News

2014/04/09 23:00

 

金田康平、平日の夜に8時間弱101曲を歌いきる——OTOTOYライヴ・レポート

 

THEラブ人間のフロント・マンでもある歌手の金田康平のワンマン・ライヴ〈金田康平ひとり会 100人の肉〉が3月26日、東京・渋谷のguestで行われた。19時45分頃にはじまったライヴが終わったのは、翌日の3時20分近く。たったひとりで8時間弱、合計101曲を歌いきった金田は、晴れやかな表情で「次は150曲やる」と意気込んでいた。どこまでも貪欲な男の生き様がつまったワンマン・ライヴ。そのほんの一部の記録をお届けする。

会場は、30人入れば満員になるくらいのお洒落なバー。チケットは12分で売り切れたとのこと。そんな、いち早くライヴに参加することを決断した30名ほどのために、金田は100曲歌いきることをあらかじめ宣言していた。金田はこれまでも仙台や大阪などで、4時間におよぶソロのワンマン・ライヴを行っている。今回は初となる地元・東京でのソロ・ワンマンということで、かなりの気合いで臨んでいることだろう。このライヴは長丁場になることを想定してか、途中で休憩を挟む4部構成で行われた。

【第1部】
開演予定時刻を15分ほどすぎた頃に場内は暗転。女性の声で空港のアナウンスのような前説が流れると、客席をとおって金田がステージに登場した。アコースティック・ギターをゆっくり鳴らすと、誰かに語りかけるように「夜明けがまた今日も来たふりをして」を歌った。「3年ぶりのアルバム『NATSUMI』のリリース記念ライヴです。こんなハードルの高いイベントに来てくれて、容赦しないでやります」と挨拶すると、『NATSUMI』に収録された曲を続けて演奏。「ロックンロール」では、エフェクターで歪ませたアコギの音の上で力強く歌った。ソロに曲の合間に、THEラブ人間の曲を挟みながらセットリストは組まれている。どの曲も歌とアコギだけの無防備な状態となって発せられる。それはバンドで聴くよりも生々しい。

「冬が嫌いなので暖かくなって本当にうれしい」と話すと、金田が生まれた「夏」をテーマに書いた曲を続けて演奏する。手拍子のなかで陽気に歌った「なっちゃん、海に行こう」、静かに心を込めて歌った「コカコーラ・イン・マイ・サマー」、THEラブ人間の初期の名曲「8月生まれの君の結婚式」「大人と子供(初夏のテーマ)」、『NATSUMI』のエンディングを飾る「サマー・レッド」など、共通のテーマがありつつも、実にさまざまなタイプの曲たちが並ぶ。しかしどれも心なしか、恋人との別れぎわや、別れたあとのことを歌った曲が多いように感じた。

ここで金田が、『NATSUMI』のタワーレコード購入特典のCD-Rに収録されている「my friend(your soul)forever」について話す。「大好きな友だちから7年ぶりにメールが来たら、「三宅洋平に入れてくれ」だった。俺が三宅さんを好きだったら、入れてくれとは言わないなって思って… さみしかったんです。それで、反原発とかの正体が見えたんです」。そう言って歌われたのは、とても軽快で明るいメロディの曲だった。歌詞に、政治や原発、戦争という単語が並んでいる。でもこれは社会的なメッセージなどではなく、あくまで身近なひとりの友人への歌。これこそがリアルな歌なのだと思った。続けて歌った「アンカーソング」から、早くもエンディングに向かっているような勢いでライヴは進んでいく。2011年3月13日に書かれたという「City Lights Gently Weeps」では、渾身の表情で客席をまっすぐに見ながら力強い歌を聴かせ、「西武鉄道999」の最後では<俺たちはひとりじゃない>と何度も繰り返し声を振り絞って歌った。ここで金田は、第1部が終わったことを告げた。

【第2部】
10分ほど経つと、いつの間にか金田がステージに戻っている。「100メートル走の走り方くらいでフル・マラソンを走りたいって思って、THEラブ人間をはじめたんです。ちょっと大人になって、このままいくと体がぶっ壊れちゃうなって思って、THEラブ人間ではこういうことをやらなくなったんです。でも、ひとりで歌うときくらいは誰にも迷惑がかからないから、やろうかなと思って」と、この日のライヴの趣旨を説明する。そして「本当に来てくれてありがとうございます」と客席に改めて挨拶し、第2部がスタートした。

ここでは「10代」をテーマに、15歳の頃に組んでいたバンド「ハミングバード」時代の曲や、いま当時を思い返して作ったという曲を演奏するとのこと。初々しい恋心を連想させる「young soul」や、「みんなのうた」で流れていても良さそうな哀愁たっぷりの曲「売れない漫画家のブルース」、13歳のときにはじめて書いたという「死にたい盛りのメロウソング」などを披露した。

