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2016年06月10日20時00分

 

【噂の真相】巻上公一(ヒカシュー)、Dir.F(水曜日のカンパネラ)の会合に立ち会ってきた

 

2016年5月上旬、ネットを中心にちょっとした炎上騒ぎが巻き起こった。その中心にいたのはロック・バンドのヒカシュー、そして音楽ユニット・水曜日のカンパネラの2者。筆者は普段、音楽配信サイトOTOTOYで働いており、両者の配信の担当をしている。今回の騒動が話題になるはるか以前から、両者の音楽配信にとどまらずインタヴュー記事を制作するなどの交流があり、今回の問題についても公になる前からお互いに話を聞いていた。そのため中立的立場として本件を取材をし、お互いの考えを明るみに出すことが必要と思い、2者が対面する場(これが初顔合わせ)に立ち会いこうして記事を書いている。

ことの顛末はこうだ。水曜日のカンパネラが2013年にリリースした1stミニ・アルバム『クロールと逆上がり』に、バンドとはまったく関係のない「ヒカシュー」という楽曲が収録されていた。その楽曲に対し、ヒカシューのフロントマン・巻上公一から「タイトルを変えてほしい」という内容証明が、2016年5月頭、水曜日のカンパネラの所属事務所のつばさレコーズに送られた。そこに巻上の電話番号とメールアドレスが記載されていなかったため、「連絡先を教えてほしい」と水曜日のカンパネラのマネージャーであるDir.Fから筆者に電話がきた。巻上の了承を得てDir.Fに電話番号とメールアドレスを伝え、電話で両者のやりとりが行わた結果、ことの経緯と経過がそれぞれのメディアで発表されることとなった。それを読んだ読者たちがそれぞれ解釈をして騒ぎ出し、結果として新聞社やメディアにとりあげられるなど大きな事態となってしまった。

別にヒカシューは著作権を主張していたわけではないし、水曜日のカンパネラも誤認誘導を意図した利益増加を狙ってヒカシューというタイトルをつけたわけでもない。疑似著作権という単語も飛び出したり、「ヒカシューが「水曜日のカンパネラ」という曲を作ればいい」なんていう意見もTwitterでは見られたけれど、どれも邪推がすぎる。ことはもっともっとシンプルなのだ。

それにしても、なぜ今のタイミングでこのような問題が起こったのか? それは水曜日のカンパネラがワーナー・ミュージックからメジャー・デビューするタイミングで、このタイミングを逃すと、思いを伝える機会を逃すと巻上が判断したからだ。水曜日のカンパネラに便乗した売名行為という見方もあるけれど、これだけキャリアのあるヒカシューがそのようなことをする必要があるようには思えないし、もしそうだったとしたらこの炎上騒ぎは見事にその役割を果たしたこととなる。「ヒカシューなんて知らねえよ」というつぶやきを数多く見かけたが、そういう人はせっかくの機会なんだからヒカシューの楽曲を聴いてみたらいいんじゃないかなと思う。

今回の対面は5月末に横浜の喫茶店の一角で行われた。いきなり殴りかかるでも、喧嘩口調でもなく、穏やかに進行した。バトルがあると期待している人には物足りない内容かもしれない。でも、本当に別にそんなに大きな問題じゃなかったんですよ。


運命の対談スタート

ーー水曜日のカンパネラの楽曲「ヒカシュー」をめぐり、ネットを中心に大きな騒ぎになりましたけど、そもそもことの発端はなんだったんでしょう?

巻上公一(以下、巻上) : 最初は「まあ、いいかな」くらいに思っていたんですよ。ただ、(水曜日のカンパネラが)売れてきたことで、「ヒカシュー」を検索したときにヒットするようになってきて、できれば変えてほしいなと思うようになっていったんです。それと同時に「ヒカシュー」が自分にとってかけがえのない名前だと言うことを再認識する機会にもなりました。じゃあ今回なんで怒ったかというと、(水曜日のカンパネラ、マネージャーのDir.Fから)電話がかかってきて、最初の一言が「誤解です!!」だったんだよね。いきなり、誤解ですはねえだろって(笑)。

ーーめちゃめちゃ怒ったメールが巻上さんから僕宛に届いたときは、正直返信に困りました(笑)。

巻上 : ははははは。だから、もともとはそんなに怒っていなかったんだよね。

Dir F : 早めに連絡して解決した方がいいと思っちゃって、巻上さんから会社宛に内容証明をいただいたその日に電話をしたんです。ゲームのキャラクターである「ヒカシュー大将軍」にインスパイアされて作った意図があったので、それをまずはちゃんと伝えたほうがいいのかなと思ってしまって。

巻上 : ケンモチ(ヒデフミ / 水曜日のカンパネラのサウンド・プロデューサー)さんがタイトルも作ったの?

