News

2015/04/10 19:00

 

新世界リチウム解散、精一杯それぞれの道を歩いていく——OTOTOYライヴレポ

 

私がその「大切なお知らせ」を聞いたのは、彼らのファースト・フル・アルバムのリリース・ツアー・ファイナルが終わった、ほんの数日後のことだった。耳を疑う、とはこのことだ。前回の記事の取材をしたのは、そのつい先日、まだ1ヶ月も経っていなかった。どれだけ悩んで、話し合ったのだろうか。3人の出した答えが「解散」という二文字であったことに、彼らを見てきた誰しもが衝撃を受け、困惑し、悲しんだことと思う。しかしその決断は潔くもあり、そこに広がる悲しいムードは次第に、3人が決めたことだから悲しんでばかりではいられない、という前向きな雰囲気へと変わり始め、それは新世界リチウムのファンのみならず、彼らと活動を共にしてきたバンド界隈にも広がりを見せた。ここでは、メンバー自らも「伝説の2日間」と称する最後の2公演を、最後の記録として残そうと思う。OTOTOYでは過去の音源を含む4タイトルを取り扱っている。今一度新世界リチウムの音源を聴きながら、あの日に思いを馳せるきっかけになれば幸いだ。

+   +   +   +   +   +   +   +   +

新世界リチウムの活動の集大成ともいえるのが、3月14日(土)、新代田FEVERで行われた最後の自主企画、『肉と魚と野菜の日』である。この日の共演はFlying Izna Drop、Liaroid Cinema、Half-Life、ゆれる、裸体、told、クリープハイプの計7組。どのバンドも新世界リチウムにとってかけがいのない仲間であり、彼らの活動史上抜いては語ることのできない存在である。

トップバッターはFlying Izna Drop。新世界リチウム千葉龍太郎(Ba.)のリクエストに応えたというこの日のセットリストは「ESPer」からスタート。疾走感のある爆音がフロアを巻き込み、熱を上げていく。スタート前に漂っていたどこか物寂しい雰囲気は掻き消され、残った自分達が元気に続けていくこと、それが使命だと、「I want you to know」までの5曲を全力で駆け抜けた。

続くLiaroid Cinema。新世界リチウムとの出会いは5年前に発売されたグッドモーニングアメリカのコンピレーション・アルバム『あっ、良い音楽ここにあります。』の第1弾だという。「自分達の大切な時にはいつも新世界リチウムがいた」という彼らはこの日のために、現在は脱退している元ギタリストが特別参加し、出会った当時の編成でライヴを行うという、古くからのファンにとっても何とも特別なサプライズを展開した。

サプライズといえば、こちらもすごい。新世界リチウムにとって最後となってしまったツアーの、後半戦をずっと共にしていたHalf-Life。福岡でのライヴで新世界リチウム松野康平(Gt.)をゲスト・ギタリストに迎えた「マツノトーク(「city talk」)」を披露したことは両バンドのファンのなかでにわかに話題となっていたが、今回はさらに「色彩」を加えた計2曲でゲストに迎え、会場を沸かせた。「解散、撤回するなら今日中やで!」と笑い、3人の背中を押すように「夢追い人」を演奏し、惜しみない拍手の中ステージをあとにした。

付き合いが長ければ長いほど、思い入れがあるというのは人間の性だろう。ゆれる のAmi(Vo.,Gt.)は本番前、「新世界リチウムの演奏が始まってほしくない」と呟いた。始まってしまえば、終わってしまう。終わってしまえば、もう二度と見ることができない。それはこの日この会場にいた誰しもが、等しくそう感じていただろう。「あらゆる憎悪」を演奏すると、自分達の楽曲がカヴァーされるのは初めてだったと、彼らといた日々に思いを馳せた。寂しさが垣間見えながらも、一番格好良いバンドを知っていますか?と、目を見張るような勢いのある圧倒的なパフォーマンスで人々を魅了した。

大阪で活動する裸体。新世界リチウムが大阪に行く時、そして裸体が東京に来る時、そしてそのどちらでもない地方でも、当たり前にそこにいた存在であった。「解散を聞いて、怒る、という手もあったんだけど…悲しくて号泣してしまった」とペーター(Vo.,Gt.)は言った。今日のために作ったという新曲に始まり、「原動力」「僕もそう」「あの頃の僕には」「最期」と、静寂の中でほとばしる思いを込めるように、言葉を紡ぐように、丁寧に歌い上げた。

この特別な1日が後半に差し掛かっていることに気づき、感傷的になる。しかしそれを吹き飛ばしてくれたのは、僕らはいつも通りのライヴをしまーす、とあっけらかんに言い放ったtoldであった。このタイミングで、今後のライヴ・スケジュールの告知。続けていくってこういうことだよ、楽しいよ、羨ましいだろう。強がる言葉の裏に、彼らの解散に対する言いようのない寂しさが滲む。新世界リチウムの「春になって」をカヴァーし、もうやらないなら貰っちゃってもいいよね!と笑い、会場を和ませた。

