尺八とピアノ、2つの"音"が織りなす幽玄世界
——タナカ マサヤ&ワキマル・ジュンイチの新作をハイレゾ配信!!

尺八奏者のタナカ マサヤ、そして作曲家 / ピアニストのワキマル・ジュンイチがタッグを組み、満を持して初アルバム『cloud, misty, sun』を発表した。「和」と「洋」、2つを代表するような音色が溶け合い、静寂のなかで美しく響き合う。そこにはまるで水墨画のような、簡素で余白をたっぷりと感じさせる世界が立ち上がる…。OTOTOYでは、この作品を24bit/192kHzのハイレゾで独占配信中。空気の音を多分に含んだ尺八のサウンド、そして繊細に配置されたピアノの響きは、まさにハイレゾで楽しむのにぴったりだ。さらに、収録曲から「光琳」「Life」の2曲を、本日より1週間のみフリー・ダウンロードでお届けする。

さて、そんなアルバムの聴きどころを伝えるべく、音楽ライターの白沢達生が、本作について丁寧に解きほぐしてくれた。尺八とピアノの相性は? そして多くの楽曲を手掛けたワキマルのルーツとは? 音源とあわせてお楽しみいただきたい。

まずは聴いてみよう! アルバムから2曲を無料配信

  発売日 2015/04/03

01. 光琳 02. Life

※ 曲名をクリックすると試聴できます。

※試聴音源の音質はmp3です。
※無料配信は2015年4月10日24:00まで。

幽玄なる音の細部をとらえる、24bit/192kHzハイレゾ配信

Masaya Tanaka & Jun'ichi Wakimaru / cloud, misty, sun

【配信フォーマット】
ALAC/FLAC/WAV/AAC (24bit/192kHz)

【価格】
2,160円 (アルバムまとめ購入のみ)

【収録曲】
01. 光琳
02. 月の庭
03. Life
04. 風韻
05. cloud, misty, sun
06. 凱風快晴
07. 風の旅人
08. 松林図屏風
09. 永遠

尺八とピアノ、異なる"音"が出会う場所 (text by 白沢達生)

尺八は、ぼくらの国、日本で育まれた楽器。その音や音楽が日常のなかに息づいているかというと、必ずしもそうとは言えないだろう。だけど、なぜだろう。耳を澄ませていると、掠れた空気の流れから浮かび上がってくる音が、なつかしく、近しく感じられる。

あるいは、ピアノという、ぼくらの日常の比較的すぐそばにある楽器。遠く離れたヨーロッパで生まれた楽器でありながら、居間や音楽室、ふと立ち寄ったバーなど、いろいろな場所にごく自然なたたずまいで、置かれている。その"近さ"は「使い勝手の良さ」「応用のしやすさ」でもあるのかもしれない。一見まるでイメージの違う音でも、ピアノだとうまく馴染んでしまうことがある。たとえば窓辺の鳥の声、たとえばジャズ・バーの食器の音。あるいは、日本の伝統楽器…。

尺八と、ピアノ。音というものの捉え方がまるで異なるこの2種類の楽器が、こんなにもひとつになって、ぼくらを心地よくしてくれることがあるものなのか。ハイレゾの力もあるかもしれない。でも何より、音の作り手がどういうことを考えて音作りをしているか。そこに秘訣があるのだと思う。

自らostinatoレーベルを主宰、ジャンルにとらわれず心地良い音を作りつづけているコンポーザー / ピアニストのワキマル・ジュンイチが、尺八奏者のタナカ マサヤとの共演でつくりあげた『cloud, misty, sun』の抗いがたい自然なサウンドは、どうやって生まれたのか。音のむこうにある「人」に目を凝らし、耳をすませてみよう。

尺八とすらも語り合う、ピアノという楽器の力

音楽家の話に入る前に、まずは筆者の視点から少し。

ピアノって、つくづく奇妙な楽器だと思う。いまでもそう。子供の頃にピアノを習った経験もないし、音楽室にあるピアノとは縁遠い男子校育ちで、中途半端にかじった楽器がギターだった筆者は、調律したあと決まった音しか出せないピアノは「ゴージャスだけど不自由」だと思っていた。ディストーションやら何やら音程の調整もできるギターのほうが、人間味があると思っていた。やがてバッハとかリュリとか、ピアノ普及以前の古い音楽(いわゆる「古楽」)と出会い、昔の調律のほうが音がきれいに響くということを知ると、現代ピアノは妥協の産物で、工業化と資本主義ブランド商売の象徴だったのでは… とも思うようにもなった。

