2009/12/13 00:00

1989年のデビュー以降、常にダンス・ミュージック界の最前線で活躍してきたテクノ/アンビエント界の重鎮The Orb(=アレックス・パターソン)。約2年振りにリリースされたアルバム『』は、2005年に独KOMPAKTからリリースされた「Okie Dokie It's The Orb On Kompakt Disco」と同じく、長年のパートナーであるトーマス・フェルマンと2人きりで制作されたもの。11/20から始まるライブ・ツアーに先駆け、新作について、ライブについて、そして二人の関係について、じっくりと話を伺った。

インタビュー&文 : 田口和裕

左からAlex Paterson、Thomas Fehlmann

完全に2人だけで制作してるので、とにかく自由なんだ

—ダブの要素が強くボーカル曲もあった前作『Dream』とかなり雰囲気が違い、どちらかというと前々作の『Okie Dokie It's the Orb』に雰囲気が近いように思われます。これは再びThomas Fehlmannと2人のみでベルリンで制作したことに理由があるのでしょうか?

Alex Paterson(以下 : Alex) : 『Dream』の場合「昔の夢を追い続ける」というのがテーマだったので、最初の2枚のアルバムの要素を強く引き継いでいる。そういった意味では『』は「Okie Dokie It's the Orb」の流れを汲んでいると言えるね。

—今回のアルバムの制作手順や二人の役割分担などを教えてください。

Alex : 制作手順か。まずはヤカンに火をつけることだね(笑)。これはもちろん紅茶の為でもあるけど、ベルリンにあるトーマスのプライベート・スタジオがとてもアット・ホームだったという意味さ。
Thomas Fehlmann(以下 : Thomas) : なんといっても自分の家のスタジオだからね。
Alex : トーマスのスタジオは近作2枚だけではなく、それ以前からもずっと使っているんだ。昔はイギリスからトラックで機材を持ってきて、5階のスタジオまで一生懸命運ばなきゃならななかったんだけど、今はエレベーターが設置されたし、それにわざわざ機材を運ばなくても、ほとんどの作業はPC内で済ませる事ができるようになったから、とても快適だよ。
Thomas : 完全に2人だけで制作してるので、とにかく自由なんだ。時間の使い方はもちろん、2人の役割もとてもフレキシブルだ。レコーディング中に2人でレコード・ショップへ行ったりもしてるしね。とにかくビジネスではなく日常生活の一部という感じなんだよ。
Alex : そのとおり。アルバムの制作は本当に我々の生活の一部なので、ビジネスとは考えたくないんだ。そう、ヒップホップ・カルチャーみたいなものだよ。

—制作の経緯を教えてください

Thomas : このアルバムはヴェルナー・ブーテ監督の映画「Plastic Planet」のサウンド・トラックとして制作されたものだ。映画のタイトルを使わなければリリースしてよいという契約だったので、の作品として発表することにしたんだ。

—それはどのような映画なのでしょう

Alex : プラスティックが生命や人類に及ぼす影響を描いた90分のドキュメンタリー映画だ。監督のブーテがナレーターもやっており、僕たちの音楽が最初から最後まで、時には大音量で使われている。
Thomas : 西欧諸国で作られたプラスティックは太平洋を経由してアフリカや日本に伝播した。それは音楽も同じだと思っている。

—近代文明であるプラスティックをテーマにした映画のサウンド・トラックなのに、なぜ『』というタイトルを付けたのですか?

Thomas : さっきも言ったように、契約の問題で「Plastic Planet」というタイトルを付けることはできなかったんだ。そこで、『』という古代テクノロジーをタイトルにすることによって「テクノロジーの進化」というテーマで映画と関連を持たすことにしたんだ。
Alex : Baghdad Batteriesはエジプトのピラミッドや、沖縄の海底遺跡、アフリカ南部で見つかった28億年前の金属球なんかと同じようにオーパーツ(Out Of Place Artifacts)と呼ばれていて、当時のテクノロジーではありえない存在だとされている。でもそんなことはないよね。だいたい人間の歴史は6万5000年前くらいまでしか遡ることができないと言われているけど、これは19世紀の歴史学者が言ってたことであって、それを今の学者は鵜呑みにしているだけなんだ。僕は到底納得できないね。
Thomas : アレックスはレコーディング・スタジオで一緒に食事している時なんかに、よくこのような話をしてくれるんだけど、新作にはそのアイディアが生かされているんだ。
Alex : アルバムタイトルを「2012」にしてもよかったんだ。もちろんロンドン五輪の事じゃなくて、最近ハリウッド映画になったマヤの予言(マヤのカレンダーは西暦2012年12月23日で止まっているため、世界の終わりが来るのではと言われている)の方だよ。でもこれは予言でもなんでもなくて、単にマヤ暦のサイクルにしか過ぎないんだよ。つまりマヤの暦では5000年を一つの周期にしていて、2012年がちょうどその境目にくるというだけのことなんだ。まあ今回はハリウッドにやらせておこう。

観客の興味を保つために毎回違うことをやってきている

—前作は珍しくトーマス・フェルマンが不参加、代わりに久しぶりにYouthが参加していますが、今後またいっしょにやることはあるんですか?

