はじまりは、ハイレゾで。――空気公団、2年3ヶ月ぶりのフル・アルバムを2週間先行配信

すべての人へはじまりの予感をもたらす、空気公団の新作が完成しました。タイトルは『こんにちは、はじまり。』。昨年の12月頭、アルバムから先行配信された「お山参詣 登山囃子」――ヴォーカル山崎ゆかりの出身地・青森県岩木山の登山囃子を取り入れ、かつ山本精一をゲスト・ヴォーカルに招いたこの曲は、まぎれもない"空気公団の作品"であるとともに、何かが違うという感触も残る1曲でした。それこそ"はじまり"というものだったのかもしれません。
それから約1ヶ月半、届いたアルバムには全10曲が収録。NINGEN OKが全面参加した楽曲「はじまり」をはじめ、オータコージ、山口とも、奥田健介(NONA REEVES)、ticomoon、鈴木広志、江上瑠羽が参加。ミックス&マスタリングは中村宗一郎が手掛けました。「それこそ空気感を録るようなレコーディングでした(窪田)」という音の鳴り、ぜひともハイレゾで聴き入ってください。
ハイレゾ音源で2週間先行配信!!
空気公団 / こんにちは、はじまり。
【配信形態 / 価格】(各税込)
ALAC / FLAC / WAV(24bit/48kHz) : 単曲 300円 / アルバム 3000円
【Track List】
01. 伝う / 02. はじまり / 03. 苦い珈琲の言い分 / 04. 声の梯子 / 05. 連続 / 06. 新しい窓 / 07. なくしたものとは / 08. 手紙が書きたい / 09. 毎日が過ぎても / 10. お山参詣登山囃子
☆アルバム購入の方には、CDの歌詞カードと同デザインのPDFファイルが付属します
INTERVIEW : 空気公団
空気公団の新作『こんにちは、はじまり。』は「伝う」という曲ではじまる。活動を追っている人なら分かると思うが、空気公団は言葉や音楽、そして、それらを乗せるメディアがどういうものか常に意識的に取り組んできたバンドだ。彼らはなにかを伝えるということに対して、彼らなりの解釈を加え、いつも更新し続けている。その空気公団が改めて「伝う」というとてもシンプルなタイトルの曲でアルバムをはじめている。ここにあるのは古くて新しく、単純なようで複雑なものがこのアルバムには潜んでいるという予感だ。そして、『こんにちは、はじまり。』は実際にその予感に応えてくれるような作品になっている。空気公団は今、なにをはじめたのだろうか。3人に話を訊いた。
インタヴュー&文 : 滝沢時朗
「はじまり」はなくならないっていうことにすごくハッとした
――『こんにちは、はじまり。』は空気公団の変化が色々と表れているアルバムだと思いました。まず、ジャケットのインパクトが強いですね。
山崎ゆかり(以下、山崎) : まず、ジャケットのデザイナーにこういうタイトルにしたいっていう話をしました。例えば今、「じゃあね」って別れた瞬間に、背中から「よっ」て「はじまり」が声をかけてくる。その「はじまり」をどう目で見えるようにするかということですね。そこで、デザイナーから心機一転するようなイメージのジャケットにしようという提案がありました。私はその話をしていた時にはもうすでにこの髪型で、それを見たデザイナーが髪型を変えることはアイデンティティの変化であると言ってきたので、じゃあ、もうこれしかないということで、話がまとまりました。アルバムを作るたびに変化はあるので、それが表にも出たのかもしれないですね。
――バンド自体にも変化があったんですか?
窪田渡(以下、窪田) : 外国も含めていっぱいライヴをやった経験が、心機一転じゃないですけど、何かを変えているのかなと思います。ライヴはもう一回一回が色んなことを思ったり、改めて考える時間でもあるので。『こんにちは、はじまり。』の曲もアレンジのときにライヴで演奏することを考えながらやったところがあって、最近の空気公団のアルバムと比べると実は音数が少ないと思います。
――今回のアルバムについてオフィシャル・サイトに「形のあるもの全ては無くなるというけれど、無くならないものが、「はじまり」だった。」という一文で締められる文章が載せられていますね。このコンセプトの説明をお願いしします。
山崎 : ツアーのなかで車での移動中に、「自分はこの街に住むことはなかったけど、ここの人たちと触れ合って、その人たちにも聴いてもらって、この街と別れる」ということを思って、次の街に行きますよね。でも、それは次の街でそこの人たちの前でライヴをすることのはじまりだと思ったんですよ。終わりはあるんだけど、同時にまた別のことがはじまるから、はじまるっていうことは永遠に続いている。その「はじまり」はなくならないっていうことにすごくハッとして、これは書かずにいられないと思いました。しかも、「はじまり」が訪ねてくるっていう感じですかね。そういう人生の方がいいんじゃないかなと思います。

窪田 : その話を聞いて、僕も個人的に思うところがありました。生きていると朝起きたときから夜に寝るまでの間になにかしら大変なことはあって、それに対する姿勢についての話だなと思ったんですね。でも、最近ではどんなことが起きたとしても、必ずポジティブな見方ができるんじゃないかと思うようになってきました。そのときは嫌なことでも、それはいい結果に至るプロセスだから、悪いことじゃないと思えるようになった。 そのときにちょうどこういう話があったので、なるほど、そうだよなと。
――『夜はそのまなざしの先に流れる』のインタヴューのときに、山崎さんが時間に対してこだわりがあると言っていましたが、『こんにちは、はじまり。』も時間と関係したテーマなんですか?
