川本真琴、セルフ・カヴァー・アルバムを語るーー『ふとしたことです』ハイレゾ配信記念インタヴュー
川本真琴がデビュー20周年を記念したセルフ・カヴァー・アルバム『ふとしたことです』をリリース。デビュー曲「愛の才能」、大ヒット作「1/2」をはじめ、描き下ろしの新曲「ふとしたことです」など全10曲を収録。全てピアノ弾き語りのアコースティック・アレンジがなされ、まさに川本真琴のシンガー・ソングライター人生が浮かび上がるような充実作。そんな本作について、川本真琴本人に制作秘話や過去から現在の活動に迫ったインタヴューを掲載。ハイレゾ音源とともにご堪能ください。
20周年を彩るセルフ・カバー・アルバムをハイレゾで配信中
川本真琴 / ふとしたことです (24bit/96kHz)
【配信形態】
24bit / 96kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
【価格】
単曲 399円(税込) / アルバム 3,000円(税込)
【収録曲】
1. アイラブユー / 2. fish / 3. 愛の才能 / 4. gradation / 5. OCTOPUS THEATER / 6. ドーナッツのリング / 7. やきそばパン / 8. タイムマシーン / 9. ふとしたことです / 10. 1/2
※ファイル形式について
>>レビュー・ページはこちら
INTERVIEW : 川本真琴
川本真琴について多くの人が思い浮かべがちなデビュー当時の演奏スタイルや楽曲は、20年間にわたるキャリアの中のほんのひと時のことで、2000年代以降、彼女は自ら作品発表の場をインディーズに求めて様々な活動を行ってきた。その中で多くの個性的なアーティストが彼女と交流を深めてきたのも、その歌の魅力に惹き寄せられたからだということが『ふとしたことです』を聴けばわかるはず。今回、アルバムの制作秘話から過去・現在の活動について話を訊いた。一見エキセントリックなようでいて(そうした一面も確かにあるけれども)、彼女がいかにまっすぐな音楽人であるかが、今回のインタヴューで知ってもらえるのではないだろうか。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
アコギは、岡村(靖幸)さんの真似から入ったんですよ
ーー川本さんって一般的にはデビュー当時のアコースティック・ギターを弾いて歌っているイメージを持たれていると思いますけど、元々はピアノをずっとやってきた方なんですよね。
川本真琴(以下、川本) : そうです。ピアノは3歳くらいからやっていて。うちの母がピアノの先生だったので、バイエルから始めて、高校と大学は音楽科のピアノ科だったので、ずっとピアノは弾いていました。
ーーデビューするにあたってギターを持つことになったようですけど、それは曲に合わせてギターの方がいいんじゃないかっていうことだったんですか?
川本 : 「愛の才能」が岡村(靖幸)さん作曲のギターの曲だったので、突如ギターを持つことになったんです(笑)。大学の頃からバンドはやっていてエレキギターはちょっと弾いていたんですけど、アコースティックギターはやったことなかったので練習しました。アコギは、岡村さんの真似から入ったんですよ。特に習ったわけではないんですけど、岡村さんの雰囲気を出すのが1番ポイントになっていて。私の中でアコギは岡村さんから始まってる感じです。
ーー岡村さんの打楽器的な弾き方というか。
川本 : ああ、そうですね。ちょっとパーカッシブな弾き方ですよね、うん。
ーーそのときに、「自分はピアノを弾きたいんだけどな」っていう気持ちはなかったんですか。
川本 : それはなかったです。ずっとクラシックをやっていたんですけど、クラシックの堅いところから離れたこともやってみたいと思っていて、大学時代からポップスのコピー・バンドでやっていたんですよ。ギターってピアノよりもちょっと雑なところというかワイルドなところがありますよね。ピアノって間違えたりするとはっきり聴こえたりしますけど、ギターだともうちょっとグルーヴみたいなところ重視だったりするので。かしこまったところからもっとバンドっぽいところに行きたいっていう思いもあったので、デビューのときも全然抵抗はなかったですね。
ーー今作は制作するにあたって、ピアノ弾き語りというアイデアが前提としてあったのでしょうか。
川本 : 最初は10曲全部ピアノと歌だけでやろうという計画だったんです。ヴァイオリンとか他の楽器を入れないで。ずっとバンドのポップスをやってきたんですけど、今回はコロムビアのクラシック部門の担当さんからクラシック寄りのものを1回やってみないかというお話を頂いて。このタイミングでやってみてもいいかもしれないという気持ちがありました。12、3年前からピアノの弾き語りもやっていたので、それを発表する意味もあるアルバムだったかもしれないですね。
ーー選曲はすんなり決まりましたか?
