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2018/11/28 17:38

 

【ライヴ・レポート】ヒップホップ・クルーのBAD HOP初の日本武道館公演、歴史的な一夜に

 

川崎に育つ幼馴染み8名で構成されるヒップホップ・クルーのBAD HOP。 高校生ラップ選手権で二度の王冠を手にしたT-PABLOWと、 同じく、 同大会で王者に輝いたYZERRの二人を中心に結成されたクルーだ。

彼らはすでに、 2016年暮れに地元である川崎CITTAで観客を全て無料で入場させたフリー・ライヴを敢行し、 2018年4月にはZepp Tokyoでの単独ワンマン公演を成功に収めている。 T-PABLOW とYZERRは若干23歳。 しかも今回の武道館公演はブッキングなども全て自分たちが行い、 興業に関わる費用も自腹で調達したと明らかにしている。 かつ、 彼らはまだ正式なアルバム作品は1枚しかリリースしておらず、 世間的には新人グループとして扱われるキャリア。 にも関わらず、 先行発売分のチケットは7000枚分が全て完売。 何もかもが異例の武道館公演が、 いよいよ幕を開けた。

 客席が暗転し、 スクリーンには彼らの地元である川崎の風景が映し出される。 重厚な雰囲気すら漂わせるショート・ムーヴィー仕立てになっており、 そこにはBAD HOPの面々がいかなる道程を経て公演当日を迎えたかが描き出されていた。 映像内では各メンバーそれぞれにフォーカスされ、 「ここ(武道館)でコケるヤツはスターになれない」というT-Pablowのセリフのあとに、 ”Prologue”が流れてライヴ本編がスタートした。 ライトに照らされて、 堂々とステージに立つBAD HOPの面々を見ていると、 こちらまで誇らしい気分になってくる。 いよいよ歴史的なステージの始まりだ。

前半は、 T-Pablowのソロ楽曲「Feel Like Goku」を挟みながら、 「No New Friend」、 「YAGI」と新曲を中心にパフォーム。 付け加えておくと、 武道館ライヴへの来場者には全員へ彼らの新作ミックス・テープ『BAD HOP ALL DAY Vol.2』がプレゼントされるという太っ腹ぶりだ。 「2018年のヒップホップの話題、 全て奪ってやったぜ!」とシャウトし、 続いてVingoとBenjazzyによる「2018」へ。

ここからは、 主に2017年に発表されたデビュー・アルバム『MOBB LIFE』、 そして2018年6月に発表されたEP『BAD HOP HOUSE』からの人気楽曲が続くパートとなった。 DJ CHARI & DJ TASUKI名義でリリースされ、 Tiji Jojo、 VingoそしてBenjazzyが参加した「Hii Space」を披露する場面では、 この日、 BAD HOPのバックDJを務めたDJ CHARIも舞台へ登場し「絶対に今日は歴史に残る日。 みんなも最高に楽しんでください」と勢い良くシャウトをかます場面も。

感心したのは、 取りわけ構成のうまさや舞台の見せ方だ。 先述したメンバーのほか、 BarkやG-k.i.d、 Yellow Patoらが各々入れ替わり立ち替り登場し、 途中にMCを挟まずともオーディエンスを飽きさせることなく緩急つけたセットリストでBAD HOPの世界観で武道館を包んでいく。 そして、 舞台にはメインのステージに花道を足し、 アリーナ中央にもう一つ、 踊り場的なステージも組み立てていた。 8名のメンバーは文字どおり縦横無尽に武道館の舞台を動き回り、 自分らの高まるヴァイブスをオーディエンスにぶつけていたのだった。 曲ごとに代わる映像と照明も迫力満点で、 それぞれの楽曲をイメージ通りに、 ステージをよりアクロバティックに演出していた。

 ショウの中盤、 唯一と言っていいギャル・チューン「Asian Doll」ではひときわ黄色い声援が上がり、 その後には「Super Car」、 「3LDK」とミッド・テンポの代表曲が続き、 オーディエンスも息を合わせたように一緒に合唱している様子がとても印象的だった。 YZERR、 Vingo、 G-k.i.dによる「つるまない」が終わった後、 YZERRが「(周りからは武道館公演を)止めておいたほうがいいよって言われた。 でも、 自分たちの足で武道館まで来た。 つまり、 口だけじゃねえってことだよ」というMCの後、 真っ赤なライトがフロアを覆い、 Benjazzyと二人で「口だけ」をパフォーム。 「俺らもお前が嫌い/地元じゃ支持されない/全国上がる知名度/お前らの器小せえよ」と、 フックを歌う両名の姿には鬼気迫るオーラを感じた。 その後も、 オーディエンスとの一体感が生まれた「Ocean View」、 そしてTiji Jojoの見せ場である「White T-Shirt」(この時、 ステージの照明も白一色に!)と続き、 MVもスクリーンに映し出された「これ以外」、 「Chain Gang」と続き、 本編が終了した。