Dir F : タイトルは3人で考えました。もちろんバンドのことは知っていて、リリースする前に確認するかどうかすごく悩んだんですけど、歌詞が全然関係ない内容だったのでそのままにしてしまって。「先輩だから大丈夫か」みたいな感じで、どこかで甘えがあったと思います。それに当時の僕たちが聞くのも失礼だなと思ってしまったのもあります。

巻上 : 今回の一件があって、水曜日のカンパネラを研究したんだよ。それでわかったのは、基本的に人名からとってタイトルをつけている。だけど「ヒカシュー」だけが、ちょっと違うんだよね。要するに、内容と全然関係がない。他のタイトルは少し関係があるじゃない? それに「ヒカシュー大将軍」からとったんだとしたら、なんでヒカシュー大将軍ってタイトルじゃないのかっていうのもあったし。そもそもヒカシューって人名じゃないからね。

Dir F : 「悲しい歌の集まり」っていう意味ですよね。

巻上 : うん。でも、悲しい歌の集まりっていう意味だけじゃないんだよ。カタカナにすることで、悲しい歌の集まりっていう意味をなくす。そういう意味を込めているんだよね。意味がなくなるという意味。

ーーもともと有無を言わさず名前を変えろと主張したわけじゃないのに、ネット上では「巻上さんが頑なに名前を変えろ!!」と言っている頑固親父みたいな話になっちゃっていますよね。

巻上 : なっちゃっているよね。そうしたファンの気持ちは理解できるんですけど、とある弁護士が調べもせずにブログで「名前には著作権がないのに主張はできない」という言説をまかり通したことに僕は閉口しました。勝手に自説の著作権の問題として仮定して、しかも例にだしているものが受け狙い。こちらは著作権の主張はいっさいしていないんだから。そうした行動が言論を封殺するし、誤解を助長させたと思うんです。本来はイヤだと思っていることを伝えることが目的で、そのあとに話し合いが始まると思っていたわけ。だって、俺が言わなかったらイヤだと思っているとわからなかったでしょ?

Dir F : そうですね。

巻上 : 著作権に対して、僕は常に穏やかな態度にしてきたつもりです。ずっと僕たちのライヴは録音・撮影は自由だし、なんの断りもなくヒカシューの楽曲をまるごと使っている楽曲があっても、なにも言っていない。それが明らかな著作権法違反でも(笑)。

ーー巻上さんがブログのコメント欄もえらく荒れて、結果的にコメント欄を封鎖しましたよね。ブログの内容は、どういう思いで書かれたんでしょう。

巻上 : 水曜日のカンパネラ側の発表があっさりしていたから、「なんで、そんなことが起こったの?」と言う人がいると思って書いたんだけど、読んだ人のいくらかは俺が水曜日のカンパネラをバカにしてると思ったみたいなんだよね。全然バカにしていない。要するに、(「ヒカシュー」で検索している人を水曜日のカンパネラに)誘導しているって書いてるだけ。実際に、そういうスタイルとってると思ってるわけ。だって、フックを作って、そこから引っ張ってくるっていうのはポップスの基本なわけじゃないですか。

ーー「ヒカシューのことなんて知らない」ってことをアピールして巻上さんを攻撃している人も多かったですね。気になったのは「テクノ・ポップ御三家」みたいな書き方をする人も多かったことで、いつのヒカシューのことを言ってるんだってずっこけました(笑)。この騒動ですごく変な膿が出てきたというか、そんな印象です。

巻上 : よかったっちゃよかったけどね。いろんな問題が浮かび上がってきて。

ーーカンパネラ側はどうですか? わりと淡々とした発表のされ方でしたけど。

Dir F : できるだけ事実だけをシンプルに書くというか、あまり主観を入れない方が変に影響を与えないだろうと思っていたんです。それで淡白な内容だったんですけど、ほんとに最初にお会いしてお話しておけばよかったなとは思っています。

