
窒息させるほどの特異な音楽
Wild Beasts / Smother
2009年発表の前作『Two Dancers』が各メディアから高い評価を受け、Domino Recordsに所属する英国北部Kendal出身の4人組Wild Beastsから通算3枚目の新作『Smother』が届いた。Londonでの曲作り、そしてWalesでのレコーディングという両極端な環境での制作が影響したのか、これまでよりギターの音が減り、その分、エレクトロニクスの比重が増した意欲作に仕上がっている。
【Track List】
1. Lion's Share / 2. Bed Of Nails / 3. Deeper / 4. Loop The Loop / 5. Plaything / 6. Invisible / 7. Albatross / 8. Reach A Bit Further / 9. Burning / 10. End Come Too Soon / 11. Smother / 12. Catherine Wheel
UKの4人組ロック・バンドWild Beastsの3作目『Smother』がリリースされる。前作『Two Dancers』は各所で評判を呼び、マーキュリー・プライズにもノミネートされたが、今作は前作の世界観をより深めたアルバムになっている。 Wild Beastsのサウンドの特徴は、まず、二人のヴォーカルによるファルセット・ボイスにある。その声はAntony Hegartyがよく引き合いに出されるが、声に深い悲しみとそれゆえの美しさが込められている点で確かに似通っている。そして、ヴォーカルと並ぶサウンド面の特徴は、3つのギターのアンサンブルとドラムによるミニマルなバンド・サウンドだ。ミニマル・テクノやアンビエントから取り込んだであろう澄んだ音の質感と淡々と刻まれるリズムは、エモーショナルな歌と組み合わさることで、彼らのサウンドをより重層的なものにしている。『Smother』では前作から引き続き元SpectrumのRichard Formbyをプロデューサーに迎え、シンセなどの電子音をより多く用いることによって、サウンドをよりミニマルでアンビエントな方向へ作りこみ、『Two Dancers』で確立したこの手法をより効果的なものにしている。

ところで、ミニマル・テクノからの影響を思わせるトラックにファルセット・ボイスを乗せるという組み合わせは、Radiohead『King of Limbs』やJames Blakeのファースト・アルバムといった今年のUKを代表するようなアルバムに見られる特徴でもある。Radioheadはそのサウンドで現代社会への違和感という『Kid A』において中心的だったテーマを更新し、James Blakeは声とサウンドのテクスチャーを一体化させることで意識の揺らぎや曖昧さを現代的に表現していた。『Smother』も含め、どの作品も内省的な感覚をミニマル・テクノやアンビエントを経由したサウンドとして表現しているが、これは現在のUKのある面を表しているのかもしれない。
昨年のアメリカではディスコ・パンクが衰退し、レイドバックした快楽的な音響表現が特徴のグローファイというジャンルが隆盛した。UKも社会で行き場のない若者を直接的に歌っていたArctic Monkeysに代表される一連の若いロック・バンドの勢いは近年見られず、どちらでも現実や社会に直接アプローチするような表現は退潮している。この流れでいくと、Wild Beastsを含むUKのミニマルで内省的な作品はアメリカのグローファイの対応物として見ることができるかもしれない。そして、あまり感情を表立っては出さない傾向を持つこれらの作品群の中にあって、『Smother』という「窒息させる」「強い感情で人を圧倒する」という意味のタイトルを冠している本作は、より個人的な感情に焦点を当て、強い感情と現代的な音響表現を組み合わせている点で際立っている。彼らが丹念に積み重ねて作った特異な音楽は、今年の台風の目になりそうだ。(text by 滝沢時朗)

RECOMMEND
The Hundred In The Hands / The Hundred In The Hands
ディスコ、ポスト・パンク、エレクトロ、ガールズ・ポップ、ダブ、ハウスなどを柔軟に取り入れ、伝統的なポップ・ミュージックへの愛情、ユニークな実験性、クリエイティヴな感性によって表情豊かなスタイリッシュ・サウンドが実現。ダンサブルでしなやかなポップ・ネスとメランコリックなハーモニーが官能的に鳴り響く!!!
Fleet Foxes / Helplessness Blues
衝撃のデビュー・アルバムが主要年間チャートを独占したフリート・フォクシーズ! 2011年最大級の話題となること間違い無しのニュー・アルバムが遂にリリース決定!!
Blindfold / Faking Dreams
彼らはアイスランド出身、ロンドンをベースに活動する5人組。柔らかくも広がりをみせるシンセの上をチェロの音色が舞い、伸びやかな高音ヴォーカルが重なる前には、最早驚く暇もなく目を閉じて“うっとり”させられるであろう。
PROFILE
Wild Beasts
英ケンダル出身のヘイデン・ソープ(V,G)、ベン・リトル(G)、トム・フレミング(V,B)、クリス・タルボルト(Dr)の4人組。08年、レーベル争奪戦の末、Dominoと契約。同年『リンボ、パント』でアルバム・デビュー。2009年『トゥー・ダンサーズ』が世界中で賞賛を受け、数々の年間ベスト・アルバムに選出された他、英国最高峰音楽賞マーキュリープライズにもノミネートされた。