2013/03/07 00:00

繊細かつ力強い個性的な歌声で、山本精一や大友良英からも賞賛される長谷川健一。2011年の1stフル・アルバム『震える牙、震える水』以来、約1年半ぶりのアルバムとなる『423』は、プロデューサーにジム・オルークを迎えて制作。ゲスト・ミュージシャンに石橋英子(Pf)、山本達久(Dr)、波多野敦子(Vl)が参加した全10曲が収められる。特典には、BOROFESTA2011に出演した際のライヴ音源が収録されています!


長谷川健一 / 423
【販売価格】
mp3、wav 共に単曲 250円 / アルバム 1,800円

【TRACK LIST】
1. あなたの街 / 2. 白い旗 / 3. ふるさと / 4. 星の光 / 5. 新しい一日 / 6. 体温 / 7. 子どものくに / 8. 砂の花 / 9. 海のうた / 10. 423 / 11. 夜明け前 Live at BOROFESTA2011(ボーナス・トラック)



※アルバム購入者には、「夜明け前 Live at BOROFESTA2011」のライヴ音源が収録されます。

聖俗を超越したその先にある穏やかな歌の世界

東京、渋谷。そこに、交差点の雑踏からは隔絶し、深呼吸するようにゆっくり歩く一人の人物。ニット帽をかぶったその身なりはごく一般的な成人男性で、駅のホームから「箱に詰められ、運ばれていく」人々を、達観した眼差しで見つめている。

冒頭曲「あなたの街」では、息を整えるように伸縮するリズムに乗せて、腰の据わった歌が自然とフロウしていく。京都のSSW=長谷川健一の凛とした歌声と、卓越したアコースティック・ギターの演奏は、聖俗を兼ね備え、かつ超越したその先にある穏やかな世界を描き出す。それは例えば、ヴァン・モリソンがR&Bからジャズ、ケルト音楽にいたる長い旅路の果てに辿り着いた崇高な境地である『Veedon Fleece』や、9.11により幕を開けた陰鬱な21世紀に現れた歌姫、ノラ・ジョーンズの無垢な処女作『Come Away With Me』のごとく。

photo by Akira Mitamura

36歳。音楽活動を始めてすでに約15年。それこそ修行のように歌い続けてきた凄みがある。世の中の酸いも甘いも噛み分けたように、即興音楽家たちの柔軟な演奏にも動じない落ち着き払った歌声は、しかし、何か巨大で得体の知れない感情を押し殺すかのように微かに震えている。前作『震える牙、震える水』(2010)は弾き語りを中心に、かなり即興的にピアノ、ドラム、コントラバスなどを伴わせていた。それに対して、今回はしっかりした編曲を、という意図のもと、前作から参加している石橋英子と山本達久との縁から、プロデューサーとしてジム・オルークに白羽の矢が立ったようだ。ここで自然と名が浮かぶのは、同じくジム・オルークとその一派(石橋英子、山本達久、波多野敦子、須藤俊明など)が全面参加した新作を出したばかりの前野健太だ。そうすると、弾き語りというスタイルからも、いわゆる「うたもの」の文脈で語りたくもなるが、それとはかなり様相が異なる。

そこにあるのは、かつて即興音楽やフリー・ジャズに親しんだことで身に付いた「一音一音に対する厳格なこだわりと必然性」であるように思う。例えば、「体温」のサビで展開するコード進行とメロディーは、安易な繰り返しを拒絶しつつ、作為的なところを一切感じさせない天衣無縫の美を放っている。また、アルバム全編を通して鳴らされるアコースティック・ギターは、単にオープン・コードをジャカジャカ弾くのではなく、フレーズの細部まで吟味された、かなり高度で丁寧な演奏だ。そして、これらの側面を増幅させているのは、キー・パーソンとさえ言える石橋英子のピアノである。手のひらで掬った水が、指の間からポロポロとこぼれ落ちるかのように、極小の音数による表現が冴え渡る。程よく即興性を残したその演奏は楽曲に緊張感をもたらし、長谷川健一の音楽との抜群の相性を誇っている。

