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2016/12/15 12:00

 

【ライヴ・レポート】大森靖子「あなたたち、ひとりひとりの人生が最高です!」 過去最高の"肯定力"をみせたツアー最終公演

 

「あなたたちのひとりひとりの人生が最高です!」「あなたたちには生きる才能があります!」大森靖子は10月から行っていた全国ツアー〈TOKYO BLACK HOLE TOUR〉の各地で、繰り返しこう叫んでいた。11月18日に行われたTOKYO● ZEPP TOKYOでのファイナル公演でも、そういった言葉があった。このライヴでは、強い結束力を見せたバンドのダイナミックな演奏やパフォーマンスで客席を圧倒しながら、観客ひとりひとりの手を強く握っているかのような不思議な距離感を感じた。そんな感覚にさせる彼女の歌は過去最高に力強く、まっすぐなものだった。

2015年に発売したシングル「マジックミラー」について、彼女はブログで「私は、誰よりも強い肯定力をもって笑って、歌って、首を縦にふりつづけたい。ボロボロだったとしても、あなたの人生の全てがYESだって、せめて音楽のなかでは、言いたい」と語り、「この曲を歌いはじめてから、私はとても強い」と明かしていた。また先日行ったインタビューでも「変えられるんだってわかった」「これでいいんだって」と、肯定することへの迷いがなくなっていることを示唆していた。

インディーズの頃から彼女の歌に強く共感して、心の支えとしていたファンはきっとたくさんいたことと思う。迷いがなくなったいまの大森靖子は、もともと持っていたその求心力を、より外側に向けて発信するようになった。自分を必要としている人に躊躇うことなく手を差し伸べ、精神的な支柱となることを恐れなくなった。その結果が、今回のライヴでの力強さにつながっているのだろう。以下は同公演のレポート。

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定刻を少し過ぎて暗転すると、すぐさま客席にこのツアーで売られていたグッズの「ピンクメトセライト」が光り、場内はピンク色に染まる。ステージには和風の衣装に猫耳カチューシャをつけた大森がたったひとりで登場し、アコギ1本で「PINK」を歌った。彼女の背後には巨大なピンク色の球体。こちらはツアー中、常にこの位置に設置されていた「ブラックホールのキルト」を、ファイナル用に巨大化させたものだ。アーティスト・増田ぴろよが、下着を使って制作したという。この美しくも妖艶な球体がエネルギーを増幅しているかのように、大森の歌は最初からとてつもない求心力を持ち、客席は一気にステージへと惹きつけられた。

ギターのノイズの隙間から、学校のチャイムが鳴り響く。そしてSEが流れると、ツアーをともにまわってきたバンド、新●z(しんぶらっくほーるず)が登場した。メンバーはこれまでのライヴでもお馴染みの畠山KJ(Gt / H Mountains)、ピエール中野(Dr / 凛として時雨)に、あーちゃん(Gt / きのこ帝国)、えらめぐみ(Ba / 股下89 / セーラー服)、カメダタク(Key / オワリカラ)、サクライケンタ(ハイパー / 学ラン)がくわわった編成。これまでのベテラン勢から一転、彼女とインディーズの頃から近しいシーンで活動していた同世代のメンバーも多く起用されている。大森が「ミッドナイト清純異性交遊」と曲名を叫び演奏がスタートすると、客席のペンライトがいっせいに振られる。大森は「ゼップトーキョー!!」と高らかに叫ぶと、間奏のあいだも勢いよく客席をあおっていた。

そのまま勢いを緩めることなく、アグレッシブな演奏と力強い歌声で畳み掛けると、メジャー・デビュー・シングル『きゅるきゅる』のカップリング曲「私は面白い絶対面白いたぶん」へ。同シングル発売前の2014年6月27日にロボットレストランで行ったワンマン・ライヴ以来、久しぶりにこのツアーで披露された楽曲。サビでは演奏者もみんな楽器を手放して、まるでロボットのように手を振りながら自由に陽気に動き回った。「非国民的ヒーロー」を挟み、大きな拍手のなかで「こんばんは、大森靖子です。Zepp Tokyoまで足を運んでいただき、ありがとうございます」とあいさつし、この日最初のMCへ。

