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2013/10/05 21:32

 

TK from 凛として時雨 x amazarashi、独自の世界を魅せつけた圧倒的なステージ——OTOTOY最速レポ

 

夏はすっかり終わりを告げ、秋の気配が漂う9月30日。恵比寿LIQUIDROOMにて、〈LIQUIDROOM 9th ANNIVERSARY presents “UNDER THE INFLUENCE” 「TK from 凛として時雨 x amazarashi」〉が行われた。

開演予定の30分前にLIQUIDROOMに着くと、会場前やロビーには入場待ちの人たちであふれていた。この日のライヴは、もちろんソールド・アウト。チケットを取れなかった人も多数いたとのこと。TK from 凛として時雨とamazarashiは、これまでほとんど交わることのなかったものの、どちらも独自の活動を貫き、ほかでは味わえない絶対的な世界観を作り上げているアーティストだ。
 
フロアに入ると、満員の場内にDJの低音が響いている。その音がやむと、ステージをおおう薄いスクリーンが、青い光に照らされる。そこに断片的な映像が映し出され、光が明滅すると、amazarashiのライヴがはじまった。1曲目は、秋田ひろむ(Vo,Gt)がポエトリー・リーディングのように言葉を紡いでゆく「ポエジー」だ。その言葉は次第にラップのようにリズムを持ち、感情が勢いと鋭さを増してオーディエンスに突き刺さる。「夏を待っていました」では、スクリーンに流れるアニメーションに、歌詞が断片的にインサートされる。そのうしろには、演奏してるamazarashiのメンバーの影が見える。その影すらも、映像の一部のように見える。いままでいくつものライヴを観てきたが、こんな不思議な世界に遭遇したのははじめてだ。「ジョイフル」を演奏すると、スクリーンの向こうにいる秋田が「ありがとう」と口を開く。それまで押し殺すかのように、吸い込まれるかのように無言でステージに見入っていた観客から、拍手が起こった。

 
その後も、アニメーションと実写を巧みに織り交ぜた映像と、幻想的な音世界、秋田の紡ぎだす強烈な言葉たちが交差するなか、ライヴが進んでいく。ライヴを観ているというよりも、映画を観ているような感覚。次々と曲が放たれていくなかで、否が応でも秋田の言葉が耳にこびりついてくる。〈ねえママ あなたの言う通り 他人は蹴落として然るべきだ〉(「性善説」)、〈未来には期待しないよ 息も出来ないよ〉(「ラブソング」)など、言葉がときに怨念のように会場を包み込む。そこには目を背きたくなるような現実が、リアルに切実に描かれていた。そんな言葉を紡いでいる秋田は目の前にいるはずなのに、我々と彼のいるステージの間はスクリーンという幕で遮られている。手を伸ばしても決して届かない。そんな距離感すらも、彼の痛烈なメッセージのように思えた。
 

終盤、秋田はこの日唯一のMCでこう話した。「わいとピアノの豊川(真奈美)で、ふたりで青森駅前で路上ライヴをやってた頃からずっと考えていたことなんですけど。たぶん、わいはずっと自分が言われたい言葉を探していたんじゃないかなって、最近よく思うようになりました」。そんな言葉を受けて演奏された新曲「あんたへ」では、スクリーンには映像ではなく歌詞が流れていった。〈今辛いのは 戦っているから 逃げないから〉という文字が映し出される。この曲は、これまでの曲よりも力強く、優しく聴こえた。最後に「美しき思い出」が演奏され、約1時間のamazarashiのステージは終了。しばらくの間、場内には拍手が鳴り響いていた。
 

転換のDJタイムを経て、再び場内が暗転して幕が開く。TK from 凛として時雨のステージがはじまる。まずは、TKがひとりでステージに登場し、ギターを鳴らす。そのまま、囁くような優しい声で歌いはじめる。薄暗い照明のなかで、まだ発表されていない新曲が、エレキ・ギターの弾き語りで披露される。途中からキーボードもくわわり、幻想的な世界を演出する。アルバム『flowering』の曲とも、凛として時雨の曲とも違う暖かさを感じる曲だ。
 

