2011/05/19 00:00

4年ぶりとなる待望のソロ・アルバムを盟友ベックがプロデュース

Thurston Moore / Demolished Thoughts
結成30年を経てもなお、いまだ第一線でオルタナティヴ・シーンを牽引し続けるソニック・ユースのフロントマン、サーストン・ムーアが、盟友ベックをプロデューサーに迎えたニュー・アルバムをリリース! スタジオ・アルバムとしては通算3作目、約4年振りとなる本作は、まさにサーストン版『シー・チェンジ』とも言える、パーソナルで繊細なタッチが胸を打つ、ロック史に残る大傑作アルバム!

昔ながらのサーストン

音楽オタクの音楽家としても悪名高い(”100%”褒め言葉)サーストン・ムーアの音楽は、変則チューニングによる捻くれた浮遊感が特徴的なギター演奏に基づく。彼のバンド、ソニック・ユースの骨格を形成しているのも同様と言って過言ではない。それ故16年前に世に出たサーストンのソロ処女作『Psychic Hearts』がリー・ラナルドのいない剥き出しのソニック・ユースだとすれば、12年越しの2作目である『Trees Outside the Academy』はサーストン節におけるフォークへの憧憬と試みがあった。そしてこの度ベックをプロデューサーに迎えて制作されたのが、この『Demolished Thoughts』。1作目と2作目のスパンを考えれば意外なタイミングでのリリースとなるソロ3作目は、前作の試みをより実践へと拡大し00年代的フリー・フォークの文脈でソニック・ユースをカバーしたかのような良作となった。

呟くような歌声と全面的にアコースティックなアレンジは、一時期の同僚ジム・オルークを彷彿させて心地良い。尤もパキッとハイファイな音作りの『eureka』と違って、本作は全体に薄い靄がかかったかのようなサウンド・プロダクションである。随所に差し込まれるハープに施されたディレイやリバーブが実に巧みで思わず唸る。空間系のエフェクトはともすれば最も恥ずかしい音になりかねないが、30年選手のサーストンと手練ベックのコンビがそんな安易な過ちを犯すはずもなく。単なるフォーク・アルバムと一線を画している要因のもう一つが、多用されるストリングスにある。それは大体において調性が取れており、それだけでは珍しくもなんともないのだが、時に不協和音となって響き、トリスタン和声以来のこの手の魅力が十分に引き出されている。もしワーグナーが生きていたら、彼らの和音はどう聴こえるのだろうか。

さておき、通して聴くとド・フォーキーで爽やかな前半から始まるものの、中盤に進むにつれてサーストンお得意の現代音楽フレーバーを漂わせながら、いつもの珍奇な高低差のあるメロディーが頻繁に顔を出して来る。後半、グレン・ブランカ譲りのレイヤー感満載な和音でグラデーションの様な盛り上がりをみせていく流れは、良くも悪くも昔ながらのサーストン。アコースティックになってもサーストンサーストン。ソロ・アルバムだから当たり前だと言われれば返す言葉もないが、試みの中にこそブレない部分も見えてくるものである。

ところで、プロデューサーであるベックの存在感はやはり大きい。深いサウンド・プロダクションや絶妙なアレンジにおいて、明らかに彼の仕事が寄与している。一瞬、ベックのフォーク・アルバムを聴いているのではないかと錯覚しそうになる程だ。デビュー当時のベックは全く謎に包まれた存在で、友達が一人もいないとか家にテレビもなくて情報を遮断しているらしいなんて話があったが、その個性と発展がはっきりとした今でも、依然として我々はこの天才に恐れ入りっぱなしである。思えば「俺は負け犬」なんて、悪い冗談にも程がありすぎた。「ワイドンチュキルミー」は、こっちの気分である。(text by 木村直大)

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PROFILE

Thurston Moore

フロリダ州出身コネチカット州出身、現在52歳。ニルヴァーナやダイナソーJrと並びUSオルタナ黄金時代を代表するバンド、ソニック・ユースのフロントマンとして83年から〜11年の間にインディー7枚、メジャー9枚、通算16枚の公式スタジオ・アルバムを発表。09年には20年振りにインディーから新作を発表し話題をさらった。ソロとしては2作のスタジオ・アルバムと多数のセッション、実験作を発表。ソロとしても多くのファンに支持をされ続けるカリスマ的存在。自らの音楽活動の傍ら、レーベル“Ecstatic Peace”主宰もしている。

[レヴュー] Thurston Moore

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