2013/12/26 00:00

1970年代初頭から現在まで、まさに日本の音楽シーンにおいて、前衛でいつづけるアーティスト、灰野敬二。ロストアラーフや不失者、さまざまなコラボレート、そしてソロにしてもさまざまな形態があり、その活動は多岐に渡るが、ここに最近、DJという表現行為が加わった。灰野敬二のDJという表現の一端が垣間みれるであろう作品がここに発表された。そこで鳴らされる音楽とは? そして、ここにきて、この表現を灰野が行っている理由とは? ライター、大石始が迫る。

DJ名義としての初音源『in the world』を3作同時リリース

灰野敬二-experimental mixture- / in the world

【配信形態 / 価格】
wav / mp3 : まとめ購入のみ 2,000円

※本作は、「in the world -in your ears-」「in the world -in your minds-」「in the world -in your spirits-」3作をまとめたバージョンとなります。
左)灰野敬二-experimental mixture- / in the world -in your ears-
中)灰野敬二-experimental mixture- / in the world -in your minds-
右)灰野敬二-experimental mixture- / in the world -in your spirits-

【配信形態 / 価格】
wav / mp3 : まとめ購入のみ 800円

INTERVIEW : 灰野敬二

孤高の人にして全身音楽家、(彼自身の言葉を借りるならば)音楽至上主義者である灰野敬二。近年の彼は“EXPERIMENTAL MIXTURE”という名の元でDJプレイを勢力的に展開中である。ただし、元来既存のカテゴリーやスタイルに収まり切ることのない広大な世界を描いてきた灰野。そのプレイもまた、DJの概念そのものをひっくり返すかのように独創的かつ創造力に満ち溢れたもので、各所で大きな話題を集めている。このたびリリースされた『IN THE WORLD』は、そんな“DJ灰野敬二”の世界観を3セクション、約2時間半に封じ込めた作品集(CDでは3枚組)。ここではあらゆる楽曲がミックスされ、ドラムマシンによるビートやシンセのメロディーが新たなる景色を加えている。その作風はいわゆるDJミックスとは大きく異なるもので、多方面で驚きをもって迎えられることは間違いないだろう。

灰野敬二と対面したのは、彼の地元である埼玉県川越市。筆者も幼少時川越に住んでいたことがあり、そのことを灰野に伝えると「川越の人間と聞いちゃったからには……(笑)」と手加減ナシの取材がはじまった(なお、彼の発言に刺を感じる箇所もあるかもしれないが、その口調は全編でユーモアと優しさを感じさせるものだった)。なお、灰野が希望したタイトルは“白が黒に変わって何が変わった?”。縦横無尽に広がる彼の思考と言葉をじっくり受け止めていただきたい。

インタビュー & 文 : 大石始

「100曲中60曲がわからなかったあなたからはDJとしての肩書きを剥奪します」

――灰野さんはいくつもの名義で活動されてますが、灰野さんご自身、今回の“EXPERIMENTAL MIXTURE”はそうした活動のなかでどのように位置づけられているんでしょうか。

灰野敬二(以下、灰野) : 僕にとってのDJの定義というものがあって、まずは“人よりも二倍以上音楽を好きなこと”。これまでに買い漁ったコレクションを見たとき、「俺は一生のうち何回これらのアルバムを聞けるんだろう?」と思ったんだよね。一生聴けない曲もあるかもしれないわけで、だったら2枚同時にかけてしまおうと。いまはギャラがほとんどCDになっちゃってる状況で、2枚一気に聴いていかないと追いつかないんだ(笑)。その意味では、みんなが考えるDJと自分が考えるDJとは根本的に違う。

――CDを買う量は減らないですか。

灰野 : むしろ増えてるね。もはや聴いてない音楽は“ない”に近いけど、それでもまだまだあるんだ。20年前には興味なかったものも、“どうして興味がなかったのか”を確認する作業もしてるから。好きなものが多いほうが楽しいじゃん? 好きな人がたくさんいたほうが楽しいじゃない? もう61歳だし、80までこのままでいくのか、違う方向で仙人になるべきか考えてるし、もし自分が死ぬ前にはまだ好きになれるものがあるとすれば、それはうれしいことでもあるからね。

――嫌いだったものを好きになっていくのが楽しい?

