2014/06/29 17:40

“解散”を経て、彼の向かう先は?ーーSSWマーク・ビアンキが紡ぎだす“心象風景”をハイレゾで

photo by NINELLE EFREMOVA

シンガー・ソングライター、マーク・ビアンキによる1人創作ユニット、ハー・スペース・ホリデイ。小さな箱庭に幾多の音楽をぎゅうぎゅうに詰め込んで破裂させたような多幸感溢れるポップ・ソングは、ポップス、ポスト・ロック、ヒップホップなど様々なシーンを飛び越え、各所で絶賛された。そのユニットを突如“解散”し、空白の3年間経て彼から突如届けられたのが、今作「Wounds」である。前ユニットからの延長線に位置しながらも、よりパーソナルかつ色気に満ちたサウンドは聴く人を驚かし、喜ばせるであろう。彼からの“贈り物”を今レビューとともにハイレゾで楽しんでいただきたい。

Marc Bianchi / Wounds(24bit/96kHz)
【配信形態】
alac / flac / wav(24bit/96kHz) : 300円

【Track List】
01. Wounds

彼はまだ"傷"を負っているままなのかも知れない

傑作『HER SPACE HOLIDAY』のリリースから3年。傷ついてもまた、ゆっくりと動き出した男はどこへ向かうのか。マーク・ビアンキがハー・スペース・ホリデイを“解散”し僕らに届けてくれた贈り物が今作、「Wound」という1曲である。

思えば、ハー・スペース・ホリデイの終焉は、とても終わりとは思えない多幸感と、次なる希望に満ち溢れていた。ドリーミー・ポップ、オーケストラ・サウンド、ローファイ…。マークの力強い歌声、彩りを添える楽しげなコーラスなど様々な音楽に取り組んで来た集大成であり、そのどれにも偏ることのない素晴らしいアルバムであった。そんな彼からの久々の贈り物は前作の多幸感とは全く逆の、繊細で憂いや孤独感を感じる1曲である。

"Wound"という単語の意味には"傷"や"苦痛"などといった意味がある。実は、ハー・スペース・ホリデイとしての最後のアルバムを出す時に、自身の創造力や感情の枯渇を感じていたという。あの傑作の裏でマークは苦しんでいたのである。そして3年の間、マークは楽器を降ろし、日々の生活と向き合うことでインスピレーションを取り戻していったという。

photo by NINELLE EFREMOVA

アートワークはフォトグラファーである妻による写真なのだが、今作はこれにインスパイアされた一曲なのである。アートワークにフィットした一曲だというのは、曲の雰囲気からも良く分かる。また、その中からマークが傷つきながらも新たな光を探そうとするのも感じられると思う。ただ、今作からはまだ次の明確なビジョンのようなものは見えてこない。彼はまだ、"傷"を負っているままなのかも知れない。

この後は日本人イラストレーターである北沢平祐の個展用に書き下ろされた曲が収録のEP『A Letter To Nowhere』のリリースが予定されているのみで、その後はまだ未定。今回の作品が彼の新たな活動の布石になるのかは分からない。しかし彼からの小さな贈り物を受け取って、じっくり期待するとしよう。(text by 高木理太)

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Her Space Holiday / HER SPACE HOLIDAY

SSWマーク・ビアンキによる今はなきユニット。サイケ・ポップ、エレクトロニカやフォークなど、15年にわたるキャリアを総括したグランド・フィナーレ的作品である。今回配信のソロ作品とは違う局面とみせているのも興味深い。4 bonjour's partiesの灰谷歩によるリミックス「DEATH OF A WRITER(AYUMU HAITANI REMIX)」も収録。

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Dogs

Soft

¥ 2,037
Soft / Dogs

ジョニー・レイネックを中心に、2004年にNYのブルックリンで結成された5人組。Grizzly Bear、Beach House等を手がけるChris Coadyを迎えて制作された本作は、Stone Rosesを彷彿させるグルーヴと耳に残るセンスの高いメロディーを纏ったアルバムになった。

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Fennesz / Becs

デジタルとアナログを融合させた無二のサウンドでシーンに衝撃を与え続けてきたクリスチャン・フェネスの、2008年『Black Sea』以来となる5年ぶりのオリジナル・アルバム! 前作のダーク・アンビエント、ドローン色は薄まり、自身の名作『Endless Summer』を彷彿とさせる、インダストリアルとエレクトロニカの狭間を絶妙に進む好盤が生まれた。

PROFILE

photo by NINELLE EFREMOVA

マーク・ビアンキ

サン・フランシスコ近郊のサン・マテオ出身のシンガー・ソングライター。元々、Indian SummerやCalm といったハードコア・バンドで活動していたが、1996年よりHer Space Holidayとして1人で創作活動を開 始。最初期は、箱庭的スペーシー・ポップであったが、2001年リリースの4thアルバム『MANIC EXPRESSIVE』(アートワークはRadioheadの『Kid A』を手がけたShynola)、『THE YOUNG MACHINES』 (2003年)、『THE PAST PRESENTS THE FUTURE』(2005年)のオーケストラル・ポップな「エレクトロ ニカ3部作」で決定的な評価を得る。その後、がらっと方向性をかえ、オーガニックで力強い歌が詰まった xoxo, pandaをスタートさせる。日本でも、2005年のサマー・ソニック出演、盟友The American Analog Setと のカップリング・ツアー、高橋幸宏のソロ・アルバム『Blue Moon Blue』およびツアーへの参加、Joseph NothingとPianaとのコラボ・ユニットThe Heartbreak Moment、xoxo, pandaとして4 bonjour's partiesを バックに従えての全国ツアー、さらにサッポロビールYEBISU THE HOPのCMに、コーネリアスや曽我部 恵一、クラムボン、高田蓮、つじあやのらと並んで、外国人として唯一人出演するなど、すっかりお馴染みの 存在となっている。また、台湾でも、国内最大級のロック・フェスティヴァルFormoz Festivalの、休止前最 終公演の大トリを務めるなど、絶大な人気を誇る。そんな彼が、2014年、突如Her Space Holidayの終結を宣言。 7月にまさに集大成と呼ぶに相応しい渾身のラスト・アルバム『HER SPACE HOLIDAY』を7月にリリース。

[レヴュー] Marc Bianchi

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