山崎 : そうかもしれないですね。終わりとはじまりはセットで、ループになっていますからね。『こんにちは、はじまり。』の最後の曲は「お山参詣登山囃子」で、1曲目を「伝う」にしていますけど、ああいうものが伝わっていけばいいという曲順ですね。
窪田 : 『夜はそのまなざしの先に流れる』はその夜の間の時間に起こった話で、比較的短い時間軸ですね。曲もそれを見ているナレーターのような視点です。『こんにちは、はじまり。』はもっと話の主人公に近い視点で、長い時間軸の話です。もしかしたら半年とか1年ぐらいの。
初期の空気公団の音の質感を思い出させてくれるような感じ
――空気公団はアルバムごとに録音方法を工夫していますが、今回はどうでしたか?
窪田 : 『春愁秋思』はスタジオでセッションして一発録りをして、『夜はそのまなざしの先に流れる』ではお客さんを入れて新曲だけ演奏して録音しました。その線で次に行くってどういうことなのかなって思っていたんですが、そんなときにくうきにみつるの録音で普通のマルチトラックのレコーディングをしたんですよね。それがすごく楽しくて。今回はピースミュージックのエンジニアの中村宗一郎さんのスタジオでお願いしたんですけど、そこのスタジオの雰囲気がとても良くて、録音がおもしろかったんですよ。
戸川由幸(以下、戸川) : 一言で言うと、「ロック!」っていう感じです。すごく古い機材が置いてあって、あんまり細かいことを気にせずにおおらかな気持ちでやれるスタジオでした。
窪田 : ミリ単位のカチッとした演奏を録るんじゃなくて、それこそ空気感を録るようなレコーディングでした。中村さんのテイク選びの感覚もとても興味深くて。今までの空気公団の瞬間を切り取るようなレコーディングと、マルチトラックで別々に演奏を録音して積み重ねるレコーディングがいい感じにブレンドできたなと思いましたね。だから、普通のスタジオ録音盤と言えばそうなんですけど、自分たちの意識としては前作の延長にあるような気持ちでレコーディングできました。
――中村宗一郎さんとは、はじめてお仕事をされたんですか?
窪田 : マスタリングをお願いしたことはありますけど、録音からミックスまでははじめてですね。
戸川 : ちょっと細かい話になりますけど、僕はピアノが右や左に寄せて振られていたりするざっくりしたミックスがすごい好きで、中村さんのミックスはそこにドンピシャでした。それこそ初期の空気公団の音の質感を思い出させてくれるような感じで。中村さんから参考に最近はまっている音楽とかを送ってほしいと言われていたんですけど、忙しくてリアクションできないまま録音作業に入って、中村さんは結構不安だったらしいんですけど。
山崎 : 中村さんは「空気公団っぽいものがどういうものなのかを僕は知らない」っておっしゃっていて、私は「空気公団っぽいものを知らなくて全然いいです。『こんにちは、はじまり。』っていうタイトルなので、本当に中村さんに好きにやってもらいたいです。」って言ったら「ほっとしました」っておっしゃってました。
――「はじまり」で参加しているNINGEN OKも今回が初参加ですよね。どういう経緯で参加することになったんですか?
窪田 : まず、彼らとは2014年3月に新木場STUDIO COASTで開催された「Booked!」っていうイベントで一緒だったんですよ。それで、たまたま僕らが入り時間で楽器を会場に入れていたときに演奏しているバンドがいて、すごいかっこいい音楽だなって思って「これ誰なんですか?」と訊いたら、NINGEN OKだった。そのときは不勉強で全然存じてなかったんですけど、3人の中でそのときの印象はずっと残っていました。それから、『こんにちは、はじまり。』を作るときに、『こんにちは、はじまり。』だから新しい人となにかやってみたくて、彼らに声をかけたんですね。
山崎 : そう、なんか電球が切れたりすると「あー、なんか切れちゃったし…」って思うんだけど、電球が切れても「あ、はじまったんだ」っていうように思えたし、すっごい重要なパソコンが壊れたときも「これははじまりなんだ」って思いましたね。
戸川 : NINGEN OKの話をしてるんでしょ?