灰野 : 楽しいというか、タメになる。ただ、自分は現役のミュージシャンだから、借用するためにはいっさい聴かない。聴けば聴くほど、「(CDに収められた)こいつらも音楽を好きだったんだな」ということを確かめられる。みんな「自分には才能がない」なんてのたうち回ってるけど、それって音楽を本当の意味で好きじゃないんだ。昔から「好きこそ物の上手なれ」って言うけど、その通りだと思う。ただ、好きなことを一生懸命やる、それだけだよ。俺の考えはシンプルだから。

――“EXPERIMENTAL MIXTURE=実験的融合”とは、DJプレイにおける灰野さんのコンセプトを表すものでもあるんでしょうか。

灰野 : “実験的”という言葉もある種挑戦的なもので、「音楽でメシ食ってるんだったら、これぐらい聴いてて当たり前だろ?」という意味でもある。そういえば、DJ道場をやろうと思ってるんだよ。「はい、この曲はなんでしょう?」と質問を出して、どれだけ答えられるか。「100曲中60曲がわからなかったあなたからはDJとしての肩書きを剥奪します」っていう(笑)。

――裁判官であり、師範であるという(笑)。

灰野 : 気をつけないとファシストになっちゃうけど(笑)。まあ、僕はファシズムが大嫌いだからね。

――ところで、灰野さんがDJという存在を意識しだしたのはいつごろだったんですか。

灰野 : 僕の時代だとDJといえばディスクジョッキーで、なかでもラジオのディスクジョッキーだよね。当時のラジオに出ていた人たちは本当に音楽に詳しい人しか出ていなかったから、僕もいろんなことを教えてもらった。だから、今でも音楽を紹介するのがDJだと思ってる。例えば、パンクといっても中世のヨーロッパにも反体制の吟遊詩人がいたわけだけど、パンクで暴れてる人は中世のヨーロッパの音楽を聴かないでしょ? 「もっと幅広い時代、ジャンルのものを聴け」ってみんなに言いたいし、俺がそのきっかけになるはず。

――さまざまな時代、ジャンルのものを超える表現というのは、これまでの灰野さんの活動と連続してる部分でもありますよね。

灰野 : ひとつ言う。“超える”っていう言葉は好きじゃない。俺のなかで限界はないので、だからこそできてる。

――わかりました。境界線というものがそもそも存在しない、という考えですね。

灰野 : そう。やりたいようにやる。自分のなかで線を引いて、「ここまでなんだ」と意識するようになったとき、あらゆる表現はなにかに対するアンチテーゼだけになるじゃん。そのアンチテーゼがひとつの形になって、また新たなアンチが生まれる。歴史がそのことを証明していて、延々と宗教戦争をやってるわけじゃない? 俺はイスラム教とキリスト教の音楽を同時にかけるの。音楽のなかでは仲良くさせる事が出来るよね。

まだ現れていない領域を浮き上がらせるのが表現だと思う

――EXPERIMENTAL MIXTUREの話に戻ると、異なるものを実験的に融合させるのではなく、もともと境界線が“ない”ところでどのような表現が可能か、その領域を実験的に探し当てていくという……。

灰野 : いや、“ない”という言葉がまだ引っかかる。

――そうですか(笑)。

灰野 : (境界線は)まだ現れていないだけで、確かに存在はするんだ。まだ現れていない領域を浮き上がらせるのが表現だと思う。“表現”という字を見てごらんよ、“表に現す”ということでしょ。インチキな連中は第三の目って言ったりするけど、ある事柄に関して成就していけば、だんだん開かれていくんだよ。60年代のロックはそこまでいかなかった。アンチテーゼだけで終わったんだ。「ピース! ピース!」って言ってアンチテーゼの振りをしていたけれど、あれは諦めただけなんだよ。“闘う”という言葉と意識は――どういうニュアンスで使うかは別にして――必要だと思う。

