも、何ヶ月かの単位で見てみると、100位ぐらいまではほぼ入れ替わらないんですよ。そこをまた取り上げても面白くないし、僕がやる必要はない。じゃあ、どうしようかなと思ったときに、ジャンルのタグで「ミクトロニカ」とか「ミックンベース」「ミクノイズ」っていうボカロを使った電子音楽の分類を見つけて、そういう趣味に分かれたコミュニティの使い方もわかってきたんですよ。それで、まずそこを頼りになんとなく曲名とフィーリングで決めた700曲ぐらいをひたすら聞き続けたんです。その中からまた絞って、100曲ぐらいになったところで、はじめて誰が作ってるのか意識したり動画を見て、調べていきました。今回のコンピに入ってる人で言ったらヒッキーPの「魔ゼルな規リン」っていう曲があってですね。
ーーノイズやジャンクのアーティストの魔ゼルな規犬からつけてるんですね。
S : そうですね。そんなアンダーグラウンドなところからタイトルをつけるのは面白いなと思って、検索にかけたら他の曲も出てきたので聞いていったんですね。そこで、ニコ動でよく言われる「マイリスト巡り」を100人ぐらいやったんです。そこからまた絞って、声をかけ始めたんですね。そういう工程を踏んだので、ランキングにあまり左右されない人選ができたと思います。
ーー「VOCALOIDアンダーグラウンド・カタログ」っていうニコ動内のコンピレーション的な動画がありますよね。名前が出たヒッキーPや大丈夫Pが関わっていますが、参考にされましたか?
S : いくつか見ましたけど、直接そこから見つけた人はいないですね。人選にあたっては、ARuFaさんなんかはボカロ曲からではない「身の回りの物の音でブレイク・ビーツ」っていう動画をあげていて、発想が面白かったから声をかけたり、あとは、M3でも声をかけましたね。収録されている人では秋葉原航空です。ボカロ曲は数曲あげていただけですけど、再生数は200とか300ぐらいだけど、ボカロでダブをやってて、かっこよかったので、今どんなのをやってるか聞いたら、アンダーグラウンド・ヒップ・ホップですって言うから、それもよかったのでお願いしました。
ーーそのいいアーティストを見つけていく作業は、wonderground musicでやっていることと違いが大きいですか?
S : ネットを起点にしているだけで、そんなに変わらないですね。インディーズ・レーベルってライブ・ハウスに出演してる人たちとか、デモ・テープ送られてくる中から聞いてみて、よかったらライブに足を運んで、そこで気に入ったら声をかけて、色々とコミュニケーションをとってCDを作ったり、マネージメントをするんですね。今回もそれに忠実にやってて、有名無名とかじゃなくて、単純にかっこいいから出したくなるような人を選んでいます。あと、うちがやるからにはボカロのシーンにはあまりない視点で、こういうことをやってるなら違う種類のリスナーからもっと反応をもらえるだろうなっていう人に声をかけましたね。ヒッキーPなんかは関西ゼロ世代とかのぶっ飛んだバンドに近い感覚がありますから、そこら辺が好きな人には聞いて欲しいですね。
ーーニコ動があって、その中にあるボーカロイドのシーンはそれはそれで豊かなものなんだけど、wonderground musicの視点で見てみると、また違う面白いものが見つかるって言うことなんですね。
S : そうですね。うちのレーベル理念に基づけば、アンダーグラウンドでもオーバーグラウンドでもない中間のもの、そこに面白いものがある。だから、ワンダーグラウンドっていう名前なんですね。この理念の通り、世間的には目も触れてないような音楽文化を認知してもらうことが、インディーズ・レーベルのすることのひとつです。それを同じようにボカロでもしたい。それから、良質なリリースを続けて、信頼を置いてもらえるようなちゃんとしたブランドを作って、紹介し続けるっていうレーベルとしての基本的な機能を果たしたい。ここに収録されている人たちは評価されてないとは言わないんですけど、音楽ファンの大多数の人に知られていないとは思うんですよ。でも、彼らや彼らがもとにしている音楽を知らなくても、ボカロだからっていう理由で聞いてくれる人は結構いると思うんです。そこから、このコンピに収録されているクラブ・ミュージックや実験的な方向の電子音楽に触れて、これもかっこいいなって思って欲しい。そういう人が増えれば、果ては日本のアングラ・音楽シーンが潤うかなとか思って(笑)。うちにはROVOとかいるからわかるんですけど、今は本当に高年齢化が叫ばれてるんですよ。
ーー高年齢化ですか。
S : おいくつですか?
