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2015/04/17 17:00

 

大森靖子、秋田の小さな喫茶店でツアー折り返し 複雑な胸中を明かす——OTOTOYライヴ・レポート

 

大森靖子が4月5日に全国ツアー〈❤爆裂!ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー❤〉のノスタルジック秋田ゴマシオキッチン公演を行った。3月の松山からはじまったツアーも中盤に突入し、折り返し地点となったこの公演は、先日の鳥取や広島・ヲルガン座公演と同様に昼夜2公演行われた。普段は喫茶店として営業しているキャパ40人ほどの小さな会場。そんなアット・ホームな空間で行われたライヴは、とても暖かかく特別なものだった。

昼公演で大森は、演奏中に涙をみせる場面があった。一時期、音楽を辞めようと考えていたことを明かし、「ツアーをまわれると思っていなかったから、こられてよかった」と話した。彼女はいつも、きっと人前ではすごく気を張っている。並々ならぬ思いとともに音楽で生きていこうと決心した人だから、それは当たり前のことなのかもしれない。メジャー・デビューが決まって以降、人前で弱気な姿をみせることは稀で、思い出せるものだと、去年のクリスマスにやった女子限定の招待ライヴと、自宅から配信したツイキャスくらいではないだろうか。それだけ今回のゴマシオキッチンが、彼女にとって安らげる空間であり、愛を感じる場所だったのかもしれない。大森はインディーズ時代からここでライヴを行っており、今回が3度目。彼女の音楽を愛して地元に呼び、いまでも変わらず呼んでくれる人がいる場所。誰よりもファンを大切にしている彼女が、そんな思いに報いると同時に、彼女自身が愛情を確かめたくて、この場所に歌いにきているのかもしれないと思った。この日はツアー用の衣装ではなく、以前からライヴでもたびたび着用している、星の模様が散りばめられた黒いワンピースで演奏していたのも印象的だった。

今回の秋田公演は、ゴマシオキッチンのオーナーであり、秋田の廃校を舞台に行われている音楽イベント〈ハイコーフェス〉の実行委員でもある進藤直樹が主催。大森は〈ハイコーフェス〉にも出演している。今回のライヴでは入場者に特製のクッキーやドリンクが配られ、場内の装飾もすべて手づくり。店内の隅にイスとライトが置かれただけのシンプルなステージが設けられ、それ以外の場所にはぎっしりと観客用のイスが並べられていた。この会場では、はじめからアンプもスピーカーも使わず、完全生音での演奏となった。

【昼公演】

昼夜ともに、主催の進藤がライヴ前に熱のこもった長文の「ラブレター」を朗読した。

「大森靖子さん、今年もゴマシオに歌いにきてくれて、ありがとうございます。はじめて大森靖子さんがゴマシオに歌いにきてくれてから、早いものでちょうど2年ですね。茶色いチェックのワンピースで現れた大森靖子さんは、目と目が合っているのにいつもどこか遠くを見ているような、とにかく黒目が大きいなと思ったのを覚えています。忘れているかもしれませんが、あの日、大森靖子さんは予定到着時間より1時間遅れて秋田に到着しました。あとから聞くと新幹線に1本乗り遅れたそうで、電話をしても繋がらないしメールをしても返事はないしで、ドキドキしながら到着を待った気がします。遅れて到着した割に、ずいぶんとゆっくりしていて、ライヴがはじまるまで30分くらいしかないのに、「お腹がすいたのでなにか食べていいですか?」(編注 : 大森のモノマネで)と言い、開場の準備で大慌てのなか、ここでモロッコご飯を食べて、食後にアイス・コーヒーまで飲んで。そんなあなたを、本当にかわいいなと思いました。普通じゃないなと思いました」

「そのあと9月にもハイコーフェスに来てくれて、翌年もまたゴマシオに歌いにきてくれて、そのたびに大きくなっていく大森靖子さんでしたが、「しつこく毎年この場所に歌いにきます」「しつこく毎年呼んでください」と言ってくれて。それは、大森靖子さんが言うから信じられたんです。きっと大森靖子さんなら来てくれる気がしていて、今日もしつこくこの場所に歌いにきてくれて」

