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2018/03/19 21:15

 

“僕たちの姿をリアルタイムで体感してほしい”THE 夏の魔物、『映画の魔物』特別上映会&トークショーで想いのたけを語る―OTOTOYシネマレポ

 

2018年3月17日(土) THE 夏の魔物の特別上映会『映画の魔物』がシネマート新宿で行われ、満員の観客を前に映画上映とその後のトークショーで楽しませた。

このイベントは、ライヴ会場限定販売されているTHE 夏の魔物の映像記録集DVD『THE 夏の魔物 OFFICIAL BOOTLEG 記録の魔物 2017.09~2018.01』に多数の新規映像を追加した「特別編集版」をスクリーンにて劇場最大音量で上映するもので、上映後にはゲストに書籍『死にたい夜にかぎって』の著者・爪切男と『劇場版テレクラキャノンボール2013』などで知られる監督・カンパニー松尾が登壇して、フジジュン司会のもと、THE 夏の魔物のメンバーとトークを行うというもの。

映画上映
上映が始まると、成田大致、泉茉里、鏡るびい、大内雷電、アントーニオ本多も客席最前列に陣取り、魔物チルドレン(THE 夏の魔物のファンの総称)と一緒に鑑賞。映像は、2017年9月10日 川崎市東扇島東公園で行われた「夏の魔物2017 in KAWASAKI」のステージからスタート。大観衆を前にしたライヴを終えてバックステージに戻って来たメンバー1人1人に、成田が意思確認をしていく姿が映し出される。しかしそれはプロローグにすぎない。物語は麻宮みずほの脱退から始まる。2017年9月20日新宿JAMでの360°フロア・ライヴから新たに始まったTHE 夏の魔物の活動について、ライヴを通して、ライヴ後のバックステージでのコメントで、それぞれの思いが語られる。「生まれ変わったら神様は自分の事なんて虫にしかしてくれないと思って、だったら新宿JAMのゴキブリになりたかった。ゴキブリになる前にここでライヴができてよかった」と、らしい言葉で語るるびい。ぶっ倒れるくらいの激しいパフォーマンスを見せながら、階段に座り涙を流し悔しさを語る茉里。それぞれの心のうちは複雑だ。

楽屋での様子や、インタビュー等、メンバーの素顔がうかがい知れる映像もふんだんに盛り込まれ、シン・マモノBANDのメンバーたちがどのように考えて演奏に取り組んでいるのかわかるシーンも。そして、この時期だからこそ生まれたのであろう新曲「音楽の魔物」について語る成田。2018年に入り1月6日東高円寺UFO CLUBにて行われた『THE 夏の魔物結成1周年記念フリーライブ』で初披露されたことに続き、11日後の1月17日に渋谷WWWにて行われた全国ツアー「THE 夏の魔物 対バンツアー 全国の魔物」ファイナルでも披露された「音楽の魔物」が今作のキーワードとなっていた。80分に渡る上映が終了すると、満員の客席から一斉に拍手が沸き起こった。

トークコーナー
続いて、フジジュンのMCによるトークコーナーへ。まず、最前列で映画を観ていたTHE 夏の魔物のメンバーが自己紹介。そして、ゲストの爪切男とカンパニー松尾が呼びこまれると、成田がこのお2人をゲストに招いた理由を紹介。「爪さんのことは、本(『死にたい夜にかぎって』)を読んで、絶対友だちになりたいと思って。まず武藤敬司が好きっていうのと、本の中でフジファブリックとかも出てきたので、この人と仲良くなりたいなと(笑)」ただ、この日を迎える前に先日3月14日に後楽園ホールで行われた武藤敬司の“ラストムーンサルト”と銘打たれたWRESTLE-1の大会を観に行き、そこで偶然にも階段で「君の名は」のごとくすれ違う運命的な出会いをしたとのこと。爪は映画の感想を求められると、「ロックでもなんでもそうなんですけど、“前に進もう”って言うじゃないですか?でも僕は前に進む必要ってあんまりないと思っていて。その場で飛ぶ高さの方が大事だとおもうんです。そこで上の方まで頑張って飛んでたら風が前に吹いて進んだりとか、高く飛んでたら面白そうだからバカが見つけてくれるんですよね(笑)。“飛んでるからこの人面白そうだな”とか」と、独特の言い回しで表現した。成田と仲良くなりたいと思ったかどうかは、「仲良くなりたいって言われることがめったにないので」ということで、どうやら2人は友だちになれそうな予感。

