2009/09/13 00:00

歌のあるスカ・バンドが大阪芸大から現れたっ! 大阪が誇ったオーセンティック・ スカ・バンド、デタミネーションズの活動が縮小していく中で現れたTHE MICETEETHの第1印象は、そんな感じ。若いエネルギーで押すというよりは、楽曲と歌を丁寧に聴かせ、一気に大阪から全国へ広まっていった。5枚のフル・アルバム、2枚のミニ・アルバム、6枚のシングル、そして2枚のライブDVDをリリース後、2009年4月20日にTHE MICETEETHは解散する。そのTHE MICETEETHの花形だったのが、ボーカリストの次松大助だ。飄々とした姿で、叙情的な歌詞を、つぶやくように、温かい声でうたう。誰にも似ていないその歌いっぷりがあまりにも自然で、大きな個性になっている。
2009年9月9日に、『Animation for oink、oink!』が発表された。バンドからソロへ。スカからどこへ? 日本で最も個性溢れる歌うたいの1st solo ALBUMの完成だ。

インタビュー&文 : 飯田仁一郎

もっと自由であれ!

ー本作『Animation for oink、oink!』は、ピアノの旋律が非常に印象的でした。

次松大助(以下T) : ピアノは小さい頃にやっていました。一度やめて、高校の頃にもう一度始めたんです。今回は、管楽器、弦楽器とドラム以外は、全て僕が演奏したんです。

ー今回、ソロ作を作ろうと思ったきっかけは何ですか?

T : 一番の理由は、やっていたTHE MICETEETHが解散したこと。バンドに変わる自分の中心になる母体が必要だったんです。約10年近くもバンドを続けたので、もう十分やったかなって。10年の中で、メンバー各々の環境が色々変わったことも理由の一つ。僕には、子供ができたし。

ーそれでも、ソロで音楽をやり続けようとするモチベーションはどこに?

T : THE MICETEETHは、スカ・バンドと言われるようにサウンド・フォーマットがある程度決まっていたのですが、そこから外れる音楽にも興味が湧いたんです。例えば、ここ最近好きだったのはアフロ・ジャズのハロルド・マキニーというキーボーディストのアルバム。ジャズ・アルバムの中には緊張感がないように感じるものもあって、今までは、どっぷりジャズにはまることはなかった。でもアフロ・ジャズって、スピリチュアル・ジャズと言われるように、緊張感は必ずどのアルバムにもあるし、アフロ・ジャズのアフロっぽさってかっこいいなぁと思って聴きだしたんです。

ー次松さんにとっての緊張感とは?

T : 世間的に緩いと言われている音楽でも、ちゃんと緊張感のある音楽はあるじゃないですか。だから僕が思う緊張感とは、ゆるいの反対の意味の緊張感ではなく、演奏する側がぴりっとしたサウンドを奏でているかどうかですね。

THE MICETEETHの後半頃から、次松さんのボーカル・ラインが特に際立つようになったと感じました。次松さんが本作を制作するにあたって、ボーカリストとして意識した部分はどこですか?

T : 技術が上手い人はいっぱいいるので、その必要はないと思っています。その代わり「もっと自由であれ! 」と。メロディーじゃないトーキング・スタイル等の自由に歌う部分は、作曲中に自然に浮かんできたイメージがちゃんと伝わるようにしたいんです。

ー次松さんの歌には、メロディ部分と自由に歌う部分の2種類があるってことでしょうか?

T : そうですね。別に無理矢理わけているわけではないのですが、アルバム中にカリプソを軸にしたような曲がいくつかあって、そういう曲では特に自由に歌うことを意識しました。

ー初ソロ作となりますが、バンドで制作する時との違いはありましたか?

T : 全然違いましたね。自分で全てのことに対して、イエスかノーをはっきり示さないといけませんでしたから。今作は、ドラム、フォーン隊とピアノのレコーディングは外のスタジオ。残りのオルガンやストリングス、パーカッション等は家で録音しました。YAMAHA AW-4416の16トラックのハードディスク・レコーダーに録音していったんですよ。

ーそれってかなり古い製品ですよね?

T : そうなんです。データのバック・アップとかめちゃくちゃ遅いし、2回ぐらいデータを飛ばしているんです。でも使い方がとても簡単なので、それにどんどん音を入れていって、大阪・吹田のスタジオYOUと言うレコーディング・スタジオでMIXを行いました。

ー本作では、今までのTHE MICETEETHがやってきたようなサウンドとあえて違うものをつくろうと?

