2016/07/07 12:57

クラーク内藤インタビュー――強引にロックンロール化するのがカッコいい

クラーク内藤

クラーク内藤を思い浮かべるとき、付箋に大きく〈YES〉と書いて、あちこちに貼り付けまくっている様子をイメージする。ダサいことにも、みっともないことにも、太いマジックで〈YES〉と書きつけた付箋をパーンと貼り、ロックンロールを叫ぶ。ステージ上では長い手足を揺らしながらひとり機材を操り、拡声器で叫び、時にはフロアをでんぐり返しして回る。観客はその勢いに巻き込まれ、腕を振り上げてシンガロングする。「くそくらえ!」と。

エネルギーの爆発、というと安易だけれど、そういう〈圧〉を感じるのが、彼のライヴだ。

Bandcampで配信されていたクラーク内藤のEP「終わってる歌」が改めてOTOTOYでリリースされるという話を聞き、わたしは彼のこの〈圧〉にもっと多くの人が巻き込まれてほしいと、インタビューの場を設けた。クラーク内藤は、けして口達者な人間ではない。だが、どちらかというと「朴訥と~」、と表現するほうがふさわしい語り口から紡がれる言葉には、ハッとさせられる力がある。

「僕は踊れる音楽は全部、ロックンロールだと思っているんです」

と真顔で言う彼の魅力を、少しでも伝えられればと願う。

インタヴュー : はせ おやさい

2014年にリリースされたEPが、OTOTOYで配信リリース開始
クラーク内藤 / 終わってる歌
【配信形態 / 価格】
【パッケージ】ALAC / ALAC / FLAC / WAV / AAC / MP3
価格 まとめ購入 1,080円(税込)/ 単曲 162円(税込)

【トラック・リスト】
1. 終わってる歌
2. どうでもいい
3. きまずい
4. 遠くに行った友達をロック
5. メロディーはいらない
6. くそくらえ
7. YOU DON'T STOP

〈なんか面白い人〉を経て本気で音楽をするように

――よろしくお願いします。普段はGORGE.IN(インド~ネパール山岳地帯のクラブシーンで発祥したと言われる音楽ジャンルGORGE(ゴルジェ)を紹介する国内唯一の専門レーベル)の一員として会うことが多いですが、今日は内藤さんの〈そもそも〉から聞いてみようかなと思ってます

クラーク : はい、よろしくお願いします

――ええと、まず活動の〈そもそも〉から。

クラーク : 最初の頃は、今のスタイルよりもうちょっとネタ色が強くて、〈白いスーツに開襟シャツ姿でラップをする〉っていう感じでした。で、そんときは、どちらかというと〈なんか面白い人〉っていう扱いだったんですよね。音楽的なスタイルで注目されているというよりは。例えば、イヴェントのサブステージで、バンドの合間に「1曲持ちネタやってください、5分くらい」みたいな感じの出演が多くて、〈お笑いの人〉みたいな感じで呼ばれてました。

――それはいつごろ?

クラーク : 2009年くらいかな。そもそも、どこに行ったらライヴに出れるのか、わかんなくて。知り合いが全然いなかったんで、ライヴハウスにデモを送ったりしていました。そのとき出てたのは新宿JAMとか、高円寺UFOクラブとか。ライヴハウスだけじゃなく、クラブとかにも出たいと思ってたんですが、ツテがなかったんです。

――「持ちネタやってください」みたいな扱いって、音楽をやろうとしてる人にとって、なんというか、失礼な扱いではないですか?

クラーク : うーん、そんときは、出られればいいや、と思ってましたね。来てくれた人が「ああ面白かった!」と思ってくれて、インパクトが残せればいいやと。ただ、そういう〈面白い人〉扱いのブッキングの割合が増えていって、多いときは年間で50~60本やってたライヴのうち、半分がサブステージ、みたいなときもありました。ストリップ・ダンサーさんのショーの合間とか。そうなってみて、「ステージに上がれる回数は増えたけど、やりたい音楽からは遠のいてしまったな」とは思いました。

