2009/03/12 00:00

どこかの港で聞いた、大きな船の進水する音、 あれはいつ、どこでだったのだろうか.....

渚 十吾 『タイタニックの沈没 』

『ストロベリー・ディクショナリー』『ブルーベリー・ディクショナリー』の著者で、『ストレンジ・デイズ』に連載を持つ音楽家&文筆家である渚十吾の10枚目のソロ・アルバム『タイタニックの沈没』が発売。文章は良く目にしていたのだけど、恥ずかしながらその音楽を初めて聴いた。

ドノヴァンとかバート・バカラック等のライナー・ノーツを書く方なので、退屈かもって思っていたのだが、見事に撃たれた。彼が鳴らす音楽は、無秩序なのに美しくて、ニヒルなのにユーモアに溢れている。大好きなチェコ・アニメのようだ。特に16曲目の「旅路〜別の世界の空へ〜」は涙腺が切れた。POP職人でしかたたせることの出来ない、アコースティック・ギターの響き。

彼のフェイバリット・プレイスを見たら、僕と同じだった。井の頭線の線路沿い、京都の法然院、峰定寺まで。好きな音楽が似ていなくとも、好きな風景で音楽は共鳴しあえるんだね。嬉しくなった。

エレクトロニカ中心のstill echoというイベントが京都クラブ・メトロで行われている。20代特有の内に向いた憂鬱な波長(僕は太宰治系とよんでいる)とマッチしたので、かかっていた音楽は全然理解出来なかったのだけれど、大学生の頃にはよく通ったものだ。呑めないお酒を片手に、最初は脳みそをいっぱいつかって音楽を理解しようとするのだが、3時くらいになると疲れてきて、音の揺らぎにただ身を任せる。気づいたら朝で、メトロの階段を上ると鴨川が一面に広がって、おじいちゃんとおばあちゃんが仲良くマラソンしていて、ちょっと救われたりする。そんな少し恥ずかしい自伝ショート・ムービーを作った時、『タイタニックの沈没』がサウンド・トラックならば、嫌らしくなく上映することが出来るだろうな。

(text by 飯田仁一郎)

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渚十吾

ドノヴァン、ジミー・ウェッブ、サークル、ウイ・ファイヴ、ボイス&ハート、バート・バカラック、ジョン・サイモン、トッド・ラングレン、サイラス・ファーヤー、レディバグ・トランジスター etc... 数多くのアーティストの新譜、再発CDのライナー・ノーツを手掛けたり、マイペースに音楽を作り続けたり、音楽鑑賞会開いて、みんなでレコード聴いたりな渚十吾! その実態は、最上の音楽リスナーでもある。

この記事の筆者

[レヴュー] 渚 十吾

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