ーー29歳です。
S : 同い年ですね。ROVOとかのライブではそれより下が少ないんですよ。20代前半の大学生とかって、そもそもそういう音楽を知らないんです。知ってる人は結構、極端な人で二分化してるんですね。そこを引っ掻き回したいとも思っていて、今回はアングラ臭があるものもレーベルとしてうち出しているんです。逆にアングラな人たちにもボカロでそういう曲もあるんだよっていうことが伝わればいいと思ってます。それができたら一番面白いですね。
ーー収録されている中ではPhasmaとsansuiPは、ボカロでない曲でBunkai-kei Recordsからもリリースがありますね。
S : 僕は最初はそのことを知らなかったんですよ。ネット・レーベルの存在は知ってたんですけど、聞いたことはない状態だったで、PhasmaさんからBunkai-kei から今度出るんですって聞いて、知ったので。
ーー意図せずしてBunkai-keiと感覚が交差する部分があったんですね。
S : そうなんですよね。全く意図してなかったので、びっくりしました。ネット・レーベルと積極的にからんでいる2.5Dも、また名前は知ってたんですけど、nana(sevencolors)さんがDJしに行っていてつながりが少しありますね。もっとそういう形で広がっていけばいいなと思います。
ーー商業レーベルもネット・レーベルもボーカロイドのシーンも混ざっていけば、もっと面白くなりそうですよね。
S : でも、それもすごくアンダーグラウンドな動きで、多くの人には知られていないですよね。ネット・レーベルにも大阪の難波ベアーズみたいなアングラなライブ・ハウスに似た雰囲気を感じます。そこも含めてボカロを入り口にして知ってもらえたらなと思います。
バラバラではなくてGINGAっていう軸はあると思ってます
ーー今回のコンピではどんな楽曲が欲しいというようなオーダーはしましたか?
S : このコンピは90%ぐらいは書き下ろしなんですけど、どんな曲がいいですか? ってみんな聞いてくるんですよね。でも、僕は参加してもらってる人たちにボカロ曲じゃなくてもいいって言ってたんですよ。10分以内だったら好きにしていいって。それはボカロを使ったほうがいいんですか? そこも気にしなくていいって言いました。好きにやってくれって言わないと、本当に作りたいものを作ってくれるかわからないですから。僕としてはボカロのコンピを作ったつもりではなくて、ネットを主な活動の場としているアーティストのコンピだっていう気持ちなんです。でも、最初だからみんなボカロを使ってくれましたね。でもcompetorさんの曲はほとんど歌うっていう使い方はしてないし、geppei-taroさんの曲はボカロ自体を使っていないので、どの曲も自由に作ってもらったものです。
ーーアドバイス的なことも言わなかったんですか?
S : これはコンピであると同時に、シングル集っていう感じなんですよ。特にシングルはアーティストの特徴を端的に伝えるっていう役割があるので、ディレクターであったり、第三者の意見が反映されたほうがいいかなって思っていて、それで、まず、最初にラフを聞かせてもらって意見を言います。作り手も自己満足じゃなくて、人に聞かせるために作ってるから、やっぱり人の感想は聞きたいんですよ。そこから色々とやり取りをしていきます。例えば大丈夫Pくんの曲って、最初はあんなに凶暴じゃなかったんですよ。もうちょっと柔らかくて、インテリ臭があったんです。なので、僕はそれでいいの? もっと三人ぐらい殺しますぐらいの雰囲気出ないの? って聞いたんですよ。中途半端な状態より徹底したほうが絶対にいいし、これが全国に流通するとか考えなくていいから、好きなようにもっとやりなって言ったら、どんどん凶悪になってきましたね。最終的にはめちゃくちゃかっこいい曲になったと思います。
ーーマスタリングに益子樹さんを起用したのはなぜですか?