ーータイトルを「名無しの権兵衛」って名前に変更したことは、ちょっとバカにしてると思われるんじゃないかなって心配もしていたんですけど。

Dir F : 実際、タイトルがなくなったっていうことじゃないですか。さっきのヒカシューの意味をなくすっていうのに近い論法かもしれないんですけど、名前がなくなったっていうことを表すんだったら「名無しの権兵衛」だなということで付けたんですよ。名無しの権兵衛って、江戸時代に遊女を雇い入れるため、遊女に男性の名前を騙らせることから生まれたらしくて、それで今回の変更するにあたってのタイトルにもピッタリだという事で、付けました。

ーー巻上さんは、タイトルに関しては火に油を注ぐような感じで捉えませんでした?

巻上 : たしかに、なんだろうとは思ったよ。でも俺的にはさ、タイトルを「アノニマス」にすればよかったのにと思ったんだけどね。

Dir F : ははは(笑)。

ーーヒカシューが「水曜日のカンパネラ」という曲を作ったらいいのにって言っている人も多かったです。

巻上 : それは作らないよ(笑)。別におもしろくもなんともないし。

Dir F : 意味わからないですよね。

ーーそもそも、なんでつばさレコーズ宛に内容証明で送られたんですか?

巻上 : 出したっていう証拠が残るから。それは水曜日のカンパネラにとって不名誉なことではなくて勲章なんだよ。俺はパロディをやっていたから同じようなことを経験したことがあるんだけど、大手出版社とかの場合は弁護士を通して内容証明がくる。そうすると、大手は流通を握っているから有無を言わさずやっていることをやめなきゃならない。それって、パロディをやっていると宿命であり勲章なんだよね。

ーーこのタイミングで内容証明を送ることによって、巻上さんはどういうことを期待していたんですか?

巻上 : 水曜日のカンパネラがちょうどメジャー・デビューするタイミングじゃないですか。異議申し立てをするなら、ここしかないってところで言ったのと、ヒカシューって単語を使ってもいいんだけど困っているということを伝えたかった。っていうのは、うちのファンでも実際買ってしまった人が結構いるんですよ。だから、誘導されているのは確かなんです。そんなことはありえないって言ってる人がいるんだけどさ、ありえなくないよって言いたい。

ーーヒカシュー・ファンの間で混乱が起こっていることに困っていたと。

巻上 : あと、ファンの人から疑問も出ていた。許可してるのか? とか。そうなるとやっぱり引けないし、ちょっと不満だなっていうのもあったから変えてもらいたいなと思って。本当に変えてもらえるのかな? って気持ちもありましたけどね。

ーーもう一度確認しておくと「ヒカシュー」という曲の内容に関して文句をつけているわけではない?

巻上 : タイトルだけです。音楽性そのものは別に関係ないから。

ーー先程仰ってたパロディだったり、引用だったりっていうところを認めているということでよろしいですか?

巻上 : それは手法だからね。認めてますよ。他から引用したタイトルを曲名にすることを批判ととる人は、水曜日のカンパネラのファンじゃないと俺は思うよ(笑)。そういう手法なんだよ。

ーー僕は、水曜日のカンパネラのことはデビュー当時から追いかけているので、「ヒカシュー」って曲があるのは知っていて、少し気にはなっていたんですよ。あの時僕が聞いていればこんなことにならなかったのにって後悔しています(笑)。

巻上 : それも疑問の一つ。すごく近くにいるのに全然来ないって(笑)。OTOTOYでも配信しているんだし、〈ぐるぐる回る〉でも同じ日に出演してたじゃない?