一方のカンパニー松尾について成田は「数年前にフェスの映像作品を撮りたいって思って、松尾さんと一緒に過ごした時間があったんです。僕の青森の実家に来てもらったりもして。色々家族と話をしたり…まあ自分はそのとき離婚調停中だったんですけど(笑)」と、当時の成田家クライシスを告白。「そのときに久しぶりに実家に帰って松尾さんとゆっくり話したりしたことが、もっと音楽活動を本気でやりたいなっていうきっかけの1つになっていて。今日の映画もそうなんですけど、そのときがあったから、今のバンドがあるっていうか。大切なできごとだったので、今日は絶対松尾さんに来てもらいたかったんです」

松尾が成田と会うのは久しぶりということで、映画を観た感想を訊かれると「久しぶりに観たら、バンドになったんだね⁉ 」と、根本的な疑問を投げかけた。現在の印象については「だいぶしっかりしたなっていうのと、前は学園祭みたいな感じでガチャガチャしている部分しか印象に残ってなかったんだけど、今はTHE 夏の魔物というバンドの中でヴォーカリストとして見えるようになっていて。成田君、上手くなったなって普通に思いました」と評価した。ちなみに、かつて青森で密着して撮影した映像は「あの映像は基本的に使えないやつだもんね」と振ると、「そうですね(笑)」と成田も苦笑い。さらにマイクを通さずに「離婚したの?」と尋ねる松尾に「離婚しました」と返す成田に客席からドッと笑いが起こる。「あのとき、すごく良い映像を撮ってるんだよね。でもここで言えないよ、本当に。泣ける映像を撮ってるんだけど、そのとき成田君がその先に行きたかったところと、僕が撮っていたものがあまりにも違い過ぎたんだよね」と、当時撮影していたドキュメンタリー映像がお蔵入りした経緯を振り返った。

THE 夏の魔物のメンバーは、スクリーンで自分たちの姿を観た感想を訊かれると、成田は「こうやってスクリーンで上映されたことはすごく嬉しいです。いつも言ってるんですけど、ライヴも作品も携わっている人があってこそのTHE 夏の魔物なので。この半年を越えてみて、色んな人がいてくれたから作れた作品だと思ってます。自分はラモーンズの「エンド・オブ・ザ・センチュリー」とか、セックスピストルズの「NO FUTURE」とか、オアシスの「スーパーソニック」とか、ロックドキュメンタリー映画にずっと憧れていたんです。そういう映画はみんな色々あって歴史を振り返ってるんですけど、僕らまだ結成したばっかりなのに、こんなに濃い出来事が起きているっていう、第一章を切り取れたのは良かったなと思いましたね。これから第二章、第三章って作っていけるかなって、楽しみです」と、今後の展望も含めて振り返った。以下、各メンバーのコメント。

「私はこういうドキュメンタリー映画を観たこと自体があまりなくて。こうして映画館で自分たちを観て、“自分だけど自分じゃない”ような、不思議な感覚で観てたんですけど、ひとことで言うと“オレらカッコイイな”っていう感じです(笑)。中身の濃い月日を過ごしてきたんやなって。まだまだこのメンバーでもっと大きいところに行けるんじゃないかなって思いました」(茉里)

「映画が始まったら、“知らない人たち”として自分たちのことを観ていたんですけど、上映が終わって、本当は知っている人たちというか自分たちのことで。でも知らない人たちだと思って観たらすごくカッコ良くて。これからもっと頑張って、みなさんが“あのときシネマート新宿にTHE 夏の魔物の映画を観に行ったんだよ”って自慢できるくらいになりたいです」(るびい)

「今日はソールドアウトということで、ありがとうございます!魔物チルドレンのみなさんと一緒にこういう空間でこの作品を観れることが感慨深いです。メンバーの脱退を経て、この5人でTHE 夏の魔物としてやっていくという、わずか半年足らずのドキュメンタリーなんですけど、このタイミングでしっかりと形に残せたことがすごく嬉しいですし、こうやって映画館で観ることができてジーンときました」(大内)

「すごく、自分が出てくるのが恥ずかしくて。“なんで、この人だけ半裸なんだろう?”って(場内爆笑)。例えばTHE 夏の魔物を始めて観た人はずっと“???”が取れなかったんじゃないかと思います。そういったハードルを越えて自分はやっているのかなという気持ちがあります。革ジャンの人たちの中で半裸で出て行くというのは罰ゲームみたいなもんです(場内笑)。自分の姿を客観的に見るのは苦手なんですが、ちょっと勉強になりました。やはり、ライヴの前には腕と肩をやれば(パンプアップすれば)見映えがよいんだなと(場内笑)。シェルターのときは腕しかやってなかったので。“あ、腕と肩をやればいいのか”。という感じです。どうもありがとうございます」(アントン)