――灰野さんのDJのスタイルというのは、CDJでかけているものにドラムマシンやシンセを足していくというものですよね。CDJという機材に対する意識は、楽器に対するものと同じなんですか。

灰野 : うん、そうだね。

――では、ターンテーブルではなくCDJなのはなぜですか。

灰野 : 爆笑されるかもしれないけど…… レコードを傷つけたくないんだ。

――ああ、なるほど(笑)。

灰野 : CDJだったらCDRを焼いていけばいいでしょ。この世に10枚しかないレコードをDJでかけたくなんかないだろ?(笑)

――わはは、そりゃそうですよねえ。

灰野 : まあ、やりたくなったらやるんだけどね。アナログからCDRに落とすということもまだやってない。

――じゃあ、楽器としてのCDJはいかがですか。どのような可能性があるとお考えですか。

灰野 : 部屋でCDやレコードを聴いてる環境と、DJをやるときの環境の一番大きな違いは、DJミキサーに“MID”が付いてるということだね。

――中音域を調整するイコライザーが付いてるということですね。

灰野 : そう。部屋にあるアンプは“BASS”と“TREBLE”だけなんだけど、DJミキサーを触るようになって“MID”の効果に驚いた。あれの微調整だけだよ、DJなんて。テンポとかは別だけど、音の作り方に関しては、“MID”をいかに使いこなせるか。あのツマミはいろんな可能性を秘めているんだ。

――“MID”を調整することによって、“灰野さんの音”になる?

灰野 : というより、いままでにはないミックスの可能性を探ることができる。DJとしては駆け出しであることを自覚してるから、やっていくなかで機材の使い方も変わってきてる。これ(今回のミックス)を作ったときはまだ気づいていなかったことも多いけど、最近はありがたいことに2か月に1回はDJをやらせてもらってるから、そこで実践できてる。…… ミックスっていうのは、あくまでも“ごまかし”だからね。

――“ごまかし”というのは?

灰野 : 異なるものとされていた楽曲をミックスし、“同じもの”という錯覚を生み出すわけでしょ。スピーカーが16台あれば別だけど、4台ぐらいだったらそこに収まる周波数には限界がある。スピーカーのなかの世界にはみんな幻想があるわけで、そこから生まれる錯覚をいかによろこべるか、ライヴ以外はそういう世界…… みんなね、ピッチにしか頭がいってないの。2つの曲を1つのピッチに統一して、1曲として聴かせる。でも「同じピッチに統一されていくことになんで疑問を感じないんだろう?」とは思う。なんにでも縦軸と横軸があるの。時間が横軸だとすれば、縦軸はピッチ。それで俺はCDJだけじゃなく、ドラムマシンで時間を遅くしたり、ズラしたりしてる。

偏ってしまうと、反対側が見えなくなってしまう

――その点を細かくお聞きしたいと思ってたんですよ。今回のミックスでもCDJのピッチ・コントローラーやジョグ・ダイヤルを使ってリズムを揺らしていますよね。またはキチッとしたリズムに対し、ドラムマシンのビートを加えることによって全体を揺さぶっている。

灰野 : うんうん。

――僕は日本の民謡に興味があっていろいろ調べてるんですけど、そもそも世界各国の民族音楽や民謡って、ある時期に譜面化されたり音源化されることでそれまで多種多様だったリズムやメロディーが固定され、ひとつのスタイルに収斂してきたわけですよね。そして、それが近代的な“伝統の継承”とされてきた。

灰野 : そのとおり。アフリカのミュージシャンがよせばいいのにイギリスに行って音楽を学んだりするでしょ。その知識をもって自分たちの音楽を譜面化し、どんどん音楽がつまらなくなっていく。ただね、ピッチが揺れてるというよりも、それぞれが譜面に囚われず、歌いたいように歌ってるということなんだと思う。