――〈イヴェントに出てくれる芸人さん〉的な扱いですよね、それは。にぎやかしというか。

クラーク : そうなんですよね。そうすると、作ってる音楽をあまり聴いてもらえないなというか、やりたいことまで届かなくなってしまった感じがあって… あとは、単純に「舐められてるな」と思った(笑)。こっちが「舐めてもいいよ」っていう態度を取ってると、実際に舐められるんだなーと思ったのと、音楽的な部分をちゃんと見て欲しいという気持ちが強くなって、〈笑える〉とか、そういういわゆるノイズになってた部分を除こうと思ったんですよね。それが2012年くらいです。

――方向を模索し始めた時期があった。

クラーク : そうですね。それでまた別に、DJとVJと組んで、3人でやってた時期があって。そのきっかけが、音楽にMVをつけてYouTubeにあげたら、当時の自分としてはそれなりにウケた、ということがあったので。MVは僕がやってる〈古い音楽をサンプリングしてヒップホップする〉というスタイルと同じ文脈でやろうと思って、映画に詳しい友達に聞いたりして古い映画のシーンをサンプリングして、作ってもらいました。

クラーク内藤「どうでもいい」MV
クラーク内藤「どうでもいい」MV

YouTubeで動画がウケたっていう経緯があって、DJとVJと、3人でやってたんですけど、僕がやってることはお手本があってやってるわけじゃなくて、こういうことやりたいってゼロから頼んで、やってもらわなきゃいけないから、迷走というか… あと、僕はずっと本気で音楽をやりたいと思っていたんですが、テンションの違いもあり、うまく足並みが揃わなくなって、1人になりました。

表現の全部を〈ロックンロール〉としてやっている

――そのタイミングでゴルジェと出会うんですね

クラーク : そうですね。音源を発表したり、これからどうしようと思ってたタイミングだったので、救われました。そこで評価してもらえたことが、自信になったというか。

――きっかけは何だったんですか?

クラーク : ゴルジェのコンピ『ゴルジェフェス』に参加したのが最初です。Vol.1に収録されていた、TECHNIC RUNNERの「昼には見えない夜の住人」という曲を聴いたとき、久しぶりに鳥肌が立つほどカッコイイと思ったんです(「昼には見えない夜の住人」はこちらで視聴可)。

TECHNIC RUNNERとは元々付き合いがあって、彼らがゴルジェという音楽もやってるとは聞いてたんですけど… それを聴いてびっくりして、コンピへの楽曲募集をまだやってると知ったので、1~2週間くらいで慌てて準備して。それで応募したのが「菓子折り」。で、それを聴いたGORGE.INの石井さんからイヴェントに誘ってもらったという流れですね。2015年の春かな。

――伺っていると、いろんなスタイルに挑戦しているように見えますね。

クラーク : でも、ゴルジェもそうだし、他の曲もそうなんですけど、僕にとっては全部が〈ロックンロール〉なんですよ。

――全部が?

クラーク : はい。ゴルジェでも、ヒップホップ、ラップでも、僕は全部をロックンロールとしてやることができる、と思ってて。10代の頃からロックンロールをずっとやる、って決めてから、ロックンロールは完璧なものだ、永遠だ、ずっと続くものだと思ってるんですよ。それを証明するために、今の音楽活動を、意地を張るような感じでやってるつもりなんです。

クラーク内藤「メロディーはいらない」MV
クラーク内藤「メロディーはいらない」MV

――ちょっとクレイジーな主張なようにも聞こえますが… なぜそう思ったのかを教えてもらえますか?

クラーク : ええと、まず、ロックンロールが完全で永遠なものだ、というのを、僕は聴いていて感じるんです。きっかけを遡ると、子供の頃、僕、何も考えてなかったんですよ。ぼやーっと生きていて、「誰にも怒られなかったから今日は良い日だ」みたいな… 自分が何をしたいかも全然わからなかったし、〈自分に自信を持つ〉という言葉の意味も、よくわからなかった。ただ、ロックンロールというものを聴いたときに、これが自分の好きなモノなんだ、というのが、はっきりわかったんです。それで実際に自分でやってみたときの面白さがすごくて。自分はこれをずっとやっていけばいいんだ、というか。生きている間に、自分がやりたいことをやってもいいっていう、今までなかった概念が入ってきたんです。

――いくつくらいのころですか?

クラーク : 中3から高1にかけて。

――〈好きになった〉というより、〈見つけた〉という感じですね? ロックンロール以外で、そういうものってあったんでしょうか?

クラーク : …奥さん。奥さんですね。ロックンロールと奥さん。

――それ、書いても大丈夫ですか?