にわかに、緊張感が漂いはじめた。ステージが暗転し、クリープハイプが登場した。「ヒッカキキズ」から演奏がスタート。この曲こそ、尾崎世界観(Vo.,Gt.)のバックバンドを新世界リチウムがつとめていた頃の曲だ。フロアは静まり返り、青い光に包まれ歌う尾崎を、息をのんで見つめている。「どうしても出たくて、新世界リチウムに頼んで出演させてもらいました」ぽつりと言う尾崎。俯き加減で言葉は少なく、笑顔も見せず、淡々と。しかし3人に対する思いがそこらじゅうに溢れていて、それはこの日のために用意されたセットリストにもあらわれていた。「ヒッカキキズ」「イノチミジカシコイセヨオトメ」「大丈夫」「チロルとポルノ」「ねがいり」計5曲。そのほとんどが、新世界リチウムと活動をしていた頃の曲である。短い時間の中にも、3人に対する溢れんばかりの思いが詰め込まれ、会場からは温かい拍手がいつまでも鳴り止まなかった。

いよいよ、新世界リチウムの出番となった。寂しさが漂っていた会場の雰囲気は一転、前のめりになり、彼らの登場を待ちわびていた。「今夜はブギーバック」が流れる。現れた3人の姿に会場からは大歓声が上がった。しん、と静まり返った後に、「ナツメ」が始まる。いろいろな感情がこみ上げたのだろう、涙を流す観客の姿を見て、「こんなんでいいの?こんなもんなの?最後だよ!もっと来いよ!」と煽る千葉。会場は一気にヒートアップ。そして今作の中でもっとも勢いのあるナンバー、「隔たり」へとなだれ込み、フロアを巻き込んでの「喝さい」の大合唱。toldの新曲です、と先のtoldのMCを受けたかたちで演奏された「春になって」、いまやライヴの大定番となった「プリウェンペ」で会場を揺さぶり、ダイバーが出るほどの盛り上がりを見せた「ひまわり」で本編を締め括った。

止まないハンドクラップの中、ステージ上に3人の姿が戻り、アンコール1曲目はメンバーそれぞれの事を歌った未発表音源「21世紀」。「3人ともいわゆるダメ男と言われる生活をしてますが 精一杯それぞれの道を歩いてる途中なのです」。不器用でがむしゃらで、まっすぐで。だからきっと、どうすることもできなかったのだろう。彼らの出した答えはとてつもなく寂しいものだったが、しかし本当に、彼ららしい。不器用で、でも潔くて、かっこいい。自分達が9年の年月をかけて作り上げたものは、紛れもない大きな愛の結晶であり、解散はバンドとしての一つのゴールなのかもしれないが、それぞれの道を歩いていくための新たなスタート地点でもあるのだろう。

「21世紀」をエモーショナルに歌い上げ、ゆれる の楽曲を初めてカヴァーした「あらゆる憎悪」、そしてまるで自分達に歌うようにも見えた「リスタート」を力強く歌い上げる。さらにアンコールは鳴り止まず、「カラス」、「ヒューマニズム」。「伝説の夜になったね」と松野。「ありがとうの気持ちしかない」と言葉を絞り出す石川慧(Vo./Dr.)。それでもなお鳴り止まない拍手とアンコールに、「あの…あとどれくらい時間ある?」と問う千葉の言葉に食い込むように、「100時間!」との返答が飛ぶ。わっと沸き立つ会場に「愛の結晶」が鳴り響いた。そこには文字通り紛れもない愛の結晶があり、会場は大きな愛のかたまりであった。新世界リチウム最後の自主企画は、幸せな歓声と笑顔につつまれ、幕を下ろした。

この1週間を、皆それぞれどのような気持ちで過ごしてきたのだろうか。3月22日、新世界リチウム最後の日を迎えた。BGMには、先週のライヴを共にした仲間でありライバルであるバンドの曲が次々と流れ、スクリーンには新世界リチウムのミュージック・ビデオが映し出されている。チケットは完売。彼らのホーム・グラウンドの吉祥寺WARPは、彼らを愛するたくさんの観客で埋め尽くされた。この日はゲスト・アクトとして、ircleを迎えた。「今しかないから、今全部渡すよ。忘れない。忘れない」河内(Vo.,Gt.)は叫び、演奏が始まる。最後の日の時計が動き出す。彼らが吉祥寺でライヴをするのは、今回が2回目。最初のライヴもこの日と同じく、新世界リチウムと2バンドきりであった。自らに言い聞かせるかのように、「寂しくない。寂しくない」と繰り返す河内。解散ライヴにゲスト・アクトなど、確かに普通はあり得ない。しかし彼らはircleを、最後の対バンとして迎えた。それが正しかったと言えるようなライヴで送り出すという言葉に違わず、最高のパフォーマンスで観客を魅了し、ステージを後にした。