――で、リズムに揺れを加えていくという灰野さんの手法は、譜面を前提にしたり隅々までコントロールされるようになってからの音源を“あるべき姿”に戻すというものにも思えたんですよ。言ってしまえば、近代化されてしまったものを以前の姿に戻すという。

灰野 : ああ、なるほど。それに関して言うと…… なにかを思考するときって一点に集中してしまいがちだよね。モノフォニック(単旋律)ということ。単旋律っていうのはファシズムに繋がっていく可能性を秘めているから怖いんだよ。旋律が二声ないとマズイし、三声ないと危険。だからね、大石君は気をつけないといけない。どちら側が偏ってしまう可能性があると思うよ。偏ってしまうと、反対側が見えなくなってしまうから。

――うう、おっしゃる通りです……(痛いところを突かれて言葉を失う)。

灰野 : 一方を見たら反対側を見ないといけない。重要なことだよ。

――先ほどおっしゃったように、灰野さんがかつて興味がなかった音源も意識的に聴いているというのは、そういうことですよね。

灰野 : そう。いくら資本主義を批判したって、我々は大量生産によって1枚のCDを聴けるようになるわけで。資本主義に感謝する必要はないけど、「クソー! 」と思いながらも意識しないといけない。その意識が二声だとすると、もっと考えないとポリフォニックにはならない。音楽はそれぞれの民族から生まれたもので、“異なる民族がどうやってコミュニケーションを取るのか”という葛藤のなかで多旋律が出てくるんだと思う。本当は自分だけ気持ちよければいいわけじゃない? でも、視野を広げれば、人の泣き声も聴こえてくるわけで、違う側にも自分の意識を持っていかないといけない。そうやって多旋律になっていくけれど、僕にとって一番重要なのは、縦軸と横軸という線上の構造に加え、螺旋状の意識ということなんだ。

――なるほど。

灰野 : 敵対する国同士だって、個人のレヴェルでいえば仲良くしたいんだよ、基本的に。所属組織とか関係なく、みんなが“1”でいられれば、“1対1”で仲良くしたいという意識が出てくるはずなんだ。組織や国家に所属しているという意識のなかで相容れられなくなってくるわけで、俺はそういうものを全部木っ端微塵にしたい。ステージ上では歌とギターと足踏みという3つしかできないけど、CDJならば、もっといろんなことができるでしょ。1枚のCDRに4つの曲をミックスし、4台のCDJでまとめてかければ16曲を同時にかけることだってできる。なんだってできるんだよ! その音楽が好きだからこそ、それがなんなのか考える。君は民謡を好きだったからこそ、「いまの民謡ってなにか違う。なにが違うんだろう?」と考えるわけでしょ。そこから「これじゃいけない」と考える。

――まさにそうです。

灰野 : そこから起きてくる闘いは自分のなかで沸き上がってきたものを確認しているわけで、右手から起きる闘い、左手から起きる闘いでもある。もっといえばロックから起きる闘い、ジャズから起きる闘い、虐げられたインディオから起きる闘い――今回の作品では、そういう闘いを四方八方から見つけてきてるわけ。俺は作曲家でありながら演奏家でもあって、今回は演出家でもある。今回は1曲1曲でひとつのお話になってる。それも手元の音源を使って、ひとつひとつのお話を作っている。ときにはなにかをブッ壊すお話であり、ときには優しい妖精の話でもある。

――演奏の場合はまったくゼロの状態から作り上げていくわけですけど、DJの場合は手元の音源をいかに使うかという表現方法であって、ゼロから生み出すものではないですよね。そこに不自由さを感じることはないんですか。

灰野 : なんらかの媒体(メディア)を使わず、人がどこまで表現をできるかと考えたとき、それは声なり身体を使った表現しかないわけだ。すでに存在している音を扱うという意味では、楽器もサンプラーも音源も一緒。全部おもちゃであり、道具だよ。ひとつの物を道具としてどこまで使いこなせるか、それはひとりひとりの力量だと思う。そして、それができなきゃプロじゃない。道具として1枚のCDRに向き合うとき、俺はそれぐらい意識してる。…… そういえば、テキサスに行ったときの話なんだけど、死んじゃった有名なDJ、名前を忘れちゃった。なんとかスクリュー。

――DJスクリューですか。

灰野 : そうそう、DJスクリュー。彼は素材の音源を遅くしたっていうじゃない?

