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2015/12/16 17:30

 

ノイズxハードコアxヒップホップx演劇&のこぎり? 闇鍋の如くごった煮〈自家発電Vol.6〉

 

まさに音楽の闇鍋状態や!! と彦摩呂でなくても叫びたくなるイベント〈自家発電〉。Vol.0を加えると7回目を迎えた今回は、イベントの二大巨頭と言える「非常階段」と「ザ・クレイジーSKB」がそれぞれコラボレートで出演。さらにヒップホップ界からレペゼン横浜と言えば彼ら「サイプレス上野とロベルト吉野」が登場! 加えて飛び入りアリ、サプライズ・ゲスト、アリ、さらに本物の闇鍋もアリだった怒涛の6時間をレポート!

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グッと寒くなった11月末の日曜日、流通会社BM.3と四谷アウトブレイクによる名物企画〈自家発電〉が開催された。「いい肉の日」での開催を記念し、力士&体重100kg以上の来場者は500円割引となったこの日。また、寒い季節といえば鍋、ということで、出演者がそれぞれ1品ずつ具材を持ち寄る「コラボ闇鍋」が予告されており、いつも以上にキケンな匂いを漂わせながらイベントはスタートした。

●オープニングアクト~DANGER ZONE~
まずは今回、自家発電、殺害塩化ビニール、四谷アウトブレイクによる共同オーディション企画『出せんの殺害!? 出れんの自家発電!?』の優勝者である、DANGER ZONEがオープニング・アクトとして舞台に。一次予選を勝ち抜いた13組の中から投票で選ばれた彼らは、香川在住のボーカルHEAVYを中心にしたメタル~パンク・バンド。逆立てた髪の毛やファッション、そして重たく突進するサウンドからは80’s~90’s初期のメタル~パンク(もちろんQP-CRAZYにも)へのリスペクトを感じさせる。開演までの客入れの時間でありながらオーディエンスの反応は上々で、本人たちもそれに呼応してテンションの高いステージを披露した。ちなみに闇鍋のために用意した具材はピーナッツみそ。こちらも波乱しかない幕開けとなった。

●MIKA☆RIKA
ハウス加賀谷による、罰当たりな場所からの開会宣言が行われたあと、トップバッターとして登場したのは双子ラップ・ユニット、MIKA☆RIKA。肖像権、著作権フリーな「フリー素材アイドル」でもある彼女たちは、双子ならではの息のあったコンビネーションと、ラブリーなラップで会場を一気に華やかなものとする。元OLだったというふたりの経歴を元に、餓鬼レンジャーのポチョムキンがリリックを書いた「FUNKY OL~仕事したくないよ~」は、シリアスで毒のあるストーリーと、ファンキー&ポップなサウンドとのギャップが楽しい。ラストに披露されたアーバン・メロウな「ホシノフルマチ」も冬にピッタリなセンチメンタルなサウンドで、〈自家発電〉らしからぬ優しい世界を創り上げてステージを下りた。「闇鍋」用には、これから長丁場のイベントを考慮したセレクトとして、かぼちゃとブロッコリーが投入された。かぼちゃは良いけどブロッコリーはすぐに煮えるよね!

●クウネル・ダ・サイクル
3バンド目は、四谷アウトブレイク店長・佐藤学氏がプッシュする5人組バンド「クウネル・ダ・サイクル」。ヒロ寿、テツロヲの2MCを擁するミクスチャー・ロックバンドで、ユーモアを交えつつどこまでも熱いステージには“一生青春”という言葉が想起されるほど。所狭しとステージを駆けまわり、オーディエンスを巻き込まんとする彼らのパフォーマンスは必死であり全力。翻ってそこには誠実さが感じられる。ボトムがしっかりとしたファンキーかつヘビィなサウンドも含め、きっちりとその魅力を見せたステージだったと言えるだろう。「闇鍋」のために用意した具材は、メンバーが自ら作ったというカルフォルニアロール。闇に一歩一歩近づいている予感が漂う。