「僕にとって大森靖子さんは、本当にただのいい人で。だからずっと大森靖子さんのことを応援できるし、ずっと大森靖子さんの音楽が好きです。いろんな人がいて、いろんな世界がいて、いろんな情報があって、どの大森靖子さんが本当の大森靖子さんなのかはわかりませんが、僕の知っている、見ている大森靖子さんはただのいい人で、ただのファンに優しい人で、いつも僕をドキドキさせてくれて。そんな音楽を歌う人です。ここに集まっている人生を捧げているようなファンに比べたら僕はにわかファンかもしれません。でも大森靖子さんのがんばっている姿をみているとがんばれるし、僕もいつか喫茶業界のメジャー・シーンをひっくり返すので、そしたら小銭を稼いで東京までライヴを観にいくので、その頃には僕が簡単に話しかけられないくらい、すごい人になっていてください」

進藤はその後、場内の緊張をほぐすためにXジャンプならぬ”セックス・ジャンプ”をすると、ライヴのはじまりを宣言した。

ステージに置かれたイスに座って笑いながら、ときにうなずきながら進藤の朗読を聞いていた大森は、無言でゆっくりと立ち上がると、「呪いは水色」から演奏をスタートさせた。かすれるように声を少し震わせながら、いつものように、どんな人が来ているのかを確認するように会場中をゆっくりと見渡しながら歌った。「エンドレスダンス」では、消え入りそうなほど小さな声になる瞬間があった。この日は雨が降っており、ときおり外を走る車の音や雨音、水の流れる音が演奏に混ざって聴こえてきた。「ファンレター」を歌い終えると、大森はひと呼吸置いて話しはじめた。

「さっきの「ファンレター」って曲を作ったときくらいに、本当に、辞めようと思ったんですよね。それまで辞めたいって思ったことはなかったんですけど、本当に辞めたいって思って…」。涙で声をつまらせながら、話を続ける。「だからなにって感じですけど… 本当に辞めたいって思って。ツアーをまわれると思っていなかったんですよ。こられてよかったなと思いました。遅刻もしなかったし(笑)。(メジャーに行って)人にきっかり起こされるようになったので。身内レベルではするんですけど(笑)」。

そこまで話すと、自身の思いをかき消すようにギターを強く鳴らし「あまい」を歌いはじめた。「全部知ってる大きな愛を 今日は誰にも邪魔させないのだ」と歌いながら、涙があふれているように見えた。それを隠そうとしているのか、手作りの装飾が愛しく思えたからなのかはわからないが、客席に背を向け、壁の方をじっと見つめながら歌っていた。「ノスタルジックJ-POP」の演奏中に、やっと前を向く。曲の合間では、ギターを物憂げに見つめながら何度もストロークしていた。「さようなら」の「美人キャスターも 僕のヒーローも 青い空も 赤い電車も 大丈夫だよって嘘をつくから わたしからさようなら」という一節が悲痛に響いた。「高円寺」を歌っているとき、彼女がインディーズ時代に高円寺の円盤で毎月行っていた、月例企画のことを思い出した。あの場所も、ちょうどこのくらいのキャパだった。

「I love you」はイスに座って演奏。「I love you」と繰り返したあと、最後に「あとはつまらないことさ」と歌った。冒頭の進藤の朗読に「大森靖子さんはただのいい人で、ただのファンに優しい人で、いつも僕をドキドキさせてくれてる音楽を歌う人」とあったが、きっとこれが彼女の本質なのだと思う。大森はさまざまな言葉で形容されがちだが、その多くはつまらないことでしかない。たぶんあの場にいたほとんどの人は、それを知っている人たちなのだと、「I love you」を聴きながら考えていた。曲が終わると、それまでじっと聴き入っていた客席から自然と拍手がおこり、少し緊張がほぐれた。

「厳密にいうと、辞めたいことをリスト化したら、別に音楽自体ではなかったんですね。辞めたいことを片っ端から辞めたら、ライヴは辞めたくなかった。嫌なことがありすぎると、全部が嫌になっちゃうんですね。それになっちゃったんです」と大森は話した。続けて「ハンドメイドホーム」を演奏する。この曲はずっと、個人的に大森靖子のテーマ・ソングだと勝手に思っている。「毎日は手づくりだよね ギターを弾いて 君を飾って 夜が明けてまた夜がきても 大好きな歌で夢をみる」。彼女がずっと手づくりで作りあげてきた大好きな歌、そしてファンとの関係性の結晶が、この空間にあるのだと思う。最後にゆっくりと「キラキラ」を歌って本編は終わった。