川本 : じつは選曲も、コロムビアの担当さんが決めているんですよ。というのも、今回はこれまで聴いてくれた人たちへのプレゼントになるようなものになればいいなと思ったんです。普段の私の作品作りは、個人的なものなんですよ。でも今回はみんなへのものという意味で、ある程度みんなが求めているものを入れたら良いなと思って、私以外の目線での選曲をお任せしました。
ーー川本さん自身が選曲したら結構違うものになったかもしれない?
川本 : たぶん、全然違ったかもしれないです。もうちょっと変な曲というか(笑)、「えっなんでこれ選ぶの!?」っていうものになったかもしれないですね。
弾き語りだと言葉が1つ1つ聴こえてくると思うんですよね
ーー選曲を任せた結果、代表曲であり大ヒット曲「愛の才能」、「1/2」も入っています。現在の川本さんにとってこの2曲はどんな位置付けになっているんでしょう。
川本 : (「愛の才能」は)やっぱり、ちょっと大きい曲ですよね、私の中でも。元々すごく時間をかけて作った作品なんですよ。だから歌うときには気合も入りますね。「1/2」は今回、4回くらい録ったんです。私、明日がレコーディング(以下、REC)っていう日に必ず体調が悪くなるんですよ(笑)。特に「1/2」はもう1回歌って録り直すのがプレッシャーで体調が悪くなって声の調子もすごく悪くなっちゃって。1番最初のRECのときは、ピアノで歌うには歌いにくいキーになっていたりしたこともあって、1回全部無しになって。福井県のスタジオでRECしていたんですけど、東京で再RECすることになったんです。そしたらまた前日に具合が悪くなってしまっ て、その日は違う曲のRECにしました。そんなこともあって「1/2」は4回歌録りの日を変更してもらいました。「タイムマシーン」の歌入れの時もプレッシャーで声の調子がすごく悪くて。「タイムマシーン」は綺麗に歌わないといけない曲なので、今日はロックな感じでいける曲を録ろう、ということで「愛の才能」をその日に録ったんです(笑)。「愛の才能」は元のバージョンも声が枯れているんです。だから声が枯れててシブい感じでもカッコイイかもしれないって。
ーーこれはめちゃめちゃカッコイイですよ。レオン・ラッセルみたい。
川本 : ああ~、私、レオン・ラッセルさんは2年前くらいにライヴを観たときの印象がすごくあって。板についてる感じが本当にカッコ良くて、ああいう感じでやりたいなって、今回のRECでピアノを弾くときに影響を受けてますね。
ーー「やきそばパン」もスワンプ・ロック的というか南部ノリのロックテイストを感じさせる躍動感あるピアノを弾いている印象です。
川本 : 「やきそばパン」は1番最後に録音した曲で。RECの最初の方は、ピアノでRECするのが初めてということもあってどうやったらいいかわからなくて、たどたどしかったんですよ。最初はクリックに合わせて弾くのも上手くいかなかったんですけど、最後に「やきそばパン」を録るときはクリックなしで録ってみたんです。ちょっと他の曲とは違う印象があるのはそこがあるんじゃないですかね。テンポキープを気にしないでやっている、結構自分のグルーヴが出ている演奏だと思います。
ーーなるほど、それは面白いですね。ご自分で改めてピアノ弾き語りで歌うにあたって気が付いたことってありますか? 例えば僕は「gradation」の〈江の島から稲村ケ崎の風が はじめてのピアスを揺らす〉という歌詞が、原曲よりすごく耳に残りました。
川本 : へえー! なるほど。私の中では、作者なので自分が作ったときのイメージが大きいんですよね(笑)。でもピアノ1本なので聴こえやすいというのがあるんでしょうね。「gradation」の歌詞ってロマンティックな情景がすごく入っているんですよ。そういうところが聴こえてくるのは良いですね。(原曲アレンジの)ダンス・ミュージックだとどうしても雰囲気が先に来ると思うんですけど、今回はちょっとテンポが遅めだし、弾き語りだと言葉が1つ1つ聴こえてくると思うんですよね。私も「gradation」の歌詞でそこの部分はすごく好きです。歌詞を聴いてもらえるのはすごく良いですね。
ーー「ドーナッツのリング」には〈きっと今ここにいるためにつながってる〉という歌詞がありますね。20周年に相応しい曲という気もします。
川本 : 「ドーナッツのリング」は最近MVも撮影したんですよ。そのときも、歌詞をもう1回よく見て、MVの監督(写真家の佐内正史)と理解を深めてみたんですけど、「宇宙的なところがあるな」って思いましたね。元々は割と社会的なこともテーマになっていた曲なんです。今、客観的に聴いて自分で考えてみて、テーマ的にすごく「宇宙」という言葉が浮かび上がってきて。大地ってずっと繋がってるじゃないですか? 宇宙に空気って無いと思うんですけど、ずっと大気から宇宙まで全部繋がっているじゃないですか。そういうのが感じられる気がして。なんか、「宇宙人が降りて来そうだな」って。
ーー「ドーナッツのリング」を歌っていると宇宙人が降りて来そう?