Dir F : いやー、言いづらかったです。大先輩だから、〈ぐるぐる回る〉の時はすごい悩みましたね。

ーー一方で、そんなに簡単にタイトルを変えて思い入れはないのかっていう声もありました。水曜日のカンパネラの楽曲制作に向かうスタンスとしてはどう考えているんでしょう。

Dir F : 今回は、イヤだって言われたら変えるしかないと思いました。そこまで迷惑をかけてタイトルを付けるつもりでもないというか、歌詞の内容とリンクしている訳ではないので今回に関しては迷惑をかけてまで固執する意図は無いと思ったので今回は変えました。誤解がないように言っておきたいんですけど、思い入れはあるんです。ただ名前を借りている事実に代わりはなくて、そこにお互いの意思がある場合は納得してできるのが一番いいとは思っています。

巻上 : ヒカシューっていう名前はもともと意味不明な言葉なんだけど、魅力的なんですよね。もともとオリジナル・メンバーの山下(康)さんが付けたんだよ。武満徹の「ヒカ(悲歌、Hika)」をモチーフにしているんだけど、悲しい歌を集めるっていうことや意味がないっていうのは、実は僕が後から作ったんです。本当の意味はわからない状態にしてある。

Dir F : 本当にヒカシューってすごい響きですよね。あの曲にタイトルをつけるにあたって、それ以外なかったんですよね。他に代わる言葉がなかった。絶妙な単語というか力がありますよね。

巻上 : さすがに40年近く使っていると、かなり愛着が自分の中にもあるよね。

Dir F : 僕も人名そのものに権利があるのかはずっと調べているんですけど、あるっていう事例がなかったんですよね。映画とかで織田信長とかの名前はたくさん使われているし、そういう例って他にもあるじゃないですか。そこが実際どうなのかって話が出たのは、個人的には凄くおもしろかったなというか興味深い展開になったなと思っています。

巻上 : 逆に、今回騒動になっちゃったことで、僕たちみたいに今まで言っていなかった人たちからもなにか言われる可能性もあるかもしれないよね。

Dir F : あー、そうかもしれないですね。そこは1つ1つ解決していけたらなと思いますね。この(タイトルに人名をつける)スタイルを崩すことは難しいと思ってはいるから。

巻上 : 水曜日のカンパネラのスタイルになっているからね。

Dir F : そうなんですよ。あとは、うまくちゃんと話し合いを設けてやっていくかかな。

ーー今回の件に関してヒカシュー・サイドとしては納得されたということでよろしいですか?

巻上 : そもそも納得しましょうってことになっていたんですよ。それが、電話で取材を受けて記事を見たら、俺が怒っているってことが強調されていて。それで原因で更なる炎上しちゃったのもあるんだけど。そこを書くのか! って驚きました(笑)。

Dir F : Yahoo! ニュースにあがりましたもんね。

巻上 : そうなんだよ。えー! って。そこじゃねえだろって。怒ってたけど解決したんだって話でね(笑)。

ーーそれを周りが膨らませていってしまったことで、余計な誤解が増殖されていったんでしょうね。

Dir F : そうですね。ちゃんと事実を確認しないまま表面だけおもしろいことを伝えようとする人もいるから。けど、それが今の時代の環境やインフラだと思うのでそれは仕方無い流れなのかも。

巻上 : まあ、水曜日のカンパネラにとってマイナスな面もあっただろうけど、話は大きくなればなるほどいいので全然問題ないと思いますよ。権兵衛には(笑)。

Dir F : 申し訳ありません…。会えてよかったです。

巻上 : 俺、昔、P-モデルと喧嘩したことあって。新聞にも載ったんだけど、俺がちょっと蹴飛ばしたらマネージャーが出てきて、まあまあって感じで制したんだよ。その結果喧嘩にならなかったんだけど、その時事務所の社長からは「なんでちゃんとぶん殴んなかったんだ」って言われて(笑)。

一同 : (笑)。

巻上 : 記事がこんだけ小さくなっちゃったじゃん。殴ってたら一面になってたんだから!! って(笑)。

Dir F : 最高のエピソードですね(笑)。

巻上 : プロダクションの社長が考えることってすごいなと関心したよね。マネージャーも怒られてたよ。ちゃんと話をでかくしなきゃダメだって。芸能は恐ろしいね。

ーーそういう意味では、今回話がでかくなったっていうことは成功だったと(笑)。

巻上 : 意図はないけど、我々が知らぬうちにね。

取材&文 : 西澤裕郎(OTOTOY)

・ヒカシューの作品はOTOTOYから配信中
http://ototoy.jp/_/default/a/3844
・ヒカシュー オフィシャル・サイト
http://www.makigami.com/hikashu/index2.html

・水曜日のカンパネラの作品はOTOTOYにてハイレゾ配信中
http://ototoy.jp/_/default/a/85357
・水曜日のカンパネラ オフィシャル・サイト
http://www.wed-camp.com/

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