「TKです。よろしくおねがいします」という挨拶を合図に、バンド・メンバーも登場。TKはアコースティック・ギターに持ち替え、「flower」が演奏される。照明が一気に明るくなり、TKのファルセットと艶やかな演奏が絡み合う。続く「Abnormal trick」では、ドラムが細かくリズムを刻み、ギターも徐々に狂気を帯びる。その後もアルバム『flowering』の曲を中心に演奏。1曲のなかでめまぐるしく変化する曲展開。曲調に合わせて、その感情の振れ幅も大きくなる。バイオリンの情緒的な音色が、それを増幅させていた。TKの揺れ動く心象風景を、そのまま音にしているかのような演奏。オーディエンスは、その音にじっと耳を傾け、曲が終わるたびに大きな拍手を送っていた。

 
「はじめまして、TKと言います。新曲をやります」という紹介から、「Fantastic Magic」がはじまる。力強いドラムのカウントと蠢くベースを受け、TKが激しくギターを搔き鳴らす。バイオリンも、それに呼応するかのように狂気を帯びたフレーズを奏でる。「次で最後の曲になります。ありがとうございました」と挨拶すると、「film A moment」を演奏。繰り返し歌われる〈film A moment〉というフレーズがせつなく響き、感情を揺さぶる。ひとつひとつの言葉に、さまざまな感情がつまっている。それを爆発させるかのように、TKが痛烈にシャウトすると、本編は終了した。

 
鳴り止まない拍手に応え、再びバンド・メンバーとともにTKがステージに登場。「新曲をもう1曲作ってきたので、聴いてください」という紹介で、この日3曲目の未発表曲を演奏する。ギターの残響音とキーボードの音が幻想的に響く。この曲では、TKがマイク・スタンドを握りしめて、食らいつくように歌う姿も見られた。〈僕のなかにある声は 透明だったのかな〉という、なんともTKらしいフレーズを優しく歌い上げる。TK流のポップスとも言うべき、とてもキャッチーなメロディが印象的だった。ラストに選ばれたのは、なんと凛として時雨の「Shandy」。生のバイオリンが暖かく鳴り響くなかで、TKのギターは高揚感を増していく。それに同調するかのように、照明は激しく赤と白に点滅する。最後に切り裂くようにギターをストロークして、客席にピックを投げ捨てると、演奏は終了した。TKは「ありがとうございました」と挨拶すると、両手を合わせて深くお辞儀をする。大きな拍手と歓声が場内に鳴り響いた。

 
どちらのバンドも、MCはほとんどなく、感情を剥き出しにして客席を煽るようなことはしない。客席も、大きく手を挙げて盛り上げるわけでもない。しかし、そんな無機質とも捉えられる光景のなかで解き放たれた音は、とてつもなくエモーショナルに聴こえた。amazarashiもTK from 凛として時雨も、ひたすら自己の感情と向き合って、それを音へと変換する。オーディエンスは、その音に共感し、真剣に耳を傾ける。勢いだけが支配するような空間とは違う、深層心理に訴えるかのような圧倒的な演奏、演出。彼らの音や言葉は、表層ではなく心の奥深くまで突き刺さった。きっとこの日の客席にいた多くの人も、それを感じていただろう。またいつか、同じステージで観たいと思える2組の熱演だった。(前田将博)

写真 : 河本悠貴
 
〈LIQUIDROOM 9th ANNIVERSARY presents “UNDER THE INFLUENCE” 「TK from 凛として時雨 x amazarashi」〉
2013年9月30日(月)@LIQUIDROOM
 
・セットリスト
amazarashi
 
1. ポエジー
2. 夏を待っていました
3. ジュブナイル
4. 性善説
5. この街で生きている
6. ラブソング
7. 空っぽの空に潰される
8. 匿名希望
9. あんたへ
10. 美しき思い出
 
TK from 凛として時雨
 
1. 新曲
2. flower
3. Abnormal trick
4. 12th laser
5. phase to phrase
6. haze
7. Fantastic Magic
8. film A moment
 
アンコール
9. 新曲
10. Shandy

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