●REMOCCHIII
「クウネル・ダ・サイクル」のエモいステージが終了後、DJブースからは女性のスクリームが響き始める。当初はオーディエンスも何事かと戸惑っていたが、イベントのレギュラーDJ・オッチーと、若きノイズ・アーティストREMOによるREMOCCHIII(レモッチー)のライヴが転換なしにスタートしていた。REMOとオッチーの共作によるノイズ・コラージュは、ニューウェイヴのみならず密林クラブ・ミュージック「ゴルジェ」の影響を感じさせるなど、フレキシブルで豊かな味わい。そこに、オーディエンスをかき分け、ときに床にのたうちまわりながらREMOがスクリーム・ノイズを加えていく。会場が一転して固唾を呑むような雰囲気となった15分。だが、ライヴが終了後のあたたかい声援と拍手が、きっちりとオーディエンスの心に何かしらの衝撃を残したことを示していた。

DJとしてのオッチーのセレクトにも触れておくと、この日はイベントのテーマに合わせヒップホップ系を中心に。ジャンルや時代を問わない音楽知識も然ることながら、イベントの意図を理解し、場の空気を演出する能力にまたしても唸らされた。

●ライムベリー
静寂を突き破るかのように勢いよくステージに現れたのはヒップホップ・アイドルライムベリー。挨拶代わりのラップから、明らかにビートを乗りこなしている感があり、その放つ言葉のアタックの強さはハーコーなサウンドに負けておらず、アイドル・ラップの枠を超えた充分なスキルがある。幾度かのメンバーチェンジを経て現在の体制に落ち着いた彼女たちだが、MIRIの聞き取りやすい高速ラップと、MISAKIのキュートなラップとの相性はよく、パフォーマンスとしてのレベルは非常に高い。和の要素を取り入れたトラック「韻果録」では、MIRIの倍速ラップが本領を発揮。1度目を終えると、テンポアップしたバージョンで再び披露してオーディエンスを驚かせる。するとDJ S.A.L.が、さらにテンポアップしたバージョンをスピン。もはや肩で息をしながらもラップは決して外さないMIRIとMISAKIに、観客からもフレーズごとに歓声が上がる。ラストの曲が終了すると、再登場を予告していたMIKA☆RIKAが舞台に立ち、彼女たちの曲「下っ端」と、ライムベリー「365」をコラボレートで。互いへのリスペクトを感じさせるもので、アイドル・ラップ界の多彩さと面白さを体験できる時間であった。ちなみにライムベリーが用意した具材は、みたらし団子とホワイトチョコ。心なしか、鍋には誰も近寄らなくなっていた。

●のこぎりキング下田
〈自家発電〉といえば主催者Gokaがブッキングを担当する伝統芸能枠も欠かせないが、今回は東洋館のプリンスと称されるのこぎり奏者、のこぎりキング下田を招聘。テルミンにも似たナイーヴな「揺らぎ」のあるミュージック・ソウを、のこぎり本体の“曲げ”と弓で巧みコントロールし、メロディを響かせていく手腕はさすがキング。普段のステージとは勝手も客層も異なるアウェーな状況であったはずだが、拍手が終わるのを待たずにしゃべりはじめる淡々としたMCにも余裕が感じられる。「アメイジング・グレース」やブラームスの楽曲といったスタンダードのほか、ミュージック・ソウの響きが日本一似合う名曲「ゲゲゲの鬼太郎」も披露したのだが、まさか次の日、水木しげる先生死去の報せが届くとは、このときは誰も知らなかったのである。