「あなたがたがひとつひとつ乗り越えて、ここに持ってきてくれたすべてを、絶対に無駄になんてしないし、全部ていねいに音にしていきたいと思います。夢みたいなものと真正面から胸ぐらを掴んで向き合っていたら、Zeppに行くのに、はじめてライヴをしてから10年かかってしまいました」と優しい声で話すと、会場からは暖かい拍手が起こる。

「勝手にエゴサーチして勝手に怒ったり、いっぱい炎上もしたけど、いっぱい傷ついてまっとうにやってきて良かったなって思います。不器用で優しくて、傷つきやすいみなさんのことを、すごい好きになれたから、これで良かったなと思います」としみじみ。ピンク色に染まった客席を見渡しながら、「私はアイドルでもないのにこんなに好きな色の世界を作ってもらえるし、本当に幸せです。ありがとうございます」と話した。

「『POSITIVE STRESS』でも書いたんですけど、奇跡は手作りで、全ては地続きだと思っています。これからも大森靖子のストーリーをよろしくお願いします」と呼びかけると、再び演奏へ。「ピンクメトセラ」がはじまると、講談社主催コンテスト「ミスiD2017」に選ばれた「私。」が颯爽とステージに登場。ときに四つん這いになってネコのような動きを見せながら、歌に合わせて滑らかなダンスを披露し、全身で楽曲の世界を表現した。大森の「愛してるよ」という言葉に客席から歓声があがると、「愛してる.com」へ。この曲ではステージ上を左右に移動しながら歌い、客席との距離をさらに近づけた。

「絶対彼女」のサビで大森が「今日のソロ・パートを担当してくれるのは、まいぷにでーす!」と呼び込むと、ビキニ姿の塚本舞(夏の魔物)が登場し、ステージ上が一気に華やかさを増す。このツアー中、同曲のサビの「ソロ・パート」をお客さんやスタッフなどさまざまな人が歌ってきたが、ファイナルならではの豪華ゲストの登場に客席は歓喜。大森も「いいね!いいぷに具合だね〜!ぷにってる、ぷにってる」とハイテンション。塚本が〈絶対女の子 絶対女の子がいいな〉ととびきりキュートに歌うと、客席も「女の子」「おっさん」の順にこのパートを歌っていった。

大森が「合唱の時間です」と告げて紙を掲げると、客席は入場時に配られた、わら半紙の歌詞カードを広げる。「良いことがあった日も、こんな最悪なことあるんだって日にも、ただそこにあるオリオン座のような歌」と紹介すると、カメダのピアノの演奏にのせて12月14日発売のシングル曲「オリオン座」がはじまった。サビに入ると大森が腕で指揮をして、それを合図に会場が一斉に歌いだす。ステージもカメダ以外は楽器を手放し、立ち上がって歌う。〈血を流すこと平気になるなと抗った 手癖で君を幸せにはしないさ〉〈死を重ねて生きる世界を壊したい 最高は今 最悪でも幸せでいようね オリオン座〉。シンプルな演奏のなかで、言葉たちが心のなかに余計に響いていくようだった。ライヴなのにほとんどの人が手元の歌詞に視線を落としているという少し異様な光景。しかしみんな真剣に言葉をなぞり、その意味を想像しながら歌っていたことと思う。この瞬間は、間違いなくこのツアーのハイライトのひとつだった。曲の最後に大森が指でオリオン座の形をなぞったのも、とても印象的だった。

再び学校のチャイムが鳴ると、大森の「気をつけ、礼!」という号令を合図にバンド・メンバーは捌けて、大森の弾き語りパートに移行。アルバム『TOKYO BLACK HOLE』のラストを飾る名曲「少女漫画少年漫画」では途中、アンプを通さずに生音・生声で歌う場面もあった。〈ぼくのカードはなんたってジョーカーで とても強くて とても寂しい〉という同曲の歌詞にかけて、「東京にきて、ジョーカー同士が集まって、すごい寂しがりやで、不器用でぐちゃぐちゃってなっているけど、不器用な人同士がぶつかりあうこんな場ができて」と感慨深そうに話す。続けて歌詞やアルバムにも言及し、「東京に来てからじゃないと歌えなかったんですよ。きれいに昔の風景とかを。その最中だと、そのときの気持ちでいっぱいになるから。『TOKYO BLACK HOLE』っていうタイトルをつけちゃったんですけど、(書いていることは)昔のことが多いのかな。それを人の目線で、3次元的に描けたのかなと思うんです」と語った。