タナカ マサヤ(左)とワキマル・ジュンイチ(右)

けれど、それから音楽に絡む仕事をするようになって、ピアニストというのはとてつもなく演奏者人口が多いぶん、鳴らし方ひとつとっても一様ではない、ということがだんだんわかってきた。自分の浅い経験だけで想像していたのとはまるで違う、すごく個性的な演奏をするピアニストがごろごろいる世界なんだ、と知った。ああいう精巧に作られて無駄のない楽器から、信じられないくらい人間味あふれる音や響きを、つまり、音のことばを引き出してみせる弾き手たちが、たくさんいる。というより、そこまで緻密、精巧に作り込まれている楽器だからこそ、ピアノは弾く人の心のニュアンスを逐一、デリケートに、音へと凝縮させてゆくことができる。そういう楽器だからこそ、アプローチひとつで、まったく違う種類の楽器ともすごくうまく馴染んでしまう。たとえば、音の使い方についての発想がピアノとはまるで違う「和」の管楽器、尺八とも。

そういうことをはっきり教えてくれたのが、ワキマル・ジュンイチの弾くピアノであり、また、彼と周囲の音楽家たちがつくりだす音楽だった。

2つの楽器がつくりだす「場」

今回ご紹介する『cloud, misty, sun』というアルバムは、作曲家 / 編曲家でピアニストでもあり、さらに自らostinatoレーベルを主宰するワキマル・ジュンイチが、尺八奏者のタナカ マサヤと出会い、つくりあげた最新作だ。

レーベル ostinato  発売日 2015/03/25

※ 曲名をクリックすると試聴できます。

ピアノという、1オクターヴ12鍵の音階ありきの鍵盤楽器。尺八という、五線譜式の楽譜には落とし込みにくい音程感や音のイメージをもつ管楽器。なんとなく互いに相容れないような気もする組み合わせなのに、じっさいに聴いてみると、互いにまったく殺しあうことのない一体感に、驚かされる。それぞれの楽器の音が、うまく揺らぎあい、補いあって、自然とひとつの音空間ができあがってゆく。聴きつづけていると、そのふしぎな音の場に包み込まれるような感覚になってくる。あるいは、その音を聴いている側も、いつのまにか音の作り手たち2人と同じく、その音の場を共有している参加者 / 話し相手(いわば「聞き役」)であるような感覚になってくる。

ワキマル・ジュンイチ

アルバムの冒頭から、2つの楽器はごくふつうに共存してみせる。はじめに尺八だけが、しなやかにその音を響かせて、ぼくら聴き手のからだがその音に充分なじんだところで、ふいにピアノに場をゆずる。尺八の音が消えてしまわないあたり、少なくとも、聴き手の脳裏に残像があるくらいのところで。そこでピアノが鳴らすのは、素直な和音というのとは少し違う、それなりに攻めたコードだ。そして、その音が消えてしまわないくらいのところで再び尺八、それからまたピアノが——と、しばらく交互に続いてゆく。そして、だんだん音が重なりあって、いつのまにか一緒に奏であう。音を響かせあう場は、いつのまにかひとつになっている。ひとつの音楽を2人で作っている。

残響感も音の立ち上がりも全然違うはずなのに、この2種類の楽器の音が、ごく自然にバトンをわたしあう。ひとつの映画の場面が切り替わるときのように、ストーリーのなかで自然に共存しあっている別々の場面みたいに。場面がオーバーラップするように、やがて自然に手を携えあい、一緒の空間を共有しあうようになる。この曲のタイトルは「光琳」。互いにまったく違う素材感のパーツを隣同士に並べあい、ひとつのユニークな画面のなかに共存させてしまう画家、尾形光琳(1658〜1716)のことも思い浮かぶ。なるほど。

燕子花図 (尾形光琳 作)

