2023/08/04 18:00

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.232

毎週金曜日に編集部セレクトのプレイリスト&コラムをお届けしている『OTOTOY EDITOR’S CHOICE』。8月は恒例のゲスト月間―OTOTOY Contributorsスペシャルです。第一週はOTOTOYの好評企画『REVIEWS』でもおなじみ、音楽メディアを中心にフリーランスで執筆活動を行う宮谷行美さんです。この暑い夏がすこしでも爽やかになれば。


2023 CONTRIBUTORS SPECIAL

SUMMERGAZER、出会いの季節をはじめる

「気象庁は梅雨明けを発表しました。これから本格的な夏の暑さが到来します。」

2週間前の発表通り、私の住む街は青空を取り戻し、それまでよりギアを2、3段階上げたような暑さが続いている。むわりとした空気に肌の表面にずっと汗が張り付いているような感覚。体力を蝕むそれらが苦手だが、アメリカに住む知人によると「それが羨ましい」そうだ。

昔から夏というものに縁がない。海もプールも炎天下のバーベキューも覚えている限り夏にしたことはないし、レジャースポットにあまり興味がない両親の影響からか出かけた記憶もそこまでない。もらいもののスイカはひとつで飽きてしまうし、かき氷はふた口食べた程度でいつも溶けてしまうので上手に食べられない。自分は夏にふさわしくないのだと自覚してからは、夏を味わうよりも世間の夏を眺めていることの方が多かった。

大人になったいまも相変わらず海にもプールにも行かないし、出不精な生活を送っている。しかし、年を重ねればその分思い出も増えるもので、最近はなんだか夏にいとおしさを覚えるようになりつつある。夏を題材にした映画のまばゆさに「こんな景色の中で生きてみたい」と憧れたこと、健やかな青の景色と空間系サウンドや疾走感のある音楽がぴったりとはまって感動したこと、夏祭りのお神輿にパワーをもらったこと、真夏の深夜に家を抜け出してラーメンとアイスを食べたこと、汗をかいたコーヒーとともに朝食をとりながらゼロとイチの間にあるロマンを語り合ったこと、夏朝日に透けた髪の毛と横顔の美しさを見たこと。あらゆる場面で切ったシャッターが縁遠かった夏に思い出を残し、遅いスタートながらかけがえのない夏を紡いできた。そして私が坂本龍一の『out of noise』という作品に出会ったのも夏で、この出会いがのちのアートボックス・プロジェクト『2020S』のオフィシャル・ライターの仕事にも繋がるのだから、私にとって夏は出会いの季節なのかもしれない。

今日も私の住む街はくっきりとした白い雲が優雅に浮かぶ、きれいな青空が広がっている。正真正銘の夏がやってきた。今年の夏は、どんな新しいことに出会えるのだろうか。そう思うと、むわりとした空気も肌に張り付く汗も悪くない気がする。そんな期待を込めつつ、私が夏によく聴く10曲を選曲。爽快なメロディとやさしい歌でうだるような暑さもきっと和らぐはず。あなたにとっても、この夏が素敵な日々でありますように。

文・宮谷行美

この記事の筆者
宮谷 行美 (Pikumin)

音楽メディアにてライター/インタビュアーとして経験を重ね、現在はフリーランスで執筆活動を行う。坂本龍一『2020S』オフィシャル・ライターを務めたほか、書籍『シューゲイザー・ディスクガイドrevised edition』への寄稿、Real Sound、日刊サイゾーなどのWebメディアでの執筆、海外アーティストの国内盤CD解説などを担当。

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