MASから2005年以来となる5年ぶりの新作が届いた。結成当初はTyme.名義として活躍するバンドの中心人物、ヤマダタツヤの音楽制作ユニットという性格が強かったMASだが、3作目となるこの『えんけい / En Kei』で、いよいよバンドとして一つの完成形に到達した。しかし菊地成孔をして「JAZZエレクトロニカの真の始まり」と言わしめ、DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENやROVOなどと比較されることも多いMASの音楽は、通常のバンドでは考えられないほどの緻密な作業が結実し、単なるバンド・サウンドとは明らかに一線を画している。

えんけい / En Kei』には何度聴いてもそのたびに新しい発見がある。聴けば聴くほど新しい聴き方が見つかる作品だ。オトトイでは24bit/48kHzの高音質バージョンも配信する。小さな小さな音のかけらが集まって描かれる壮大に広がる"彼方の景色"を高音質ならではの描写力でディティールまで感じとって欲しい。この特集ではそんな『えんけい / En Kei』制作の裏側にスポット当てるべく、ヤマダタツヤと今作でエンジニアを努めた中村公輔(Kangaroo Paw)の2人に話を聞いた。

インタビュー&文 : みのしま こうじ

5年ぶりの新作となる3rdアルバムをHQDで販売開始!

Rock、Dub、Jazz、Electronicaを内包したMASが、5年ぶりの新作を完成させた。打ち込みを中心とした過去2作から、バンドとして格段に進化したサウンド。そして様々な情景や感情をゆさぶる美しいメロディやリズムが踊る最高傑作をHQDバージョンでも配信開始。ゲスト・プレイヤーとしてpasadena/あらかじめ決められた恋人たちへの石本聡がdub mixで、BALLOONSの塩川剛志がギターで参加。ジャケットを手がけるのは創作漫画集団mashcomixのメンバーでありMASの1stと2ndを手がけてきた仙こと軍司匡寛。シンプルで複雑、ポップでアンチ・ポップな全9曲を収録。


アルバム購入特典として、豪華リミキサー陣による4曲をプレゼント!

1. Kanata - Outside : remixed by iiP feat. Kana Otsubo (SCLL、NINI TOUNUMA)
m-froのリミックスなどをしているNEARDZERAのSETSUYA KUROTAKI(セツヤ クロタキ)のソロ・プロジェクトのiiPとSpangle Call Lili Lineのボーカル大坪加奈のコラボレーション・リミックス。

2. Kanata - Inside : remixed by Ty.Tu. (Tyme.+Tujiko Noriko)
Tyme.ツジコノリコのデュオ、Ty.Tu.によるリミックス。新作収録のKanata - Insideの別バージョン的な作品。

3. Rasen : remixed by KangarooPaw
今作のサウンド・エンジニア中村公輔のソロ・プロジェクトKangarooPawによるリミックス。繭 / neinaを彷彿とさせるノイジーな作品。

4. Tsurukame Skipper : remixed by Tyme.
MASのリーダー、ヤマダタツヤのソロ・プロジェクトTyme.によるリミックス。原曲は新作には未収録。


ヤマダタツヤ(MAS) × エンジニア中村公輔(Kangaroo Paw) INTERVIEW

——まずはMAS結成のいきさつについて教えて下さい。

ヤマダタツヤ(以下ヤマダ) : もともと音楽活動の始まりとして名古屋でヒップホップのグループでの活動があって、そこでトラックを作ったりしていたんですが、そのグループを辞めて東京に来て、サンプラーでDJ SHADOWみたいなアブストラクトなヒップホップを作り始めたんです。その時に、歌を入れてみたいと思ったんです。どこに発表するでもなく、単純にそんな感じの音楽を作りたいなと思っていて、その流れから1stと2ndでも胡弓を弾いていたキヨミとベースの田中くんと僕の3人で1999年の末ぐらいにMASを始めました。(現在は2人とも脱退)その当時はキヨミが歌っていて、前述のアブストラクト・ヒップホップ的な歌ものをやっていたんです。吉祥寺WARPでよくDJ KLOCKさんなんかと対バンしてました。そこからFlyrecという僕も運営に関わっていたレーベルが、『ReSet』というイベントをやっていたんですが、そのイベントの1周年パーティで1stアルバム『turn』に入っている20分ぐらいあるタイトル曲「turn」を演奏するために、メンバーやそれまでのやり方を再構築したんです。それが今の編成に繋がった感じですね。2002年ぐらいだったと思います。

MAS

——5人になってから1st『turn』を制作したんですか?

