今回質問に答えてくれたのは、比較的インタビューイーであることの多い、ショーン・ブースではなく、相棒のロブ・ブラウン。余り反応が良くないのでは? という心配は1問目で吹き飛ぶ。しゃべる、しゃべる、あっという間の1時間。おかげで質問の半分くらいしか聞くことが出来なかった。しかしながら、丁寧な回答から分かるのは、これだけ何もかもが再帰的にならざるを得ない00年代以降において、それでも「新しく」あろうとしているということだ。それは恐ろしく挑戦的なこと。24ビットの高音質版も配信されるという新作、『オーヴァーステップス』から彼らの真意を是非聴き取って欲しい。「新しくあれ」という貫徹されたその信念においてオウテカは、2010年の今も尚、希有なポジションを保っている。

インタビュー & 文 : 定金 ケイゴ

テクノロジーは進化しているんだけど、それは本質的な進化じゃない

—— 現在もロンドンに住んでいるのでしょうか?

まだ半年くらいしか経っていないけど、ブリストルに引っ越したんだよ。南西部にね。ロンドンには10年くらい住んだ。ショーンはまだマンチェスターに住んでいるけどね。

—— ブリストルはどうですか?

すごくいい感じだよ。ロンドンは色々なチャンスがあるし、経済的にも魅力があるところだから多くの人がやってくる。ただとても人が多いし、フラストレーションは溜まる。僕はもう少し落ち着いたところで自分勝手にやりたかったからね(笑) 。気に入っているよ。

—— アルバムの話題に移る前に社会的な話題について質問したいと思います。昨年は、大きな金融危機がありました。それによってあなたの周囲で何か変化はありましたか?

ちょうどロンドンからブリストルに引っ越したタイミングで、たくさんの人々が経済危機で自信を失ったように見えた。あらゆる経済活動が停止したからね。でも80年代から90年代初頭の不況と同じで、こういう時にこそ人々はクレイジーなアイデアや、新しいことを始めるタイミングでもあると思うんだよね。それに個人的には90年代の時ほどセンシティブな状況だとも思わなかった。確かに多くの銀行が姿を消したし、経済は停滞したというのはあるけどね。あとは、うーん、そうだな。ショーンだったら別の意見があるかもしれないけど。

—— ではアルバムに関する質問に移りたいと思います。今作の制作にはどれくらいの期間が掛かりましたか?

いつ終わったかというのを決めるのはとても難しい。『クアリスティス』のツアーを2008年の夏に終えて、制作に取りかかって、僕は家を引っ越した。ショーンは自分のスタジオがあるから、自然に新しい素材に取りかかった。いつもそうなんだけど、アルバムに取りかかるっていうよりは「トラック」に取りかかるという感じだったしね。2年間のツアーでやったことに対して反応しているというか。前作はトラックにライブ感があったし、アイデアのジャムって言う側面が強かった。素材をチョップして、最終的な2チャンネルのミックスに落とし込む作業だね。今回についてはソフトウェアと、機材のセット・アップを見直したよ。もっとヴァラエティーに富んだアイデアを追求する余地があったし、新しいアイデア、新しいアプローチを試して、それをアルバムにまとめていく感じだった。素材の量としては相当あったからね。それによってトラックをより強力にすることも出来たし、深めていくことも出来た。新しい視点を開拓して、それを出来る限り遠くに持って行くことが出来た。だから「ここで終わり」という感触を持つのは難しかったんだ。マスタリングが終わってからも「ああ出来た。こう出来た。」とアイデアを巡らせることは出来るしね。

—— ソフトウェアについては日々アップ・デートを繰り返していると思うのですが、その進化をAutechreの作品に取り入れていこうと考えていますか?