逆に、ピアノのソロで始まって、その音空間に尺八がふわりと乗ってくる「月の庭」。このあたりまでくると、それぞれの世界がふつうに共存しあえることはもう、聴き手にとっても自然に受け入れられる自明の理になってくるのではないか。息の流れが音の一部として聴こえてくる尺八のサウンドが、鍵盤でつくられる1オクターヴ12半音の音階の並びと、無理なく隣りあい、共存してつくりだす音の世界。聴き手と対決することなく、かしこまって聴くことを強要しない、ここにおりますからどうぞ… と、そこに息づく音楽。

それは、もう少し動きのあるテンポでアクティヴに続く「Life」や「凱風快晴」(これもまた日本美術の傑作、葛飾北斎『富嶽三十六景』にある赤富士の絵の正しい呼称)、「風の旅人」などでも同じだ。タナカ マサヤの音は、尺八という、かなり存在感のある楽器の音(と言ってよいのではないか)であることをまったくやめていないのに、躍動感のある音の揺れ(いわゆる「ユリ」)が、整然と音の珠を並べてゆくワキマル・ジュンイチのピアノと、ごく自然に響きあう。

凱風快晴 (葛飾北斎 作)

どうして、こういうことが可能なのだろう? タナカ マサヤが、都山流尺八師範・田中黎山として尺八奏者の正統 / 王道を確かに歩みながら、ひとりの現代人としてごく自然にさまざまな音楽にふれあい、ジャンルを超えてさまざまな西欧音楽にも親しみ、「タナカ マサヤ」の名義ではそうしたジャンルレスの音楽活動に自らを投じてきた、ということは大きい。音楽はクラシックからクラブ・ミュージックまで何でも聴く、というタナカだが、「とくにワールド・ミュージックとカテゴライズされているものはよく探していました。ピーター・ガブリエルの創設したReal Worldレーベルは大好きです。 ECMレーベルもよく聴いていましたがここ数年はACTレーベルが多いかな?」と、筆者も思わず身を乗り出すようなことを言う。そして彼の協力のもと、このアルバムに収録されている作品の多くを作曲(※註)しているワキマル・ジュンイチが、ピアニストとして和楽器とのコラボレーションを数多く手がけ、アレンジャーとして豊富な経験を持っていることにも多くを負っている。そして何より、彼ら2人の音楽家が、音の「場」というものを強く意識した音楽活動をこれまでも続けてきたことが、何よりの秘訣であるように思われる。


クレジットは全9曲中、5曲がワキマル・ジュンイチ作曲、3曲はタナカ マサヤと連名、「風韻」はタナカ マサヤ作曲。

レーベル主宰者であり、作曲家であり、演奏家である

今回このアルバムを紹介するにあたり、ワキマル・ジュンイチという人がどういう音楽に触れ、どういう活動をしてきたかを、本人の言葉とともに振り返ってみたい。ワキマルが主宰するostinatoレーベルの音源は、過去の2作品もOTOTOYでダウンロードできるので、ぜひそちらもご参照を。

今でこそ和楽器とのコラボレーションが多いワキマルだが、いまより若い頃は、ピアノと和楽器とは合わないものだという考えがあったという。しかしある時期から、和楽器で広範なライヴ活動を行っているプレイヤーたちと接するようになり、ステージのサポートやアレンジを手がけることが増えてゆくにつれ、もとから興味を持っていた和の楽器への意識が高まっていった。HIDE×HIDEという、尺八と中棹三味線でボーダーレスなエッジの効いたステージを作ってきたユニットのアルバム制作に大きく関わり、彼らのロシアやスペインへの長期ライヴ・ツアーにもピアニストとして加わるようになってからは、「僕自身が自由に和音をつけていいという現場だったので」さまざまな現場経験も重ねながら、和楽器とピアノという「合わない」と思っていた組み合わせに大きな可能性を見出すようになっていった。

タナカ マサヤ(手前)とワキマル・ジュンイチ(奥)