Alex : とても答えにくい質問だ。ユースは音楽始める前、アート・スクール時代からの長い友達でとてもいい関係を築いているし、これからも関わってくることだろう。もちろんトーマスとも長い付き合いだし、これからもずっとやっていくつもりだ。こういう場でこのような質問はちょっと不適切じゃないかな。
Thomas : 私からすると=アレックスだ。アレックスが私といっしょにやりたいと言えばいつでもオッケーだ。そうじゃないときは自分のプロジェクトもあるしね。をいつ、誰とやるかはすべてアレックスが決めている。私は誇りをもってを手伝っているし、頼まれた時は全面的にサポートする。そう、時には静かにしていた方がいい時もあるしね。

—このアルバムはUKのレーベル「Malicious Damage」からの「Orbsessionsシリーズ」の第3弾にあたるものですが、今後もこのシリーズは継続していくのでしょうか?

Alex : 当初「Orbsessions」の一環としてこのアルバムの制作をはじめたときは、こんな大規模なプロジェクトになるとは思ってなかったんだ。未発表コレクションだった前2作に比べると『』はとてもしっかりしたアルバムに仕上がっている。でもこれも制作の気持ちとしては「Orbsessions」の一部だ。ほんとは3作目はポエトリー・リーディングを作ろうとしていたんだが、それが4作目になるかもしれない。

—のライブは大規模なフェス仕様から、アレックスとトーマスの2人というミニマムな構成からなるLe Petit Orb(ル・プチ・オーブ)まで様々な規模で行われますが、今回のライブはどのような形態で行われるのですか?

Alex : しばらくは2人でやっていくつもりだ。量より質が大事なときもある。

—実際僕も何度もライブを見ていますけど、一度はあまりにも気持ちよくてビールを飲んで寝ちゃったこともありました。オーディエンスにはどのように楽しんでもらいたいですか?

Alex : どのように? LOVEかな。ショーが終わって家に帰ったらメイク・ラブしてほしい。でもショーが終わるまではその場にいてほしいかな。そのためにも観客の興味を保つために毎回違うことをやってきているつもりだ。
Thomas : その一環でアレックスもいろんな人にプロデュースしてもらったり、人数や編成を変えたりもしている。

—お二人はDJセットもやられるわけですが、のライブとそれぞれのDJセットはどのような違いがあるのでしょうか?

Thomas : は二人いっしょに行うものだけど、DJセットはより個人の音楽を追究できるものかな。僕は本能とパッションでDJプレイをしているよ。半年くらい離れてて久しぶりに会う時など、その間なにを聞いてきたんだってお互いインスパイアされたりもするしね。それにアレックスはレゲエに詳しいけど僕はそうでもないといったように、二人の音楽の興味はかなり違っているのでお互いに勉強になっている。

—このインタビューが掲載される「ototoy」はインターネットの配信サイトです。「ototoy」では24bit/44.1kHzというCD以上の音質のWAVファイルの販売や、一度購入すれば何度でもダウンロードできる「ライフタイム契約」といった新しい試みを行っています。 私も今後音楽の流通形態がパッケージからデータに移っていくのは避けられない流れだと思っているのですが、お二人はどのようにお考えでしょうか?

Alex : 世代が違うということもあるんだろうけど、やっぱりアルバムは買って欲しいね。
Thomas : 最近の若い人がダウンロード主流ということは理解しているが、一曲単位で買ってPCに入れてもコンテキスト(文脈)がない。アルバムはジャケットやそれにまつわる記憶などがあったりするが、ダウンロードにはそういったものが足りないと思うね。 それに、レコードを買うためのショップはコミュニケーションの場でもあっんだ。スピーカーからながれる音楽、カバー・アート、人との会話、僕は音楽の周りにいるのが好きだった。こういったことがダウンロード販売じゃ再現できないのは残念だと思うね。

—20年を越える音楽活動の中で、チル・アウトなアンビエント・テクノからはじまり、ダブ、ハウス、ブレイク・ビーツ、ドラムン・ベース、クリック、エレクトロニカなど常に最新のエレクトリック・ミュージックの潮流を取り入れてきています。しかしスタイルは違えど、なぜかあなたたちの曲は一度聞けばの曲だとわかります。その理由はユニークなボイス・サンプル、幻想的なシンセサイザー音、ゆったりとしたリズム、ダビーなベース・ライン、様々です。の曲をたらしめている最も重要な要素とはなんだと思っていますか?

