2011/11/12 00:00

話題沸騰のLana Del ReyのデビューEPを配信

Lana Del Rey / Video Games
Nextアデル! ポップ界に彗星の如く現れた弱冠24才の美人シンガーLana Del Rey。自ら監督を務めたデビュー・シングル「Video Games」のPVがYouTubeにアップされるやいなや海外メディアが大絶賛、一カ月足らずで再生回数200万回を突破、今最も注目を集める女性シンガー遂に登場!

無防備な愛、古のアメリカン・ドリーム、Lana Del Rey。

チャールズ・ブコウスキーという作家の『町で一番の美女』という短編集の表題作である「町で一番の美女」は、放浪中の主人がある町のバーで知り合った美女・キャスと過ごした短い日々を語っている。キャスは男を惹きつけるのは自分の外見だけであり、表面的な美醜でしか価値を判断しない男達に大きな虚無感を抱えている。短編の冒頭、彼女は語り手の男の前で、いきなり自分の小鼻に帽子の飾り止めのピンを突き刺してみせる。男は、そういう彼女の振る舞いに驚き、止めようとするが彼女の行動は次第にエスカレートする。しかし、同時に互いに対して興味を抱き始め、次第に二人は恋に落ちる。彼女は、彼と暮らしはするものの、結婚については承諾しない。あるとき、男は仕事のために、数日の間、町を離れることになる。仕事からバーに戻ってみると、男はバーテンダーに彼女の自殺を聞かされる。

若干25歳のシンガーソングライターLana Del ReyことLizzy Grantはどこか上述のキャスを想い出させる。ブリジット・バルドーのような端麗なルックス、殊更に言及されることの多い魅力的な唇、レトロで独特のスタイルのあるファッション。そして、諦念を感じさせる物憂げな眼差しと危うい雰囲気。PJハーヴェイのような気高さとCat Powerのようなフラジャイルさを融合させ、最後にセクシーさを加えたと言うほうが少しは分かりやすいだろうか。その目を見張る美しさという特権がゆえか、どこか世界から疎外されているような感覚を聴き手に想起させる。

彼女自ら監督、編集を手がけた「Video Games」は、Youtubeを検索して探し出してきた映像から作り上げたという。フィルム映像を多用したそのクリップは、古き良きアメリカ、若くあること、そして恋に落ちる美しさとはかなさを、50〜60年代、つまりまだアメリカンドリームが無邪気に信じられていた頃のハリウッドをモチーフにしながら見事に体現している。この動画がYoutubeにアップロードされると、目立った過去の音楽活動歴も少なく、まだ得体の知れない彼女について、ピッチフォーク、ガーディアン、ローリング・ストーン・マガジンまで世界中の音楽メディアやブロガーがこぞって彼女の特集を組み、彼女が何者か解明しようと試みた。The Strokesが登場したときのように「これはハイプか?それとも本物の才能なのか?」と誰もが疑心暗鬼になっているのだ。

彼女にスタイリストやパブリシストがいるのか/いないのか、業界の作り物なのか/それとも本物か、いずれにせよ、僕は、彼女の楽曲を聴いたその瞬間、そのオールドスクールなマナーに包まれた楽曲、そしてそのタンジブルな美と圧倒的な個性に魅了されてしまった。全く手垢がついていない新しいサウンドや楽曲のスタイルを持つわけではないが、とにかく惹き付けられる何かがあるのは彼女の存在感ゆえだろうか。やはり、同じような感触を得た人は世界中に数多く居たようで、瞬く間に彼女の存在は知られるところとなった。そして先頃、彼女はイギリスの人気音楽番組、Jools Holland Showにも出演、また英音楽雑誌『Q』の「NEXT BIG THING Award」までをも受賞し、成功への階段を足早に上り始めている。

Lizzy Grantはニューヨーク州のLake Placidと呼ばれる田舎町で生まれ育ち、リスナーとしての音楽遍歴は、Eminemを初めとしたヒップホップにまず夢中になり、その後Nirvanaに出会ったそうだ。カレッジに通うためにNew Yorkへ出てきてからはLenard Cohenなどを発見し、夢中になったという。アーティストとしては、New Yorkではオープン・マイクのステージで歌うことからスタートし、その後ロンドンへ渡っていくつかのレーベルへデモも聴かせたりしたそうだが、レーベルの興味を喚起することなく、成功にはほど遠い状況だったようだ。

しかし、2010年にはThe StrokesやPaul McCartneyなどを手がけたプロデューサーDavid Kahneの元でデビュー・アルバム「Lana Del Rey」をレコーディングし、iTunesで配信。ただその後、彼女の意思もあり、お蔵入りとなっている。そして、現在はロンドンに活動の拠点とし、メジャーであるインタースコープとの契約も済ませ、デビュー・アルバムの準備を進めている。