クラーク : はい。大丈夫です

――ロックンロールと同じくらい、〈見つけた〉と思ったものが、奥さん。

クラーク : はい。奥さんと結婚したときは、人生が180度変わった感じがありました。今でもびっくりしてます。

――それはなぜ?

クラーク : ロックンロールを好きになったときに、「やりたいことをやってもいいんだ」と思えて、幸せな気持ちになったんですけど、その好きなことを、この人生で追求するぞ、と思ったときに、人並みの幸せは絶たなきゃいけないだろうな、と思ったんですよ。でも、それでもいいと思ってて。僕はロックンロールに触れているだけで幸せだし、カタルシスもあるし、他のものはなくてもいいや、と思ってた。というか、他にはもうないだろうと思ってたんですよ。なので、いわゆる結婚をして、好きな人と生活をするという人生を諦めていたのが、奥さんと出会って「あれ? この人となら、できちゃうな」と思えて。それで、1人の、普通の人間としても幸せになれてしまった、という。音楽をやりながら、ロックンロールを愛しながら、普通の人間としても、好きな人と生活を続けていけるというのは、すごい、ショックでした。

――できると思ってなかった?

クラーク : うん。むちゃくちゃびっくりしました。

――1個しか持てない、ロックンロールしか持てないと思ってたはずが、2個も持てた。人生で大事なものが2個に増えたことで、ロックンロールとの向き合い方は変わりましたか?

クラーク : どうだろうな…。それは、なんていうか、変わったというよりは、あがいている、という感じですかね。ものすごく大事なものが2つになって。〈1つのものをずっと愛でていればいい〉という状態でロックンロールをやっていたから、それ以外のことは、捨ててよかったんです。仕事を首になったりしようが、ぜんぜんよくて。でも今は、両方を、大事にする。大事にするには、どうすればいいんだと。片方を大事にすれば片方がおざなりになるから、「これ、やり方がわかんねえ」と思いながら、やってるという感じです。

――そういった、あがき、もがき、みたいなものは、クラーク内藤さんの歌詞でよく出てくる印象があります。もどかしさ、とでもいうんでしょうか… 物語を感じる瞬間もあれば、自転車を立ちこぎしているときによぎる刹那的な感情の瞬間もあって。あれは、どういったときに書き上げるんでしょうか?

クラーク : 歌詞については… いま、聞かれていることの回答になっているかわからないんですけど、昔、〈村八分〉というロックバンドとか、今は作家として活動されている町田康さんが町田町蔵さんという名前でやってた〈INU〉っていうパンクバンドを10代のときに聴いていて。〈拳をあげろ!〉とか、〈踊れ!〉とか、そういうストレートな言葉ではなく、何を言っているかわからない、〈ハテナがいっぱい飛ぶ〉ような歌詞に、憧れがあるんですよ。で、〈ハテナがいっぱい飛ぶ〉ということとはまた別で、真逆な話になっちゃうんですけど、ロックンロールとかパンクの歌詞には、ストレートなこと、〈失せろ!〉とか〈こっちに来い!〉、〈C’mon〉とかを強く言って、〈そうだ〉と思わせる力、というのがあると思うんです。その〈そうだ!〉と思わせる力、というのは、〈ビックリマーク〉としてあって… その〈そうだ!〉というビックリマークと、〈なんだこれは?〉というハテナを、なるべくMAXに、両方いっぺんに歌詞にちりばめたい、というのを理想として書いてます。

生活の中にあるものをロックンロール化して、カッコよくする

――それは、言葉のストックがたくさんある状態で書いているんですか?

クラーク : そうですね、カッコイイと思う言葉、使いたい言葉のストックがあるし、また歌われていないような感情を歌ってみたいと思ってます。例えば今って〈好きだ〉とか、〈怒ってる〉〈悲しい〉とかはいっぱい歌われているけど、〈気まずい〉っていう感情を歌ってる人ってあまり居ないなと思ってて。

あの歌も、面白い〈あるある〉にしすぎず、カッコよくやれたらいいなと思って作ってます。なので、〈ハテナ〉や〈ビックリマーク〉をちりばめつつ、〈嬉しい〉〈悲しい〉ではない、まだ誰もやってないようなことを、こっそり探す、というやり方もあります。

クラーク内藤「きまずい」MV
クラーク内藤「きまずい」MV

――〈甘い〉〈辛い〉というハッキリした感覚ではなく、その中間というか、〈あまじょっぱい〉みたいな…

クラーク : そうそう。「でも、みんな経験したことあるでしょ?」という感情ですね。

――歌詞にはやはりこだわりがありますか?