ヤマダ : そうですね。でも半分くらいは、バンド・サウンドってよりも打ち込みサウンドで、ちょっと楽器を入れたぐらいでした。しかもその頃はちゃんとしたサウンド・システムを持っていなかったので、ミニ・コンポでミックスしてましたね(笑)。2ndの『steppers+』の時は、システムや知識はレベル・アップしましたが、僕1人でミックスやドラム以外のレコーディングをしたんです。

——え! ? 1stと2ndは、ご自身でミックスもされていたんですか?

ヤマダ : そうなんです。今回の『えんけい / En Kei』は中村公輔(Kangaroo Paw)くんにお願いしましたけど、1stと2ndは彼にちょっと相談しながら自分でミックスしました。1stの時はコンプという存在さえよく知らなかったので「スネアにはコンプをかけたらいいよ」みたいなやり取りをしながら(笑)。彼はロロロの三浦くんとかからも信頼を受けているし、よく色んな人から相談されていますね。
中村公輔(以下中村) : 相談ばっかりで全然仕事にならないっていう(笑)。

——改めて1st『turn』から2nd『steppers+』、そして今回の『えんけい / En Kei』と順を追って聞いていくと、MASのバンドらしさが確立されていく様子がよく分かり、同時にいよいよバンドとして一つの完成形に到達したという印象ですがいかがですか?

ヤマダ : そうですね。『steppers+』をリリースしてからの5年の間で、活動休止っぽくなりながらもちょこちょこLIVEはしていて、やっていくうちに打ち込み的要素を前に出す必要はもうないんじゃないかと、自分の意識が自然と変わっていったんですよね。というか、バンド経験がなかったので初期の頃はやり方が分からなかったんです。バンドがどういうものなのか分からずに続けてきて、最近ようやく「バンドってこうやるのか」ということが分かってきたんですよね(笑)。

——具体的にはどんなことが分かってきたんですか?

ヤマダ : 例えば、ベースの外間(政巳)さんは色んなバンドに参加しているので、その経験から来る言葉には参考になることが多くて、バンド特有の乗り方とか乗せ方とか、例えば「ここは前ノリにしよう」とか「後ろノリにしよう」というように、楽器の乗せ方に対してすごく意識的なんです。打ち込みでもそういう風に作ることはあるんですけど、彼はスゴく意識的に「カッチリと楽器でこういうノリを出して行こう」と言ってくれるので、こちらとしては「なるほど(笑) 」みたいな。以前までは僕が理解しないと思って言わなかっただけかもしれませんけどね(笑) 。MASの作曲は僕が行っていますが、そこにメンバーの意見が入るようになってきました。メンバーの言っている意味が分かってきたと思えるようになったのは、恥ずかしながら本当にここ数年ですね。

外間政巳

——ヤマダさんはTyme.名義でソロでも活躍されていますが、MASでのバンド活動との一番の違いはなんでしょう?

ヤマダ : もともと1人で自由にビートを出して遊びたいと思って始めたのがTyme.なんです。ツジコノリコや他のアーティストとコラボレーションをする時にも使ってますね。Tyme.+TapsというduoでたまにLIVEをやるんですが、その時は基本的に何も決めごとを作らずに、出したいビートを出してDUBミックスもガンガン入れていって遊んでます。でもMASは完全にメンバーが他にいて楽曲をきっちりとやるバンドなので、それぞれの意見を聞いて楽器や展開が馴染むように手を加えていったり、そうやってメンバーとのやり取りを通じて構築していきます。

——じゃあMASでは、曲作りの段階からメンバーが出す音みたいなものを想像して曲作りをするんですか?

ヤマダ : それは完全にそう。特にサックスとヴァイオリンというリード楽器がいるので、そこは意識して曲作りをしていますね。それで僕がほぼ100%できているデモを作って、メンバーに譜面を渡して「コレできる?」とか「キーを変えた方がいい?」とか「このブレイクは長くしよう」とかゲネプロをしつつ微調整をしていきます。

——なるほど。

ヤマダ : 今回のアルバムの楽曲自体は5年前のものもあり、MASでの曲作りには時間がかかります。リリースが決まってから、もうちょっとアルバムに入れたいなと思って作った曲もあります。アルバムの音の構築に関しては、中村くん自身の音楽制作やバンドをやっていた経験や意見が、上手くミックス作業で入っていったと思っています。

——今回エンジニアを中村さんにお願いした理由は?

ヤマダ : 自分だけでやっているとどうしても限界があるんです。あまりにも自己流ですし。今回は、エンジニアとしてちゃんとやってくれる人にお願いしたいと思ったんです。中村くんとは、Flyrecが2001年に出したコンピレーション・アルバム『out』にMASとKangaroo Pawが入っていたり、昔からの繋がりがあって彼のエンジニアリングの作品も聴いていたので、いつかお願いしたいなと思っていました。

——今回初めて一緒にやってみて、中村さんとしてはどうでしたか?