川本 : そうそう。これを歌ったら宇宙人が来る曲、みたいな(笑)。YouTubeとかでUFOが好きな人にも見てもらえたらいいかなと思って。
ーーUFO好きな人も注目のMVになっているということでしょうか(笑)。
川本 : MVは、宇宙人が降りて来そうな場所で撮っていて。本当に誰もいなかったんですけど、「きっとここは宇宙人が来る場所なんじゃないかな」って言っていたんです。この曲を歌ったらもっと宇宙人を呼ぶ信号になって呼べるんじゃないかって。そういう信号になる曲、というか(笑)。
ーーMVをこのインタヴューと共に見て頂ければわかってもらえるかと。ちなみにどこで撮影したんですか?
川本 : 私、どこだかちゃんとわかってないんですけど(笑)。佐内正史さんのお気に入りの場所だったらしくて、すごかったです。海が見たことがない色でしたね。玉虫色というか、すごく綺麗で。ちょっとクリームがかったような玉虫色をしていて。
ーーちょっとクリームがかった玉虫色?
川本 : そうなんですよ。ちょっとタイとかインドとかの雰囲気のある岩があって。その前で、私が宇宙人と交信するというMVなんですけど(笑)。それでこの歌が信号になるという… そういう曲になっちゃいました。
ーー「ドーナッツのリング」はすごくいいバラードで、この曲が入っているのが嬉しいというファンの声もありますよね。
川本 : はい。今の話は決してヤバい奴だぞっていう話ではなくて(笑)。曲についてそういうことを考えるのが好きなんですよ。決してヤバい奴ではないです(笑)。
ーー(笑)。
川本 : でも音楽って、やっぱり夢を与えるものだと思うので。“非現実的なもの”ってよく言ってるんですけど、“想像を絶する感じ”というか、その方が音楽的な気がするんですよね。「1+1は2です」みたいな感じじゃなくて、「ふと目の前に宇宙人が現れた」みたいなものが音楽なのかなって…… ちょっと私さっきから「宇宙人」って言い過ぎですけど。ははははは!
“明らかに泣かせるソング”みたいなものは出したくないなって
ーー確かに(笑)。では話を変えましょう。20周年ということで、今年はこれまでの活動を振り返る機会も多かったと思いますけど、インディーズで活動を始めてから2010年の3rdアルバム『音楽の世界へようこそ』まで、実際には活動が止まっていたわけではないものの、鳴りを潜めていたように感じている人も多いのではないかと思うんです。この期間は今振り返ると川本さんにとってどんな時間だったのでしょうか。
川本 : けっこう、完全に休んでたって思われているんですけど、制作もライヴも意外とずっとやっているんですよ。ただ、間が長いときはあって年に2、3回しかライヴをやらないというのが活動があんまり見えない時期だったと思うんですけど。でもそういうときも自分の中ではやれるところでやる、というスタンスでやっていたので、休止していた時期というのはないです。ただ、3rdアルバムを出すときは制作者として苦しかったというのはありました。世の中にものを出す勇気みたいなところが、なかなか自分の壁が越えられないというところがあって。「本当にこれをみんなに聴かせていいのだろうか?」っていう悩みがすごく大きい時期はありました。
ーー過去の自分を越えないといけない、という意味の壁ということですか。
川本 : いや、それは全然違います。「なんのために人に聴かせるのか」っていうところの答えがはっきり見つからなくて。「なんで出すんだろう」「なんで人に聴かせるんだろう」っていう根本的なところの答えが見つからない時期があって。曲や詞はほぼ出来上がっていたんですけど、2年間くらいは外に出すことを悩んでました。
ーーそれを打破できたきっかけはなんだったんでしょうか?
