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2019/09/19 18:30

 

9月公開アニメ映画『ロング・ウェイ・ノース』を見てくれ

 

2019年、日本のアニメ映画業界はとんでもなく充実している。海外からの話題作も続々と日本で公開され、正直なところ、とても全てはチェックできていない。

そんな中、9月6日に、とあるフランスのアニメ映画が東京都写真美術館で公開された。
2016年制作『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』だ。

主線を廃したフラットな色面によるアニメーション、無駄を極力削ぎ落としたキャラクター造形が印象的で、公開したらぜひ鑑賞しようと思っていたのだが、いざ観てみると想像を遥かに超えた感動に出会うことになった。
これから一生観続ける作品になるだろうという感覚すらあった。

ごく一部の施設のみの上映となっているのがあまりにも惜しいので、私的に推したいポイントをプレゼンさせていただきたい。
長くなってしまったので太字のところだけ読めばざっくりわかるようにしてみた。
これを参考にして劇場へ足を運んでくれたら幸いに思う。

『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』日本語字幕予告編


https://www.youtube.com/watch?v=t6TjF7Q6zKo&feature=youtu.be

あらすじはこのようになっている。

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<あらすじ>
舞台は19世紀ロシア、サンクトペテルブルグ。
14才の貴族の子女サーシャには悩みがあった。1年前に北極航路の探検に出たきり帰ってこない大好きな祖父オルキン。探索船は出たものの未だ行方が分からない。祖父と家族の名誉は失われ、祖父の名を冠する予定だった科学アカデミーの図書館も開館が危ぶまれている。ロシア高官の父は、そんな状況にあって、なんとかローマ大使の道を模索するが、そのためには社交界デビューの娘が皇帝の甥っ子に気に入られるしかないと考えている。
社交界デビューの日、サーシャは祖父の部屋から航路のメモを見つけ、それが捜索船がたどったものとは異なる事に気付く。再び捜索船を出して欲しいとサーシャは舞踏会の場で王子に懇願するが受け入れられない。王子の不興を買い、父からの叱責を受けた娘は、自ら祖父の居場所を突き止めようと決意する。
― サーシャが目指すものは、祖父との再会、それが叶わなくとも遭難した艦船ダバイ号の発見、そして何よりも真実を突き止める為の旅だった。
なんとか港までたどり着き、北方行きの商船ノルゲ号に乗せて貰おうと船長の弟に話しを持ち掛けるが、手違いもあり港に取り残される。食堂の女主人オルガの手助けにて、住み込みで調理や給仕といった未経験の仕事をしつつ船の戻りを待つ。その頑張りが認められようやく船に乗り込んだ後に待ち受ける多くの試練。船乗りの経験も無く、しかも女性であるサーシャには、想像を絶する困難が待ち受けていた。
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美しい色彩、そして線画のないフラットな色面で構成されたアニメーション、キャラクター造形のディテールは大胆に省略された一方で、演出やキャラクターの動きには細部に至るまで拘ったつくりになっている。
その拘りによって、王道なアドベンチャーとして完成されたストーリーに観客は引き込まれて行く。

少し曇った朝方の淡い光が当たって光る山肌、夕方、黄色く染まった空に浮かぶ雲は逆光で青みがかった影に見える。刻一刻と変わる空模様の表現だけでも感動ものなのだが、蒸気機関を備えた19世紀の砕氷船や、そこで働く船員の動き、船の軋む音、全ての描写にリアリティがある。
リアルな表現を追求するため、実際にアニメーターが帆船に乗り込み、船員として働きながら船の構造を完璧にリサーチを行うなど、妥協のない姿勢で作り込まれた描写は、物語に現実を引き寄せる。
ルモンド紙が「ジュール・ヴェルヌの冒険譚を読む時の至福の時間のようであった」とするように、徹底的に詳細を描写し、冒険をリアルに近づける点は、確かにジュール・ヴェルヌの小説と共通する面白さだと思う。