必ずしもそうは思っていないね。コンピュータと音楽に関するドラスティックな変化っていうのは、だいぶ前… 15年くらい前に起こったんだよ。勿論、日々テクノロジーは進化しているんだけど、それは本質的な進化じゃないんだよね。本質的な変化という意味では、1985年くらいから変化は起きていないと思う。変わったことと言えば、処理能力の飛躍的な向上だろうね。それと保存領域の爆発的な拡大。今では、どんなアイデアでも大量に保存しておくことが出来るし、昔作ったアイデアをすぐ参照することも出来る。同時に多くの作業を平行して進めることが出来るしね。そういう意味での進化というのは大いにあるけれど、本質的には何も変わってないと思うんだよね。

半分は古くて、半分は完全に新しく聴こえるようなサウンドに価値がある

—— あなたたちは文字通り「純粋な」エレクトロニック・ミュージックを作ろうとしていると思います。なぜならあなたたちの作品からはいわゆるアコースティック・サウンドや人の声のようなサウンドが極力排されているように聴こえるからなんです。それは意識的なものですか? それとも自然発生的なもの?

僕自身は、現実にあるサウンドもそうでないサウンドも両方好きなんだ。自分が音楽を聴いている中でディープだと感じるのは、どこかで聴いたことがあるようなノスタルジックなサウンドと、フューチャリスティックなサウンドの両方の側面を含んでいるとき。半分は古くて、半分は完全に新しく聴こえるようなものがね。つまり、タイムレスネス。自分がどの時代にいるのか分からなくなるような、そういうサウンドっていうのがより価値があると思っている。

——前作に比べてビートレスなトラック、そしてアンビエントでメロディックなトラックが増えているという印象を受けました。これは意識的な変化だということは出来ますか? それとも自然発生的なものでしたか?

両方だね。つまりどのようにトラックが進歩したかということなんだ。複雑なトラックが今回は多いと思う。いくつかのメソッドを深めていったから、トラックによってはとても装飾的で、それと同時によくデザインされて、細部が美しく作り込まれていると思う。フラジャイルだと言うことも出来るね。フラジャリティーはパワーでもあるし。そういった点に関しては昔のアルバムと少し共通点があるだろうね。でもそれはとても自然なシフトだったと思うよ。

——これまでトラックやアルバムに明示的なタイトルを付けることを避けてきました。しかし、今作は『Oversteps』という現実に存在する普通のタイトルであり、何かしらの意味を連想させるタイトルだと思います。この変化には何かしら意図があったのでしょうか?

いや、そうではないな。確かに僕らはいつも直接的な言葉を避けてきたよね。言葉で音楽を説明しようとすることがないわけではないけど、何かしらの言葉を使ってしまうと当然何かを意味してまう。だけど「タグ」を付けるなら、それはそのタグとサウンドを結びつけるという意味でよりクリエイティブだと思うんだよね。デモ・テープに適当な名前を付けておくみたいなもので。曖昧ではあるけど、それで楽曲の力が失われることになるとも思わない。トラックの名前で内容がレビュー出来てしまうと、それがバイアスを掛けてしまうこともあるからね。

——前作の際、ショーン・ブースは「以前はテクノロジーこそが重要だと思っていたが、今はより“人”に興味がある」と言っていました。この認識はそれ以降の制作に何かしら影響をもたらしましたか? あるのだとしたら、それはどんな影響でしょうか? 過去の作品との対比という意味で教えてください。

どういうコンテクストで言ったか分からないから、正確には答えられないけど。前作がライブ・セットのジャムをまとめることでアルバムを作っていったことと関係していると思う。僕が思うに、ライブの中で、フロアがどう反応するかを考えることがトラックに影響を及ぼしたという意味はあるんだろうね。「第三者が直接的に音楽に影響を与えている」ということを正確に計るのは難しいことだけど。オーディエンスというのもとても幅が広くて、とても僕らに親近感を抱いている人々もいれば、そうでない人たちも大勢居るわけだから。

24ビットの方が圧倒的に音響的な情報が多い

—— では、新作から少し離れ、最近の音楽カルチャーについて質問させて下さい。以下のような意見についてどう思いますか?「ダブステップはレイヴの匿名性を継承し、2000年代最初のディケイドにおける最良のアンダーグラウンド・ミュージックである」