続いて、わずかな数しか出回っていないという2009年リリースの1枚目のソロ・アルバム『若者、恋に死す』のなかから、最近の曲ではあまり聴けないファルセットが印象的な「バイバイバイ」などを歌う。フォーク・ソングのごとく言葉を畳み掛けるように「9.11以降を生きるぼくたちのためのバラッド」を歌ったあとには「恥ずかしいですね、この歌詞」と笑った。この曲には、<裁判員制度><アメリカの大統領>など、いまの金田の歌詞にはあまり見られないような単語が登場した。

「僕は歌をはじめてちょうど15周年です。今日はそれを記念して一緒にこうやってワンマン・ライヴをやっています」と金田が話すと、THEラブ人間のごく初期の3ヶ月くらいにしか演奏していないという、「環七エレジー」「月曜日のナナ」、そして京都のワンマン・ライヴ限定でやったという「KYO TO KYO」などを歌った。その後も「大人と子供(初夏のテーマ)」の続編である「大人と子供(真冬のテーマ)」、ロ字ックという劇団のために書き下ろした主題歌「退カヌ媚ビヌ省ミヌヌ」、福岡でしか歌わないという「中州川」など、貴重な曲たちが次々に披露された。

2部も終盤に入る。THEラブ人間がはじめて東名阪で行った自主企画のタイトルにもなっている「GOOD BYE CITY」では、<目をそらしても少しも楽になれなかった>と歌い、続く「フォーエバーヤング」で<お楽しみはこれからだ>と歌う。最後に『NATSUMI』のリード曲にもなっている「カレーライス」を演奏し、第2部は終了した。これで50曲、すでに時計は23時30分をまわっている。平日ということもあり、残念ながらここで半分以上の人が帰路についた。

【第3部】
終電を諦めた10数名とともに、3部が幕を開ける。人が減ったせいか、よりアットホームでゆったりとした空気へと変わったように思う。そんな空気を正すかのように、金田がアカペラで歌いはじめる。「シドヴィシャスからの電話」と題されたこの曲は、ギターが似合わないという理由から歌のみで披露された。これまで50曲を歌っているとは思えない気迫。客席は圧倒され、静寂に包まれる。「では第3部はじめます。よろしくお願いします」とだけ話すと、再びアコギを弾きながら歌いはじめた。

このパートはMCも少なく、まるで金田の独白を聴いているかのようだった。金田は自分自身の心の奥深くと対峙するように、次々と歌っていく。ここにきて、どんどん集中が高まっているのがわかる。東京の空から降り注いだ真っ白な雪を君に例えた「あのコ世田谷気分2」、<ただひとりぼっちに戻っただけ、ただふたりぼっちに慣れすぎただけ>というフレーズがたまらなくせつない「あのコ世田谷気分」。この2曲は特に、聴いていて痛いくらいにリアルだった。

ここで金田が、2009年くらいに住んでいた激安家賃の代田橋の家にすごい量のオバケが出た話をすると、それまで張り詰めていた空気が少しだけ和む。そしてそのまま「西調布」や「東京」、京都について書いた「フェラガモ」など、金田がこれまでに住んだ街や関わりがあった街、いろいろな街についての曲を歌った。

第3部の後半に入ると、金田の吐露する精神世界はどんどんディープになっていき、それに合わせるようにギターも大きく歪んでいく。渾身の表情で歌った「悲しみの分け前」、そして<まるでひとりみたい、全然ひとりじゃないのに>と歌った「ぼくがいる」の流れは圧巻だった。

THEラブ人間の隠れた名曲「レイプミー」を演奏したところで、「ドープすぎましたね。第4部は明るいです。自分でも初期段階から重苦しいなと思ってました」と金田は笑う。しかし、このパートで観せた世界こそが、金田の真髄のひとつであるように思った。ギターを勢いよくストロークすると、3部の最後の曲「星影のワルツ」がはじまる。2012年、金田の祖父が亡くなった直後のブログ( http://d.hatena.ne.jp/kouheikaneda/20121002/1349206110 )で発表された曲だ。<死んだ目をしてるのにぼくたちは生きているんだよ>、<さよならはきっと幸せになるための言葉なんだろう>。ハッとする言葉が、いくつも散りばめられている。「では第4部で会いましょう。最終回です! 」と言い残し、最後の休憩時間へと突入した。

【第4部】
4部は、この日の思いをすべて吐き出すかのように、長めのMCから幕を開けた。「遅い時間までありがとうございます。いっぱいしゃべりたいことがあったんです」と切り出すと、金田は立ったまま話しはじめる。「僕は自分が13歳の頃から作った曲に誇りを持っています。今日75曲歌って、再認識しました。好きだなって、自分の曲が。そう思えてる限りは音楽を続けた方がいいなって思いました」と柔らかい口調で語り、ここまでの75曲と、これまでの自身の音楽を振り返った。