Alex : これだという説明はできないんだが、白人である僕の中にいる黒人が音楽をやっているとこにあるんじゃないかなあ。白人のレゲエだと思う。
Thomas : 常に新しい物を追求し続けているというのが二人ともあるので、それがあらわれているんじゃないかな。

—トーマスは「Palais Schaumburg(パレ・シャンブルグ)」の時代から最近のKOMPAKTからのソロ・アルバムまで以外にも活発に活動していますが、トーマスにとっての活動の位置付けは?

Thomas : は僕のキャリアの中でも大きな部分を占めている。知らなかった音楽を教えあったりとか、お互いがとてもよい影響を与えていて、このプロジェクトに関わるようになってからとてもクリエイティブになったし自信もついたよ。パレ・シャンブルグの時代は、楽器やシンセを買うお金もスタジオに入るお金もなかった。音楽をやることに金銭的な壁があったんだ。でも今はその壁がアイディアの有無に移っているという印象だね。

—アレックスは数限りない作品を旺盛にリリースしていますが、そのモチベーションはどこから生まれるのでしょうか? もしかして最近生まれたという子供でしょうか?

Alex : それは違うよ(笑)。モチベーションは自分自身で上げていくしかない。自分のことを説明するのは難しいな。両親の話から初めてもいいんだけど、それだと長くなってしまう。いちばんの理由はやはり音楽への愛だね。

—最後に今後のとしての活動について教えてください

Alex : いろいろなプロジェクトがあるよ。いちばん大きいのが2011年に公開されるロイヤル・オペラ・ハウスとの共同制作で、これはまだ構想段階なのでテーマなんかを提出している段階だ。でも僕ら二人ともオペラの歌が嫌いなので、どのような作品になるか自分達でも楽しみだ。また、来年にはリー・スクラッチ・ペリーとのアルバムを出すし、デヴィッド・ギルモアとのプロジェクトもやっている。さらにサイド・プロジェクトのHFB(High Frequency Bandwidth)や、カントリー&ウェスタンも作っている。そういえば京都のゲーム会社に頼まれてPSPのゲーム音楽も手がけているよ。

Message From The Orb to OTOTOY

The Orb PROFILE

英アンビエント・テクノ中興の祖・重鎮アレックス・パターソンのThe Orb。
80年代末よりアレックス・パターソンは入れ替わりの激しい一群のコラボレーターたちと共に、恍惚とさせるチル・アウト系のグルーヴや浮遊感たっぷりのリミックスを夜明けまで踊り続けるクラバーたちに提供してきた。ピンク・フロイド/ミニー・リパートン/エンニオ・モリコーネ/リッキー・リー・ジョーンズなどを素材としたサンプリングを幾層にも積み重ね、オリジナルの音源/切れ目ないサンプル/荘厳なダイアローグが渾然一体となったコラージュを創出。脈動するハーモニーは自律的な環境音の体系を編み出し、しびれるようなビートはまるでツタ植物のように楽曲を駆け昇り、その甘美な果実をリスナーに差し出すのだ。

ダンス・ミュージックを作り上げた偉人達

Sleeper Wakes / Jeff MILLS
2010年1月1日00時00分01秒。ここ日本へと帰還する事を予告し、宇宙へと旅立ったジェフ・ミルズ。2006年秋から約3年の月日が流れた、来る2009年11月11日。宇宙での体験をもとに創作された壮大なスペース・シンフォニー作品が届けられる。それは、彼からのメッセージであり、彼が私たちの前に再び姿を現す日が間近に迫った証である。

(Who's Afraid Of?) The Art Of Noise! 誰がアート・オブ・ノイズを… / Art Of Noise
サンプリングの歴史はここから始まった…! 世界をあっと言わせるほど革新的であったサンプリング技術を駆使し、様々な音を実験的にコラージュしてみせたアート・オブ・ノイズの衝撃的デビュー・アルバム。フェアライトCMIという世界中のミュージシャンが注目していた驚くほど高価なサンプラー(発売当時の価格は1200万円)を全面的に使用した作品としても有名。類をみないほど実験的手法を用いながらポップスとして機能する美しいメロディとユーモアを融合させたその音楽的センスはまさにアート! 代表曲「Beat Box」、「Close (To The Edit)」、「Moments in Love」を収録し、全世界を驚愕させて多くのアート・オブ・ノイズ崇拝者を生んだ歴史的傑作&必聴盤。

ZTT RECORDS 特集

90 (Deluxe Edition) / 808 State
当時マンチェスターのクラブやレイヴで大きな反響を浴び、すぐにイギリスのナショナル・チャート・シングル部門で10位にまで登りつめた808ステイト初期の大ヒット曲「Pacific」を収録。アメリカではヒップホップの名門レーベルTommy Boyからリリースされ、ハウスといえばシカゴという図式を塗り替えてイギリスのダンス音楽アクトがアメリカでも評価されうることを証明した記念碑的アルバム。

ZTT RECORDS 特集

[インタヴュー] The Orb

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