匿名性か。そうだね、テクノ・ミュージック、エレクトロニック・ミュージックにとって、匿名性は大きいと思う。普通のバンドみたいに個々の人間にステージ上のアイデンティティが与えられているわけではないからね。二人の人間がベッド・ルームで作ってるだけってこともあるし。それがすごくインパクトを与えることがある。レイヴ・カルチャーにおける匿名性ということで言えば、僕の経験で言うと、人々がシームレスにアイデアを共有することで、前進することがあるよね。だから匿名性がポイントというよりは、集団が同じアイデアを共有しているっていうことがポイントなんだと思う。ダブステップについては、そんなに革新的だとは思わない。ただ悲劇性やディストピアを表象しているという特徴は魅力的なところだよね。音楽的なスタイルという点については、簡単に真似することが出来るものでもある。特にイギリスではダークなものやアウトサイダーを歓迎する傾向はアメリカよりもあるからね。何を新しいと感じるかというのは、どの時代にどのようにその情報を受け取るかにもよるし、何かのアイデアが輸入される時ってある部分が切り取られて伝わるけど、実際はもっとコンスタントに変化は起きているんだよ。文化は文字通り他の文化圏へ移すことは出来なくて、そこには誤解が生じる。それはそれで健康的で生産的だったりもするんだけどね。何かしらの文化的なコネクションとか背景は失われるんだよ。だから匿名性という点で言えば、実際そのカルチャーの内部においてはそれほどポイントではないと思うんだ。

——ポップ・ミュージックが歴史的に弁証法的に進化してきたとすると、将来もそのような形の進化はみられるのでしょうか? それとも既に飽和状態にあり、現在のようにもはや「再帰的」もしくは「懐古的」にならざるを得ないのでしょうか?

ポップの世界において何かビッグなことを成し遂げようとすると、何かしら過去を参照してくるしかないんだよ。モータウン・サウンドをもう一度持ってくるとかね。で、その時のフィーリングを再現しようとする。ポップは循環的なものだよね。人々は一度気に入るものを見つけるとそれを何度も使うし、それを拡張する。ヒップホップやエレクトロだって、その形式は至る所に輸入されてそのメイン・フレームが使われたわけだし。今周りに再帰的な音楽が溢れているのもそれと同じことが起きているからだよね。ポップという言葉自体自然な定義では無いから、完璧に定義づけて語ることは難しいと思うけどね。

——音楽業界が死にかけ、構造時代が変わってきています。オンラインでのリリースが一般的になりつつあり、ミュージシャンにとっては、ツアーが生計を立てる上ではより意味を持ってきていると思います。あなた自身は、ツアーと作品を作ることのバランスをどう考えていますか?

年々変わってきていると思う。昔はレコードを作って、それを売るためにツアーした。今はダウンロード・カルチャーが進んできたから、その側面は壊われつつある。でもそれと同時に人々はSNSでライブについて語っている。あのギグが良かったとかそういった情報が瞬時にウェブ上で語られたりする。時にはライブが終わる前に、そのレビューが載ってたりするくらいにね。でも今はライブがまずありきで、レコードは二の次なんだ。かつてはレコードを作ることがライブがあることを示していたけど、今はライブがあることがレコードがリリースされることを示しているみたいなシフトは起きている。収益的にもライブをやってやっとブレイク・イーブンだってこともあるしね。でも人々がその音楽を気に入る限りはハード・オブジェクトとして何かしら提供する必要はあるんだろうね。もし人々がまったく気にもとめないのであれば、リリースしたいとは思わないしね。

—— 最近では様々な形での音楽の配信が存在します。何か特別に注目しているものはその中にありますか? 最新作では24ビットでのリリースをするということで、高音質でのリリースには興味があるということだと思うのですが。