S : 最終的に耳に届く音っていうのはマスタリングされた音じゃないですか。音楽として評価して欲しいから、そこで手を抜けるはずがないですよね。だから、ちゃんと音楽をわかってるエンジニアに依頼するっていうことは、レーベルの品質管理としてかなり大きい役割だし、いいものを作るためにしてあげられることなんですよ。それで、益子さんはボカロ曲のマスタリングなんてしたことがなかったので、なにそれ? って聞かれたんですけど、とりあえずインパクトのあるものを3曲ぐらい送って聞いてもらいました。それを聞いて納得してもらえたので、まず作業の前にボカロの文化の説明からしたんですよね。でも、これは音楽だから益子さんが思うようにしてくれていいし、いつも通り最高のマスタリングをして欲しいって伝えました。それで、今度YAMAHAが開発したVOCLOID3の声が坂本美雨さんなんですよ。坂本美雨さんのエンジニアは基本的に益子さんがやってるんですよ。何の因果か(笑)。
ーーボカロ曲の多くはネットにアップされる前提でP自身が最後までやったものだと思うんですが、コンピレーションにするに当たって、ひとつのパッケージとしてエンジニアにマスタリングを施してもらったほうが特色が出るだろうと判断されたんですね。
S : そうですね。でも、wonderground musicでやっていたことを、そのままやっただけでもあるので、特別なことをしてるつもりは全然ないです。益子さんに頼んだのは、参加してもらってる人たちに喜ばれるかなっていうところもあります。益子さんはサンレコによく出るので、ボカロで曲作ってる人もサンレコを読む人は多いから、それで知ってるんでしょうね。色んなPに益子さんにしようと思うんだけどって相談をしてみたんですけど、「え!? 益子さんいいんですか!? 」って反応でしたよ。
ーー今回のコンピレーションは、ドラムンベースの歌モノだったり、ノイズだったり、アンビエントだったりとすごく雑食性が高いですよね。
S : バラバラではなくてGINGAっていう軸はあると思ってます。それは僕が好きかどうかだけなんですけど(笑)。でも、そういうやり方ができるのが、インディーズ・レーベルの強みですよ。
ーー曽根原さんはアーティストの方たちとよく音楽の話はしますか?
S : ほとんどの人たちとSkypeで連絡を取り合ってるんですけど、僕は音楽理論とかは知らないので、曲のリンクを貼って聞かせあって、感覚とか興奮の共有をしているといったところですね。ものすごく信頼関係が大事だと思ってるんですよ。だから、顔が見えない人とはあまりやりたくないし、僕は90%ぐらいの人とは直接会いに行っています。そうやって、相手のやり方を受け入れるし、自分のやり方も受け入れてもらう。業界人っぽいビジネス・ライクな感じのほうがスムーズなのかもしれないですけど、一緒に何かを作りたいっていう思いがあるから、そういうやり方をしたいんですね。実際に彼らとは、友達とは言いませんけど、フランクなレベルでコミュニケーションを取れています。みんな面白がってからんでくれるし、僕がこういうことしたいんだって投げるとすぐ反応してくれます。これがアップする頃にはもう過ぎちゃってますけど、8月28日に「GINGA」っていうタイトルの曲が15曲ぐらいあがる予定なんですよ。それはこのコンピに参加している人たちが、そういう曲で一分縛りで曲をアップしようってことらしいんですけど、僕が考えたんじゃないんですよ。これに参加してるMIDNIGHT OFFICEさんが思いついて、他のPに相談して、やろうやろうってなって、やってもいいですか? 僕のところに話がきたんです。愛だなとか思って、もうすごくうれしくて。
ーーもうGINGAでまとまりができてる感じですね。
S : その曲も聞いてもらえますかって僕に送ってきてくれて。28日まで聞きたくなかったんですけど(笑)。やっぱり、信頼が大事ですね。何かを起こすとなると、チームワークがないとできないですからね。実際問題として、僕がGINGAをほぼ一人で運営しているので、手伝ってもらえるとすごく助かるっていう側面もありますけど。他のコンピを作ってるところって、10人ぐらいのチームでやっていると思うんですが。でも、一人だと限界があるから、アーティストの助けなしにはできないし、助けが欲しいときはすぐにそう言っちゃいます。情けないけど、コンピについてツイートしまくってくれとか。でも、みんなそれを快く引き受けてくれて、最高なヤツらだなって日々痛感します。
ーー今後はどういった活動を予定していますか?
S : とあるPのソロ・アルバムと、また次のコンピを作りたいと思ってます。今はそのために新しい人に声をかけているところですね。今後はアーティストがやりたいことを一番にやらせたいのでボカロやりたくないって言ったら、GINGAはボカロ限定レーベルじゃないのでそれも受け入れます。元々インストで曲を作っていて、ボカロをやり始めた人もいるので、インストもやりたくて当然ですよね。ボカロ曲じゃなくなるとどうなるかはわからないですけど、才能を認めているのでどんどんやってもらいたいです。
About GINGA
ニコニコ動画を中心とした主にインターネット上で活躍するアーティストをさらに広いフィールドへと昇華させ、音楽的新天地を世の中に問うインテリジェンスな音楽集団を目指す。
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