――チョップド&スクリュード(という手法)ですね。

灰野 : CDJがあるんだから(ピッチ・コントローラーを使って)みんなDJスクリューの音源を元に戻せばいいんだよ。それで元の楽曲がなんだったのか露にしていけばいい。今後はそういうこともやっていくと思う。

――灰野さんはDJスクリューもお好きなんですか?

灰野 : いやいや、全然知らなくて。テキサスに行ったとき、DJスクリューの家族がやってる店に連れていかれて…… DJスクリューのCDR音源しか置いてないところなんだけど、そこで3枚ぐらい音源を買って帰ったというだけ。

――聴いてみて、いかがでした?

灰野 : いまのところおもしろくはない。

――(笑)。

灰野 : ただ、手元にあるDJスクリューの音源をどう活かすか、そういうことを考えるわけだよね。それで遅くされた音源を(=チョップド&スクリューされる)前の状態に戻してみようと。でもね、“元に戻す”というのはじつは肝心なことで、そもそもなにが“元”かっていう話でもあるよね。

――チョップド&スクリュードが“元”なのか、回転数を遅くする前の原曲が“元”だったのか。

灰野 : そうそう、そういうこと。

時代もジャンルも関係なく、すべての要素を自分のおもちゃとして遊ぶことができる

――ところで、今回の『IN THE WORLD』という作品ですが、最初に5時間のミックス音源を録音し、それを3枚に収まるようカットアップしたわけですよね?

灰野 : 最初は5枚組にしようとしてたからね。でも、いきなりそれもトゥーマッチじゃない? それで1枚にまとめようとしたんだけど、スタッフから「せっかくだからもうちょっといきましょう」と言われ、それでCDでは3枚組になった。

――ひとつの断片のなかにさまざまな曲がミックスされてますけど、断片同士はミックスされていませんよね。1枚でひとつのストーリーというより、ひとつの断片でひとつのストーリーという感覚?

灰野 : そんな感じだね。ひとつの固まりで1話、次の固まりで1話。起承転結に関しては意識してるつもり。突然「はい、終わりました!」という展開でもいいだろうし。

――CDでは、それぞれに“In Your Ears”“In Your Minds”“In Your Spirits”というタイトルが付けられてますが、これは各CDのコンセプトを示すものなんですか。

灰野 : まあ、「なにか付けなくちゃマズイかな」というぐらいで。ひとつの目印みたいなものの必要性はあると思うし、だからこそアルバム・タイトルも付けてる。それぐらいの位置づけだよ。俺はいつでも好きなようにやってるだけだからね。

――今回はジャケットもカラフルですよね。

灰野 : 昨年、不失者の2枚のアルバム(2012年の『光となづけよう』と『まぶしい いたずらな祈り』)を作ったとき、3枚目も作ろうとしていたの。それが諸事情でなくなって。そのときの2枚のアルバムのジャケットが緑と青だったから、3枚目はピンクにしようと思ってたんだよね。そこから一度ぐらいピンクみたいな色を使ってみたいなあと思ってて。デザイナーには最初から話してたんだよ。いかにもなかにDJミックスが入ってるようなジャケットにはしたくないって。イメージしていたのは平安朝の襖とか服の色彩。