●TxDxCxJxSKB
いよいよイベントも後半戦。二大巨頭によるコラボレート企画のひとつ、殺害塩化ビニール所属のTHE DIGITAL CITY JUNKYSが、ザ・クレイジーSKBをゲストに加えてのスペシャル・ラインナップで。前半は、TxDxCxJ本体のみで登場し、ギミックを使わずストレートなパンク・チューンで畳み掛ける。過激なイメージが強い彼らであるが、そのメロディはときにキャッチーであり、印象的に響いていく。以前よりも明らかに強固となったサウンドの一体感がそれを際立たせているのは間違いなく、バンドとしての充実と進化を感じさせた。一時的にボーカルのHARRY-KENが舞台袖に下がると、ロケット花火と五寸釘バットを持ったザ・クレイジーSKBが代わりに現れ、さらに爆竹を手にしたHARRY-KENも舞い戻り、会場のボルテージを(物理的にも)上げていく。火花と火薬の匂いに包まれた会場はパニック! になるかと思いきや、“これを待っていた”という高揚が広がっていくのがさすが〈自家発電〉だ。ノリと鰹節も大量にぶち撒けられたが、これによって心なしか闇鍋から漂う不穏なムードが相殺されていったので、ザ・クレイジーSKBの本質的な優しさが滲み出たのではないだろうか。後半はこうしたパフォーマンスに合わせたハードコアサウンドを響かせ、恐悪狂人團、ハイテクノロジー・スーサイドのカバーも披露した。闇鍋ではどんな凶悪な具材がと恐れ慄いていたが、なんと「油揚げ」という紳士的なセレクトで、恐怖と愛は表裏一体であることを実感した。

●あヴぁ階段
“見捨てられたアイドル”という意味合いを持つ4人組「あヴぁんだんど」と、BiSとの合体以降、戸川純、大友良英、ゆるめるモ! など、様々なアーティストとのコラボレートから新たな世界を見出そうとしている非常階段の組み合わせが〈自家発電〉に上陸。非常階段はJOJO広重と美川俊治の2人体制で、この日もエモーショナルなノイズを放射していくが、1曲目ではノイズの大音量とモニタの問題があったのか、メンバーの歌がリズムに合わない状態が続く。3曲目「好き好き大好き」のカヴァー、4曲目「西鶴一代女」などではようやくコラボレートの醍醐味が感じられるようになったが、ノイズとパフォーマンスの混線は最後まで解消されなかった印象。かつて〈自家発電〉でBiSと合体で見せた「nerve」、ゆるめるモ! との合体で見せた「SWEET ESCAPE」といった、ノイズとアイドル・ポップスが有機的に融け合うようなケミストリーは残念ながら生まれなかった。だが、あヴぁんだんど4人の、不安や戸惑いが見えつつもやり切った精神力が、今後の飛躍を期待させるものだった。

●動物電気
続いて登場は、93年に旗揚げされ、すでに20年以上の活動歴を誇る劇団・動物電気。演目は、宇宙刑事ギャバンを下敷きにしたと見られるヒーロー物「宇宙刑事フンド☆SEA」で、その名の通りふんどし一丁の男(作品のプロデュースも担当した小林健一)が主人公。わかりやすくも突飛な設定の中で繰り広げられる、40歳オーバー(公式Twitterより)の男たちが繰り広げるワチャワチャしたセリフの掛け合いと、客席に飛び込んで行われる手慣れた客イジリにはライヴ感があり、アウェー現場であることを匂わせない。裸、汗、大声のツッコミなどギラギラしてアクの強い要素が揃いながらも、じつに軽妙な演劇に仕上がっていたのも魅力。闇鍋の具は、もやしミックスと筑前煮の具。スタンダードな具材がこれまでの失点をどこまで取り戻すことができるのか!?

●鴬谷デッドボールオールスターズ
今回の変化球枠として客席後方から姿を表したのは、“地雷! レベルの低さ日本一”を称する風俗店「鶯谷デッドボール」に所属する女性3名とその店長。このお店、いろんな意味で「デッドボール」な女性たちを敢えて集めた良心的価格の風俗店であり、マニアを中心に密かに注目と人気を集めているとのこと。今回ステージに上がった女性たちも個性派、という言葉では言い尽くせない味と独自の骨太さがあり、これぞ〈自家発電〉! といった複雑な感情が入り混じる空気に。舞台では、店長が女性陣を従えて「デッドボール」オリジナルソングを熱唱(一夜漬けで覚えたとのこと)! 時間は15分もなかったが、茶番とも真剣なパフォーマンスとも言えない別次元の趣きがそこにはあった。しかし彼女たちをトリ前に持ってくるあたりのねじ曲がった構成は、実質7回目となったイベントだから許されるものだろう。