礼をして去ろうとする大森に、すかさず進藤が「復活の呪文を!」と叫び客席に「せいこ」コールを促す。大森はその言葉に「あはははは」と笑うと、そのままステージに残った。『洗脳』収録曲の歌詞が書かれた壁の装飾をみて、「せっかく洗脳っぽくしてくれたから」と、アルバム収録曲をメドレーで披露。この頃には、大森はいつもの笑顔だった。「じゃあ最後です。ありがとうございました」と告げると、ラストは「ミッドナイト清純異性交遊」。暖かい拍手に包まれながら、昼公演は終了した。

【夜公演】

夜公演は、昼よりも緊張感が和らぎ、終始穏やかな雰囲気だった。冒頭の進藤によるラブレターは、アドリブで一部内容を変えて朗読。以前のライヴでの打ち上げの話や、大森が〈ハイコーフェス〉で振る舞ったおにぎりの具の高菜をよけて食べていたエピソードなどを披露すると、本人は「好き嫌いが多かっただけで、まずかったわけじゃないです(笑)」と返した。ライヴ中のMCでも、大森は小学校時代の給食でも食べられないものが多くて苦労したことを話し、「給食のときに掃除の時間まで残されていた人はみんな友だちになれる。そこでもう人生が決まったようなもん」と笑った。

ライヴでは、1曲目「デートはやめよう」で進藤に「エロいことをしよう」と歌わせる場面も。進藤は不意をつかれて驚きつつ、「もっともっと!」と大森のマネをする見事な切り返しをみせ、会場を沸かせた。「あまい」や「ファンレター」は、装飾された壁にもたれながら客席の方を向いて歌った。ささやくような声で「私達はいつか死ぬのよ 夜を越えても」と歌った「呪いは水色」は、たまらなく優しかった。

「Over The Party」前のMCでは、進藤の朗読にあった自身の遅刻について言及。「寝坊してはいたんですけど、山手線で歌詞を書いていたんですよ。高速道路開通のポスターを見てから歌詞がぶわーって降るようになって、楽しくなっちゃって、ずっと山手線をまわっちゃったんですよね。それで遅れちゃって。「Over The Party」を書いていたんですけど、あの歌詞長いんですよね。それで、充電も切れちゃって」と理由を語った。終盤には、普段のライヴで歌うことの少ないタンポポのカヴァー「I&YOU&I&YOU&I」や、ツアー直前の2月26日に行った3時間超え、55曲を演奏した月例企画〈大森靖子の続・実験室vol.10 ~ストイックファイター~〉に続いて2回目のライヴ披露と思われる「ひかる一秒」など、レア曲も演奏された。

「君と映画」演奏後には、音楽や人との出会いについて話した。「弾き語りをはじめてから8年くらい経つんですけど、会う人が全部、音楽がないと出会っていない人なんですよ。それがおもしろくて。大げさじゃなくて、音楽が会わせてくれるんだって。今日来た人がひとりでも違っていたら、全然違った音を出しているはずなんですよ。そういう才能を持っているので(笑)。それって、すごくないですか? 2年前にも、来るときに遅れなかったら「Over The Party」ができてなかったんだって思うと、自分でもびっくりするし。全部が噛み合っているんですよ。それがすごいなって思いながら、いつも歌っているんです」。まわりが住宅ばかりということもあり、ゴマシオキッチンでライヴを開催すること自体、年に数回しかないと進藤は語っていた。そして大森は、いつもツイッターで事前にライヴにくる人たちの情報を調べて、ファンの聴きたい曲などを考慮しながら演奏している。そんな彼女がこの場所で話した言葉は、とても重みのあるものだった。

本編ラストの「魔法が使えないなら」「音楽を捨てよ、そして音楽へ」の2曲は、とても力強い演奏だった。復活の呪文から、アンコールへ。アコギに乗せて「さようなら」「キラキラ」を、どちらもはっきりとした口調で歌った。音が消えるのを待って、ギターをゆっくりとにぎる。そして「ほい、明日からもがんばりましょう。秋田のみなさま、ありがとうございました」と優しい笑顔であいさつして、秋田公演を締めくくった。