いよいよだ。寂しさと、これから目の前で始まることへの期待と、緊張感がないまぜになって、フロアは飽和寸前であった。最後の、「今夜はブギーバック」が流れる。最後の舞台の幕が上がる。歓声と割れんばかりの拍手に迎えられ、新世界リチウムの3人が姿を現した。「最後だよ。準備はいいかい?」と千葉が言った。最後、という言葉が実感を伴って胸に迫る。きっと、ここにいる皆が同じ気持ちなのだろう。もうすでに、涙を浮かべてステージを見つめる観客の姿があちこちで見られた。ラストライヴは「キリフダ」でスタート。最初で最後となったアルバム、『新世界リチウム』のリード曲だ。リリース当時のワクワクした気持ちと、いま目の前で始まってしまった現実との狭間で、観客は皆戸惑うように、ただじっとステージを見つめていた。それをに気づいた千葉は、「今日で見られないから頭の中に焼きつけておこう、なんて余裕はいらないんで、かかってこいって思っています」と観客を挑発。それに応えるかのように「隔たり」では何かが決壊したかのようにあちこちで拳が上がり、シンガロングが巻き起こり、ついにはダイブが起こった。いつにも増した攻撃的とすら思えるステージを展開しながらも、時折声が詰まる。「解散は急に決めたんです。ツアーファイナル終わって、しばらくして」経緯をぽつりぽつりと話す千葉。観客はその言葉に聞き入る。しんとした寂しさが再び会場を覆った。その空気をからり、と変えたのは石川だった。超満員の会場を見渡して「怪我だけは気をつけてね」と言った石川に、フロアからは「かわいいー!」という歓声が上がる。「こいつが可愛く見えるのは俺がいるからだからな!」という千葉の言葉にどっと笑いが起こる。いつものやりとりに会場の空気はふっと和らぎ、皆の表情に笑顔が戻った。「2つ目の伝説を作りましょう」と松野は言い、中盤戦が始まった。「春になって」「イニシャル」「羅針盤」「境界線」…情感たっぷりに、次々と演奏される初期の楽曲たち。涙に詰まる千葉を見て、モニターに飛び乗りギターをかき鳴らす松野。絞り出すように叫ぶように歌う石川。フロアは一層熱くなり、大歓声が3人を包み込む。

自分達は、すごく不器用な集団だった。だから、どこまでも不器用な人の味方でいたかった。彼らは最後の最後まで、不器用に、真っ直ぐにぶつかった。「尖りすぎてあまり言えなかったけど、感謝してる。9年間の絶望と屈折をどうもありがとう」思いをすべてぶちまけるように、歌い叫び、彼らの代表曲ともいえる「ヒューマニズム」にほとばしる思いを乗せ、本編は幕を下ろした。3人がステージを去っても鳴りやまない拍手と歓声、そしてフロアのどこからともなく「喝さい」の大合唱が起こった。最初は数人、それがどんどん増えて会場全体に広がる。観客の大合唱に迎えられ、3人は再びステージに現れる。こんなにも多くの人たちが、彼らを支え、彼らを愛している。がむしゃらに走り続けてきた9年間は、決して無駄でも間違いでもなかったということが、目の前で、現実として証明されていた。

「9年間ありがとう!元気でね!」彼らが活動の締め括りに選んだのは「ひまわり」だった。「ぶっばしてやるんだって くだらなかった昨日なんてさ 知らない方が良いんだよ くだらなかった明日は見えなくてまわっていく 楽しんだもん勝ちさ」—。こうして新世界リチウムは9年間の活動に終止符を打った。

飾らず、媚びようともせず、ただただ信念を曲げずに9年の月日を駆け抜けてきた新世界リチウム。彼らのライヴは、もう見ることができない。しかしこの先もずっとずっと、彼らの音楽は残り、生き続けていくのだ。解散したバンドについての記事を、しかもすこし時間が経った今書いたのは正しいことなのか、正直わからない。しかし、こんなにかっこいいバンドがいたのだということを、過去のものにしたくはなかった。そしてその存在証明としての音源を、もう一度手にしてもらえたらとても幸いなことだと思い、ここに記すことを決めた。音楽に終わりはない。(text by 尾原智子)

-----

【セットリスト 3月14日(土)『肉と魚と野菜の日』@新代田FEVER】

ナツメ
隔たり
喝さい
春になって
プリウェンペ
ひまわり

en.1
21世紀
あらゆる憎悪
リスタート

en.2
カラス
ヒューマニズム

en.3
愛の結晶

-----

【セットリスト 3月22日(日)『納得できないがこれで最後の新世界リチウム』@吉祥寺WARP】

キリフダ
隔たり
プリウェンペ
一人事
オレノスベテ
そして唾を吐いて中指を立てる
ふるさと
カラス
リスタート
人間
ハッピーエンド
春になって
イニシャル
羅針盤
境界線
ハロー人類
拾った心
ナツメ
ヒューマニズム

en.1
傍観者
アダルとチルド
喝さい
愛の結晶

en.2
スターチス
ひまわり

-----

■新世界リチウム、なんどつまづいても前を向いてーーOTOTOY遠征レポート
http://ototoy.jp/news/80471


[ニュース] 新世界リチウム

あわせて読みたい


TOP