――じゃあ、今回は昨年の不失者アルバムと連続してるような感覚もあるんですか。

灰野 : 俺の場合、全部一緒。不失者のアルバムの最後に入っていたシンバルの余韻として、今回のアルバムがはじまるイメージというか。全部がリンクするんだよ。不失者にせよ哀秘謡にせよ今回のミックスにせよ、本当は全部溶け合ってひとつになってるんだけど、細かい分子構造のひとつとして不失者があり、このミックスがある。もっと分かりやすく言うと、僕が“あなた”と歌ってるとき、その対象は個人じゃないから。僕でないもうひとつのもの、つまりは宇宙に向けて歌ってるし、そことの係わり合いを楽しんでいる。

――目の前の“あなた”だけじゃなく、100年前に生きていたかもしれない誰かに向けても歌われている、と。

灰野 : そうそう、そういうこと。だから、時代もジャンルも関係なく、すべての要素を自分のおもちゃとして遊ぶことができる。もっと時間をもらえれば、とんでもないものを作るよ。100枚組のミックスCDとかさ(笑)。楽しくなけりゃ、こんなことやらないからねえ。ハッハッハハ。

灰野敬二『in the world』リリース・コメント

全ての音(人)は平等で、お互いを認めつつそれぞれ独自に存在することで、安易な協調とは違う新しい秩序が生まれる。というような事を考えさせられました。灰野さんにしか作ることのできない、音楽愛の結晶のようなMIXです。

坂本慎太郎
楽器をターンテーブルに持ち替えても魔力的な音場はますます輝きを増して。希代のロック魔術師が教えてくれた新しい言葉。闇黒に翼を広げて暗号が飛び交う未知の夜。

七尾旅人
イマジネーションの宝庫! 

曽我部恵一
安易なオリジナリティなど到底足下にも及ばない唯一無比なイマジネーション、ゴン! とした塊で在りながらも砕け散ったり収縮したり漂ったり埋もれたり、新しいも古いもなく完全に「今」の音。ヤバすぎます。是非、挑戦してください。

池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
音の選択、重なり、リズム、すべて自然で、流れるような美しさがある。それは灰野さんの音楽への愛が深い証拠であろう。自分もそう在りたいと思う。

川崎 昭(mouse on the keys)
ごめんなさい。今まで僕が聴いてきたものは音楽ではなかったみたいです。今すぐに部屋にあるレコードを全て売り払ってこの灰野さんがミックスした3枚のCDだけを聴き続けることにします。

有馬和樹(おとぎ話)
"現実と実感を共有する"ような、つまるところ「共感覚」を求めるような音楽が今の主流であるとして、そうではない、もはや"この世より、彼方にいるとしか思えないほどの衝撃"を音楽で味わいたいのなら、こんなに相応しい音源はないと思います

ミト(クラムボン)
フューチャー。

にせんねんもんだい
映画の中で流れているテレビにフォーカスしていくような感じがしました

出戸学(OGRE YOU ASSHOLE)
ボーターレスでサイキックなロックンロール・ワールドが心と身体を襲撃だ。カルト・ヒーローはワクワクしながら音と楽しく遊んでいる。

TAYLOW(the原爆オナニーズ)
宇宙過ぎて手に負えません! が、灰野敬二さんはいつもそうだし、そしてもはや手に負えないものにしかワクワク出来ない自分もいるので、脳みそが飛び散りながら聴いています。昔先輩に、「灰野さんは日本で一番お洒落なミュージシャンなんだよ」って言われたのを今更ながらに思いだしました。

飯田仁一郎(Limited Express (has gone?)/OTOTOY編集長)
遂にリリースされる孤高の才人、灰野敬二氏によるDJ3部作。そのどれもが背徳のコンテンポラリー。高度な遠近感と音軸で、聴く者を香炉へと誘います。おもわずオリジナル作品かと思いました。彼のロマネスク色とビートの重なりは、誰もマネできないでしょう。ここにはリエディットして起こしたいパーツが山ほど存在しています。アートワーク、マスタリングも含め素晴らしい作品です。

