
作曲家・武満 徹(1930-1996)の芸術的な日本の歌をショーロクラブと7人のヴォーカリストが紡ぐ
ショーロクラブ with ヴォーカリスタス / 武満徹ソングブック
アン・サリー、おおはた雄一、おおたか清流、沢智恵、松平敬、松田美緒、tamamixの7人のヴォーカリストを迎え、弦楽トリオ、ショーロクラブが、日本を代表する作曲家・武満徹の歌に挑んだ意欲作。繊細で美しく、日本の心に触れている様な感覚で、まるで一つの芸術作品のような仕上がり。21世紀を生きる全ての日本人へ。高音質のDSD音源でお楽しみください。
DSDの聴き方はこちらから。
【TRACK LIST】
1. 翼 / 2. めぐり逢い / 3. うたうだけ / 4. 明日ハ晴レカナ / 5. 島へ / 6. 恋のかくれんぼ / 7. 小さな空 / 8. 見えないこども / 9. ワルツ-他人の顔 / 10. 死んだ男の残したものは / 11. 三月のうた / 12. 燃える秋 / 13. 翼 / 14. MI・YO・TA / 15. MI・YO・TA
日本人の音楽に浮かび上がる「懐かしさ」
武満徹(1930-1996)は日本の現代音楽を代表する作曲家の一人である。こう書くと堅苦しく感じてしまうかもしれないが、武満はジャズやポップスにも親しみ、数多くの映画音楽を手がけるなど、柔軟にして一筋縄ではいかない存在でもある。そんな武満の書いた歌ものの曲は、ニュース23のエンディングに使われていた石川セリの「翼」に代表されるように、数多くのアーティストに歌われてきた。そして、今回はブラジル音楽を独自の解釈で奏でる日本のトリオChoro Clubがアン・サリー、おおはた雄一ら7人の歌い手とともに『武満徹ソングブック』をリリースする。
アルバムのサウンドはバンドリン、ギター、コントラバスといったアコースティック楽器と歌という編成が取られ、とても丁寧な演奏はリズム隊がなくとも楽曲を静かにグルーヴさせる。楽器は基本的に歌に寄り添い、歌がメロディ・ラインから引き出す情感を広げていき、情景を作り出す。音数は多くないが、視覚的なサウンドなのだ。前段で武満に映画音楽の作品も多いと書いたが、それは絵画や映画からインスピレーションを受けることが多いと公言していた彼が視覚的な音楽を作り出せるためだろう。アニメを中心として何枚もサウンド・トラックを出しているChoro Clubもそこは同様で、武満の楽曲とバンドの資質がうまくかみ合い、本作が描き出している情景にはとても説得力がある。

そして、その情景から感じるものはなにかと言えば、それはある種の「懐かしさ」だ。しかし、その「懐かしさ」は懐メロを聞いたときに感じるような、ある特定の年代の匂いを音楽から嗅ぎ取って浸るようなことではない。もう少し根深いところから来ているものだ。武満は1975年の谷川俊太郎との対談で、谷川の日本が西洋の文化を受け入れるために明治に空白状態になり、それがまだ埋まっていないのではないかという旨の発言に対して、確かにそういう意味で日本人は過去を持っていないかもしれないが、その明治から今に至る百年間を否定はできない、と答えている。武満は西洋で発達した音楽の手法の中で、琵琶や尺八といった和楽器を用いることで代表曲「ノベンバー・ステップス」を作ったが、このやり取りからは彼が日本の文化の独自性を取り戻そうというような単純な考えではなく、もっと複雑なスタンスで音楽を通して日本の過去を探ろうしていたことが伺える。一方でChoro Clubも、ボサノバやサンバのもととなった音楽であるショーロなどを独自に発展させ、ブラジルでショーロ・ゼン(禅)として紹介されるバンドである。そして、ショーロをはじめとするブラジル音楽では、郷愁や憧憬などを含んだ複雑な感覚・サウダージが重要とされている。これも過去への思いに関する感覚だが、Choro Clubがブラジル音楽をもとにして作り上げたサウンドにはこの点で武満の音楽と通じているのではないだろうか。そして、その両者の相互作用によって生まれている感覚が「懐かしさ」なのだ。
外国の音楽に熟練した日本人の音楽に浮かび上がる「懐かしさ」。Choro Clubは武満の楽曲に表れていたそんな感覚を、都市型のサウンドで演奏することによって現代的に更新している。その音はあまりにさりげなく体に流れ込んでくるが、しっかり目を開けば様々なものが見えるだろう。
(text by 滝沢 時朗)
ショーロクラブ・インフォメーション
武満 徹ソング・ブック・コンサート
2011年11月19日(土)
めぐろパーシモン・ホール 大ホール
出演 : アン・サリー / 沢 知恵 / おおかた清流 / おおはた雄一 / 松平 敬 / 松田 美緒 / tamamix
演奏 : ショーロクラブ
開場 : 16 : 00 / 開演 : 17:00
2011年8月2日(火)チケット発売
コンサートについてはこちらから

What's SONG X JAZZ
新しいジャズ・レーベル「SONG X JAZZ」が始動しました。「ソングエクス・ジャズ」と読みます。「ジャズ」を謳ってはいますが、扱う音楽は通常「ジャズ」と呼ばれている音楽からは大きくはみ出しています。「未知の歌、未知のジャズ」をテーマに、国内外から厳選した音楽を、ジャンルにとらわれることなく届けたいと考えています。レーベルとして目指すべきお手本があるとすれば、アメリカのNONESUCH、フランスのNØ FØRMAT! 、あるいはドイツのECMといった、世界中の音楽ファンに愛されているレーベルでしょうか。自由で創意に富んだ音楽を長年にわたってサポートし続ける彼らの感性と勇気への敬意が、「SONG X JAZZ」を生んだといっても過言ではありません。今後、国内外のユニークなアーティストがリリースを控えています。音楽不況といわれるご時世ですが、音楽そのものが停滞しているわけでは決してありません。音楽はもっと面白く、もっと自由になれることを、「SONG X JAZZ」はレーベルというかたちで表現していきたいと考えています。
Song x jazz official HP
Song x jazz Archive
PROFILE
ショーロクラブ
ショーロクラブ笹子重治(アコースティック・ギター)、秋岡欧(バンドリン)、沢田穣治(コントラバス)の3人によって1989年に結成された弦楽ユニット。ブラジルの伝統的な都市型インストゥルメンタル・ミュージック「ショーロ」にインスパイアされながらも、全く独自のサウンドを創造。現在までに計22枚のCDを発表。活動のフィールドは、通常のコンサート・ホールやライブ・ハウスだけでなく、美術館やギャラリー、神社仏閣、ジャズ・フェス、ストリートに至るまで幅広く、海外でもブラジルを含め中南米6ヶ国でもコンサートを行った。02年には、木村拓哉主演の年末スペシャル・ドラマ「忠臣蔵1/47」の音楽制作、03年には山田太一ドラマの挿入歌、2004年1月には、日本テレビの連続ドラマ「彼女が死んじゃった」の音楽を担当。その他NHKの大河ドラマのエンディング・テーマ、バラエティー番組や情報番組等の音楽を担当する等、テレビを舞台とした音楽制作は活動の柱のひとつとなっている。結成20周年を迎え9枚目のオリジナル・アルバム「トリロジア」(2009年)を発表後、めぐろパーシモン・ホールでゲストを迎えて単独公演を行った。