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2013/11/06 23:46

 

水曜日のカンパネラ、渋谷の中心で鹿を解体するーーOTOTOYライヴ・レポート

 

世間的には3連休の最終日である11月4日、渋谷WWWにて、水曜日のカンパネラが主催する音楽祭〈りんご飴音楽祭2013~水曜日のカンパネラ編~〉が行われた。

このイベントは、鹿の解体や落語などが行われることがあらかじめアナウンスされていた。この東京・渋谷のライヴ・ハウスで鹿の解体である。いったいどんなイベントになるのか、まったく想像できない。そんな不安と期待を抱えつつ、開演を少し過ぎた16時頃、会場に到着した。すでに、ホール内は多くの男たちで埋め尽くされている。この日、物販で売られていたりんご飴を手にしている人も多い。客席の後方に設けられたサブ・ステージでは、Kenmochi HidefumiがDJをしている。そのDJ卓の横には、赤塗りの顔にりんごの被り物をして、まるで落ち武者のように串が脳天から飛び出しているりんご飴マンの姿があった。この時点で、すでにカオス。

そんな雰囲気の中、場内は暗転。メイン・ステージに登場したのは、AZUMA HITOMI。彼女の「りんご飴音楽祭スタート! 」の声を合図に、ライヴがはじまった。ダンサブルなリズムに乗せて、自らもキーボードを弾いて歌う。先ほどまでのカオスな雰囲気をかき消すかのように、透きとおるようなかわいらしい歌声が場内に響いた。ステージ上には彼女を囲うようにLED照明のタワーが設置され、後方には高々と掲げられた4つのバス・ドラムが並んでいる、不可思議なステージ・セット。ステージ後方に設けられた巨大スクリーンには、VJによる映像が流れていく。AZUMAは、歌だけでなく、インストゥルメンタルの曲やベース・プレイも披露。ラストには、ポップなメロディが心地良い「きらきら」を演奏して、彼女のステージは終了した。

このイベントの元ネタ(?)とも言うべきフェス〈りんご音楽祭〉のオーガナイザーでもある、dj sleeperのDJを挟みつつ、メイン・ステージには高座が設けられる。その上には座布団が敷かれている。ライヴ・ハウスという空間のなかで、明らかに異彩を放っている。そこに現れたのは、落語家の瀧川鯉八。「りんご飴音楽祭でライブをするのが子供の頃からの夢でした」という自己紹介とともに、なぜかいきなり自らの携帯番号を暴露。どう反応していいか戸惑う客席にも構わず、その後はひたすら落語を披露した。

サブ・ステージには、ここまでの流れをぶった切るかのように、派手なカツラとセーラー服に身を包んだ"DJまがい"西村ひよこちゃんが登場。でんぱ組.incからアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」のテーマ曲などを流しつつ、客席は完全に置いてけぼり。ひたすらハイ・テンションなパフォーマンスで、客席を圧倒した。

ふたたび、アクトはメイン・ステージへ。煌びやかな照明のなかで、Charisma.comが登場し、「ごきげんよう」と挨拶する。重低音を響かせながら、DJゴンチとMCいつかによるパフォーマンスがはじまる。場内は一気にクラブのような雰囲気に。コール・アンド・レスポンスなどを駆使し、巧みに客席を盛り上げる。合間に、緩いながらも息のあったMCを挟む。シュールなリリックを聴かせる「メンヘラブス」や「GEORGE」などを披露し、Charisma.comのステージは終了した。

次はついに、この日の陰のヘッドライナーとも言うべき鹿の解体である。3分クッキングのBGMが鳴り響くなか、ブルー・シートが敷かれたステージに生々しい鹿の死体が運び込まれる。固唾を飲みながら見守る客席。鹿は、ステージ上にセットされた台に載せられる。すでに腹が切開され、血液と内蔵が抜かれているようだ。ちなみに、昨日獲れたばかりとのこと。この鹿がどのように解体されていくのか。エプロンをつけたコムアイが、師匠の佐野氏とともに、下ネタ満載のトークを交えながら鹿にナイフを入れていく。途中、ゲストのファーストサマーウイカ(BiS)もくわわる。彼女は、いきなり鹿の前肢の皮を剥がす大役を任される。そんな無茶ぶりもものともせず、ウイカははじめてとは思えない大胆なナイフさばきを披露した。皮を剥ぎ肉を断ち、やがて鹿の片脚が胴体から切り離されると、客席から大きな歓声があがった。このときには、鹿は完全に食用の鹿肉と化していた。あっという間だった。