そして4部は『NATSUMI』を作り終えたあとに作った最新の曲をメインに歌い、それらの曲は今後、THEラブ人間で歌うつもりであることを明かす。同時に、「これを境に弾き語りのライヴが思いっきり減ります」とも話した。続けて、途中で帰ってしまった人への思いも語る。「帰っちゃった人のことは、すごく悔しく思う。みんな生活があるだろうけど。新曲、聴かせたかったんですよ。いま一番、なにを思っているかっていうのを」。そう話すと、いよいよ最後の演奏がはじまった。

ここで演奏された曲たちは、メロディも歌詞もシンプルなものが多く、いままで以上にピュアであるように感じた。<好きな人に好きって言われたら、それだけで爆発するんだ>。これまでも多くの愛を歌ってきた金田だが、これほどまでにまっすぐな歌があっただろうか。「じゅんあい」と名づけられたこの曲のエンディングでは、<君が好きー! >と大きく叫んだ。続いて演奏された、古くからの音楽仲間のことを歌った「日比谷の空」では、<音楽は誰のもの>と繰り返し問いかけた。

THEラブ人間として一番はじめに演奏したという「りんごに火をつけて(Light My Apple)」を挟み、再び未発表曲が続く。<音楽で食っていけるようになった。でも音楽で食わせてはやれない>という言葉が印象的な「結婚しよう」、<いつかくるこの恋の続きが愛ならいいね>と綴られた「こいのおわり」、<本当に悲しくても言葉にできなかった言葉を、いまこうやって歌にしたってやっぱり言葉にできない>と歌われた「遠い雷」などを演奏。第4部は、思わず歌詞を書き留めておきたくなってしまう曲が多い。それに導かれるように、メロディも普遍性と暖かさを帯びている。歌詞と一緒に歌が心に自然に入ってくる。ここで披露された名曲たちが今後、THEラブ人間の曲としてライヴで聴けると思うと、とても楽しみでならない。

90曲を超えても、金田の声は枯れることを知らない。終わりが近づくにつれ、客席も眠気を通り越して集中力が高まっている。「なつみちゃーん!! 」と大きく叫んではじまったのは、「なつみちゃん」。そして『NATSUMI』のラストを飾る「歌手たち」を、ギターをかきむしり、時折顔を歪めながら熱唱した。「99曲聴いてくれてありがとう」と話すと、すぐさま100曲目「砂男」をこの日一番の気迫で歌う。THEラブ人間でもずっと歌い続けている曲だ。曲中「本当にこの時間までありがとう! 」と金田が叫ぶと、大きな拍手が起こった。

鳴り止まない拍手に応え、金田は再びギターを握る。さすがに疲れはピークに達しているはずだ。それでも金田は「頭がぼーっとして、でも自分が音楽やってるの楽しいな」と話す。続けて、少し感極まった表情を見せながら「こんなふうに歌うのははじめてでした。こんなふうに歌えるんですね、人は」としみじみ話すと、「一曲だけやります。本気で歌いますんで」と宣言し、最後の力を使い切るように渾身の表情で「バンドをやめた友達」を歌った。最後に「今日は本当にありがとうございました!! 」と、会場、スタッフ、お客さんにそれぞれ礼を告げて、8時間近くに及んだライヴは終了した。

最後はもはや音楽を聴いているというより、金田康平という男の生き様を観せつけられているような気分だった。まさに、歌手・金田康平の15年を凝縮したかのような約8時間。そのエネルギーには、ただただ感服する。こうして過去から現在まで、すべての名曲に光を当てる機会を設けてくれたことは、いちファンとしてはとてもうれしく思う。最後に、101曲を歌い終えたばかりの金田の声をお届けして、このレポートを締めくくろうと思う。(文 : 前田将博 / 写真 : 渡邉博江)

【インタビュー】
――101曲歌い終えた率直な感想を聴かせてください。

金田 : 正直、俺しかやろうと思わないし、俺しかできないと思ってやったんですけど、想像の5倍くらい体が痛い(笑)。フル・マラソンみたいっていうのは本当かもね。もう、第3部の真ん中くらいの筋肉痛がいま来てる(笑)。でも、本当に気持ちいい。最後の「砂男」を歌ってるときに、全部に感謝っていうか、分け隔てなく、殺人鬼とかすらも生きてればいいよって、偽善者みたいな気持ちになりましたね。ラスト5曲くらいかな。あのあたりは100点だった。

