
国内外の様々なアーティストのリミックス、アーティストのプロデュース、映画、CMへの楽曲提供等で活動の場を広げている宮内優里。高橋幸宏、原田知世、星野源らをヴォーカルに迎え大ヒットした『ワーキングホリデー』から僅か1年、"新章・宮内優里"の幕開けとなる8曲入りのミニ・アルバム『トーンアフタートーン』が完成。ゲスト・プレイヤーにコーネリアスこと小山田圭吾を、2012年に12年ぶりのアルバムをクルーエル・レコーズからリリース予定の神田朋樹を招いての唯一無二の傑作が登場。
誰も体験したことのない新しい音像を描いたニュー・アルバム
宮内優里 / トーンアフタートーン
【Track List】
01. toaf_ / 02. digo_ / 03. fida_ / 04. yef_ / 05. kano_ / 06. ceof_ / 07. reioa_ / 08. wiove_
大ヒット&ロング・セラーを記録中の『ワーキングホリデー』から僅か1年、8曲入りのミニ・アルバムが完成。ゲストにコーネリアスこと小山田圭吾が参加した最新作。
普段着とよそ行きのバランス感覚が心地よい新作
「このような世の中にあって、音楽は社会に対して何ができるのか? 音楽はどうあるべきなのか? それをこそ問わねばならない」といった生真面目な姿勢を見せなければアーティスト扱いされないこのご時世。その只中で、「音楽って『音』に『楽しむ』って書くんだから、楽しけりゃいいじゃん! 」というまさかの禁句さえも飛び出しかねない、この音楽家。呼吸するかのごとく、ごく日常的な行為として音楽する宮内優里その人である。
音楽を通じて何かメッセージを伝えようというでもなく(基本的にインストであるし、曲名も記号的)、手法としての、あるいはサウンドとしての目新しさ・斬新さといったところにも狙いはなく、「いわゆるエレクトロニカ・フォークトロニカ」と言い切ってしまえるその音楽性は、いい意味で気負いがない。また、「ほんじつのおんがく」と題する、その日のうちに作曲・録音・ミックスした楽曲をアップロードし続ける試みを2010年から開始し、すでに第6集を数える。こうした日常生活の一部としての音楽観は、新世代のゴンチチともいえるものであり、現代のような状況にあっては、逆にこうした音楽もまた必要なのである。

さて、多数のゲストが参加し、自他ともに認める一つのピークでもあった華やかな前作『ワーキングホリデー』から1年。当時、「(次は)これまでとは少し外れたことを1回やってみたい」とまで語っていた彼だったが、届けられた新作は果たして、相変わらずのいつも通りの普段着であった。しかし、まとまりのよい小洒落た普段着である。たとえば、3rdアルバムまでは、どちらかというと無数に散りばめられた音の重なり具合の妙が聴き所であり、1曲1曲の中での抑揚は比較的小さく、万華鏡のように変化する景色をゆったりと眺めるかのような作風であったが、ヴォーカリストとのコラボ作といった趣の前作からは、より曲の展開に重点が置かれるようになり、その意味でより「ポップス」的になったと言える。その流れが、再びインストに戻った本作にも還元・踏襲され、「エレクトロニカ」というより、「ポップス」という形体への帰着・定着が感じられる。
また、隙間を埋め尽くすように散りばめられた音も、音の群像劇ともいえる初期の作品に比べて、その一つ一つが楽曲という一つの方向性に照準を定めることで、「ポップス」という印象に寄与している。さらに、本作はコーネリアスの全面参加という点も見逃せない。特に「fida_」での「本のページをめくる音」の大々的な導入は、コーネリアスの『Point』収録の「Drop」で見せたような、周囲を取り巻く環境の中に「カッコいい音」を発見してサンプリングするという手法で、彼の真骨頂といえる。本作は、その辺に転がっているフレーズで遊んでみたようなマイペースな普段着感を保ちつつも、ちょっとよそ行きも意識したようなバランスが心地よい新作なのである。(text by 青野慧志郎)
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PROFILE
宮内優里(みやうちゆうり)
音楽家。1983年、和太鼓奏者の父とジャズ・シンガーの母のもとに生まれる。これまでに4作品のアルバムををRallye Labelよりリリース。2011年7月にリリースした最新作『ワーキングホリデー』ではインストゥルメンタルの楽曲に加え、高橋幸宏、原田知世、星野源、It's A Musical、Faded Paper Figures、マモル(a.k.a. nhhmbase)等とのコラボレーションによる楽曲を収録し、ロング・ヒットを続けている。ライヴではアコースティック・ギターを中心に様々な楽器の音をその場でサンプリングし、たった一人演奏する"音の実験室"ともいうべき空間を表現する。自身の活動以外では、pupaのリミックス作品への参加、TYTYT(高橋幸宏+宮内優里+高野寛+権藤知彦)としてDe La FANTASIA 2010、TOKYO M.A.P.Sに出演。海外アーティストi am robot and proudとのライヴ、作品でのコラボレーション、国内外の様々なアーティストのリミックス、アーティストのプロデュース、映画、CMへの楽曲提供等、現在その活動の幅を広げている。