クラーク : そうですね。音楽のスタイルとして〈ロックンロールをやりたい〉が、もちろんあるんですけど。かっこいい歌を、なるべく日本語で作りたいというのもあるんです。客観的に見ても、歌詞は自分の手持ちの武器なんじゃないかなと思ってますし。

――誰も歌っていない感情、景色を歌うって、内藤さんらしい印象があります

クラーク : うん、それをずっとやりたいと思ってて。自分が聞いてきた人たちもずっとそれをやってきてるんですよね。最近だとギターウルフとかも… すごいなって本当に思うんですよね。ギリギリいままでロックンロール化していなかったものを、ロックンロール化してしまう、しかも、ものすごく強引に、というのがカッコイイなと。昔から曲のタイトルが「熱風ジロー」とか「ラーメン深夜3時」とかじゃないですか。深夜3時にラーメンを食べるってみんなあると思うんですよ、それをロックンロール化する、しかもカッコよく、というのがすごいなって。ものすごく影響は大きいですね。

――〈ロックンロール化する〉という表現は、面白いですね。

クラーク : それって、すごく単純に良いことだと思うんですよね。生活の中にあるものをロックンロール化して、カッコよくすると、その曲を聴いた人が、深夜3時にラーメンを食べてる、そのときの気分がカッコよく、いい気分になると思うんですよ。それってすごくいいことだなと思って。

――生活のBGMというかバックトラックができる感じ?

クラーク : そうですそうです。そういう気分のときに、そういう音楽を聴いて高揚するというか、行動のきっかけになったりするじゃないですか。そういうことをやりたいと思ってます。

――今回の「終わってる歌」に入ってる「くそくらえ」は、わたしも〈くそくらえ!〉な気分のときにいつも聴いてます。

クラーク : とはいえ、これからはもう少し、自虐ではなくて、強気なことも歌っていきたいとは思ってるんですけどね。今までは、カッコイイものを作ろうとしているはずが、歌詞が根暗なものになってたので… これからはもう少しハッタリをかましていこうというか、自分が強くなれたような気分になるものを作っていきたいと思ってます(笑)。

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LIVE INFORMATION

2016年7月8日(金)@幡ヶ谷Forestlimit
KISEKI 〈Taigen Kawabe(BO NINGEN)x食品まつりa.k.a foodman〉
開場 : 20:00 / 開演:20:30
料金 : 1,500円(1ドリンク別)
出演 : DJ MEMAI x HiBiKi MaMeShiBa、クラーク内藤、ニーハオ!

2016年7月10日(日)@西麻布BULLET'S
〈おもしろダークネスvol.9〉
開場・開演 : 17:00
料金 : 2,000円(1ドリンク別)
出演 : DJ JET BARON、食品まつり、黒猫の憂鬱、クラーク内藤、HiBiKi MaMeShiBa、デス山、ぼく脳、春太郎、emeow、AMANDA、BOOL

2016年7月18日(月・祝)@幡ヶ谷Heavy Sick
開場・開演 : 18:30
料金 : 2,000円+1ドリンク
〈LIVE〉
THE LET'S GO's、鮫肌尻子とダイナマイト(福岡)、THE FADEAWAYS、VIVIAN BOYS、クラーク内藤
〈DJ〉
B.B. Clarke、TAKA-SICKS、TONG(チェリータイムス)、つづみっこ

2016年8月11日(木)@六本木スーパーデラックス
〈ヤマノヒクラブ〉
詳細未定

PROFILE

ガレージパンクを中心とした50~70年代の音楽に影響を受けながら、新しい方法で特殊ロックンロールを開発する。

2014年Bandcampにて『終わってる歌』をリリース。2015年日本のGORGE専門レーベルGORGE.INより『Pebbles From The Grave』をリリース。同年に、初の7インチ『どうでもいい』を自主制作リリース。2016年2月DOMMUNEのポエムコア特集〈OMOSHIRO DARKNESS IN DOMMUNE〉に出演。

>>クラーク内藤 オフィシャルサイト

[インタヴュー] クラーク内藤

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