「今はボイシング次第なのかなという考え方です」とワキマルは言う。どう、音を出しあうか。どう、それらをひとつに響きあわせるか。「尺八は、ノイズ的な音も含めて、西洋が切り落としてきたものがいい形で残っている楽器だと思います。吹く人によって、もちろん表現は違うと思いますが、非常に音色の幅が広くて豊かな楽器だと思います。他の楽器とやっても、いい意味で溶けあうと思います」そうワキマル氏が感じている尺八という楽器があるかたわら、氏のピアノもまた同じように、いろいろな楽器との共存、邂逅をくりかえしてきている。いま書いたユニットHIDE×HIDEのピアニストとしての活動のかたわら、2010年には和太鼓奏者の金子竜太郎(彼もまた、南米やアフリカでワークショップを持ったりする多角的な和楽器奏者である)とのユニットfeizで重ねてきたコラボレーションの成果を『Rebirth』というアルバムに結晶させた。そこでは尺八ともまた違った、生ピアノだけでなく打ち込みも駆使しながらの、パーカッション(=和太鼓)ならではの音との痛快な邂逅が体現されている。「僕が金子竜太郎さんと家が近かったので、たまに会って遊びながらできたコラボ作品です。ただし真剣に遊びました(笑)」とはワキマル本人の言。

レーベル ostinato  発売日 2014/07/07

01. coda 02. eclipse 03. reflex 04. flow 05. rebirth 06. fly 07. alive 08. moon

※ 曲名をクリックすると試聴できます。

「真剣に遊ぶ」。これも、ワキマルの音楽が生まれるところでの大切なキーワードかもしれない。即興演奏の達人でもある彼は、しかし、どのようにして自分の楽器と出会い、彼ならではの音楽を見出していったのだろう。

4歳の頃、弾いてみたいと自分から言い出してピアノを始めたものの、やがてサッカーの方が面白くなって中断。ただ映画のサントラは小学生の頃にも聴いていて、そこでよくB面に収録されていた「歌ぬき」のインストゥルメンタル楽曲になんとなく惹かれていたという。

中学生の頃、DX7というシンセサイザーに出会う。「『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主題歌、TMネットワークの『Beyond The Time』という曲がきっかけでシンセに興味を持ちました。たぶん鍵盤の形をしていたので興味を持ったと思うんですが、ピアノとはまったく違う楽器ですよね(笑)」。たまたま担任の先生が音大出身者だったこともあって、Y.M.Oやエマーソン, レイク&パーマー、パット・メセニー・グループ、キース・ジャレット… 電子音、実験音楽、ジャズ、世の中にはもっと多様な音楽があることを見出していったワキマル氏はやがて、音大の作曲コースに進み、その過程でドビュッシーやデュティユーなど、20世紀の西欧クラシック音楽とも出会う。あるいはライヒやグラスといったミニマル系の現代作曲家と、あるいはアルヴォ・ペルトのような、音響美の世界を離れなかった異才と。そういうクラシックの天才たちとの出会いを経て、「大学院で作曲家の湯浅譲二さんの授業を受けてから、急にそっちに行きました」。クラシック現代音楽の世界にあって「音楽とは、音響エネルギー体の空間的、時間的推移」と語り、多元的な音楽をつくってきた作曲家だ。「もっとも、いわゆる現代音楽で僕にやれることはないと思ったのもこの頃です。でも音楽に対する考え方など、やはり湯浅譲二さんに影響されたところはありますね」。


湯浅譲二 / クロノプラスティク I-III

アンビエント・ミュージック / ノン・ミュージシャン

とはいえ、20世紀末の音楽シーンを広く見わたしてみて、特にワキマルの音楽的感性と遠くないものを感じるのは、そうしたいわゆるクラシックの作曲家たちよりもむしろ、周囲の身近な世界(=アンビエンス)のなかにある音素材をも音楽の一部として取り込んでしまう、アンビエント・ミュージックやノイズ・ミュージックと言われるジャンルで活躍してきた人たちかもしれない。とりわけ、ブライアン・イーノの存在が思い浮かぶ。U2やコールドプレイ、ジェネシス、デイヴィッド・ボウイ… と幅広いミュージシャンたちに楽曲を提供してきたイーノは、空港で聞こえてくる音をテーマにした『Music for Airports』(1978)をはじめ、アンビエント・ミュージックが注目を集めてゆく過程でその手法をあざやかにかたちにしてみせた大立者でもある。「ブライアン・イーノはいつから聴いているかよく覚えていないですね。ただ、名前だけは中学・高校のときには知っていたと思います。ノン・ミュージシャンというスタンスは、かなり影響を受けました」。