川本 : 考えても答えが出なかったので、悪いものではないだろうから1回出してみてから考えようと思ったんですよ。何が良いものかがわからなかったんですけど、とりあえず軽い気持ちで出してみて考えようって。
ーー出してみたら、3rdアルバム『音楽の世界へようこそ』はすごく評価されましたよね。
川本 : そうですね。「待ってました」という感想もいただきましたし、「前よりも気持ちがわかる」っておっしゃってくださった方もいて、出してよかったなと思いました。それからはそういう悩みはなくなり、ただ、自分で「こういうことは言いたくない」みたいなことは3rdからずっと変わっていないんです。何かにすごく失礼になっちゃうようなこととかは入れたくないなっていう気持ちがあって。エンターテイメントって何でもしていいのかっていうところにはいきたくないと思っているんですよ。最近、佐内さんと話していたんですけど、「お涙頂戴もの」みたいな、“明らかに泣かせるソング”みたいなものは出したくないなって。涙って、すごく大切なものじゃないですか? それを商品にしてしまうのって、駄目なんじゃないかなと思って。制作者の意図のないところで誰かが何かの歌詞を見て泣いてしまった、というようなことであってほしいし、涙を売りものにしたくないというか。そんなことをするくらいなら出さない方がいいと思うんです。そういうことじゃないところで何ができるのかで勝負していくのが、制作者じゃないのかなって。そういう気持ちが3rdからずっと変わらずにありますね。
ーー近年は三輪二郎さん、住所不定無職、スカート(澤部渡)と活動を共にしたり、川本真琴withゴロニャンずでアルバムを出したりと、様々なインディーズ・アーティストとの交流も多くなっていますけど、影響を受けることも多いですか?
川本 : スカートとか住所不定無職のライヴを観て影響を受けたりはあるかもしれないですね。前に自分がいた場所はメジャーだったじゃないですか? その時って1曲1曲出すことのハードルが高かったんですよ。でも最近、まわりの友だちのバンドのライヴを観に行ったりすると、さらっと新曲を出していくんですよね。そういうことって、私の中ですごく大切で。手の届くところにギターやピアノがあるというか、音楽がすごく身近で、気軽なものであることが自分の中で大切なんです。それがハードルどんどん高くなって行っちゃうと、大変な気がするんですよ。プレッシャーがあったり、何かを比較に曲を作らなくちゃいけないとかあると辛いですから。気軽な気持ちで作品を作れるのは、自主制作をしている身近な人に影響を受けた1番いいところで、そういう友だちが私のまわりには必要だし、いないと駄目ですね、私は。
RECOMMEND
川本真琴 / Remix
Ovallのメンバーmabanuaと共同プロデュースで制作された、川本真琴の2013年の作品『願いがかわるまでに』は、黒人音楽への嗜好性を取り込み、彼女のイメージを押し広げた名作であった。このたび、同作に収録された楽曲を、Jimanica、mergrim、Hu La Soulといった名うてのアーティストたちがリミックスした『Remix』を配信リリースすることが決定。
スカート / 静かな夜がいい
春に発売された3rdアルバム『CALL』の大反響から、発売週に音楽番組「ミュージックステーション」へスピッツのバックとして出演し話題を呼び、さらには渋谷WWWでのワンマンライヴもソールドアウトと、勢いに乗る澤部渡のソロ・プロジェクト、スカートより初のシングルがリリース。
三輪二郎 / III
多くのシンガーたちを唸らせた1st、豊田道倫が惚れ込んでプロデュースを買って出た2ndに続く、渾身の3作目。今作は沢田穣治をプロデューサーに迎え、自身の新たなバンド、三輪二郎 & マザー・コンプレックス(三輪二郎、沢田穣治、マルコス・フェルナンデス)を従えた作品。さらには録音、ミックス、マスタリングを中村宗一郎が手掛け、大森靖子とのデュエット曲も収録されるなど、豪華メンツの参加が目を引くアルバム。
LIVE SCHEDULE
「ヤギであることに間違いない」
2017年1月27日(金)@四谷天窓comfort
時間 : OPEN 19:00 / START 19:30
料金 : 前売 ¥2,500(1ドリンク代別) / 当日 ¥3,000(1ドリンク代別)
出演 : 川本真琴 / 葛岡みち / 宮原祥子
PROFILE
川本真琴
1974年1月19日生まれ。福井県出身。
1996年、ソニーレコードよりシングル『愛の才能』(岡村靖幸プロデュース&作・編曲)でメジャー・デビュー。キュートでスピード感のある独特の歌唱とオリジナリティ溢れるソングライティングでヒット・シングル(アニメるろうに剣心・主題歌「1/2」など)を連発し、1stアルバムはミリオンセラーとなった。2000年代初頭よりプライベートオフィスを設立し、メジャー / インディにとらわれない活動で、自由に作品を発表し続ける日本の女性シンガー・ソングライターとしては稀有な存在。
近年は「mabanua」「佐内正史」「神聖かまってちゃん」らとのコラボレイト作品や「竹達彩奈」「ぱいぱいでか美」「嶽本野ばら」「峯岸みなみ」への楽曲提供、絵本の原作、CMの歌唱など活動の幅を広げている。
また〈SUMMER SONIC〉〈YATSUI FESTIVAL〉〈JOIN ALIVE〉〈ボロフェスタ〉〈残響祭〉〈夏の魔物〉など様々なフェスにも積極的に参加している。