2014/11/07 17:00
2014年9月3日に、セルフ・タイトルのフル・アルバムをリリースした新世界リチウム。このたび、OTOTOYでの配信スタートを記念して、現在リリース・ツアーで全国をまわっている彼らの新潟公演に密着し独占取材を敢行した。ツアー・ファイナルは、11月22日、新代田FEVER。少しでも彼らの気持ちに打たれたのであれば、ぜひチェックし、足を運んでみてほしい。
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平均年齢27.7才。
もう、若手とはいえない年頃である。世間一般で見ても、仕事的な立場であったり、結婚であったり、人生の岐路を迎えることの多い年齢なのではないだろうか。そんな歳を迎える彼らは、焦りや不安を抱えながら、それでも捨てられない夢を追い、未来に希望を見て、いまも必死に食らいついている。
ドラム・ヴォーカルとベース・ヴォーカルのツイン・ヴォーカルとギターという、珍しい構成の3ピース・バンド・新世界リチウム。彼らは現在、初のセルフ・タイトル・フル・アルバム『新世界リチウム』を引っさげて、リリース・ツアーの真っ只中だ。クリープハイプが現メンバーになる前の2年間、尾崎世界観のバック・バンドをつとめ、SEKAI NO OWARIのレコ発ツアーにも参加するなど、いまを時めくバンドとの関わりも深い彼ら。しかしながら、この3年という月日の流れのなかで、その差は歴然となってしまった。
「あのとき勢いにまかせて飛び出しても、なにも通用しなかったと思うんです。あのとき行ってしまっていたら、こうしていま、続けていなかったと思う」とベース・ヴォーカルの千葉龍太郎は言う。
売れなくてよかったなんて、決して思ってはいない。何度訪れたチャンスも掴まなかったのは、不器用さゆえだけのことではない。まっすぐな8ビートが四つ打ちに負けるわけがない。そしてその逆も然り。相反するこの2つがあってこそ音楽はかっこいいんだ、と。どこか少年のような無邪気さをまとう彼らの内側には、曲がらない信念と、静かに燃える情熱がある。虎視眈々と、飛びかかるその時を狙い、爪を研ぐ。そんな印象を抱かざるを得なかった。今回は、現在敢行中のリリースツアー北陸編・新潟RIVERSTでの公演に同行し、彼らの素顔に迫った。
新世界リチウムは石川慧(Dr.Vo)、千葉龍太郎(Ba.Vo)、松野康平(Gt.Cho)からなる3ピース・ロック・バンド。2006年に結成後、メンバー・チェンジをすることなく現在に至る。今回の公演は仲のいいバンドたちとの対バンということもあり、本番前も和気藹々とした空気に包まれている。しかし、真剣なまなざしで仲間達のリハを見つめる彼らの横顔は厳しかった。「すげえ、むかつくんですよ。かっこいいから。みんな完全にかっこいいから、燃える」と、ギター・松野。先ほどまでの様子とは一変していて、一瞬戸惑いを覚えた。彼らにとって仲間はみな、仲の良い友達であり、負けられないライバルでもあるのだ。
照明が落ち、歓声が上がる。千葉が噛み付くように煽り、叫ぶような勢いで「ひまわり」が演奏され、新世界リチウムのライヴが始まった。会場のボルテージは一気に上昇、そしてたたみかけるように、その日の対バン相手でもある、ゆれるの「あらゆる憎悪」のカヴァーが演奏されると、歓声はいっそう大きくなり、原曲との違いを身体を揺らしてじっくり楽しむ人、楽しそうに口ずさむ人と、それぞれがその轟音に酔いしれた。
「親父はあまり感情を顔に出す人じゃないんだけど、最近人生で2度目に顔を真っ赤にして泣いてるのを見て。ああ、この曲をやらなきゃなって」
そんな千葉のMCから始まったのは「一人言」。俺にはバンドしかないんです、かっこいいこと言いたいんじゃなくて、バンドがなかったら俺は帰る場所もないし、生きてる価値もない。10代の頃底辺にいた自分にとって、これでもいまが一番いいんです。だから失くせないんです。そう話していた千葉の言葉が脳裏によぎる。ヒリヒリとするような感情が、疾走感溢れる演奏から、声から、ほとばしる。モニターの上に飛び乗った松野が観客を煽り、始まったのは「プリウェンペ」。
〈劣等感を逆手にとって キミの事を歌うんだよ そんな事しか歌えないバカになりたい〉
なんて不器用で、なんてピュアなんだろう。この飾り気のない、荒削りな感情が、聴く人の心を惹きつけるのだろう。続いて演奏された「隔たり」。
〈誰かと比べて俺を計るなよ 今日も犬みたいに吠えている〉
ドラム・ヴォーカル石川の歌声に、計り知れない強さを感じた。