山崎 : NINGEN OKと一緒にやるのも全部がはじまり。全部はじまったんだって考えればいいんじゃないかなって。
――今回のアルバムはノイズ・ギターが印象的な曲が多いですね。
山崎 : 山本精一さんにもNINGEN OKにも好きに解釈して演奏してもらいました。
戸川 : NINGEN OKの録音をしているときにブースで「空気公団史上、最もひずんだギターかもしれないな」って話をしてましたけど、それがまずいっていうことは全くなかった。
山崎 : むしろ、すごくコンセプトに合っていて、ぴったりだなと思いましたけどね。
――ドラムのオータコージさんの参加についてはいかがですか?
山崎 : それは原点回帰の意味合いがあって、またはじまるのかってことですね。初期の空気公団は全部オータくんが叩いていたんですけど、しばらく遠のいていました。でも、今回はオータくんかなってなぜか思って。オータくんは最初の濃い時期を一緒に過ごしているだけに、昨日も会ってた人に思えるぐらいの波長で、演奏もスムーズでした。
初ラップをやるところだった
――「新しい窓」は歌モノで戸川さんが作曲と資料にありますが、これも新しいことのひとつでしょうか?
戸川 : ここ何作か僕と窪田さんも作曲してたんですけど、ゆかりさんから歌モノにするんだったら歌詞は自分で書いてと言われていたので、インストを作ってたんですよ。でも、今回はゆかりさんが歌詞を書いてくれるっていう話だったので「やった!」と思って。
山崎 : (笑)。
戸川 : 僕が作ったのは、ギターでスリーフィンガーでコードを弾いているものの上に別の音色のギターを重ねているデモで、それを窪田さんにアレンジしてもらいました。窪田さんにはコードもメロディも変えていいからと言ったんですが、結果として希望通りのアップテンポな曲になりましたね。
窪田 : よかった~。
山崎 : (笑)。
戸川 : 最近は影を潜めていた窪田節みたいなものがイントロのところにでてきたりして、ああこれだって感じです。
窪田 : 窪田節ってなんだろう?
戸川 : Aoっていう木全務くんとゆかりさんがユニットをやってたときのアレンジも窪田さんがやってて、そのころみたいなキーボードの演奏の感じがチラッと垣間見えたりしたんですよ。僕が作曲っていうか、2人で作ったような感じですね。
――窪田さん作曲の「手紙が書きたい」はどうやって作っていったんですか?
窪田 : 最初に山崎から「手紙が書きたい」ってタイトルをもらってたんですよ。僕は「書きゃいいじゃん」って思ったんですけど。でも、「手紙が書きたい」人は書きたいけど書けないんだろうなと思って、その苦悩やグルグル迷ってる感じや、異物感が曲にあるといいなと思いながら作りました。それで、ギターも入れてみました。
山崎 : 演奏は、私たちはノータッチに近いよね。
戸川 : 僕はこういうグルーヴクォンタイズをかけたらっていう話と音をちょっと悪くしたほうがいいんじゃないっていう話をしたぐらいです。演奏は100%窪田さんですね。

――「声の梯子」もインストに朗読で不思議な感触の曲ですね。
窪田 : ピアノのインスト曲としてはあったんですけど、最後までアレンジが決まらなくて残ってたんですよね。それで、3人でスタジオにいたときに、その場の思いつきで色々とやってたら、こういう曲になりました。まず、「声の梯子」は使っていたソフトのプリセットのリズムをほぼそのまま使っていて、それがわりと前衛的で良かったなと思ってます。それで、そのプリセットのブレイクビーツみたいな感じがいいんじゃないかってことを伝えるために「ラップいいじゃん」って山崎が言ったら、戸川くんが「え? ラップなの?」「ラップだったらこんな風に言葉が乗るんじゃないの」って話が転がっていって、最終的に朗読になったんですね。
戸川 : 一瞬ラップになりかけたもんね。
山崎 : なりかけてた。
戸川 : 初ラップをやるところだった。
山崎 : 初ラップっていうか…(笑)。
戸川 : まあ、でも、最終的に照れて朗読になったよね。
山崎 : いや、照れたっていうよりも、全然、はじまってない感じがして。自分の中で終わりきれてなくてはじまれなかったっていう問題があったので、詩を読みましたけど。
せっかくおもしろいものがあるんだから、新しくしないと意味がない
――アルバム・リリース前にPVをあげられていた「お山参詣登山囃子」は空気公団の中で新しいですし、とても印象的な曲ですね。この曲のカヴァーはどういう経緯で決まったんでしょうか?