T : あえてそうしたわけではないのですが、スカの曲は結果的には一曲もないですね。一番最後の曲「冬のユビキタス」等は、ロック・ステディ調で考えていたんです。で、制作途中にギターの裏打ちが欲しくなったんですけど、それをいれちゃうと、オルガンでベース弾いてるし、ちょっとしんどく聴こえるかもなぁと思って、もっとポップなアレンジにしたんです。なので、制作過程で自然に変わってきたのだと思います。

ー今作をどのようなアルバムにしたかったのでしょう?

T : 夢のあるアルバムにしたかったんです。ラグタイムが出だした頃って、それが一番の最先端の音楽だったわけ。その音楽があんなにも楽しくて、ちゃんと流行っている。そのよどみのない感じが素晴らしいと思ったんです。今は、最先端な音楽と流行っている音楽には、ちょっとしたずれがあるじゃないですか? でも、ずれてなかった頃って、凄い音楽が楽しかったやろうなぁって思う。そんな、音楽に対してみれる夢というか、もともと僕が思い描いている音楽の理想的なことを、アルバムで表現したいと思ったんですよ。

かっこつけきらなぁ

ーバンドからソロへ。長く音楽を続ける上で、考え方は変化しましたか?

T : 子供が生まれたのは大きかったです。媚び売って売れることよりも、子供に対してかっこつけきらなぁて思ったんです。だから、自分が良いと信じることをしようって。子供に対する教育を考えた時に、どんな教育法がいいとか、英語習わした方がいいとか色々あるけれど、どれが正しいのかなんてわからないし、現実的に無理なこともたくさんある。だからどうするべきかって、やっぱり子供に対して誠実であるべきだと思うんです。そこだけは筋を通そう。つまり、嘘はつかんとこうと思っているんです。

ー書く歌詞は、子供が生まれたりバンドからソロになったことで変化しましたか?

T : 特にって部分はないけれど、白々しいと思う部分には、敏感に反応してしまいます。物事をはっきり言っても、嘘くさい歌詞だけは使いたくないんです。子供が生まれたことを書くと、そればっかりになってしまうので、あえて匂わせないようにしていますね(笑)。

ーこのアルバム発売以降の活動を教えてください。

T : ピアノ弾きかたりではちょいちょいライブをしているので、今度は、バンド・スタイルで行ってみたいです。録音は、とても好きなので、常にしつづけたいです。自分が生みだしたものが、音が重なることによって、世界が広がる。そのレコーディングするっていう作業が好きなんですよ。

おすすめ歌もの


PRETAPORTER / 大橋トリオ

2007年12月に発売された1stアルバム。ジャズ・ソウル・フォーク・ロック・AORなど、様々な音楽がブレンドされ、できあがった甘いカフェ・オレのような音楽。その深く優しい声に包まれ、ゆっくりとした時間の流れを楽しむことができます。


tobiuo piano / HARCO

HARCO初のアコースティック・アルバム。オリジナル作をメインに、カバー・ソングを含んだ収録内容。しっとりとした空気感の中、人懐っこいピアノのメロディと独特のあたたかみのあるヴォーカルが優しく響く、 ピアノ・マンとしてのHARCOの魅力が十分に発揮されたアルバムとなっています。


LIVE@HOME / 藤原ヒロシと曽我部恵一

藤原ヒロシと曽我部恵一によるギター・ヴォーカル・デュオ。フェアーグランドアトラクション、マドンナ、ビートルズ等の代表曲をメロウにアコースティック・カバー、INO HIDEFUMIをフューチャーしたヴァージョンも2曲収録したライヴ・テイク。

LIVE SCHEDULE

  • 9月20日(日)@岡山cafe.the market maimai
  • 9月22日(火)@三国ヶ丘LIVE HOUSE FUZZ
  • 9月23日(水)@タワーレコード梅田NU 茶屋町店6Fイベントスペース
  • 10月19日(月)@青山月見ル君想フ <アルバムリリース記念ワンマンライブ>

PROFILE

次松大助
1979年生まれ。
1999年THE MICETEETHのボーカルとしてミュージシャンのキャリアをスタート。5枚のフル・アルバムと2枚のミニ・アルバム、6枚のシングル、2枚のライブDVDをリリース。 フィッシュマンズ、ディズニー、大瀧詠一のトリビュート・アルバム、ボニー・ピンクとのコラボ・カヴァー・アルバムを始め数々の企画盤にも参加。
フジ・ロック、サマーソニック、カウントダウン・ジャパン等多くのフェスティバルへの出演を経験。 ミュージシャン活動以外でも音楽誌、ファッション誌でのコラム連載等で多彩な才能を発揮。THE MICETEETH結成10年目を迎えた2009年4月、多くのファンに惜しまれつつも解散を発表。今年よりシンガー・ソングライターとしての新たなキャリアをスタートさせた。

この記事の筆者

[インタヴュー] 次松大助

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