業界では、ロスレスとかいろんなフォーマットがあるけど、それは単にサンプル・レートを決めているだけで、24ビットの方が圧倒的に音響的な情報が多い。ヴァイナルは音質面ではハイ・クオリティーに保つことが出来るけど、フォーマットとしては死に向かいつつあるしね。CDは未だにメインストリームではあるけど、不幸なことにそんなに音質の良いフォーマットでもない。ダウンロードについては人々はもっとひどい音質のものを聴いている。今はCDよりもPCのほうが再生するものとしては一般的だから、24ビットで音源を配布するというのは、ハイ・クオリティーなものを届けるという意味では非常に有効的だと思う。

——個人的にはダウンロードへの課金には賛成ですか?

そうだね。「盗む」っていうのは良いとは思わないから。かつては人々はレコードを買っていたけど、それは過去のことになってきている。僕はレコードを買う古いタイプの人間だけど。十分に世間に行き渡るならどんな形式でも問題ないと思う。

——最後に、来日の予定はありますか?

6月になると思うよ。まだどのヴェニューかは分かっていないけど、(後の情報6月4日@ディファ有明と判明)東京での公演とタイコ・クラブというフェスでのライブになると思う。すごく楽しみにしてるよ。

LIVE SCHEDULE

Autechre東京公演決定!!

2010/6/4(金)@differ 有明

w/ Juan Atkins / Claude Young / much much more !
チケット : 先行販売 2010/2/27(土) START / チケット一般発売 2010/3/13(SAT) START
企画・制作 : BEATINK 03-5768-1277
詳細 : http://www.beatink.com/events/autechre2010/index.html

2010/6/5(土)TAIOOCLUB '10@長野県木曽郡木祖村「こだまの森」

w/ Ben Klock (Ostgut Ton/Bpitch Control) / Damian Lazarus (Crosstown Rebels) / DJKENTARO / Dosh (w/Mike Lewis/Anticon.) / Flying Rhythms / Kettel (Sending Orbs) / クボタタケシ / Matthew Herbert (dj-set) / Matthew Dear (M_NUS/GHOSTLY INTERNATIONAL) / Mice Parade / MOODMAN / TAKKYU ISHINO / トクマルシューゴ / TOKYO No.1 SOUL SET / …and more

Autechre Profile

オウテカは英マンチェスター出身のロブ・ブラウンとショーン・ブースによる、プロデュース・ユニット。十代の頃、ヒップホップやエレクトロに影響を受けた二人は、1987年にユニットを結成した。80年代後半から90年代初頭にかけ、踊ることに主眼を置いたダンス・ミュージックやレイヴ・カルチャーが隆盛を極める中、オウテカは人工的で無機質なグリッチ音を用いた、複雑かつ大胆なリズム構成のブレイクビーツ/エレクトロニカを展開。アナログ&デジタル機材やコンピューター・ソフトウェアを駆使した、知性と革新性を感じさせるプロダクションによって、IDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)を代表するアーティストして認識されていった。オウテカ名義としてはこれまでに、イギリスではWARPより、アメリカではWAX TRAX! よりライセンス・リリースされている。また変名のレゴ・フィートとしてSKAMからも作品を発表している。そんな彼らが所属するWARPは、IDMの先駆レーベルとして認識されている。オウテカの楽曲は、同レーベルより1992年にリリースされたコンピレーション・シリーズの第1弾、『Artificial Intelligence』にザ・ダイスマン(エイフェックス・ツインの別名義)、アレックス・パターソンらとともに収録されている。翌1993年には同シリーズの第7弾として、11曲入りのアルバム『Incunabula』を、1994年にはアルバム、『Amber』を立て続けに発表。その後『LP5』('98)や『ep7』('99)で音のフラグメントがランダムに打ち鳴らされる実験的なサウンドを展開し、オウテカはエレクトロニカ・シーンを代表するアーティストとして、世界的な評価を獲得していった。

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インタヴュー

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