2年半ぶりの新作は全編ピアノ・ソロ!

KASHIWA Daisuke / 88

自身の創作活動の他、様々なメディアへの楽曲提供、作家、リミキサー、マスタリング・エンジニアとしても活動しているKASHIWA Daisukeの4thアルバムが完成。今作では、これまでの彼の象徴とも言える緻密な打ち込みやオーディオ・エディットが排除され、ピアノ1台・88鍵によって表現されている。流れる旋律の中に溢れ出す、静謐な響きと力強いメロディー。新たな飛躍の一歩となる一枚を、より立体的な音で楽しめるHQD(24bit/48kHzのwav)で販売開始です。


感覚を解体する

作品を発表するごとに確かな存在感を放つアーティストKASHIWA Daisuke。彼は、主にエレクトロニカをベースに、クラシックやアンビエント、ブレイクコア、プログレッシブ・ロックなどを織り交ぜ、きめ細やかな音作りやエディットで作られるアルバムは常に確かな理念に裏打ちされているようだ。そんな彼の新作『88』は鍵盤の数を示すタイトルの通り、全編ピアノ・ソロによるアルバムだ。今までの作品の中でも常にピアノは使われていたが、今作はアンビエント的な音響処理を施したポスト・クラシカルな作風でもなく、ピアノのための曲がピアノで弾かれていることに本作の主眼がある。

KASHIWA Daisukeの楽曲中のピアノの使われ方は、今までの作品では大体において電子音やビートとともにあり、それを含み込んで鳴らされているものだった。例えばファースト・アルバム『april.#02』のタイトル・トラックでは、ピアノのエモーショナルな旋律が表立っているが、曲が叙情性を高め、盛り上がると共にビートは激しくなり、ノイズの波が曲を覆っていた。これによって、ピアノの奏でる旋律や音の質感によって呼び起こされる感覚に気分が高まるとともに、その感覚を同時進行で解体されているような、気が遠くなる曲だった。前作にしてサード・アルバム『5 Dec.』ではさらにそのアプローチは推し進められていた。アンビエント的な電子音と音響の中で空間に散りばめられるように断片的にピアノのフレーズが配された曲から始まり、メタリックなギターや機械的かつ脅迫的なビートが暴れまわる曲に流れていき、その後にはかすかで揺れるような電子音が現れ、最後にはまた暴力的なノイズが押し寄せる。『5 Dec.』は、繊細な楽曲で内にある感覚に気づかせ、暴力的な楽曲でその感覚を解体し、またその奥にあるものに気づかせる、という構造を持っていたのだ。

そして、ピアノソロの作品である『88』も、そうした流れを十分に感じさせる作品だ。本作では旋律が主体になることによって、KASHIWA Daisukeの持っている表現の要素がとてもコンパクトに集約されてもいる。それは、やはり単にクラシカルなものではなく、彼が基にしている諸々のポップ・ミュージックをピアノ曲の様式に凝縮したものだと感じる。また、弦をハンマーで叩くことによって音を鳴らすピアノは、弦楽器であると同時に打楽器でもあり、メロディを奏でることに長けていると同時に一音一音の響きがよくわかる。こうした楽曲や楽器やの特質は、曲の構造自体をおのずと浮かび上がらせ、この音の並びがこう弾かれるとなぜこんな気持ちになるのか、といった音楽の基本的かつ終わりのない問いに聞き手を導く。様々なスタイルが混ざり合い、溢れかえっているエレクトロニック・ミュージックのシーンにおいて、『88』は出るべくして出た作品なのだろう。(text by 滝沢時朗)

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PROFILE

学生時代、プログレッシヴ・ロックに影響を受け作曲を始める。2004年にkashiwa daisukeとしてソロ活動を開始し、2006年にドイツのレーベルonpaより1stアルバム『april.#02』をリリース。 翌年8月、nobleレーベルより2ndアルバム『program music I』を発表。2008年9月には、大型野外フェスティバルSense of Wonderに出演。 2009年2月、3rdアルバム『5 Dec.』をnobleよりリリース。 同年6月にはヨーロッパ3ヶ国8都市を廻るツアーを敢行し、世界三大クラブと呼ばれるベルリンのクラブ、BerghainではCLUSTERと共演し、旧ソ連軍の秘密基地跡で毎年開催されるドイツ最大級のフェスティバルFusion Festival 2009にも出演。2010年4月、マカオ、香港を巡るアジアツアーを行う。 自身の創作活動の他、様々なメディアへの楽曲提供、作家、リミキサー、マスタリングエンジニアとしても活動している。

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レヴュー

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筆者について
滝沢 時朗 (滝沢 時朗)

1982年東京生まれ。twitter ID:@sarigenaginger

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