Brian Eno / Music for Airports

和楽器とごく自然に触れあえるピアノの音を作れるのは、ワキマルがピアニストとして自分を位置づけるのではなく、もう少し引いた目線でこの楽器と触れあい、独自のピアニズムにたどりついているところに大きな意味があるのかもしれない。まさにイーノの言うノン・ミュージシャンの立ち位置だ。自分以外の演奏家のために楽曲を提供することもあるけれど、そういう時のほうが「自分がいないので、安心して(曲を)書ける」部分もあるのだそう。

自身でostinatoレーベルを立ち上げたのも、あるとき自作品のコンサートをする機会があって「どうせならアルバムを作ろう」と考えたのがきっかけだったという。最初のアルバムは『Piano Music and Chamber Music』。「ポスト・クラシカルのサウンドに近い」と本人が言うとおりの音だ。ピアノ・ソロのほかヴァイオリン、チェロ、フルートなどクラシックの楽器が使われているといえばそうだけれど、その音はあくまで空間になじみやすいワキマル・ジュンイチならではの音になっている。ぼくら聴き手の日常感覚からそう遠ざからない、それでいて、その日常空間がいつのまにかキラキラと輝き出すような、そういう音楽。

このページを読んで初めてワキマル・ワールドの存在を知った方がおられたなら、タナカ マサヤの尺八との共演盤である最新作『cloud, misty, sun』を先に、そのあとにこのostinato第1作を聴いてみることをおすすめしてみたい。尺八の音に、ワキマルがどうコミットしているかを肌で体感してから、あらためてこの第1作でのクラシック楽器の音色を聴いてみると、決して知らない音ではなかったはずのフルートやヴァイオリンの調べが、何か少し違ったもののように感じられるはず。尺八と同じく、演奏中のノイズ成分、人間の耳が音としてはキャッチしていないような部分まで含め、楽器の音というのはこんなにもいろんな成分で成り立っていたんだ、と気づかされる。そしてそうした楽器が、ピアノとのあいだに、どんな距離感で「間」をとって、互いに音を組み立てあっていたのかにも。

すぐとなりに息づく、遠い昔と、いまの音

曲のタイトルにも、楽器の音色や楽想などの音素材を、必要以上に飾り立てず、それ自体の良さを引き出すようにして音楽にしてゆくワキマルのスタンスが垣間見える。「Life」、「風の旅人」、「永遠」。「シンプルで幅のある言葉を選ぼうと思います。考えるというよりは、大体なんとなく出てくる感じですね」。彼はそうさらっと言ってのけるけれど、キャッチ・コピーのようなものを唸りながらひねり出している筆者はなんとなく、それも即興演奏のセンスの一環にちがいない、と思っている。

「光琳」と同じく、やはり日本美術の傑作から受けた印象をもとに(こちらはタナカ マサヤとの共作によって)生み出された「松林図屏風」は、同様に10分級の充実作である表題作「cloud, misty, sun」と並ぶアルバム中の白眉ともいうべき楽曲。これらもまた、西欧系のクラシック楽器などにはない、ノイズ要素までも表現の一部に取り込んでいる尺八ならではの音で始められている。

松林図屏風 (長谷川等伯 作)

「光琳」が、琳派の屏風絵に通じる「違うものどうしの屹立と共存」をさりげなく音で描き出していたのに対し、「cloud, misty, sun」も「松林図屏風」も、ピアノが入ってくるところの音はずっと素直だ。高いほうから、ふたつずつの音の珠を、ぽつり、ぽつり――。そこに、いつのまにか不協和音の要素が混ざっているのにも、なんら不自然は感じられない。ぼくらの耳はもう、尺八とピアノとでつくりだされるアンビエントな「音の場」に、すっかり馴染んでいるに違いない。そうした空気の揺れ、そこに託された情の動きのようなものを、送り手が体感しているのと同じ密度で伝えてくれる高音質で収録されていることも、肌で実感できる。尺八奏者のタナカが、ことさらハイレゾに深く入れ込んでいる、というのも頷ける。