ALTZ(Altzmusica、F*O*L)
僕が一番衝撃を受けたMIX CDはwoodmanの「A Barbarian In Asia」なんですが、この作品を聴いてそれに似た衝撃を感じました。末永く愛聴させて頂きます。

高根順次(スペースシャワーTV/DAX)
それを聴いている間
ときや位置を示す針が揺れ振れ一点を指さず
いまでもここでもないところに居る
そして確かのように思えたものが少しずつ
ぶれてゆくのを見る

三條亜也子(Shibuya WWW)
もはやDJMIXというより、RE-EDIT集と言ってもいいほど作りこまれていることにまず驚愕。幾つもの曲が灰野さんの感覚で組み合わさってマジックが生まれている瞬間が何度も到来する、濃密かつ奔放な3枚組

DJ ヨーグルト(Upset Recordings)
今まで自分が聴いてきた音楽を、例えば積み上げたレコード、CD、カセットテープの高さでどれくらいになるかな? とか考えてみたりする時がありますが、灰野さんのこの作品を聴いていると、これは高さとかで表現するのは到底無理だなと… 最早、複雑な形をした馬鹿でかい地層を眺めているみたいな気持ちになって、まるで途方に暮れてしまいます。取り敢えず口をぽかんと空けて、もうしばらくこの音楽に身を委ねてみようと思います。

望月慎之輔(新宿ロフト/オモチレコード)
壮大で濃密な、全音楽のひとつの調和への試みと千里眼。in the world。崇高なまでの音楽愛に圧倒される。体験あるのみ。

松永耕一(a.k.a.COMPUMA)
時間も空間も精神も飛び越えた驚愕の世界。すべての引力圏から解き放たれた神聖なる祭儀。すべてが自由で狂おしく美しい。ここで鳴っているのは音楽の自由ではない。魂の自由だ。

小野島 大
かれこれ四半世紀も昔、灰野敬二さんの自宅でよく一緒にレコードを聴いた。ジョン・リー・フッカーを聴き、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンやフランスのトゥルバドゥールものなどヨーロッパ中世音楽を聴き、ブルー・チアを聴き、韓国宮廷音楽を聴き、リー・コニッツやチャーリー・パーカーを聴き、ラ・モンテ・ヤングを聴き…といった具合に、何時間もひたすら聴き続けた。まるで、この宇宙のすべての音(楽)を探求するように。そして、語り合った。なぜ、こういう音楽が生まれるのか、なぜこの音楽家はこういう音を出さざるをえないのかといったことを。このDJミックス作品を聴いて、まず思い出したのは、あの灰野さんの部屋の風景である。灰野敬二は今なお、全宇宙の音を探し、自問し続けている。いや、自問じゃない。実践だ。生み出され、鳴り響くすべての音の必然だけを、灰野敬二の耳は捕らえる。何の関連もない様々な音の重なり、つながり、そして間は、しかし確かにひとつの物語を紡いでゆく。それは、灰野敬二の演奏そのものではないか。

松山晋也(音楽評論家)
灰野さんの初めてのDJは渋谷にあるBAR earだったと思う。そして2回目は渋谷駅新南口近くのクラブだったように思う。

どちらも自分は居て聴いていた。2回目のDJの時だった。それは今まで聴いた事のない、衝撃だった。頭がグワンぐわんした。

チベットの旅から帰ってすぐだった事もあり、土地の映像が頭の中でぐちゃぐちゃに回った。その音はノイズでも、ロックでもなく踊れるものでも無かった。衝撃だった。『美しい音を本当に知っている』、音楽家なんだなとわかった。この人のおとの感覚に近づきたいと強く思った。その時の自分は灰汁というグループで音楽活動をしていた。あの衝撃を音にしたかった。そうして出来たのが灰汁の1stアルバムにある、『キミドリ』という曲だった。

