BIYUYA

Raizes
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Raizes

青木カナ & 廣木光一

Raizes(Roots)/廣木光一カナさんと初めて会ったのは1992年頃、市川駅の近くにあった”りぶる”というライブハウスだった。マスター(故人)は、痩身も多識の鉄人、懐深く、お客さんとミュージシャンをこよなく大切にした。私がワークショップを続けられたのもこの店があったからだ。そのころカナさんも店に出入りするようになった。ブラジル音楽が好きだとElis Reginaをもの凄い勢いで聴き込んでいた。カナさんもワークショップに参加した。最初から自分の歌いたい曲を自ら採譜、タイミングが複雑なサンバやボサノバのメロディを上手く簡略化して演奏者が判り易いように記譜、コードの間違いも無かった。私は迷い無くバンドに誘い、全国を旅した。このころ ーあの名曲ー は未だ誕生していなかったが、その歌声はしっかりと聴衆に届いた。日本各地を回ってカナさんが新たに抱いた目標は「ネイティブ」になることだった。95年、単身伝もなくブラジルに渡った。レストランで働きながら、言葉と文化を学び、不撓不屈、孤独に耐えた。ここは地球の反対側だ。あるとき、私はカナさんに手紙を書いた。「お元気ですか」、日本語を欲していたカナさんは大層喜んだ。が、私には記憶が無い。今となればそれも笑い話になる。そんな生活の中から生まれたのが、不朽の名作「帰ろうかな」だ。両親への感謝、故郷への想いを謳ったそれは、本当に自分を追い込んだ人間にしか創り得ない作品となった。ブラジルにちょっと馴染んだ頃、レオ・ノゲイラ氏と出会った。レオさんは、優れた作詞家であり、穏やかで心優しいブラジル人。カナさんの曲は元より、私の曲にもたくさん詞を書いてくれている。本も上梓されている作家でもある。作曲を能くするカナさんにとって最高のパートナーとなり、これまで多くの作品を二人で創り出している。もはやブラジル語(ポルトガル語)はネイティブどころか、凄い速さで夫婦ゲンカもする。「カニンデ(カナ作曲/レオ作詞)」にもあるように、ブラジル人でも歌えないのではないかと思わせるスピード感を見せる。「リズムは言語」の言葉通り、発音を究め強力なグルーブも発する。南米各国やヨーロッパもよく旅をした二人。ブラジルを越え、興味の矛先は世界へと拡がっている。在ブラジルの間、一人で、時には二人で、ご両親の元に帰国した。このアルバムは、そのチャンスの度にツアーをし、ライブ録音したものだ。なにか……録っておきたかったのだ。録っておいて良かった。もうすっかりサンパウロの町に溶け込んでいたカナさんだが、22年ぶりに拠点を日本に移した、もちろん二人で。今度はレオさんが地球の反対側だ。日本で畑に駆け出し、ブラジルの大地で芽吹き根下ろし、そしていま日本で大輪の花を咲かす。当にグローバルなアイデンティティを持つ二人。カラフルでエネルギッシュな音楽が聴こえてくる。 2020.7.14