●サイプレス上野とロベルト吉野
荒れに荒れた現場に降臨したこの日のトリは、TV番組「フリースタイルダンジョン」のモンスターとしても活躍するサイプレス上野と、孤高のDJロベルト吉野によるヒップホップ・ユニット「サイプレス上野とロベルト吉野」。「上野~↑↑」「吉野~↑↑」のコールでアイドル・ファンも巻き込んでいく「ぶっかます」から幕を開ける。親しみやすいキャラクターとMCで場をあたためていきながら、ヒップホップ愛に満ちたラップを繰り出していく上野と、長髪&Tシャツ(袖まくり)のメタラー風ファッションに身を包みながらも、その巧みなターンテーブルさばきで腰にクるグルーヴを生み出していく吉野。ふたりの音楽を介した信頼と、舞台での絶妙な距離感から立ち上る心地良さがその音に溢れていた。中でも、ボーカリストのカムバックを呼びかけるようにも聴こえた「ちゅうぶらりんfeat.後藤まりこ」は、やはり特別な印象を残していった。ふたりで最高のエンターテインメントを築き上げ、イベントは終了…… と思いきや、ここで〈自家発電〉でもお馴染みのグラビアイドル・谷桃子が乱入。上野にフリースタイルバトル&変顔対決を挑む展開に。勝負の結果はさておき、谷桃子のハートの強さと彼女の魅力を引き出す上野のダンディさがコラボを成功に導いていた。さらに、上野に電話で呼び出されたというダイノジ・大地もサプライズで登場し、大団円を迎えた。闇鍋の具材はサバとペヤングというナマモノと乾物。これが吉と出るか凶と出るのか!

●閉会宣言~エンディング
閉会宣言ではふたたびハウス加賀谷がビデオ出演。告知が流されたあと、殺害ロクデナシCD-Rシリーズの新作が急遽発表された。今回、レーベルからCDをリリースするのは「アカバネ」という女性2人組ユニットであったが、ヴォーカルのひとりがなんと〈自家発電〉主宰のGoka。今回の発表とリリースはGokaには秘密だったらしいが、サウンドやちゃっかり制作されているMVも含め、さすがは主宰…… と感じるクオリティであった。

イベント終了後には、全員忘れたかった闇鍋がオーディエンスに振る舞われた。意外と興味本位で闇鍋に手を出す者は多いものの、「?」が浮かんだ表情が見えるのみ。これはレポート執筆者として味見は避けられない…… ということで試食してみました。甘さがモワッと来るのが不快だったものの、声を出して「不味い」と言えるほどでもなかったのが不思議。ペヤングの麺がけっこう活躍していたことをお知らせしておきます。

今年末には忘年会(詳しい日程はHPまで)、来年にはVol.7の開催も決定した〈自家発電〉。マンネリ、という言葉から脱却するべく様々な趣向が凝らされていた今回は、新たな地平を見出すことに成功していたように感じる。より一層の過激化、カオス化を求めるのではなく、イベントとしての一体感をどのように生んでいくのか――そこに鍵があることを感じた「Vol.6」であった。(森樹)

写真 : 月夜野ヒズミ

〈自家発電 vol.06〉
2015年11月29日(日)四ツ谷アウトブレイク
出演 : あヴぁ階段(非常階段×あヴぁんだんど) / TxDxCxJxSKB(THE DIGITAL CITY JUNKIES with ザ・クレイジーSKB) / サイプレス上野とロベルト吉野 / 谷桃子 / ライムベリー / MIKA☆RIKA / クウネル・ダ・サイクル / 鴬谷デッドボールオールスターズ / のこぎりキング下田 / DJ オッチー / REMOCCHIII

・〈自家発電〉から生まれたBiS階段の特集をOTOTOYで掲載中!!
http://ototoy.jp/feature/20130808


[ニュース] BiS, BiS1st, BiS2nd, あヴぁんだんど, ゆるめるモ!, 非常階段

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