そして2009年の自主企画で灰野さんに出演依頼をする為、新宿ゴールデン街にあるBAR、裏窓の福岡さんに紹介してもらった。灰野さんに灰汁のCDを渡した。何日かして電話で灰野さんから会おうと言ってもらい、新宿のランブルという喫茶店で待ち合わせた。19時会うなり灰野さんは『時間がないから早めに言うよ。なにかとてつもない面白い事を一緒にやろう』と言ってくれた。夢のような瞬間だった。灰野さんは、自分の詩がとても気に入った。作品も気に入ったと言ってくれた。俺の中の偉大な音楽家から、そんな言葉をもらった。23時前ランブルを出てタワレコへ行った。俺の衝撃だったHIPHOPを教えて、それを買うからと灰野さんは言った。PUBLIC ENEMYの2ndとULTRAMAGNETIC MC'Sの1st、NAS の1st。確かこれらと他も大量に買っていた。BDPの1stは既に持っているよと聞いてHIPHOPも聴くのかと驚いた。灰野さんはThe Doorsのアルバム、Strange Daysの中のWHEN THE MUSIC'S OVERを聴いて音楽をやろうと決めた、最初の音楽での衝撃だったと教えてくれた。

話は戻るが、あの2回目のDJの時は世界4大宗教を同時にながしたんだと教えてくれた。自分はあの時居て、それを聴いて影響のもと出来た曲があると伝えた。灰野さんは、灰汁で1番好きなのは『キミドリ』と言ってくれた。俺は、その曲が灰野さんからの衝撃のもと出来た作品ですと初めて言うことが出来た。

灰野さんexperimental mixture『in the world』を車の中で爆音で聴いた。いつかまたこのおとのかたまりに、おれなりのことばとおとでかえせるさくひんをつくってやる。

セノオGEE(ラッパー、音楽家、A.I.BRIDGE records)
わたしはいつもはいのさんは黒いプレゼントのように可愛らしいと思ってます。
DJ MIX3枚組までリリースされたんですね。
そういうDJ MIX出そうという気持ちまでSO CUTE! です。
CDJを押す指先にはとてもエネルギーに満ちあふれてるんだろなあ。
音源も3段重ねの黒豆と黒ごまと黒墨パウダーのふりかかった、
デコレーションケーキみたいでした。
あ、中はふあふあ真っ白の生クリームで詰まってた。
そこがはいのさんの可愛さの秘密です。

YOSHIMIO (BOREDOMS / OOIOO…)

LIVE INFORMATION

『エクス・エクス・エクス・ポナイト!!!!!』ex-ex-ex-POnight!!!!!
2013年12月27日(金)@渋谷O-Nest
出演 :
【PERFORMANCE】東葛スポーツ
【LIVE】木下美紗都と象さんズ / 灰野敬二(DJ SET) / A-musik featuring 大谷能生
【TALK】阿部和重 × 千葉雅也 / いとうせいこう × 菊地成孔

灰野敬二ワンマンライヴ
2013年12月30日(月)@高円寺ShowBoat
開場16:00/開演16:30

BLACK OPERA vol.001《COUNT DOWN》
2013年12月31日(火)@渋谷WWW

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PROFILE

灰野敬二

1970年代より活動を続け、常に新たなスタイルを探し続け、日本の現代音楽において前衛的傾向を主導してきた野心的な音楽家。

1971年に日本初のインプロヴィゼーションバンド「ロストアラーフ」を 結成し、本格的な音楽活動を開始。以降、現在に至るまで、ロックをベースに、ノイズ、サイケデリック、フリー/ ジャズ、民族音楽など、ジャンルを自在に横断しながら、アンダーグラウンドミュージック界を牽引。挑戦的で実験的な作品群は、日本のみならず海外での評価も高く、現在もヨーロッパを中心に海外公演を頻繁に行っている。リリースしたレコードは優に100を超え、ソニックユースのサーストン・ムーアをはじめ、彼を信奉するミュージシャンは世界的にも数多い。

>>official HP

[インタヴュー] 灰野敬二-experimental mixture-

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