――3部の途中で「ランナーズ・ハイみたいだった」とおっしゃっていたんですが、本当に後半になるにつれて勢いが増してる感じはありましたね。

金田 : 誰かにどう思われてるとかやめにしようっていうか、これやったら誰かがこう思うんじゃないかとか、そういうのをやめられてるのが3部の後半くらいからだったと思うんだよね。気持ち良かったです。

――特に後半にやった新曲がどれも良かったのが印象的でした。仕方ないとは思うんですけど、あれはもっと多くの人に聴いてもらいたかったです。

金田 : しょうがない。俺がこんなことをやるのがいけないんだもん(笑)。でも、好き勝手やって誰かが楽しんでくれているのがいいね。好き勝手やらないと誰も楽しんでくれないんじゃないかなってちょっと思いましたね。だから、好き勝手やって良かったです。

――またやりたいと思います?

金田 : 思うね。全然思う。いますぐに言えるよ、それは。だから、次は150曲を目指してね。

――終わって驚いたのは、まだやってない曲がいっぱいあるなって思ったんですよね。

金田 : そうなんだよ。あれだけやっても。俺、大変だったもん、セットリスト組んだの。1週間がかりで、6000曲以上から100曲にしぼって。

――じゃあ今回聴けなかった曲を、次回の150曲ライヴで聴けるのを楽しみにしています。

金田 : ありがとうございます!

――本当にお疲れさまでした!

2014年3月26日(水)金田康平@渋谷guest
〈金田康平ひとり会 100人の肉〉

<セットリスト>
【第1部】
1.夜明けがまた今日も来たふりをして
2.いつかこどもがうまれたら
3.ウミノ
4.運転免許証
5.ロックンロール
6.彼氏と彼女の24時
7.太陽と血の靴
8.なっちゃん、海に行こう
9.HEROIN
10.コカコーラ・イン・マイ・サマー
11.八月生まれのきみの結婚式
12.犬の人生
13.8月のサイン
14.大人と子供(初夏のテーマ)
15.サマー・レッド
16.夏とシドヴィシャスとわたし
17.my friend(your soul)forever
18.アンカーソング
19.ライブハウスにおいでよ
20.simple dreams
21.サリエリ(モーツァルトをぶっとばせ!)
22.病院
23.City Lights Gently Weeps
24.どこかの駅でのりかえて
25.西武鉄道999

【第2部】
26.young soul
27.ヤク中のコウタ
28.売れない漫画家のブルース
29.CITY
30.死にたい盛りのメロウソング
31.バイバイバイ
32.ひかりのひと
33.my lost virgin
34.9.11以降を生きるぼくたちのためのバラッド
35.環七エレジー
36.月曜日のナナ
37.渋谷の女の子
38.ぼくの愛した女たち
39.どうせ、慰時代
40.KYO TO KYO
41.大人と子供(真冬のテーマ)
42.退カヌ媚ビヌ省ミヌヌ
43.中洲川
44.GOOD BYE CITY
45.妊娠検査薬
46.LOVE&GROOVE
47.かわいいよビッチーズ
48.エンケンさんのカレーライス
49.フォーエバーヤング
50.カレーライス

【第3部】
51.シドヴィシャスからの電話
52.愛だけさ
53.抱きしめて
54.ふぞろいの蜜柑たち
55.わたしは小鳥
56.あのコ世田谷気分2
57.あのコ世田谷気分
58.記憶の街
59.じぶんだけのうた
60.西調布
61.フェラガモ
62.東京
63.ちょっと梅ヶ丘まで
64.シンデレラストーリー
65.昨日今日明日
66.shine a light
67.ノイズライフ
68.Sについて
69.悲しみの分け前
70.ぼくがいる
71.エバーグリーンさん
72.レイプミー
73.ひとりにもどろう
74.だれとねむる
75.星影のワルツ

【第4部】
76.なあ、太陽
77.ばらの坂道
78.月をあつめて
79.今夜パーティーがないのならどこかに映画を観にいこう
80.それはハッピーぢゃないよ
81.じゅんあい
82.日比谷の空
83.りんごに火をつけて(Light My Apple)
84.恋人たち
85.結婚しよう
86.わかってくれない
87.about me/about you
88.しあわせ
89.白い部屋
90.ロマンス
91.すきなものを数える
92.こいのおわり
93.京王線
94.遠い雷
95.young apple
96.しあわせのゴミ箱
97.FUCK OUR DAYS
98.なつみちゃん
99.歌手たち
100.砂男

アンコール
101.バンドをやめた友達

・THE ラブ人間 オフィシャル・サイト
http://loveningen.jp

・金田康平、ソロ活動とTHEラブ人間を赤裸裸に語るロング・インタビュー
http://ototoy.jp/feature/2014030600

[ニュース] 金田康平

あわせて読みたい


TOP