「SHINPIN」を鋭い歌声で聴かせると、バンド・メンバーが再登場。続く「あまい」の途中から一気にバンドの音が重なり、ライヴは終盤へ。アルバムのタイトル曲「TOKYO BLACK HOLE」では、ツアーのなかで磨かれてきたバンドのグルーブが会場を飲み込み、客席を圧倒。音が鳴り止み、大森がギターを置いてマイクを握ると、本編ラストの曲「音楽を捨てよ、そして音楽へ」。〈音楽は魔法ではない〉と、ステージ上を移動しながら大きく身振りを交えて歌う。会場中の音や空気、人々の思いをすべて受け止め吸収して、自身の体を通して吐き出しているかのように蠢きながら声を絞り出す。バンドも渾身の演奏。最後に客席にマイクを渡し、ひとりひとりが思いを声にならぬ声で叫ぶと、マイクは再び大森のもとに。そして手を挙げて「超歌手、大森靖子でした!」とあいさつして、本編は終了した。

アンコールでは、大森がメンバーひとりひとりを呼び込む。「みなさんの生活をきれいに映して、美しいライヴにして締めたいと思います」と曲紹介すると、最後の曲は「マジックミラー」。再び客席を埋め尽くしたピンク色に照らされながら演奏すると、大森は生声で「あなたの、あなたたちのひとりひとりの人生が、ひとりひとりの人生が最高です!ありがとうございました!」と客席に感謝を告げた。2時間弱、全19曲のステージは終演を迎えた。

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ツアーのタイトルは〈TOKYO BLACK HOLE TOUR〉だったが、同名のアルバムが発売されたのは今年の3月。間違いなく現時点で最高と言える今回のようなライヴを観てしまうと、早くも来年発売されるであろう次のアルバムや、次のツアーが待ち遠しくてならない。さらに春には、彼女が敬愛する道重さゆみが復活する。2017年は大森靖子にとって、これまで以上に大きな飛躍の年となる予感しかしない。(前田将博)

写真:Masayo

大森靖子2016年全国ツアー〈TOKYO BLACK HOLE TOUR〉
11月18日(金)TOKYO● ZEPP TOKYO

<セットリスト>
1. PINK
2. ミッドナイト清純異性交遊
3. 生kill the time 4 you、、♡
4. イミテーションガール
5. 私は面白い絶対面白いたぶん
6. 非国民的ヒーロー
7. ピンクメトセラ
8. 劇的JOY!ビフォーアフター
9. 愛してる.com
10. 絶対彼女
11. さっちゃんのセクシーカレー
12. オリオン座

13. 給食当番制反対
14. 少女漫画少年漫画
15. SHINPIN

16. あまい
17. TOKYO BLACK HOLE
18. 音楽を捨てよ、そして音楽へ

<アンコール>
19. マジックミラー

・同公演の写真は大森靖子オフィシャルブログに掲載 (まいぷにの水着画像もあり)
http://lineblog.me/oomoriseiko/archives/13094409.html

・大森靖子『オリオン座/YABATAN伝説』
2016年12月14日(水)発売
【CD ONLY】¥1,000(税抜)AVCD-83707
M1:オリオン座
M2:YABATAN伝説
M3:君に届くな

【CD+DVD】¥2,500(税抜)AVCD-83706/B
(CD)
M1:オリオン座
M2:YABATAN伝説
M3:君に届くな
(DVD)
1:オリオン座(Music Video/プライベートVer.)
2:YABATAN伝説(Music Video/DVD Ver.)
3:【LIVE】TOKYO BLACK HOLE TOUR 2016.10.15 @仙台MACANA 前編 アッパースクール

【CD+DVD(ファンクラブ限定盤)】¥3,500(税抜)AVC1-83708/B
(CD)
M1:オリオン座
M2:YABATAN伝説
M3:君に届くな
(DVD)
1:【LIVE】TOKYO BLACK HOLE TOUR 2016.10.15 @仙台MACANA 後編 ダウナースクール
2:【LIVE】FC限定大森靖子の続・実験室vol.22 @新宿ロフトプラスワン より

・大森靖子 オフィシャルサイト
http://oomoriseiko.info/
・アイドル兼社長として一躍注目を集めた里咲りさ、ソロ・アーティストとして共鳴する大森靖子との相思相愛対談!! (OTOTOY特集ページ)
http://ototoy.jp/feature/20161203


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