オンライン上で聴くことが出来るいくつかの楽曲、そしてこの「Video Games」、そしてB面である「Blue Jeans」、また次のシングルの予定である「Born to Die」。いずれの楽曲も扱うテーマは一貫している。それは「狂おしいほどの愛の希求とその喪失」だ。臆面もない愛の吐露の歌である「Video Games」を歌うときに彼女はいまでも泣いてしまうことがあるという。気怠いハスキー・ボイスと巧みにピッチを上げて使う湿りを帯びた甘いねこなで声でこう歌う。

「私のすることは全てあなたのため/いつも言ってるでしょ/天国とはこの地球上であなたと居る場所/あなたがしたいことを全部私に言って(「Video Gmes」 )」

「この世の終わりまであなたを愛してる/100万年だって待てるわ/あなたは私のものだと忘れないって約束して/他のビッチたちより私があなたを愛してるっていうことがこの涙を見て分かってくれる?(「Blue Jeans」)」

彼女は語る、「愛について書くのは簡単。なぜならそれをよく知っているから」「それは喪失についても同じよ」と。愛情と殺意、荘厳さと荒廃、そんな両極端なファクターを彼女の楽曲は映し出ているのだ。おそらくまだリスナーが誰もいなかった頃(といってもそれはごく最近のことだろう)、彼女は自分自身のために音楽を作れば良かったはずだ。そして楽曲のなかで強烈にエモーショナルな吐露を行うことはセラピー的な要素、シェルターとしての役割を果たしていたかもしれない。しかし、望もうと望まざると、Lana Del Reyは今や時の人となり、2012年最も期待されるレコードをリリースするアーティストになった。彼女自身、もうリリースした楽曲の中に生きていないとも語っている。「人生がアートを模倣し始めた」と。今後は、自ら作り出したアートと自分の距離をどう取り、モチベーションの維持とクオリティの向上を実現するのか試されることになるだろう。これまで自分を保つ役割を果たしてきた音楽が人々との共有物になることで起こる変化が彼女にマイナスの作用を及ばさないか、そこに漠とした不安が残るのも事実だ。『Q』誌のインタビューで受け答えする彼女は、とてもナーバスそうで、突然の成功に困惑する25歳そのものだった。

現在、Lana Del Reyは、まだまだ少ない持ち曲を手元に、後に伝説となるかも知れないツアーをイギリスを皮切りにスタートしている。12月にはかつてのホームタウン、New YorkはBowerly Ballroomにも戻ってくる。そして、来年早々にはKanye Westとの仕事で知られるJeff Bhasker、そしてKid Cudiを手掛けるEmile Haynieらの協力を得て制作が進められている正式なデビュー・アルバムもリリースされるだろう。

これまでのところ彼女の楽曲は、僕たちの退屈を吹き飛ばし、あらゆる観念的な雑念を忘れさせてくれる程の実に強力な魅力を放っている。あとは彼女自身が彼女の音楽に、そして自らを取り巻く表面的な喧噪に退屈し、疲弊してしまうことさえなければ、そのデビュー・アルバムは自然と良い結果となっているだろう。

とすれば、僕たちに出来ることは何もない。ただオープンな気持ちでそのときを待ち、耳を傾けるのみだ。これまで幾人もの才能を葬ってきたアメリカンドリームのダークサイド、成功と名声の追求の罠に彼女が絡め取られることのないことを切に祈りながら。 (Text by 定金啓吾)

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PROFILE

Lana Del Rey

アデルによる『21』が世界的なヒットを続けている2011年、人々はビター・スウィートでオーセンティックな歌を求めている。そんな流れがあってか、1人の新人女性シンガーが急激に人気を集めている。彼女の名はLana Del Rey(本名はLizzy Grant)、NY州北部リジー・グラントに住む24才。そもそもの始まりは「VIDEO GAMES」と題された曲。ネット上にアップされるや、「VIDEO GAMES」はブログ・メディアで一気に火がつき、Pitchforkではベスト・ニュー・トラックに選ばれる。勢いが衰えぬまま決まったNYとLA、ベルリンとロンドンでの初ライヴのうち、いち早く発売されたロンドン公演が1時間半でソールド・アウトしてしまったほど。彼女は、17才からブルックリンの街角で歌い続けているという筋金入り。しかも、昨年ポール・マッカートニーからストロークスまでを手がけてきたプロデューサー=デヴィッド・カーン(David Kahne)とともにセルフ・タイトル・デビュー・アルバムを制作、iTunesでのリリースも果たしている。今後の動向に目が離せないシンガー・ソングライターの1人である。

Lana Del Rey official HP

この記事の筆者

[レヴュー] Lana Del Rey

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