Alvorada
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Alvorada

廣木光一, 吉野弘志

Alvorada ~夜明け~/廣木光一出会いは1977年頃。ピットイン、タロー、アケタ、エアジンなど東京近郊のライブシーンにそれぞれ出没するようになり、名前と存在は認識するようになったが、当初はお互いさしたる興味は無かったと思う。次第に、古澤良治郎(ds) 板橋文夫(p) 小山彰太(ds) ほか諸先輩方を介して同じステージに立つようになり、また、自分たちの世代を中心としたセッションも少なからずあったと思う。その後それぞれ40年以上に渡って活動してきている中で、共に在籍し特に印象に残るバンドがあった。ひとつは、武田和命(ts)クインテット<佐山雅弘(p) 小山彰太(ds) 吉野、廣木 >。ヨーロッパの著名な管楽器奏者に「人間が出せる最も美しい管楽器の音」と言わしめた武田氏のテナー。レパートリーは、佐山氏と廣木のオリジナルが中心、このことが功を奏し、普通のジャズクインテットとは趣を異にするユニークなグループとなった。そんな中、日に一曲吹くスタンダード、特に”Soultrane”は沁みた。私感だが本家より美しい。もうひとつは、坂田明(as)カルテット<古澤良治郎(ds) 吉野、廣木 >。坂田氏のオリジナルを中心に、きちんと始まって、わーっとみんな自由にやって、きちんと終わる、そんなバンドだった。坂田氏と古澤氏のふたつの異なった宇宙があって、そこで若者二人は奔放に演奏した。この二つのバンド、ツアーには良く出たが、作品は残っていない。どこかからテープが出てこないかとも思う。本作品は、2015年辺りに再会を果たし、東京他でライブ録音をしたもの。レパートリーが何曲か共通していたことも、同じ時代を生きてきたことの顕れか。全8曲中、5曲がブラジルの曲だが、その代えがたき美しさ、そして包容力には驚かされる。多民族国家の音楽的勝利。地球の反対側からは窺い知ることはできない何かが脈々と流れているようだ。今回トラックダウンは私自身が行った。吉野氏の音はイコライザで補正する必要は無く、楽器音として完成されている。逆に、イヤホンや小さい再生機器で音が割れないように、希に見る豊かな低音をカットしなくてはいけない程だ。2020年5月から、コロナ禍に於いてこのアルバムリリースに向けての作業を行った。以前であれば、お届けする手段を全て失っていたミュージシャンだが、配信というツールができていたことが、せめてもの救いとなった。いまはこれをお聴き戴き、再びライブの場でお目にかかる夜明けを待ち願い。録音データ1.2.4.7.8:Lady Jane/東京/2015.7.123.5:Lush Life/広島/2015.12.186:TUBO/東京/2015.12.12

Hiroki Trio 1996
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Hiroki Trio 1996

V.A.

5リズム3ホーンの”廣木光一バンド”によるアルバム『Love Will Out/90年』を発表の後、廣木は、よりギターをフィーチャーした、かつ緊密なアンサンブルを求め、トリオ(g, b, ds)を中心に演奏するようになった。その後95年にはガットギターでのソロ演奏が多くなり、その転換期に於ける本録音だったが、リリースはされなかった。<1996年、廣木光一(g)40歳、羽生一子(ds)33歳、飯田雅春(b)26歳の時の演奏> 今回、hirokimusicで見つかった三枚のCDに、ラフミックスされたこのトリオの演奏が残っていた。ギタリストでありながら、常にギターではなくオーケストラサウンドが鳴っているという廣木らしいレパートリーには、チャールズ・ミンガス、ギル・エバンス、ランディ・ウェストンなどの楽曲が多かった。その中からオリジナル1曲を含む4曲をチョイスし、本アルバムのベーシストでもある飯田雅春のマスタリングにより整音され、配信限定アルバムの発表に至った。崖っぷちに留まるかようなバネのあるドラミングを聴かせる羽生一子、参加まもなくも独自の解釈と方法でリズムとメロディに彩りを添えたベーシスト飯田雅春、二人の自由奔放な演奏にも影響され、ギターの新たな可能性を示唆するプレイを聴かせる廣木、珍しく全曲ギブソン・レスポールを使っている。1:Goodbye Pork Pie Hat (Charles Mingus) 『Mingus AH UM/Charles Mingus』での美しき名演も知られるところだが、廣木は”Gil Evans Orchestra”の影響も受け、自らのアイディアも含めたアレンジにしている。2:Hi Fly (Randy Weston) ”Randy Weston Orchestra”の人種の坩堝のような演奏、ミンガスバンドで活躍したピアニストJaki Byardがアルバムタイトルにもした同曲の演奏、これらの延長線上にトリオのサウンドがあるようだ。3:Sunset Landscapes (HIROKI Koichi) 20歳の時の作品。ライブでは演奏されてきたが、今回が録音初公開。タイトルは当時良く来場したお客さんが付けてくれたそう。4:Las Vegas Tango (Gil Evans) テーマ部分では”Gil Evans Orchestra”での管楽器のハーモニーをギター一本に置き換えている。自由な展開ができたのもギルという存在のお蔭だと廣木は云う

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