山崎 : 「お山参詣登山囃子」は昔からある曲で、青森県弘前市にある岩木山にお参りに行くときに歌う歌ですね。私は青森市出身なんですけど、小学生のときに何回か体育館で歌った記憶があります。でも、その当時は「なにをしてるんだろ?」って感じで全くその意味はわかりませんでした。それで、『こんにちは、はじまり。』を作ろうと思ったときに、そういえばあの曲はなんだったのかなと思い出したんですね。それから色々と調べてみたら、すごく伝統的で神聖な曲で、これは絶対空気公団でやらなければと思ったんですよね。2人にもその話をして、カヴァーすることに決まりました。
――最初は山崎さんがデモを作ったんですか? 元にした音源などあるのでしょうか?
山崎 : 私の世代よりも上の世代で弘前市の方ははっきり覚えてると思うんですけど、私は原曲を覚えているような、いないような感じで。友達に訊いても「あー、はいはいはい、知ってる」って言うんだけど、歌わせるとみんな途中から「あれ?」となって歌えないんですよね。それで、元曲の音源はないのかなと思って観光協会に問い合わせたら、「音源化されてません」って言われました。「じゃあ、逆に音源化してもいいですか?」って訊いたら「ちょっと待ってください」とガヤガヤ相談する音が聞こえて「いいですよ」と。それから、ビデオとかを色々見て原曲を聴きました。調子としては一本の調子で歌ってるんですけど、歌ってる人によっては途中から微妙な上がりがあって、一本のキーで同じ音なんだけど、微妙に節を変えている。コードもあるようなないような感じ。その辺を自分で変えたらおもしろいなと思って、デモを作りました。
――デモを聴いてカヴァーしたいという話になったときは、戸川さんと窪田さんはどう思いましたか?
戸川 : 特に抵抗もなく。ライヴとかも本当に色んなジャンルの曲のカヴァーもしましたし、民謡っていうことで気負いもなかったですね。自然にいい曲だしやろうと思いました。
窪田 : 自分はすごい衝撃でしたけどね。なんだこれみたいな。歌詞もすごいし、全体の出来がすごかった。一番の衝撃だったかもしれないですね。それの衝撃がでかいだけに、アレンジをやってるときは結構しんどかったですけどね。
――バンドとしてアレンジするという時点でむずかしそうですね。元々が山の神様にお参りに行くときの歌ですから。
窪田 : うですね。ニューオリンズの音楽で言うファーストライン(※)のようですね。まず、元にあるコアの部分をそのままやりたいというのがありましたから、お祭りのお囃子の動画をすごく見て研究しました。でも、全然分析できなくて。予測できないところで拍が裏に入って、拍子が取れないんですよ。それから、山崎の作ってきたものも大切にしたいと思っていたので、安易なアレンジにならないように色々と作戦を立てながら、七転八倒して進めていきました。
※ファーストライン : ニューオリンズの葬儀では、墓地へ棺を運ぶ行き帰りにブラスバンドがついてパレードを行う。行きに悲しいムードの曲を演奏する楽隊をファーストライン、帰りに明るいムードの曲を演奏する楽隊をセカンドラインと呼ぶ。
――メロディが展開しないでループする構造は、やっぱり、宗教音楽的な感じがして扱いが難しいところですよね。
戸川 : メロディはループしてるけど、僕のなかではきちんとポップ・ミュージックになってるんじゃないかなと思いますけどね。
山崎 : それはイントロとアウトロをつけて収めたということもあるし、山を登って頂上に行ったら登山囃子は終わりですからね。下山するときは下山の囃子もあるので。永遠ループっていうよりは、頂上に登って下山するという流れですよね。
――アレンジの参考にしたものなどありますか?
窪田 : 参考にしたものはないですね。この曲については、自分の引き出しの範囲内とか、いつもの空気公団みたいなところにも収まりたくなかった。せっかくおもしろいものがあるんだから、新しくしないと意味がないですよね。
空気公団 過去作品
LIVE INFORMATION
インストア・イベント
2015年2月20日 (金) @タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
スタート : 19:00〜
空気公団 LIVEツアー2015「こんにちは、はじまり。」
2015年3月7日(土)@青山CAY(SOLD OUT)
2015年3月21日(土)@埼玉senkiya
2015年3月27日(金)@静岡Livebar Freakyshow
空気公団とルルルルズ
2015年3月28日(土)@京都磔磔
PROFILE
空気公団
1997年結成。現在は山崎ゆかり、戸川由幸、窪田渡の3人で活動中。ささやかな日常語、アレンジを細やかにおりこんだ演奏、それらを重ねあわせた音源製作を中心に据えながらも、映像を大胆に取り入れたライヴや、様々な芸術家とのコラボレーションを軸にした展覧会等、枠にとらわれないアート志向の活動を独自の方法論で続けている。