photo by Akira Mitamura

一方、その歌詞に視点を移すと、「極北」、あるいは「最果て」といった言葉には、隠しきれない間章からの影響(というより、即興音楽やフリー・ジャズのストイックさへの憧れ、だろうか)を感じさせる。事実、最近復刻された間章の著作集『時代の未明から来たるべきものへ』について、編集を担当した須川才蔵(『ユリイカ』元編集長)にtwitter上で熱っぽく語りかけている姿も目撃されている(余談だが、先日、渋谷アップリンクで開催された間章のドキュメンタリー映画『AA』上映会に筆者は足を運んだばかりで、上映後のトークには監督の青山真治とともに須川も登壇した)。ただ、前作収録の「極北の食卓」という曲名に象徴されるように、極限を目指した先に辿り着いたのは、食卓という馴染み深い場所なのである。「海のうた」での「生まれたら 死ぬまでは 生きるだけ ただそれだけ」や「いつまでも ついてきてた 太陽に 追いつけない」といった格言とも言葉遊びとも取れる禅問答のような歌詞は、まるで井上陽水の言葉の世界のようでもあり、誰にでも届く平易な言葉を通して、聴き手の想像力をかきたててやまない。本作『423』は、そういった日常性の中に世界の本質を見いだす、という長谷川健一の魅力も凝縮された珠玉の作品なのである。

京都、四条大橋。阪急電車と京阪電車の不便な乗り換えのために人々が橋を行き交う傍らで、微動だにせずたたずむ托鉢僧。渋谷の交差点の彼は、この托鉢僧の世俗の姿、なのかもしれない。(text by 青野慧志郎)

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OHAYO MOUNTAIN ROAD / OHAYO MOUNTAIN ROAD

本作には、BREAKfASTのセルフ・カヴァー(1曲)、THE BITEのセルフ・カヴァー(2曲)、ジェリー・ガルシア(グレイトフル・デッド)「Mission In The Rain」の日本語カヴァー「雨のミッション通り」を含む、全11曲が収録。ひなびた居心地の良さを感じさせる、アコースティックな音の数々をたっぷりと楽しみましょう。

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ゆーきゃん / あかるい部屋

京都在住のSSWによる4th albumはバンド編成での濃密な一枚。 山梨・白州にて、田辺玄(WATER WATER CAMEL)が新設したホームスタジオにて録音された本作。森ゆに(ピアノ)、田代貴之(ベース)、妹尾立樹(ドラム from sistertail / LLama)、そして田辺玄(ギター)という名プレイヤーたちのサポートを受け、良質なメロディとイマジナティヴなリリックが舞い上がる。

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LIVE INFORMATION

長谷川健一 New Album「423」Release Live
3月10日(日)@京都 UrBANGUILD
3月23日(土)@京都 タワーレコード京都店(インストア)
3月24日(日)@豊橋 grand space quark
3月30日(土)@東京 タワーレコード新宿店(インストア)
4月7日(日)@名古屋 K.D ハポン
4月13日(土)@広島 眠り猫
4月19日(金)@富山 nowhere
4月20日(土)@福井 gecko cafe
4月21日(日)@松本 瓦レコード
5月2日(木)@東京 青山CAY

PROFILE

長谷川健一

1976年12月京都生まれ。2007年船戸博史プロデュースによる2枚のアルバム『凍る炎』、『星霜』をmap /comparenotesより同時リリース。2008年京都ガケ書房より過去の音源を集大成したCDR×5 DVDR×1の「長谷川健一BOX SET」を200セット限定発売(完売)。2010年には、地元関西のみならず全国にて精力的なライヴを敢行するなど活動の幅を広げ、同年6月には最新作「震える牙、震える水」をP-VINE RECORDSよりリリース。多くのファンやアーティストからの大絶賛を得る。歌が純粋に歌として響くことの力強い説得力、繊細な光が震えながら降り注ぐような、誰にも真似できないハセケンの表現。優しくも切ない叫びは、聞くものを深遠な世界へと誘い続ける。その才能に惚れ込み共演を果たしたアーティストは数多く、現代日本最高のシンガー・ソングライターとして数々の賛辞を集めてやまない、孤高の歌うたいである。2011年5月より、新曲「体温」をamazonでの東日本大震災義援金企画「たすけあおうNippon」にて配信開始。同年7月、ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN CIRCUITに出演およびASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2011に一曲参加。またFUJI ROCK FESTIVAL2011やSWEET LOVE SHOWER2011などの大規模フェスにも出演。2011年9月リリースのNabowaのアルバム「DUO」に一曲ボーカリストとして参加。

長谷川健一 official HP

この記事の筆者
青野 慧志郎

■ yoji & his ghost band @YojiGhostBand / No Eyes @no_eyes / Ghostlight @ghostlight_jp / 折坂悠太 @madon36 サポート (Gt, F.Mand, Cl, Banjo, Key) ■ 音楽評論文執筆 ■ インフラエンジニア

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[レヴュー] 長谷川健一

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