 そして、 客席からのアンコールの声で再びステージ上に揃ったBAD HOPの面々。 横一列に並んで「Life Style」、 「Mobb Life」とパフォームし、 アンコールに及んでもまだ尚、 会場のボルテージをどんどん上げていく。 YZERR とVingoによる「Diamond」をパフォームした際には、 「夢に見たシチュエーション/俺たち照らす iPhone/昔じゃ有り得ないよ」のリリック通り、 武道館の客席中がスマートフォンのライトで照らされ、 思わずYZERRが言葉に詰まる場面もあった。

 終盤、 何より観客の心を打ったのはT-PablowのMCだ。 本武道館公演の実施は、 2018年8月18日に行われたヒップホップ・ライヴ・イベントの「SUMMER BOMB」内で発表されたという経緯がある。 その時点で公演からすでに3か月を切っており、 誰もが武道館ライヴの実施は無謀だと感じていた。 T-Pablowはステージ上で「自分でも無理なんじゃないかなと思っていた。 自分たちで全部決断して、 自分たちからステージの構成も考える。 俺たちにケツ持ちなんていないし、 ミスったら自分たちが借金を負うだけ。 ここに来るまで、 本当に色んなものを失った」と打ち明け、 観客の声援を受けながら「俺は、 コイツら(BAD HOP)が日本で一番ラップがうまいヤツらだって本当に思っているから。 信じて一緒にやってきて、 今じゃ幼馴染と一緒に武道館だぜ。 23歳で幼馴染と武道館に立てるラッパー、 他にいるか?色んなことも言われたけど、 この景色を見たら全てがどうでもよくなった」と続けた。 そして「俺たちが武道館まで最速でこれた理由ってのは、 俺たちがまたがってるのが世界のKAWASAKIだからだよ」と締めくくり、 大トリのナンバー、 「KAWASAKI DRIFT」へ。

計2時間強のステージ。 何よりも、 若きBAD HOPのメンバーから放たれる凄まじいエネルギーを感じた。 これまでのライヴとは打って変わって、 客演やバックダンサーはおらず、 終始(DJ CHARIを除いて)メンバー8名のみで観客を魅了し続けた。 また、 客席から伝わるオーディエンスのパワーも強烈で、 改めて、 彼ら8人で作り出す音楽が若者の生きる糧になり、 多くのリスナーを勇気付けていることを実感した次第だ。 武道館のステージで「濁りのないヒップホップで、 もっとデカいステージに立ちたい。 俺たちは本気でこの国の音楽シーンを変えたいと思っている」と語ったBAD HOPの背中は、 現シーンのどんなミュージシャンのそれよりも広く見えた。 ヒップホップには、 物事を変える大きな力を有していること、 そしてBAD HOPがそれを最高の形で証明してくれたことに大きな希望を感じた、 まさに歴史的な一夜だった。 

TEXT by 渡辺志保:
音楽ライター。 広島市出身。 主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。 block.fm「INSIDE OUT」などではラジオMCとしても活動中。

PHOTO by cherry chill will.
1978年青森県八戸市出身。 写真家。
日本のHIP HOP/クラブミュージックシーンに多大な影響を与えたレコードショップ
「CISCO RECORDS」で98年から08年までスタッフ/バイヤーとして勤務後、 独学で写真をはじめ2009年より本格的に活動を開始。 HIP HOPの現場を中心に国内のアーティスト/DJから海外DJ/アーティストの来日ライブを撮影。 数々のビックイベントや国内外のアーティストによるジャパンツアーなど 現在も多くのミュージシャン、 アーティスト達を撮り続け、 CDジャケットやアーティストフォト、 スタジオセッション、 雑誌/広告など多数手掛ける。
2018年2月に日本のHIP HOPシーン初の写真集「RUFF,RUGGED&RAW -The Japanese Hip Hop Photographes-」をDU BOOKS社より出版。
多くのWebメディアやラジオ、 雑誌に取り上げられるなど、 HIP HOPシーンはもとよりストリートシーン全般から支持され注目度の高さを見せる。
近年ストリートファッション方面からの支持も受けアパレルブランドとのコラボレーションコレクションや
カタログ撮影を担当するなど 世界を舞台に多角的に活動の場を広げている。

(内)

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