中村 : 基本的に彼は今まで自分のスタイルで作ってきていたので、作り方がバンドのセオリーに則ってこうしましょうという感じじゃなくて、自分が気持ちいいかどうかがまず基準としてあるんです。だから普通だったらドラムが8〜10トラックぐらいで、ギターがあって、ベースがあって、という感じだと思うんですけど、今回はバラで録ったドラムを編集して素材として使ったり、「こういうエフェクトを混ぜたい」みたいな希望もあって、どんどん膨らんで行って、録音の時点ではオーソドックスなバンド編成だったのに、最終的には1曲で70トラックを越えてしまうものもあって大変でしたね(笑)。

——それはスゴい!!

ヤマダ : ドラム10数個のトラックに加えて、さらに別のドラム10数個のトラックが入っていたり、細かい粒子みたいなものとか色々音があるんですけど、いままでそういう作業を自分1人でやってきたのもあって「中村君なら余裕でしょ!」と思って当然のようにお願いしました(笑)。

——そのドラムに存在感があって、全体的にこれまでで最もフィジカルなアルバムだと感じました。

ヤマダ : たしかにリズム隊に対しては一番厳しいです。なんだかんだでメロディよりもドラムで出来ているような曲が多いので、要求することがドラムに結実することが一番多いんですよね。ウワ音は楽譜でやっているので曲のイメージを掴みやすいと思いますけど、ドラムに関しては譜面がないので、ドラムだけのデモを聴かせて2人でスタジオに入ったりもしています。

久野義憲

——ドラムは全て生音でレコーディングしているんですよね?

中村 : 全部を普通に生音でレコーディングしていますが、実はそれを一旦バラバラの状態で持って帰って、ヤマダくんが編集して僕にトラックとして戻すという作業をしています。
ヤマダ : 1stも2ndもドラムは生音でしたが、まとめ方は、まぁ、へたくそでしたね(笑)。''

>>>インタビューはまだまだ後半に続きます!

PROFILE

ヤマダタツヤ
エレクトロニカ / ダブ / ジャズのエッセンスをバンド・サウンドに注入したMASのリーダー。MASの他にアーティストとのコラボレートやプロデュースも積極的に行い、ツジコノリコsgt.、microshot、志人(降神)、なのるなもない(降神)、trico! 等の作品に参加。SONY PS3/PSP、HONDA、google、BMW、NHK、YAMAHA、Space Shower TV、 表参道ヒルズ、NTT等の様々な企業の広告音楽制作を手掛け、先鋭的かつ普遍的な独特のサウンドに定評がある。この数年は美術作家ヤノベケンジ氏の映像作品 / インスタレーション / 作品集に音楽を多数提供し、近作である『ウルトラ-黒い太陽-』、『ラッキードラゴン』のサウンド・デザインも努める。福島県立美術館、水都大阪2009、豊田市美術館、六本木アートナイト、青森県立美術館、金沢21世紀美術館、取手アート・プロジェクト、ICC等の美術館やアート・イベントでの演奏も多数行う。またLIVEユニット、Tyme.+Tapsでは多様なダンス・ミュージックのフォーマットを喰らい尽くして、スリリングでリアルなビートを爆音で鳴らし様々なダンス・フロアをロックしている。



中村公輔
エレクトロニカ・ユニットneinaのメンバーとして1999年にドイツMille Plateauxよりアルバム『formed verse』をリリース。欧米で高い評価を受け、アメリカの批評家Piero Scaruffi 氏の選出したBest glitch-music albums of all timesでは9位にランク・インする。 2000年に同メンバーによる別ユニット繭(maju)をオーストラリアExtreme Recordsよりリリース。ローリングストーン誌では"A zen-garden of sounds"と評された。 また同年、ポスト・ロック系ソロ・プロジェクトKangarooPawを自身のレーベル深海レコードよりリリース。Mouse on Marsのヤン・ヴェルナー等から絶賛を受ける。その後、リミキサー、アレンジャー、レコーディング・エンジニアとして数多くの作品を手がける。主なアーティストは、toe、dill、Natural Punch Dranker、高畠俊太郎、三上ちさこ、 フルカワミキ、服部祐民子、AUTO PILOT、REACH、Back Drop Bomb等。小谷元彦のヴェネチアビエンナーレ出展作『Rompers』、映画『乱暴と待機(冨永昌敬)』サウンド・トラック(大谷能生、相対性理論)等、音楽シーンに関わらず活動は多岐に渡る。現在ギターマガジン誌上にて「イチからわかる実践DAWテクニック」連載中。



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