映像に収められたこの期間はTHE 夏の魔物についてどんな期間だったのだろうか? フジジュンに質問されると成田は、「この映画を観て思ったのは、新曲の「音楽の魔物」ができた過程というか。映像を観るとこの曲は必然的にできた曲だと思うし、この期間に起きたさまざまなことに対する気持ちを歌にすればいいじゃんっていうことをみんなと話していたんですけど、それが形になっているなって感じました」と語った。

ゲストの爪が、「普通だったら、女性2人のお腹に目に言ったりするはずなんですけど、すぐに凛々しさとかカッコよさが先に来て、それが気にならなくなるんですよ。成田さんが横にいて引っ張ってるのもわかるんですけど、この映像作品Tの主役は女性2人なのかなって」と印象を話すと、茉里は作中に出てくる自らの苦悩を語るシーンについて「まさかこんなスクリーンで流れるとは思ってないので(苦笑)。観ていて恥ずかしいんですけど、でもそのときそう思った感情をカメラが回っていることを関係なく話していたから、そのときの記録として撮ってもらえてよかったなって。あのときがあるから今があるので。こうしてみんなに観てもらうことであのときの自分が成仏できたと思います」と振り返った。

松尾が「バンドの活動記録としてはすごくまっすぐで正しいと思うけど、僕なんかが思うのは、もうちょっと泥臭い部分もあるだろうし、成田君はもともとそういうところから這い上がってきた人だから、そういう場面も本当は観たかったなって」と印象を語ると、成田がすかさず「それが、最近はないんですよ! 昔はよくあったんですけど、このメンバーだとないんですよ…俺が思ってるだけかもしれないですけど(笑)。スタジオに入ってもいつもサイコー!としか思わない」と強調する成田。「でもいつもそうじゃん⁉ 成田君が気付いてないだけで周りの人は大変なんだよ」と返し、場内は爆笑に包まれた。

メンバー個々の印象に残ってるシーンとしては、

「「音楽の魔物」が初公開されたU.F.O CLUBのときと渋谷WWWのときがわずか10日間しか空いてないのに、全然違う練り上げられたものになっているなってグっと来ました」(大内)

「ライヴが終わった後に、毎回写真を撮っているときに、みんなやりきった表情をしていて。あの表情にそれぞれその日のライヴの何かが全部出ているんですよね。それをまた別の角度から撮っているのが面白いなって。みんな良い表情をしているなって思いました」(茉里)

そして成田は、映画の印象と共に、THE 夏の魔物が現在に至るまでの流れを語り出した。
「一番前で観てまず、演奏ヤベエなっていう気持ちがありました。僕は昔SILLYTHINGというバンドをやっていたときにメンバーにグレート・ムタのDVDを貸して見せたときに「ムタ強いな」っていう感想を当時のメンバーに言われて。もうちょっと自分なりの感想が欲しかったんですけど、そこが共有できなくて。だから、俺がやりたい音楽の話をしたときにメンバーが全員いなくなったんです。それから大内さんと出会って、グレート・ムタの話をしたら止まらなくて。これは良いバンドができると思って、DPG(ダイチ・プロレス軍団)というグループを結成して。アントンさんが歌詞を書いてくれたSILLYTHINGの「SUNSET HEART ATTACK」が自分の表現したい音楽と近かったので、アントンさんと一緒に音楽をやりたいと思って声をかけて。

その後紆余曲折あって「夏の魔物」になってポニーキャニオンからデビューして、チャン(茉里)が加わったんです。そのときに、チャンのボーカル力だとやっと自分が形にしたいロックを実現できるんじゃないかと思って。この映像にも入ってる「バイバイトレイン」がきっかけなんですけど。それで、バンドサウンドに特化したものをやれる日がいつか来るのではという頭になり、その後鏡るびいが入ってよりそういうロック的要素が加速していって。今ならそういうものができるんじゃないかと思ってそのときのグループ「夏の魔物」を休止して、THE 夏の魔物を結成したんです。