墨で描かれた、松の幹と幹、枝ぶりのあいだに漂う空気。葉ずえを渡る尺八の音、ピアノの響き。空は曇っているだろうか、霧が漂っているのだろうか。けれど、そのむこうには必ず陽の光がある――。だから、ぼくらには目の前の世界のかたちが見えて、音のありかを感じたり、想像したりすることができる。

ワキマル・ジュンイチとタナカ マサヤの2人がつくりだす音に、聴き手であるぼくらひとりひとりは、何を感じるだろう。「今、ここ」に浮かびあがる高解像度の響きが、皆さんのすぐそばを、静かに彩ってくれますように。(text by 白沢達生)

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PROFILE

タナカ マサヤ (尺八)
祖父、初代田中黎山より尺八の手ほどきをうける。第10回大阪国際音楽コンクール民俗楽器部門第1位第7回ノーヴィ国際音楽コンクール邦楽部門最高位、第35回和歌山県新人演奏家コンクール奨励賞など数々の賞を受賞。レコーディング等多数参加、ジャンル問わず多岐にわたり活動を展開中。2010年AUN-Jクラシックオーケストラと共に世界遺産モン・サン・ミシェルにて日本人初演奏を行う。近畿大学卒業。第50期NHK邦楽技能者育成会卒業。都山流尺八師範。
>>Masaya Tanaka (ostinato)

ワキマル・ジュンイチ (ピアノ)
日本大学芸術学部音楽学科作曲コースを経て、日本大学大学院芸術学研究科(音楽芸術専攻作曲コース)を修了。卒業時、日本大学芸術学部学部長賞受賞。大学院修了後、楽曲提供やライヴでのサポートをメインに活動を始める。2011年にアルバム「Piano music & Chamber music」を発表。ピアノ・ソロやフルート、ヴァイオリン、チェロとの四重奏などを収録。2012年、元鼓童の和太鼓奏者である金子竜太郎と"feiz(フェイズ)"名義でアルバム『Rebirth』発表。2011年より邦楽ユニットHIDE+HIDE [尾上秀樹(中棹三味線)、石垣秀基(尺八)]のアルバムやコンサートにピアノ演奏やアレンジ、作曲、プログラミングなどで参加している。2012年3月〜4月にかけて、HIDE+HIDEのロシア・ツアーにピアノ参加。モスクワやサンクトペテルブルクを含む全6カ所で演奏。公演では自作ピアノ・ソロも演奏、好評を博す。その後もマドリッド(スペイン)やカリーニングラード(ロシア)での彼らの演奏に参加している。2011年のアルバム発表以降、ピアノ演奏に加え、室内楽作品の作曲が活動の中心となっている。
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by 梶原 綾乃
JariBu Afrobeat Arkestra『AfroSoundSystem』text by 渡辺裕也
[FREEDL]・2009年07月31日・ フェラ・クティの魂はここにもある フェラ・クティが自身の作り上げた音楽を「アフロビート」と名付けてから40年以上、そのフェラが亡くなって10年以上の月日が経った今でもなお、アフロビートは世界中で支持され、受け継がれてきている。 先日のフジ・ロック・フェスティバルでは、フェラの実子シェウン・クティが父のバンドであるエジプト80を率いて来日公演を果たした。そしてフェラと並ぶアフロビートの第一人者トニー・アレンも今年新作を発表したばかりだ。彼らのようなフェラと直接的な関係で結ばれた者がアフロビートを現在まで引率しているのは確かな一方で、この音楽に魅了される若い世代のミュージシャンは、欧米そして日本でも後を絶たない。アフロビートのルーツを辿ると、どうしてもポリティカルな側面を避ける事は出来ないし、そこには苦い歴史も少なからずあるのだが、それ以上にこの音楽には他にはない享楽性、自由度の高さがある。フェラの意志はそのサウンドに宿る事で未だ求心力を保っているのだ。ジャリブ・アフロビート・アーケストラが演奏するのも、その名に冠している通りアフロビートだが、彼らはこのハイブリット・ミュージックを方法論として用いるのではなく
by 渡辺 裕也