解体を終えると、ゲストにカルチャー雑誌「TRUSH-UP!!」編集長の屑山氏を迎え、コムアイと佐野が鹿への思いを語る対談がスタート。コムアイと鹿との出会いなどが語られる。ふたりの鹿への愛情がたっぷりつまった対談は、「TRUSH-UP!!」誌上でも行われているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。なお、これを観て実際に鹿の解体を体験したくなった人のために、1月に参加型の解体イベントが山梨で行われるとのことだ。ちなみに、この鹿の解体パート以降、フロアで売られていた鹿の焼肉は解凍が追いつかないほどの大盛況となっていた。筆者も鹿肉をいただいたのだが、コムアイが語っていたとおりまったく癖もなく食べやすい。ここで焼かれていた肉も、先日コムアイが山梨の山で解体したものらしい。DIYがクローズ・アップされがちな昨今、ここまでDIYなフードが出されるライヴがほかにあるのだろうか。

解体の熱も冷めやらぬなか、ここでふたたび、西村ひよこちゃんによる狂気のステージを挟む。感極まってパンツ一丁となった西村は、銀杏BOYZ「SKOOL KILL」を絶唱しながら客の頭上をクラウド・サーフ。そんな西村の姿を、次の出演者である大森靖子が、ステージ上から笑顔で見つめていた。

薄暗い照明のなか、ピンク色のワンピースに身を包んだ大森靖子の演奏がはじまる。彼女が静かに息を吸うと、場内は瞬時に静まり返る。前半のクラブの雰囲気も、落語や鹿の解体によるカオスな雰囲気も、ましてや西村ひよこちゃんが作った狂気も、すべてリセットして更地にするかのように大森の世界が会場の隅々まで広がっていく。特にステージの後半、「魔法が使えないなら」以降はMCもなく5曲続けて演奏する。拍手する間すら与えずに、ただひたすら静寂のなかで大森の歌とギターの音色だけが響いた。切迫感に押しつぶされそうな「夏果て」、1コーラスをアカペラで歌いきった「さようなら」など、徐々に緊張感は増していく。最後に「KITTY'S BLUES」を演奏し、大森のステージは終了。最後に大森が笑顔で挨拶して深くお辞儀をすると、大きな拍手が彼女を包み込んだ。

スタートからすでに4時間以上が経過。いよいよ、この日の主催であり、トリの水曜日のカンパネラのステージ。チャイナ・ドレスのような衣装に身を包んだコムアイが登場する。本人もこの瞬間を待ちわびていたかのように、嬉しそうにピョンピョン跳ねながら「モノポリー」を歌う。コムアイは、「私が観たかったイベントになりました。私が面白いと思ってやったことがみんなに受け入れられていることが、本当に感動的ですね。ありがとうございます」と、満足そうにイベントを振り返った。

ここで、りんご飴マン率いるりんご飴バンドが登場。ドラムとベースの生演奏がくわわり「不二子」を演奏する。さらに、ファーストサマーウイカがふたたび登場。彼女もくわわり、「アリババ神帝」を貴重なデュエットで披露した。ここでゲスト陣はステージを去る。マイ・ペースなMCを挟みつつ、この日の入場者に配布された「牛若丸(幼名ver.)」がはじまる。コムアイは、最前列の客の頭をどつきながら歌いつつも、途中で歌詞が飛んで照れ笑いを浮かべていた。客席を正座させて、ちゃぶ台返しの指導を施したあとは、最後の曲「星一徹」を披露。曲中で場内が一体となって一斉にちゃぶ台返しする光景は爽快だった。

アンコールはやらないと言いつつも、コムアイは曲が終わったあとも名残惜しそうに話し続ける。この日は、もともとワンマン・ライヴをやるつもりで押さえていたが、自分がまだ主役になれる気がしなかったため、ブッキングを組んでイベントにしたことを明かす。コムアイは、「終わっちゃったんだね」としみじみ話しつつ、最後は「一生グダグダですけど、一生みなさんを楽しませる気でいますので、よろしくお願いします。本当に今日はありがとうございました」と、愛情たっぷりに挨拶。この日一番の大きな拍手が響くなかで、イベントは終了した。

一見まとまりがないようにも思えるが、コムアイというひとりの女の子の可能性がつまったイベントだと感じた。まだ未完成ではあるが、なんでも吸収してとりあえず楽しいことをする。そんな彼女の姿勢が、これだけの振れ幅を生んでいる。それが成熟したとき、なにか新しいとんでもないものが生まれるのではないかという予感を感じた。マイ・ペースでなんでもありな水曜日のカンパネラのステージも、きっとそれは還元されるはずだ。とりあえず、筆者はこの日、鹿の解体を人生ではじめて観た。客席にいた多くの人もそうだったであろう。ほかの出演者もすべてが濃かった。これからも、コムアイというフィルターをとおして、まだ見ぬワクワクする景色が観られることを楽しみにしている。(前田将博)

写真 : 下家 康弘

2013年11月4日渋谷WWW
りんご飴音楽祭2013~水曜日のカンパネラ編~

水曜日のカンパネラ
セットリスト

1.モノポリー
2.モスラ幼虫
3.不二子
4.アリババ神帝
5.牛若丸
6.お七
7.マリー*アントワネット
8.星一徹

[ニュース] 水曜日のカンパネラ

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