このシネマートでも映画を上映したTHEピーズ、The Birthdayもそうですけど、“THE”を付ければ誰が見てもバンドだろう、と。それが2017年の1月くらいで。今日の映像を観ても、最初のライヴと最後のライヴでは全然違うし、西さんがよく言うんですけど、「積み上げていくことがバンドの良いところなんだよ」って。俺も積み上げたかったけど、色々あってできなかったものが、THE 夏の魔物で初めてみんなで1つのものを創り上げるっていうところまできたんですよ。あとは積み上げていくしかないじゃないですか? そこでこういうドキュメンタリー作品ができたっていうのは、本当に嬉しいですね」

と、アツく語った。それに対し松尾が「今日のこれは残しておいた方が良いですね。成田大致が本当にこれを積み上げていくのかって(笑)。撮っておいたら面白かったな」と一言。しかし成田は「松尾さんが期待してるようなことは起こらないです!」と、この先もしっかり積み上げていくことを断言した。

爪は、今後のTHE 夏の魔物に期待することとして、「僕はよく1人でプロレスを観に行って、帰りに水道橋の立ち飲み屋でジジイと立ち飲み屋で「馬場の時代は~」とか話すのが好きなんですけど、そのときにアル中みたいなジジイにめちゃくちゃ怒られて。「なんでお前は自分の時代のプロレスラーが最強だって言わねえんだ!?」って。それと無理やりくっつけると、今から積み上げていくTHE 夏の魔物っていうバンドを今見れているファンの方ってすごく幸せだと思うんですよ。だから胸を張って「THE 夏の魔物はすげえんだ!」ってみなさんが言えば…。さっき映画を観ていて思ったんですけど、いい意味で無責任に全肯定してくれる人たちだなと思ったんです(笑)。それはすごくありがたいことで。

プロレスを観に行って試合を見て興奮しても、クソみたいな毎日は変わっていないわけで。でもそれがすごく幸せで。その瞬間だけでも、俺もプロレスラーを肯定したし、プロレスラーも試合を観に来た俺の頑張りを肯定したしてくれてるみたいな、すごく安心感があるんですよ。THE 夏の魔物は、それを生み出してくれるようなバンドのような気がするんです。だから是非胸を張って欲しいです。THE 夏の魔物さんが肯定してくれた分、みなさんが私生活の中で誰かを肯定してあげると、すごく幸せなペンギン村(『Dr.スランプ』の)みたいな世界になると思います(笑)。あとは成田さんが離婚しているのは知らなかったので、初対面のときに言ってくれればもっと仲良くなれたのに(笑)」と語り、今後もTHE 夏の魔物及び成田との交流を続けていくであろうことを示唆した。

最後に成田から「これが第1期THE 夏の魔物の映像記録です。今、第2期の新しい曲作っていて、今ツアー中で名古屋、仙台って続くんですけど、ファイナルの下北沢CLUB Queはまた全然違う姿になっていると思います。そういう僕たちの姿をリアルタイムで体感してもらえたら嬉しいです」とメッセージ。ラストは記念撮影してイベントは終了となった。

ドキュメンタリー映画としては、わずか半年の間に起きたことを切り取った作品がこの『THE 夏の魔物 OFFICIAL BOOTLEG 記録の魔物 2017.09~2018.01』だ。しかし、トークでも成田が語っていたように、様々な出会いや別れ、紆余曲折があり、すべてがここに繋がっていたことがわかる作品でもある。成田大致の活動を振り返ると、一見すると1つ1つが繋がっていないように見えて、じつはその歴史は成田の頭の中にあるイメージを具現化するためのスクラップ&ビルドの繰り返しだった。そして今、これまで脆くも崩れ、臍を噛み、悔し涙を流しながら積み上げ直してきたものが、泉茉里、鏡るびい、大内雷電、アントーニオ本多、シン・マモノBANDという仲間を得たことで強度を増したからこそ、現在のTHE 夏の魔物があるのだろう。これからまた、積み上げては崩れてしまうものもあるかもしれない。されども、それが人生だ。時代が変わろうと、音楽を通して生きざまを見せてくれるのがロックだ。どんな愚直な姿も、ステージの上では輝いて見える。彼らがスクリーンの中で観せた、ときに鈍くときに華やかに光り続ける姿を、同じ時代に現実にライヴで、作品で感じることができること。これ以上の幸福はない。THE 夏の魔物というドキュメントは、まだまだ続く。その瞬間瞬間を、しっかりとその目に焼き付けてほしい。

取材・文:岡本貴之

THE 夏の魔物の特別上映会『映画の魔物』
2018年3月17日(土)シネマート新宿
出演:THE 夏の魔物 / 爪切男 / カンパニー松尾
司会:フジジュン


[ニュース] THE 夏の魔物

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