また、人々に牙を剝く極限環境の厳しさ、リアルに描かれる困難で苦しい道程は、優しげで温かみのある絵柄による先入観を容易く打ち砕いてくる。

個人的にお気に入りのシーンがあるのでひとつ紹介したい。
主人公サーシャが北極探索のために乗り込むノルゲ号の艦長ルンドが、バウスプリット(船首から伸びている棒)に張られたロープを足場にして、船首が流氷を押し分ける様子を観察する場面。作中で特に説明されることはないが、これだけでルンドが叩き上げの玄人だと伝わってくる。

上記のシーンでも言えることだが、セリフに頼らずに状況を説明して見せる演出の良さも魅力の一つだと思う。
本編の冒頭で、祖父のことで気落ちしたまま舞踏会に出席することになったサーシャが、祖父との写真に写った自分が身につけた耳飾りにふと気がつくシーン。彼女は一言も言葉を発しないが、キャラクターの表情、動き、レイアウトや演出によって、何を考えているのかを表現している。

先ほど艦長のルンドについて少し触れたが、登場キャラクターがとても魅力的なところもぜひ注目して欲しい。
主人公のサーシャは貴族の娘ゆえか世間知らずで、少しだけ傲慢なところもあるが、傲慢さの裏には芯の強さを持っていて、苦労や苦痛に臆することなくひたむきに頑張る面を併せ持っている。また、ノルゲ号の面々を北極の危険な海域を探索するように説得するシーンでは、感情的に訴えるばかりでなく、明確なエビデンスを示すことで、彼女が予測した祖父の辿ったであろう航路の正しさを証明するなど、理知的な面も見せる。
艦長であるルンドの弟で一等航海士のラルソンは、質実剛健な兄と比べると少々チャラついた性格で、特に物語の前半ではダメなところが目立つ。サーシャに声をかけたときに身分を艦長と偽ったり、乗船料として預かったサーシャの大事な耳飾りを、彼女を船に乗せることができなかったにも関わらずギャンブルで擦ってしまうなど、不義理な部分が描かれている。しかし、サーシャが行方不明となった探検家の孫であることを明かしたとき、言葉こそ発しないがショックを受けた表情をする。自分の仕出かしたことの重大さを悟り、後ろめたくなるのを、またもやセリフやモノローグによる説明に頼らずに観客は理解できるだろう。ダメながらも善良性が垣間見える前半に対し、後半の彼は大きく成長する。
他にも酒場の女主人オルガや船員の少年カッチ、ハスキー犬のシャックルなど、ここでは紹介しきれないが、魅力的なキャラクターがたくさんいるのでぜひ映画をみよう。

そして色面で表現されるアニメーションは本作の最大の魅力であるのは、やはり間違いない。
全てのカットが、計算され尽くした配色と構図で息を飲む美しさだ。あのカットがよかったなんてものではなく、本編全てが研ぎ澄まされたレイアウトで、目を離すことを許さない。単に美しいだけではなく、意識的に演出された構図は物語の情緒を引き出す。
最高の配色で表現される光と陰影。
どれだけ説明しても、こればかりは見ないと分からない素晴らしさなのでぜひ劇場で堪能してほしい。…東京では今のところ東京都写真美術館でしか上映されていないのですが。

長々と書き連ねてしまったが、これでもすべてを紹介できたとは思えないし、見てこそわかるストーリーの面白さ、アニメーションの素晴らしさがたくさんあるので、大画面で見る機会を逃さないことをおすすめする。 (内)

【映画情報】
タイトル: ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん
英語タイトル: Long Way North
原題: TOUT EN HAUT DU MONDE(世界の頂点)
監督: レミ・シャイエ
脚本: クレール・パオレッティ/パトリシア・バレイクス
作画監督: リアン - チョー・ハン
音楽: ジョナサン・モラリ
配給: リスキット / 太秦
特別協力: 東京アニメアワードフェスティバル
協力: キャトルステラ/スタジオJumo/Stylab
(2015年/フランス・デンマーク/81分/シネマスコープ)
問い合わせ: リスキット info@riskit.jp / 太秦
Twitter: https://twitter.com/longway_north
Facebook: @longwaynorth01
Instagram: @longway_north

HP : https://longwaynorth.net

<上映中>
東京都写真美術館

その他上映予定の劇場は公式HPにて

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