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2019/08/18 11:00

 

「ゆるやかにトランスフォームした男」ハワード・ジョーンズ8/3(土)ライヴレポ

 

2019年8月2日(金)3日(土)ビルボードライブ東京にて、ハワード・ジョーンズが今年5月にリリースした最新作「トランスフォーム」を提げて来日公演を行なった。

『トランスフォーム』は、トレードマークであるシンセアレンジにメロディアスなポップソングが満載の80年代のフレーバーを感じさせる原点回帰のアルバムとして、さらに未だ現役のシンガソングライターであることの声明を高々と打ち立てた意欲作だ。さらに今年はあの彼の最大ヒット作であるアルバム『かくれんぼ』の発売から35年の月日が経ったミレニアムイヤーとだけあってファンにとっても今回の来日は特別なもの。

当時は最先端のシンセサイザーを駆使したポップなサウンドでUKニューウェーブシーンを圧巻、チャートを賑わし華々しく音楽ファンの前にその存在感を主張していた彼が2019年、この日本でどんなパフォーマンスを行うのだろう…。もしセピア色に染まった、懐かしい音が震えるだけの、しんみりとしてしまうようなリサイタルであったら…などと楽しみ半分複雑な思いを巡らせていたが、1曲目の「Hide and Seek」でシンセサイザーを1弾き語りながら、ラフにかつ厳かにライブが始まった途端にそんな不安は吹き飛んだ。

そこには、確かに誰もが待ち望んだあの頃のハワード・ジョーンズがいて、けれどもお客さんの割れんばかりの拍手を浴びながら何か最強の武器を手に入れた、と誇らしげに、気ままにシンセサイザーを操る1人のトランスフォームした男がいたのだ。

シリアスな楽曲の雰囲気にしんみりと会場が静まりかえると同時に、サポートメンバーである、ロビー・ブロンニマン(Key)とロビン・ボールト (Gt)が登場。堰を切ったような低音のビートが体を揺さぶる「Equality」が披露されると会場の空気が一変。ショルキーをぶら下げ、ステージを縦横無尽に、白いキャンバスをカラフルなペンキで塗りたくるようにとにかく動く動く。御歳64歳にして一体どこからそのパワーが出てくるのだろう。力いっぱいのパフォーマンスを目の当たりにして、なんてカッコいい64歳なんだろう、と素直に感動してしまった。

続いての、自身をネガティヴ男と皮肉りながらもアップビートでそんな自分を笑い飛ばしてしまえ、と言っている楽曲「Beating Mr.Neg」。タイトルとは裏腹にポジティヴな歌詞と陽気なバイブスに満ちた楽曲は、聴くもののパーソナルな部分に訴えかけてきて、彼にしか作ることのできないポップ性をはらんでいる応援歌とでも言おうか。さらにスクリーンに映る映像には、ポジとネガの間で揺れ動く自身の葛藤をメイクを施したピエロの姿が投影される。楽曲と映像とのシンクロニシティが『トランスフォーム』の世界観をより一層引き立たせ、ライブに花を添える粋な演出にスクリーンに釘付けになってしまうファンも多かったと思う。

そしてエレクトロニカ界の天才とも称されるプロデューサー、ブライアン・トランソーとの共作「Hero In Your Eyes」は、クラフトワークを彷彿とさせる懐かしさ満載のヴィンテージサウンドが心地いい80年代フレーバーに現代のダンスミュージックが融合したアルバムのリード曲であり、そのアグレッシブな姿勢に新境地を感じたファンも多いだろう。
さらに後半も怒涛のサービス精神溢れるキラーチューンが続く。「No One is to Blame」「What is Love」「New song」と大ヒット曲が立て続けに繰り出され会場の盛り上がりが最高潮になっていくのがわかった。「もっと、もっと!」とすでに総立ちの客席をぐいぐいと煽り、客席からは割れんばかりの手拍子と歌声が響き渡る。気持ちいいほどの一体感、今日1番の心地いいグルーヴがビルボードの会場を埋め尽くしている。やはり、何十年前の懐メロではなく、2019年、今日この日の為に用意してきた新曲たち、という感じなのだ。衰えを感じさせない響き渡る伸びやかな美声と、キャッチーかつポップな瑞々しい楽曲たちがこの日私たちに魔法をかけていた。今この瞬間を楽しまなくてどうするのだ、と。おおよそ1時間半の間、衰えるどころか、そのポテンシャルをどこに隠しているのだろうと思うくらいの渾身のパフォーマンスでファンを魅了し続け誰もに幸福なひと時を与えてくれた。

ハワードジョーンズは新作『トランスフォーム』で「F1レーサーになり 太陽系外惑星を見つけ 時間旅行が出来るようになっても 結局僕は いつもの僕」と歌う。なるほどと思った。どんなに自分を取り巻く環境が変わろうが、立場が変わろうが、新しい情報が次々にタイムラインを埋め尽くそうが、結局は自分で考えて変化しながら、選んでゆくしかないのだ。本当に大事な答えは、必要だと思えるものは、自分にしか見つけられない。それぞれに宝物があって、目的地がある。新作であえて、一度は封印した原点回帰の音を鳴らし、アナログシンセを取り入れたのは彼が彼にしか鳴らせない音楽をようやく長い旅路で探し出して見つけた答えなのだと思う。だからこそ新しさの中に懐かしさも内包された唯一無二のサウンドが、今日も誰かにとって特別な音楽として魔法のように聴こえるのだろう。

自分の中の変化を恐れずに受けいれていこうという、超ポジティブなメッセージを発信している色褪ないハワードジョーンズの音楽に、私はこの日背中を優しく押してもらえた気がする。

text by 三好香奈
photo:Yuma Sakata

Howard Jones: Live in Japan 2019
2019年8月3日(土)ビルボードライブ東京
セットリスト
1.Hide and Seek
2.Equality
3.Beating Mr. Neg
4.Everlasting Love
5.Hero In Your Eyes
6.The Human Touch
7.No One Is To Blame
8.Like To Get To Know You Well
9.The One To Love You
10.What is Love?
11.New Song
12.Things Can Only Get Better


[ニュース] Howard Jones

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