「未来のことを考えると、不安しかない。考えすぎちゃう癖があるから。でもそうすると身動きが取れなくなって、一歩も進めなくなる。だから、考え方をシンプルにする技を身に付けたんです。脳内の余計なアプリ全部消して、十分なスペックを確保してさ。それでそこに、今をぎゅっと詰め込む。今日を最高にすること、そしてこのツアーを最高のものにすること。今日が最高じゃなかったら、未来が最高になるはずないから」
本当は、張り裂けそうな不安を抱えている。それでも虚勢を張って立ち向かう。今日、いま、この瞬間を、彼は最高のものにしようと、全力でぶつかっているのだ。あっという間に時間は過ぎ、今作の代名詞でもある「キリフダ」が演奏される。
〈どんな明日がボクを待っても 1人じゃないから そう思えたからきっと〉
一人じゃない。一緒に頑張る仲間がいる。待っていてくれる人たちがいる。実感をともなって歌われるその言葉は、回を重ねるごとにリアルさを増していく。こうして、喝采のなか終演を迎えた。鳴り止まぬアンコールに応え、「どうしよう、何やろうかな… 何聴きたい?」と、千葉。そして選ばれたのが、「リスタート」だった。印象的なギターが奏でられた瞬間に上がる歓声。
〈1,2の3で飛び出して 1,2の3でつまづいた 諦めがチラついた〉
辛いからやめる、なんて、そんな選択肢はない。諦めなんて言葉はもうない。千葉は言った。やめるなんて考えは、そもそも自分のなかにないんですよ、と笑う。
〈巻き込むんだ 本当もウソも震える足もそのままにして 誰かの笑い声に足が止まる このままここでじっとしてれば? 誰かの声と思ったものはいつかの僕自身だった〉
僕は毎日葛藤しています。と、石川。自問自答の繰り返し。でももう今は、今日が最高であればその先はもっと最高になる、そう思っていると話す表情は、何かが吹っ切れたように明るい。
〈でかい事言って進歩もないまま満足すんなよ うつむいて一生、棒に振る そんなん分かってるって〉
正直、不安だし、やめたいと思うこともあった。と、松野。でも絶対に中途半端で終わりたくないし、ドカンといきたいです。すべてを出し切らずに終わったら、一生引きずる。もう誰にも会えないし、トラウマになって東京にも出て来れないですね(笑)。諦めるという選択肢は、僕の中にももうないです。廃人になるまで、ボロボロになるまでやって、誰かに止められないかぎりは、絶対にやめない。淡々と話す彼の口調のなかに、静かに燃える情熱が垣間見えた。
「新世界リチウム」には未来を感じるんです。千葉は言った。昨日より今日が良い。今日より明日はもっと良い。ここに至ってまだまだ成長期なのだから、おもしろいのだ。不器用で、がむしゃらで、ピュアで。何度つまづいても、「それじゃぁもう一回やり直そう」と、前を向く。
鳴り止まぬ拍手のなか、笑顔でステージを去っていく彼らに、明るい未来が見えた気がした。等身大だからこそ、心にすっと届く。聴く者がそれぞれ、自分の歌にできる。まっすぐで飾り気がない、そんなところが彼らの魅力なのだろう。きっと、彼らの音楽に共感する人は、たくさんいるはずだ。だからこそ、一人でも多くの人に届いてほしいと、心から思う。
11月22日(土)、新代田FEVERにて、ツアー・ファイナルのワンマンが行われる。最新作『新世界リチウム』は勿論、ライヴで披露されるものの今や手に入りづらい過去の作品も、OTOTOYでは取り扱っている。たっぷり予習をして、常に成長を続ける、“今の”新世界リチウムを、全力で楽しんで頂きたい。(尾原智子)
■新世界リチウム / 新世界リチウム
※OTOTOYで配信中!! (http://ototoy.jp/_/default/p/46848)
収録曲 :
1. キリフダ
2. プリウェンペ
3. 正論
4. 隔たり
5. そして唾を吐いて中指を立てる
6. exトカゲ
7. オレノスベテ
8. 愛の結晶
9. リスタート
10. あらゆる憎悪
11. ハッピーエンド
12. ふるさと
・LIVE SCHEDULE
2014年11月8日(土)徳島 club GRINDHOUSE
2014年11月9日(日)高知 X-pt.
2014年11月10日(月)香川 高松DIME
2014年11月12日(水)愛媛 松山Double-u studio
2014年11月13日(木)大分club SPOT
2014年11月15日(土)宮崎SR BOX
2014年11月16日(日)鹿児島SR HALL
2014年11月18日(火)福岡graf
〈新世界リチウムpresents"新世界リチウムレコ発ファイナルワンマン~地獄の底からこんばんわ~"〉
2014年11月22日(土)東京 新代田FEVER
・新世界リチウム HP
http://ritiumu.com/pc/top.html