このライヴをみてもわかりとおり、主催の進藤の思いの強さはすさまじい。先の鳥取公演同様、大森に対してこれだけ深い愛情を持った人が全国各地にいる。そんな人たちの人柄は、間違いなくライヴを形成する大きな要素のひとつになっていた。大森靖子は彼らの思いを真正面から受け止め、そして何倍にもして返す、とてつもない器を持った人なのだ。今回のライヴでは、それを改めて実感することとなった。進藤はライヴ後、ブログに思いをつづっている。こちらも彼の人柄がわかる素晴らしい内容なので、あわせてぜひ読んでみてほしい。(前田将博)

写真提供 : 二宮ユーキ

■大森靖子 全国ツアー〈❤爆裂!ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー❤〉
2015年4月5日(日)~ノスタルジック秋田ゴマシオキッチン2回公演~ 1stage
<セットリスト>

1.呪いは水色
2.新宿
3.エンドレスダンス
4.Over The Party
5.KITTY'S BLUES
6.夏果て
7.ファンレター
8.あまい
9.ノスタルジックJ-POP
10.さようなら
11.コーヒータイム
12.高円寺
13.青い部屋
14.あたし天使の堪忍袋
15.I love you
16.ハンドメイドホーム
17.お茶碗
18.キラキラ

アンコール
メドレー
19.絶対絶望絶好調
20.きゅるきゅる
21.子供じゃないもん17

22.ミッドナイト清純異性交遊

■大森靖子 全国ツアー〈❤爆裂!ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー❤〉
2015年4月5日(日)~ノスタルジック秋田ゴマシオキッチン2回公演~ 2stage
<セットリスト>

1.デートはやめよう
2.絶対彼女
3.エンドレスダンス
4.背中のジッパー
5.秘めごと
6.ノスタルジックJ-POP
7.朝+
8.あまい
9.ファンレター
10.hayatochiri
11.呪いは水色
12.新宿
13.夏果て
14.I love you
15.ミッドナイト清純異性交遊
16.Over The Party
17.I&YOU&I&YOU&I
18.君と映画
19.ハンドメイドホーム
20.お茶碗
21.ひかる一秒
22.魔法が使えないなら
23.音楽を捨てよ、そして音楽へ

アンコール
24.さようなら
25.キラキラ

・「ノスタルジック大森靖子・・・」(gomashioシェフのノートbook)
http://gomashio3.exblog.jp/23902832/

・大森靖子、地元・松山での初凱旋ライヴでツアー幕開け (初日・松山公演レポート)
http://ototoy.jp/news/81260

・大森靖子、鳥取の元ストリップ小屋にて生音で圧倒的な"歌"を聴かせる (鳥取公演レポート)
http://ototoy.jp/news/81369

・大森靖子、メジャー・ファースト・アルバム『洗脳』をハイレゾ配信&インタヴュー掲載!!!
http://ototoy.jp/feature/2015020702

・大森靖子 全国ツアー〈❤爆裂! ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー❤〉
2015年3月8日(日) ~ノスタルジック 松山 キティホール~
2015年3月14日(土) ~ノスタルジック 広島 ヲルガン座~ (2回公演)
2015年3月15日(日) ~ノスタルジック 岡山 café moyau~
2015年3月27日(金) ~ノスタルジック 名古屋 QUATTRO~ (バンド編成)
2015年3月29日(日) ~ノスタルジック 鳥取 三朝 ニューラッキー~ (2回公演)
2015年4月3日(金) ~ノスタルジック 札幌 コロニー~
2015年4月4日(土) ~ノスタルジック 仙台 enn 2nd~
2015年4月5日(日) ~ノスタルジック 秋田 ゴマシオキッチン~ (2回公演)
2015年4月10日(金) ~ノスタルジック 鹿児島 大津倉庫 プティ・パレ~
2015年4月11日(土) ~ノスタルジック 福岡 ROOMS~
2015年4月12日(日) ~ノスタルジック 大分 別府 永久劇場~
2015年4月16日(木) ~ノスタルジック 大阪 梅田 AKASO~ (バンド編成)
2015年4月17日(金) ~ノスタルジック 広島クラブクアトロ~ (バンド編成)
ツアー・ファイナル
2015年4月26日(日) ~ノスタルジック 中野サンプラザ~ (バンド編成)
追加公演〈沖縄 大森靖子全国ツアー 洗脳特別公演❤せんせい、もう子供じゃないもん〉
2015年4月29日(水) ~ノスタルジック沖縄Output~


[ニュース] 大森靖子

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